「・・何・・ボーっとしてるのさ、アスラン。」
「・・・・・?」
そう・・キラに突っ込みを入れられて・・・アスランは我に返った。
「いや・・何でもない。」
大天使は・・・とても大きな境内のような所で、まあ道場があったりして寺や神社のように神聖な場所ではないが・・・。
だが広さはそれ以上だったりする、とても立派な場所だった。
そこの・・たった一角の、縁側で・・・アスランはボーっと明日の休みをどうカガリと過ごそうかと試行錯誤していたのだ。
そんな・・恥ずかしいこと、親友には言えない。
「へーーーー・・なんだか、顔ゆるんでたけど?」
そう言われ・・アスランも自分の顔を押さえて、またやってしまったと溜息をつく。・・前は・・ディアッカに見られたんだっけか。
「そんなことより・・今日の見回り・・俺達の隊だよな。・・ムウさん、今日も朝帰りだったか?」
「うーん・・まぁ、別に朝帰り禁止なんていう掟はないはずだから・・構わないけど、この頃増えたよね。」
キラとアスランもムウの隊で・・・大天使一の強さだと囁かれる隊でもある。
それに---つい最近期待の新人、シン・アスカもこの隊に配属された。
「今日は・・・東の奥・・だったか。」
「うん、ちょっと遠いよね〜・・まだ、南の方がマシかも。」
櫻武は基本的に長方形の形の街で・・・北と南より、東と西との感覚の方が広い。
まぁ・・アスランの隊はもう東がメインなので、仕方がないと思う。
「だが・・南の奥には遊廓があるだろ?・・そんなケバケバしたところ・・逆に俺はゴメンだけどな」
そう・・それは、カガリも言っていることで、あの繁華街は治安は悪いし・・ともかく五月蝿いし、人混みだ。
それに・・遊女が出歩いているのを、見るのも少し・・気分が悪いし・・それにつられて尻尾を振る男も何だか許せない。
お酒をついで貰う程度なら良いのだが・・やはり、外にまで連れ出すとなると男も重傷だと思うのだ。
「でもさ、この頃・・ムウさんも良く行ってるみたいだし、そこまで悪い場所じゃ無さそうだよね。」
「お前なぁ・・」
ムウは・・アスランもキラも信頼して、上司だと思ってる・・だが・・やはり治安維持団体に勤める者がそう言うところに行くのはどうかと思う。
「ディアッカも・・イザークだって、つき合いで行くみたい出しね。」
「イザークもか?!」
「まぁ・・宴会場でもあるんだし、綺麗な人がお酒注いでくれたら・・悪い気もしないでしょ?」
「・・・・そいうものなのか?」
相手も・・仕事なんだろうと思うが、それに心を売り渡す男だって沢山いる。
-------------・・やっぱり、微妙だ。
そう思ったものの・・そんなことどうだって良くて、明日のことを・・ただ考えていた。
ガシャンッ
・・・そう音を立てて、出ていった客に・・ビクンと肩を振るわせたのはステラで、カガリとラクスと・・メイリンはそれを怪訝な顔で見てしまう。
どうやら・・フレイの客がフレイの態度に怒ったのか・・・店を後にするところだった。
「どうかしたのか?フレイ。」
その・・倒れた仕切を見て・・カガリが声を掛けると、フレイは憤慨したよう顔でこちらを見て、メイリンは「こわい」と声を上げてしまう。
「だって・・あいつ、金もない癖に・・・--寝てくれって、あり得ないわ!!!」
そう・・基本的に性行為がないと言っても・・・花魁のお気に入りの客、または大金持ちは別で・・・・。
遊女ならば、ある程度金を貢げば抱くことを容易に許されるのだが・・花魁ともなれば話は別。
それこそ・・数十両も必要になってくる。
「お金があれば・・寝た・・の、ですか?」
「・・・・当然じゃないッ!そうすれば・・年季が早く明けるのよ?・・早く自由になりたいじゃない!」
そう啖呵を切り最後に「じゃなきゃ身体を売ったり何てしない」と愚痴をこぼす。
確かに・・金持ちと寝れば、それだけ早く年季が明けるだろう・・だが。
カガリには・・ない、選択肢だった。そんなの・・出来ない、私は・・・・アスランだけだから。
いつものように待ち合わせの橋に・・カガリは少し小走りで向かう。
「くっそぉーー!稽古が長引いたッ!!」
今日の稽古は三味線とお花、三味線はともかく・・・お花が、切りすぎてしまって失敗して・・怒られてしまった。
ったく・・だからって一刻も説教かますなよなッ・・!!
そう悪態を付いて・・向かったはずなのに、橋の向こう側にはもうアスランがいて・・それだけで、そんな苛々は晴れてしまう。
「アスランッ!!!」
遅れて悪いと近寄ると・・アスランは微笑んで、息を切らせているカガリの頭を撫でてくれた。
カガリも・・嬉しくて、えへへっと笑えば・・アスランが・・手を肩に乗せてくれて、それから二人で歩き出す。
こういうとき・・歩幅を合わせてくれるのが少し嬉しい。
カガリも甘えるように頭をアスランに付けて、アスランはカガリに見えないところで頬を緩めていた。
もうすぐ・・あと半年とちょっとで、カガリも十五になる。十五なら・・世間的にももう結婚していいだろうし・・・。
そう・・考え出すと、アスランの顔は途端に真っ赤になってしまう。
でも休みの日だけでも・・・家でカガリに癒されて・・・・。仕事場にだって、アスラン自身の地位が上がれば・・連れて行くことだって可能だ。
そう考えると嬉しくて・・でも、両親への挨拶やら色々しないとと、一人で考えを巡らす。
父は・・堅い人だが、カガリのように・・琴も三味線も百八も演奏できて、それに囲碁も将棋も打てるような子だから・・問題ない。
それに・・・アスランとカガリが出会った頃は、まだ・・カガリは十だった。でもその時ですら、腕前は凄い。きっと今も凄いのだろう。
「・・・?どうしたんだ?」
「---いや・・別に、ちょっと・・カガリの琴が聞きたいと思って・・。」
「なんだよ、聞くと寝る癖に。」
「落ち着くんだから仕方ないだろ?・・・・・あ、でも・・今はいい。結婚したら、沢山弾いて欲しい。」
今日は・・家になど籠もっていられない。なんせカガリとの出かけなのだ。
結婚すれば・・・琴なんて、沢山聞かせて貰えるし・・・。
「そういえば・・アスラン、"さくら"好きだよなっ!お母様の曲・・だもんなっ、私も好きだ!」
「・・・ああ・・母上はよく"さくら"を弾いてくれてたし・・・・カガリも、最初に弾いたのが、同じ曲だっただろ?」
懐かしいな・・カガリとの出会いは。
そう・・ぼんやりと、出会った日の・・桜の花を思い出す。
まだ咲き出したばかりの桜。
「今日は・・どうしようか?」
「うーん・・・何処でも良いぞ?私は・・・」
アスランが・・居てくれるのなら何処でも。
そう・・話して、アスランは・・・どうしようと悩んでいた。
折角・・丸一日休みだというのに。アスラン自身・・何処へ行けばよいのか・・・・・。
でも・・・カガリは場所を気にしない。アスランが隣にいてくれれば何処でも良いと言ってくれる。
それが嬉しくて、でも・・それに甘えるのは申し訳ない。
考えている内に・・いつも自分が見回りをしている東の地域へと入っていて、そこにある料理屋に入ることにする。
「お昼・・まだだろ?食べよう。」
「ん!うどん屋が良いなぁ・・・上手いし!」
「じゃあ・・あそこだな。」
いつも・・人々が人気だという店に入りアスランとカガリはうどんを食べ出す。
食べている最中会話が無くなるのは礼儀だが・・やっぱり、カガリとは話していたいと・・アスランは思っていた。
いつ・・言おう、カガリに・・・結婚してくれと。
結婚という単語は・・会話の中にちらほら出てくるものの、アスランは一度も「結婚してくれ」とは言っていないのだ。
拒否・・されたら、恐い。いや・・そんなことしないだろうが・・・でも、もしもと言うことだってある。
「うまいなっ・・あ!アスランの山掛け蕎麦、少しくれよ!」
「じゃあ・・カガリの狐うどんの揚げくれないか?」
「駄目だッ!揚げが一番美味いんだぞ!」
そう・・悩んでいることを悟られないように言葉を選んで言うと、カガリは逆に顔をしかめていて・・・。
「嘘だよ」と笑って言うと直ぐにカガリは笑顔になる。
----・・それに・・十五・・でも、やはり少し結婚は早いと世間にも見られてしまうだろうし・・アスランだって、次の誕生日で十七・・。
やぱり・・早い、だろうか。
うどん屋を出ると、カガリは直ぐ隣のお店に入りたがって・・甘いモノのお店だから当然だが。
中に入りカガリは餡蜜、アスランはごま饅頭を食べていた。
「アスラン・・さっきから、悩んでるだろ?」
「・・・・ばれたか。」
「バレバレだ。」
カガリも・・悩んでいたのだが、アスランは・・いつだって、悩んでいるカガリを言い当ててしまうのに今日はそれがない。
つまりはアスランも悩んでいると言うことで・・・。
「言い出しにくいことなのか・・?」
---別れて・・くれ、とか。---本当は君は遊廓の女なのだろう・・とか・・。
悪い方向へ考え出した頭を・・カガリは、必死に横に振っていた。
ない・・アスランに限って・・っ・・。
「・・・こんど・・言うよ。今はまだ・・・・。」
「・・そうか・・・。」
逆に・・良い方向へ考えてみる、そうだ、世の中気楽に・・!だよな!
良いことで・・言い出しにくいことは・・・・。
そして・・パッと、二文字の言葉が浮かぶ。
・・・・・-------"結婚"
そして、カガリはそれを否定するように頭を振っていた。
もしも・・そんなこと・・・・・・持ち出されたら・・・?
それこそ・・終わりじゃないのか?
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
結局・・・・いつもの寺子屋にきたはいいが・・・・。
少し、寒い風が通りすぎて、・・・・なんというか、カガリも、、、さっきから口を開こうとしてくれないし・・・。
やっぱり・・言う、べきなのか・・。
そう考えて、アスランはカガリをのぞき込んでいた。・・・せっかく・・近くにいられるのに、瞳も合わず・・口も聞かず。
--------そんなのは・・淋しいだけだ。
目があったカガリは逸らすように背けてしまう。怒っているのではない、悲しんでいるような瞳。
黙って・・唇を近づければ・・---そのアスランの肩を、カガリは押し返してしまう。
「・・ッ・・カガリ・・」
流石に・・そんなことをされてはアスランもショックを受ける。
君がいるのに・・・、触れられないなんて。
嫌・・なのか?
いつもは・・少し恥ずかしそうに・・・・・・目を閉じてくれるのに。
その、ショックを受けた目を見てカガリはハッと目を開く。
嫌だ・ッ・・何・・・してるんだ、私は・・っ・・。
アスランのキスは・・いつだって、今だって嬉しいのに。
すぐに・・カガリは泣きそうな顔で、微笑んで・・・・アスランの唇に自分の唇を近づける。
けど・・アスランは触れる寸前で、カガリの頭を止めていた。
「・・嫌・・なら、無理しなくていい。」
近すぎる唇が触れながら話され、カガリはその言葉に耳を傾けてから・・声を出す。
「嫌な訳ない・・ただ・・・・その、----・・もし・・もしも、アスランが・・怒って、私を・・嫌いになったら・・・・・どうしようって・・考えてて」
そう・・もしも、色町の女だとばれて・・・・・・アスランが、自分を嫌いになってしまったら?
"なんで隠していたんだ"と・・・言われて・・・・捨てられてしまったら・・・・?
知ってる・・アスランは、そういう治安の悪い・・ましてや、女が男のお酌をするような場所・・・・好きじゃない。
むしろ・・嫌いで。
そこで・・・・・・働いて、いつか・・・私も金を貢ぐ男に・・・お酌をする・・・。
・・そんな・・・・女。
「嫌いに・・なって、------・・こうやって・・傍に・・いて・・くれなくなったら・・っ・・。」
恐い。
アスランが・・いて、くれたから・・・・。私は今存在し・・これからも、在り続けるのに。
そのアスランが・・・・・----・・・。
泣き出して・・嗚咽を漏らす口に、アスランはそっとキスをして、カガリを抱きしめる。
カガリを胸板に押しつけて・・アスランはカガリの耳元で優しく囁く。
「・・俺が・・カガリを?------有り得ない・・だろ、、、そんなこと。」
分かっている。分かってるけど。
私は・・・・アスランだけのモノになるのに、時間が掛かりすぎる。
あと・・十年弱。-----------------アスランを・・待たせてしまうから。
そして、その頃に・・・私はすっかり汚れていて、アスランは・・・?
-----きっと、、、、、、待ちくたびれるか、呆れているか。
・・・嫌いに・・なって、いるのかもしれない。
「あすらんっ・・あす・・らんっ・・。」
絶対・・・・・・絶対に。
---------離さないで。