「・・・あれ?」
「いらっしゃいませ・・こちら・・です。」
たどたどしく・・挨拶をしてきたのは・・・・・ステラだった。
ムウさんはすでに・・美人な女の人と・・部屋に籠もっている。
アスランと・・キラはステラに着いていき・・・部屋に通された。
「・・こちら・・です。」
「ありがとう。」
そう・・・キラが言うと、やっと、まともにこちらを見て・・ステラは可憐に微笑んで見せた。
どうやら・・今は仕事中と、ちゃんと割り切っているらしい。
通された・・・十五畳ほどの部屋にはいると・・半分、簾で区切られていた。
月明かりと蝋燭に照らされて・・・・二人の影がぼんやりと見える程度。
ああ・・そうか、僕たちが・・この間のような嫌な客だったらと・・思っての事かな?
そう考えていると・・楽器の演奏が始まる。
三味線と・・琴。これは・・・。
「・・さくら、か。」
呟くように・・言ったのは、アスランだった。
「綺麗な曲だね。」
「ああ。」
コソコソと・・演奏を邪魔しないように・・話していると・・アスランは思い至ったように・・簾の中を見ていた。
・・・・・・、気の・・せいだろうか。
---カガリの音だ。
弾き終わると・・・・・丁寧な声が聞こえる。
「ようこそ・・いらっしゃいました。ごゆっくりとしていってくださいな。」
もう一人・・は?
確証が持てず・・アスランは苛々とする。だが・・カガリがこんな所に・・いるはずがない。
-----------・・勘違いだ、きっと・・この頃全く聞いていなかったから・・忘れてきているに違いない。
「お疲れさま、ラクスも・・二人とも。」
「?」
そう・・・・・キラが言って、アスランはキョトンとする。
ああ・・もしかして・・キラの言っていた恋人は・・・・・。
「キラっ!キラですのっ!!」
「うんッ、ラクス!!!」
簾の中から・・飛んできた、ラクスをキラは容易に抱きとめていた。
「いってくださいな、すぐにでも・・出てきましたのに・・。」
「綺麗だったよ、二人の音色。」
抱き合う二人に・・アスランは横目でいいな・・と溜息をついていた。
俺も・・カガリと逢いたい。
「カガリも・・・出てきて、アスランと挨拶しなよ。いい人だよ?」
「「え?」」
ピクンと・・・・簾から出ようとしていた・・カガリの手が止まった。
----------アスラン?
嘘・・だろ?
簾にかけていた・・手を引き、カガリは考えてしまう。
「・・・・・・・・・・カガリ・・・?」
嘘だろ?
それは・・アスランも同じで、まさか・・・カガリが・・色町だなんて・・・。
簾に手を掛けて・・・・持ち上げていた。
「・・ッ・・!!」
「・・・かが・・り。」
怯えたような・・表情の、彼女に・・アスランは抱きついていた。
ただ・・・逢いたかった、だけだったのかもしれない。
気が付いたら・・押し倒して、唇を重ねていた。
そして・・・カガリが何か告げようとしているのを遮るように、瞳を見つめる。
薄暗い中でも・・・・蝋燭に照らされて、ハッキリと分かった。
カガリの瞳だ。
「・・・・・あす・・らん・・。」
「別れた方が・・なんて、、、、言うから・・・・・・俺、本当に・・・」
-------------だめだった。
苦しくて・・しょうがなかったよ。
君がいないと・・それだけのことなのに。
愛さえ在ればいいと・・・
思っていたのに。
----割り切れるほど、大人じゃないから。
泣きそうな翡翠に・・カガリはポロポロと涙を流していた。
なんで・・・・この人は、こんなに優しいのだろう?
何も・・聞かないで、聞こうとしないで・・・・それでも、こんなに愛してくれるなんて・・。
アスランの顔に手を伸ばし、寄せて・・・・畳に背中を付けて抱きしめていた。
--------・・幸せ・・だ。
「ちょっと・・アスラン、何やってるのさ・・・僕の可愛い妹に・・・っ」
いきなりの光景に・・流石のキラも、事情を説明しろと畳み掛けてきて、カガリはアスランを起きあがらせ、涙を拭いた。
だが・・アスランの、顔は・・・裏腹に、恐かった。
「・・アスラン?」
「・・・誰が、お前のカガリだって?」
「あらあら・・。」
「ふーん・・・・そうやって、カガリの兄の僕に楯突く気?」
「カガリは俺のだ。」
そう・・言い合いが始まり、ラクスとカガリはそれを必死で止める。
止め終わり・・ステラが運んできたお茶を、四人ですすっていた。
そうして・・誰も何も言わず・・だが、決して嫌な沈黙ではないとき、急に・・カガリは頭を下げる。
「・・ごめん・・・・アスラン!今まで・・黙ってて・・・。」
その事について・・今まで散々悩んでいたことを知っているラクスとキラは、カガリの泣きそうな声に・・胸を痛め、アスランを見る。
-------なんて・・私は、卑怯なんだろう。
言えば・・・良かったのに、恐くて・・嫌われるのが、恐い・・なんて。
それだって・・勝手なことで、相手を欺いていると言うことなのに。
「・・・・・----許せ・・ない、が・・・・・カガリも沢山悩んだんだろ?なら・・俺は、怒れない。」
口では・・大人ぶっていても、どうしても態度に出てしまう。
---俺だけのモノに・・・ならない。
嫌だ。
気持ちが繋がっているのに・・・・なぜ?
なんで・・俺だけの・・・。
「・・・アスラン、顔、恐いよ。」
キラに言われ、アスランは慌てて顔をハッと上げる。
不安そうに・・揺れる、琥珀色の瞳。アスランは・・何も言えなくて、俯いてしまった。
俺だけが・・辛い訳じゃない、カガリだって辛かったんだ。
それなのに・・俺だけが、まるで全ての不幸を背負ったような顔をするのは・・申し訳ない。
「よかった・・ですわね、カガリ。----ずっと・・気にしていらしたこと・・・優しい恋人で、よかったですわ。」
ラクスも・・カガリが傷つくことなく・・丸く収まって、嬉しそうに笑っていた。
その笑顔に・・カガリはまた・・涙が出てくる。
「ラクス・・」
「あらあら・・泣いても良いんですのよ?嬉泣きですもの」
ポロポロと泣き出した・・カガリにラクスは優しく手を差し伸べていて・・・アスランはその・・光景に・・どうしようもない感情を抱える。
カガリからの・・嘘が無くなって・・嬉しい気持ち、
これから・・見知らぬ男達が、カガリと共に過ごす時間が・・ある。それに対する---嫉妬心。
----------こればっかりは・・どうしようもない。
「カガリも・・辛かったんですのよ?・・・配慮お願いいたしますね。」
そう・・・まるで気持ちを読みとられたかのように、ラクスに言われ・・アスランはごくんと鍔を飲む。
この子には・・・分かるのかもしれない、どれほど・・アスランが、カガリを独り占めしていたいか。
------------・・傷つけてでも、手に入れたいと望む心が・・・。
恐くなって・・目をそらすと、相手はやんわりと微笑んで見せた。
まだ泣いている・・・カガリをラクスはアスランに預けてくれる。
「・・・アスラン・・ッ・・ごめん、ありがとう・・・・っ・・。」
「・・・カガリ・・。」
こんなに・・・・・必死に、謝ってきてくれるカガリに愛しさが募って・・・・・。
抱きしめてしまう。
---------・・君が泣くのは、ここだけだからな。
俺の・・中だけ。
俺のことだけ。
「・・・キラ、私達、お邪魔なようですし・・・・・別の部屋へ行きましょうか?」
「うん・・でも、心配だなぁ・・・アスラン・・手だしたりしたら・・。」
そのキラの声に答えたのはカガリで・・
「大丈夫・・アスラン、優しいから・・・・そんな事、まだ・・しなくていいって・・・」
ああ・・。
そう・・・溜息をつきたい気分になったが、カガリと二人きりになれるなら我慢することにする。
カガリの声を・・聞いた、キラとラクスは他の部屋へと移ってくれた。
「・・・カガリ。」
「アスラン?」
ピッタリと・・抱き合った状態で、アスランはカガリに話しかける。
冬のせい・・で、服が厚いし・・・・蝋燭の近くとはいえ、やっぱりくらい。
けど。
「・・・君は・・・俺から、離れたりしないよな?」
「・・・・・馬鹿・・いうなよ、---それより・・アスランは、本当に・・・良いのか?」
・・本当なら、こんなコト言わず・・アスランの優しさに甘えたかったが、もう・・そんな子供じみたことは言わない。
私は・・本当に、アスランと一緒にいたいんだ、優しさだけでカバーされた、アスランだけを見ていたいわけじゃない。
さっきも・・怒った顔をしていた。
----・・・だから・・。
「いいに・・決まってるだろ?」
複雑そうな顔の・・意味が痛いほど分かって、カガリは凄く申し訳なく思う。
独占欲が強いと言っていた・・・・、なのに、私はアスランだけの・・自分には、なれない。
「ごめん・・・・言うのが・・いいのか、言わないのが良いのか・・・分からなくて、どっちが嫌われないかって・・」
「分かってる・・・けど・・・・・・。」
邪魔な簪が着いた、髪を撫でて・・もう一度ギュッと抱きしめていた。
「---------・・やっぱり・・少し、嫌・・かな?」
「・・・っ・・。」
「でも・・カガリは、俺だけを見てるなら・・・いい、君だって・・辛いだろうし・・」
「うん、アスランだけだ・・だから・・・」
「こうやって・・俺にだけ、甘えて・・・・・・弱音も吐いてほしい。・・全部。」
「うん・・・。」
俺だけ、俺だけが・・・・・。
-------------君の全てを支える。
君が・・俺の全てを支えて・・なければ、こちらが倒れてしまうぐらい。
依存・・・・・なの、か?これは・・・。
違うな。
「愛してるぞ、アスラン・・」
「俺もだよ・・カガリ」
------独占欲だ。
簪の飾れ等髪を、丁寧に一本ずつ抜いてやる。
ぱさっと・・降りた金髪にキスをして・・・・・・カガリが気持ちよさそうに目を細めるのを微笑みながら見ていた。
異常だと思う、こんな愛し方。
君と・・・・ただ、二人でいたときには、感じなかったのに・・・。
「・・・?アスラン?」
でも、
「・・・愛してるよ、カガリ」
こうやって・・・君といれば・・・
「ん・・ふ・・ぅん」
消えてしまう。
下らない・・独占欲も・・・全部。
カガリがいることで・・枯渇している場所に、潤いが戻る。
----------・・正常でいられる。
ゆるゆると角度を変えて・・何度も唇を重ねる。
カガリの口から漏れる声、うっとりとした・・表情、首に巻き付く腕。
---全てが満たしてくれるから。
「・・アスラン・・」
「どうした・・・」
途切れる口の隙間でカガリが言葉を出して・・アスランもそれに従うようにのぞき込む。
濡らされた唇が・・月の光で揺らいでとても綺麗だと・・うっとりと見ていた。
すると、その・・唇がまた・・覆うようにアスランにのものに重なり・・珍しくカガリから舌を当ててくれる。
当然・・迎え入れないはずなどない。
優しく・・唇を開いて迎えて・・絡めた。
暫くして深い口づけが終わると、カガリは真っ赤な顔でアスランの胸板に顔を押しつける。
「アスランだけじゃなくて・・私も、アスランのこと・・大好きだからな。」
その言葉に・・アスランも真っ赤になって、カガリの髪を梳く。
「・・ありがとう。」
そうして・・・・もう一度、唇を重ねた。