あの日から・・カガリは何処か遠くを見ることが増えたような気がした。
理由を・・・・何度も、聞こうとして・・・その度に喉を詰まらせる。
言えば、本当に・・いなくなってしまいそうで-----------------。
それだけが恐かった。
「おはよう。」
「おはよ・・。」
いつも通りの・・二度寝の時、アスランはカガリを抱き寄せてしまう。
傍にいる・・・・・、それを実感したかった。
「ん・・・・?・・あす・・」
「起こしたか・・ごめん。」
眠たそうに瞼をこすって・・・髪を梳くと、また安心したようにすやすやと寝息を立てる。
可愛いな・・と、漠然と思って・・気が付いたら、顔を近づけていて・・・・そのまま髪の掛かったおでこに唇を落とした。
--------ずっと、俺の腕の中で寝ていればいい。
安らかに、愛らしく・・・・・小さく規則正しく寝息を立て・・俺の中に居続けて・・。
そう考えていると、なんだか泣きそうになっていて、フッとカガリは目を覚ましてしまう。
少し・・驚いたが、笑って・・・・・アスランの頬に手を置いた。
「泣きたくなったら・・泣けよ?」
「・・・・ああ。」
ツゥッと頬に雫がつたっても、カガリはよしよしと・・・引いたりせず、甘えさせてくれる。
自分より幼い子に甘えるのなんて情けないはずなのに・・・その恥ずかしさもプライドも捨てていて、ただ・・縋っていた。
もとより・・同年代とは遊ぼうとも思わず、・・話しかけられても、無視し続けている、、アスランで。
友達になって・・嫌われたら面倒だ、それに、嫌だ。それに・・馬鹿みたいな遊びに付き合いたくない・・と、思っていた。
なのに・・・・・カガリがいなくなると思うと、こんなにも淋しい。
「アスラン・・」
無意識に・・アスランの首に腕を回して抱き寄せていた。
ハッと・・気が付いて、でも・・・・いいか、と・・・耳元で聞こえるアスランの堪えたような息づかいに耳を澄ませる。
自分より・・大きい男が泣いているなんて、とっても格好悪いと思う、けど・・・・泣くだけの理由があるのだろう。
こうやって・・・・・見せてくれる弱さも、いつものようなしっかり者の一面も・・両方とも、大好きで・・・。
ああ、と・・今まで感じていた事に納得する。
好きなのか、私は・・・・アスランのこと、好きになっていたんだ。
--------------------・・でも。
野禽・・に、戻る。それは・・もう決意したこと。
ラクスを一人には出来ないから・・・。アスランより、ラクスの方が・・・・・・暗いところにいるかもしれないから。
-------去ろう。
未練が溢れそうになる前に。
泣き終わったアスランと起きあがり・・朝食を食べて、カガリは切り出した。
「・・・私・・・・・・今日、出てくな。」
「・・・・え?」
後かたづけの最中で・・アスランは・・持ち上げようとしていた皿を落としそうになり、カガリは淡々と食器に水を流して・・
目は見ないように、背を向けて言葉を口にする。
「・・どう・・してだ?----此処の生活が・・俺といるのが・・嫌・・・・・に、なったのか?」
「違う・・、でも・・戻らないと、友達が・・心配するから・・・・・お前には感謝してる、ありがとう」
がちゃんと・・・食器を置かれ、アスランはカガリを見ようとして・・カガリは目を食器にそらしていた。
見たくない、泣きそうに・・なっている、瞳を見られたくない。
「色々・・大変なこと、嫌なこと・・・・あったけど・・・アスランの御陰で、戻る決心が付いたんだ。」
体を売ることがあるのかもしれない、
好きでもない人と・・共に歩くことは当然あるのだろう、だけど。
「・・大切な友達がいる・・・・仲間もいる。-----------どんな場所でも、私の帰る・・掛け替えのない場所なんだ。」
あの店に・・入った御陰でラクスと出会い、----今こうやって・・アスランと出会い、恋をして・・・・
「だから・・」
「駄目だ。」
繋ごうとした言葉を切られて、カガリは驚いてアスランを見る。
「駄目って・・・・・なんでだよ?----ここにいることの方が・・変じゃないか?」
カガリ自身、自分の涙がこぼれるのが分かる。離れたくない、もう・・すでに未練はいっぱいあるのだ。
好きなアスランの傍にいたいのは当然で・・でも、それは・・・
「泣く・・くらいなら、なおさら・・・此処にいればいい。」
「それは・・出来ない。」
そう、出来るはずがない。自分だけ・・あそこから逃げ出すなんて・・・・。
みんなだって辛いのに、一人だけ・・・こんな、幸せだなんて・・・・・。
罪悪感で逆に潰れそうになる。
それに・・アスランも・・言ってたじゃないか。
「私がいなくなって・・・友達が、暗いところにいるかもしれない・・・・・から・・。」
共に生きてきた・・ラクスを、置き去りにするなんて・・・・・
変・・なのかもしれない、君の言うように。
そして・・・俺に、君が必要なように・・・・・・・・・・・・・・。
俺以外の誰かも、君が必要。--------------それだけのこと。
それだけのことだ。
けど
「俺は・・行ってほしくない・・・・・」
君が・・・カガリが・・・
「好きだから。」
「!!」
「だから・・此処にいてくれて、構わない。むしろ・・ずっと・・」
哀しそうに・・眉をひそめたアスランに、カガリは喉を詰まらせてしまう。
好きだと・・・・・言ってくれて・・でも、それでも・・・・・・。
「私も・・アスランの事、---好きだ、此処に・・ずっといたい。けど・・・・・行く。」
それは・・もう変えられない。
アスランがそう教えてくれたんだ、、、、その、御陰で、逃げるのを止められる。
だから・・
「----------・・っ・・」
俺が・・告白しても、止めても・・・
----------変わらない。
きっと・・もう、何度言っても変わらないだろう。
カガリは・・そういう人だから。
服の裾を・・掴みたくなって、でも・・掴む直前で握ってしまう。
カガリが決めたこと・・・・ならば、俺はそれを推してやる。
-------それが・・・・・・・今、出来る最良のことだろう。
「--------・・ありがとう、アスラン。」
引き留めるのを・・・止めた俺を見て、カガリは礼の言葉を述べて・・・・・・最初に持っていた本当に少しの手荷物を集めに行く。
二度と・・・逢えないわけではない、・・・家が近いようなら毎日・・逢えばいいだけだ。
遠くても・・週に何度かは逢えるだろう。
直ぐに仕度をし終わったカガリを、アスランは見送ることにする。
「じゃあ・・な、一ヶ月くらいだったが・・・・・・楽しかった、ありがとう。」
「ああ・・-------------次は・・」
「--------もう、逢えるか分からない。」
「え・・。」
口に出したことを・・少し、後悔しながらカガリは次の言葉を言う。
遠いが・・そんなに遠くもない、子供の足で・・・一時間ほどの距離。
けれど-----逢ってしまえば、また逃げたくなる、此処にいたいと思ってしまう。
それに・・もしも頻繁にあって店にアスランとのことがばれたら・・・?アスランまで、被害を被って・・迷惑を掛けるから。
「けど・・会いに来る、何年経っても・・・・・・・・・・・きっと、逢える。」
何十年・・経ってもいいのなら・・。
言おうとした言葉を噤んだのは、アスランはそんな長い間を待ってくれるとは思わなかったからで・・・
-----------綺麗な思いでのまま、無かったことにすればいいと思ったからだった。
コレで終わり。
そう思って・・カガリは悠然と微笑んでみせる。
「・・きっと・・なんて、---------絶対だ。絶対・・」
会いに来て
「・・アスラン・・・。」
「約束してくれ。」
じゃないと離さないから。
そう言う勢いで抱きついて・・カガリがうんと言うまで離さない。
暫くして・・小さな声だが、小さくうんと頷く声が聞こえた。
ちゅっと・・音を立てて、アスランはカガリの頬にキスをして・・カガリもアスランも真っ赤に染め上がる。
カガリも・・なんだか、泣きそうになって声を出していた。
「・・あいしてるぞっ・・アスラン!」
逢えて良かった。
終わりかもしれないけど・・・・本当に、逢えるなんて・・・・思っていないけど、それでも・・。
綺麗なときに、恋をして・・好きだと言われて、本当に嬉しかった。
涙が流れそうになって、カガリは駆け出し・・・アスランは黙ってそれを見送る。
「カガリ・・」
哀しかった、だが・・それ以上に、自分とカガリは繋がっているような気がして・・・・・・それだけでいいと思う。
何年経っても・・・・・・・きっと、君のことが好きなことに変わりはないだろうから。
「愛してるよ、俺も・・」
走りながら・・カガリは、アスランからの告白を思い出していた。
好きだと・・言ってくれた、その・・言葉だけで、これから起こるであろう苦しいことも、辛いことも・・・
-----------耐えていける。
「ありがとう、アスラン」
何十年・・・・・・それでも、彼が許してくれるのなら
----------また・・逢いたい。