儚い幻のように、きっと崩れて砂になる


第十八輪+昔々〜弐〜



「ていっ・・たぁ!!!!」

「・・・おしいな。」

「なにっ!!」

寺子屋で・・・・剣道を始めるようになったのは、いつだっただろうか。
アスランは週一回、寺子屋でやる剣道の稽古に出席していた。当然・・成績は優秀で・・・・。
それを知ったカガリは、アスランに稽古を付けるように頼んできたのだった。
「もうやめよう・・カガリは女の子だし・・・」
「五月蝿いッ!!男女差別は反対だぞ!!」

男女差別とかじゃなくて・・・。
そう・・苦笑しながらも、必死に向かってくるカガリは可愛くて・・・少し頬がゆるむ。
「くそぉ!!笑ったな!!」
「悪い」
どうやら・・見くびっているからだと勘違いされたようで、カガリは頬を膨らませてアスランを睨んだ。
もうちょっと・・きつくなければ、上目遣いなのに・・・。

そう馬鹿みたいに考えたが、それを止め・・カガリの稽古に没頭する。
カガリは・・力はやっぱり弱いが飲み込みは早い。教えるのが楽しいのだ。


そうやって・・いつの間にか夕方になり、袴姿のアスランとカガリは共に家へと戻っていく。
その最中・・葉桜を見ながら・・カガリはハァッと溜息をついた。

「桜、散ってるな。--------・・いつまで残ってるかな?」

「・・・・あと・・一週間が限度じゃないか?」

そう言い切ると・・カガリは少し眉をひそめて、アスランも言っていて哀しくなる。
カガリと・・出会ったのは、桜の開花と共に・・・・・・・・・それが散るのは少し嫌だった。


「・・来年・・みれる。----だから良いんじゃないか、・・・カガリ。」

「分かってるが・・・散って欲しくなかった。」


そう話して・・家へとたどり着いて、風呂の話になる。


「・・なぁ!風呂、どっちが先に入る?」
「・・・カガリ、先に入りたいのか?」

「ああ、汗でびちょびちょだし・・」

アスランは風呂にはいるのは基本的にカガリの前と決めていた。
だって・・・・・女の子の入った湯船につかるなんて、アスランには到底無理で・・・・・・。
考えただけで、赤くなってしまう。



「?」

「いや・・・君が先に入りたいなら・・・沸かすよ。」

「ありがとな!」

そう・・にこやかなカガリに・・アスランはまた顔が赤くなるのを感じる。
でも・・まだ、十の少女に、一対何を望むんだと、心を落ち着かせていた。






家に帰り・・・真っ先に風呂に向かったカガリに・・その、お湯を沸かす為に、火元へ向かうアスラン。
火がたけてくると・・・カガリが風呂に入る音が鳴り響く。

「・・まだぬるいぞ。」
「ん!身体とか洗ってる!」

そこら辺にある・・・・台を立てれば、上にある隙間からのぞけてしまうような場所で・・鼻歌交じりで身体を洗うカガリが少し恨めしい。
まったくと溜息をついて炎を燃やすことに精を使っていた。


「アスラン。」

「なんだ?」


やっと・・炊き終わったような所で、カガリはアスランに向かって話しかけてくる。
ヒョッコリと、、、木材を外し、カガリは上からアスランを見下ろしていた。
「・・なッ・・カガ・・!」
「・・・なーんか、さっきお前変だっただろ?」
「早く戻れ!!」
「なんで?」
肩から上と言え度・・・・・恥ずかしい、いや、アスランは得をしたと言うべきなのに、何でかこんなに恥ずかしい。
十歳・・胸も膨らむ前だし・・大体二次成長前の女の子じゃないか!!
馬鹿みたいにむらむらとする心情を抑え、アスラン自身の煩悩と戦っていた。









「いい・・風呂だったな!アスラン!!」
「ああ・・」

夕食を食べながら、まるで何もなかったように二人は会話をする。
そして・・少し、考えて、アスランは決心をしていた。
---------言うしかない。
どうこうするわけではないが・・・、こう、自分の気持ちを押し殺すのは良いことではないだろう。
それに・・・・・。

「カガリ」

「・・ん?おかわりか?」

「・・ああ・・」

だが・・いざいおうと思うと声が止まる。いや・・その、逃げている訳じゃない、と・・思う。
カガリなら・・受け止めてくれると思うんだ。それは・・本当に・・そう思う。
いい、とか、無理とかではなくて・・・真剣に考えてくれる。---それだけでいい。
それに・・気持ちを知ったら逆にそう・・恋愛対象として見て貰えるかもしれない。

悶々と考えている内に・・・いつの間にか就寝の時間が近付く、そして・・・カガリはどこからか琴を出してきた。


「・・・・・・弾けるの・・か?」
「・・なんだよ、失礼だなッ!!!・・・使って良いか?」

「ああ・・。」

母の・・形見、でも・・アスラン自身は少ししか弾けないから・・・部屋の角に立て掛けて置いあったはずだ・・

そう回想していると、カガリは慣れた手つきで爪をはめて・・その姿を母に重ねる。
母も・・・小さい頃から眠れないとき、よく弾いてくれていた。
アスランは・・音楽の方は、本当に駄目で・・・・・・聞くだけでうとうとしてしまう、けど。
母の曲は・・心から安らいで・・そして寝られるのだ。


ぱんっ・・-------


音が鳴り出して・・アスランはハッとする。
「・・さくら、有名だよな。---私、この曲好きなんだ」
丁寧に・・・弾いて、伏し目がちの相手、カガリの中に、母を見ていた。だが・・・やっぱり小さい。見た目も・・違う。
色々考えていたはずなのに、カガリが弾き終わる頃には・・眠たくなっていて、カックンと頭が動いた。

「・・眠いのか?」

「すまない・・綺麗だったんだが・・どうも・・眠く・・・・・・」

そう言って後ろに倒れそうになった首を支えて・・・カガリ自身の膝へと落としてくれる。
「・・寝て・・いいぞ?」
「・・ぅ・・ん」
もう・・意識は消えかけていて、でも・・・気分の良さに・・パタンと瞼が閉じた。

柔らかい。







気持ちよさそうに・・眠る、アスランの髪を、カガリは優しく梳いてやる。
にしても・・アスランは年上なのに年上らしくないと思う。
出会ったとき・・泣いてたし、そりゃ剣道能とかの腕前は凄い・・だが・・。
パッと見るアスランの顔は・・カガリより、二つか三つ・・年上なのに・・どこか幼い。
すぅすぅと規則正しく奏でられる寝息は、カガリにとっても子守歌のようだった。
次第に・・カガリも、意識が消えだして・・・・・カクンと首を倒して・・寝てしまう。


寝ながら・・また少し、考え事をしていた。


---------・・アスランみたいなのが・・お客さんに来てくれればいいのに。

アスランになら・・膝を貸すのも、嫌じゃない。一緒に住むのだって・・・嫌じゃない、むしろ・・楽しいのに。

そう考えて、意識が途絶えた。









夢を見た。




そう・・・近くて遠い、未来の夢。









アスランのいない・・・場所の夢。































































+++++
あとがき
カガリは若いのに色々考えてるな・・。でも、結構小学生時代って考えごとしませんでしたか?
2006/06/30