「おはよ・・」
「ん・・」
それは・・・出会った頃の話。
同じ布団から・・起きあがって、同じタイミングであくびをし、腕を伸ばす。
そして・・・・・また、パタンと布団に倒れた。
「・・眠い。もう少し・・ねよう?」
「そうだな・・アスラン。」
まるで抱き枕のように・・キュッと抱かれては、カガリも嫌な気がせず・・・すぅっと二度目の睡眠に入る。
アスランはそんなカガリを見て、苦笑し・・・金髪を撫でてやった。
元より・・二度音なんてしないアスランだったが・・カガリとこうやっていられるならいいと思う。
だから・・・・こうやって、毎日・・眠たくもないのにカガリに二度寝を誘うのだった。
-------あの・・出会いからもう一週間も過ぎるのか・・・。
今は・・ちょうど桜の見頃、君と出会ったのは・・咲き出しの時。
始め・・・その子がさも当然のように・・この家に居座っていて、アスランは驚いたが・・・そんなことより嬉しかった。
母が死んで・・独りぼっちだと、そう・・思っていたから・・・。
「・・帰らなくて・・いい、のか?君は・・」
「いい・・帰る家・・ないから。」
そうか、と、アスランも小さく声を漏らした。この子も・・両親が死んだのかと・・そう思っていた。
どうせ父上も帰ってこないのだから・・いっそ、この家に住んで欲しい。
そう---------考えていた。
「アスランッ・・見てみろッ!!メダカ!」
「ああ。」
小さな川に・・・キラキラと光る小さな魚、それがまるでとても綺麗な宝石のように・・カガリは声を上げていた。
そして・・すぐにしゃがみ込んで手を伸ばす。
「てぃ!!やっ・・くそ・・!!!」
取れないっ!!と・・・怒った後に、カガリは切なそうな目をこちらに向ける。
「・・仕方ないだろ?メダカだって・・自分よりも数十倍もあるカガリを見たら・・驚くさ。」
「分かってるけど・・」
綺麗だから・・・直で見たかったんだと、拗ねた目の少女。アスランは笑い出し・・・頭を撫でてやった。
すると・・その琥珀の瞳はアスランを覗き込み・・・木陰の下、二人は一瞬無言になる。
すぅっと・・ふわりとして桃色の・・唇が近付いてきたときは・・心臓が、ドキンと鳴るのが分かった。
「綺麗・・・・・---アスランの目、凄く綺麗だ!!!!」
顔をガッと捕まれて・・鼻先が付く。こんな近くでと・・・・赤くなる顔を隠せず、アスランはされるがままになってしまう。
カガリの息づかいが諸に分かって・・・・思わず、伸びそうになった腕を止めた。
暫く・・覗いてから、カガリは満足したように手を離す。
「・・魚より・・綺麗だ!」
もう少し・・・・あのままでも良かったのにと、心で思ったが・・・まぁいい。そう・・決め直し、アスランはカガリの手を握る。
「見くなったら・・また見せてくれ!」
「ああ・・。」
何のためらいもなく、カガリはアスランの手を握り返し・・・・・二人で笑みを落として、家へと戻っていった。
帰りがけお豆腐と・・それに、菜っぱや、なくなりかけていた米を買う。
「凄いなッ・・・・重たくないか?」
「まぁ・・俺は男だから・・それに、カガリより歳も上だし・・」
そう言うと・・カガリはプゥッと頬を膨らませて、アスランの持っている米に手を伸ばした。
そして・・徐に引っ張られる。
「な・・何するんだっ」
「私、女だし、お前より年下だけど・・・持てる!!!」
「馬鹿・・っ豆腐!」
「わっ・・」
落ちそうになっいた豆腐を・・何とか死守し、カガリははぁっと溜息をついた。
アスランも・・・・・ふぅっと、声が漏れる。
「と・・ともかく、私だって持てるんだからな!!!」
「はいはい。」
意地を張るように言われたセリフに・・苦笑しながら返すと、不機嫌なようで走り出してしまう。
可愛い・・が、カガリには隣りに歩いていて欲しいなと漠然と思っていた。
すると・・クルリと振り返って、満面の笑みをこちらに向ける。
「今日、豆腐はみそ汁にしよう!菜っぱは・・」
どうやら・・さっき怒っていたことなど既に忘れて・・今日の夕飯のことで頭が一杯のようだった。
---そんな・・カガリに、アスランも自然と笑みになる。
最初は・・・・・そう、きっと母上に被せていたんだ。カガリの・・・事。
でも・・
違うんだ。
「どうか・・したのか、アスラン。」
「・・ううん・・・・。」
夜、寝る前・・・アスランは自分の母親に・・・線香をあげていた。
それが終わり・・・・ふっと寂しそうな目をしたアスランを・・カガリは見逃さない。
「泣きたくなったか?」
「・・・・ううん。」
「泣いても良いんだぞ。」
そうやって・・・裾をギュッと袖を掴み・・見上げられ、なんだか泣きたい気分になってしまう。
カガリを・・見ると、無性に泣きたくなるときが・・よくあるのだ。
今まで・・アスランは負けず嫌いなためか・・・・・誰にも涙を見せたことがなかったように思える。
母さんにも・・弱い男だと思われたくなくて、父さんにも・・・・思われたくなかったから・・・・---・・。
考えてみれば、なんて子供じみた・・いや、それだって当の本人からしてみれば譲れない、下らないプライドだったのかもしれない。
けど・・
カガリは・・・・カガリの前なら、そんな下らないもの、とっちゃえよ、と・・言われているような気がして・・・・・・。
それが、有り難くて・・。
素の自分でも受け入れてくれるような気がしていたのだ。
「泣いて・・いい・・・か」
「ああ。」
つぅっと・・頬をつたった雫に、カガリは手を伸ばして・・首から抱き寄せてくれる。
まるで・・母のようなのに、その腕は細くて・・小さい。子供だった。
けれど・・・母の腕とは・・違う、安心感がある。
「よしよし」
紺色の髪を・・優しく撫でて、カガリは泣いている・・自分より大人で・・しかも男の子を見て少し思う。
よかった。
コイツ・・言わなきゃ誰にも甘えないまま・・窒息しそうになってしまいそうな気がするから。
こうやって・・・・・吐き出させてやれて、良かった。
肩に顔を埋めたアスランは不意に頭を上げて・・次はカガリの頭を抱き寄せてくれる。
「・・・カガリは・・大丈夫か?----泣きたくなったら・・」
泣きたい・・訳ではない。
そう漠然と思って・・・・・それを消すようにアスランの胸板に顔を埋めてしまう。
今頃・・店ではどうなっているだろうか?探されている・・・・?
ラクスは・・私を、裏切り者だと感じているのだろうか?
---------恐い。
その様子を察したように、アスランはカガリの背中をぐっと抱きしめて・・カガリも何となく落ち着きを取り戻す。
何かが解決した訳じゃない・・ただ・・そう。
---私は此処が好きだ。
アスランの・・腕の中は・・・・・安心する。
「・・・ありがとう・・アスラン、私は大丈夫だッ!」
「・・そうか。」
離れるのが名残惜しいと・・思いながらも、アスランはカガリの体を離し・・カガリも名残惜しいながら離した。
「ねるか。」
「ああ」
こう・・ゆっくりと流れる時を、二人でただ、過ごしていた。