君がいなければ意味のない世界になってしまった。


第十七輪+独占



「・・・あれ?」

「いらっしゃいませ・・こちら・・です。」

たどたどしく・・挨拶をしてきたのは・・・・・ステラだった。
ムウさんはすでに・・美人な女の人と・・部屋に籠もっている。
アスランと・・キラはステラに着いていき・・・部屋に通された。
「・・こちら・・です。」
「ありがとう。」

そう・・・キラが言うと、やっと、まともにこちらを見て・・ステラは可憐に微笑んで見せた。
どうやら・・今は仕事中と、ちゃんと割り切っているらしい。


通された・・・十五畳ほどの部屋にはいると・・半分、簾で区切られていた。

月明かりと蝋燭に照らされて・・・・二人の影がぼんやりと見える程度。

ああ・・そうか、僕たちが・・この間のような嫌な客だったらと・・思っての事かな?


そう考えていると・・楽器の演奏が始まる。

三味線と・・琴。これは・・・。



「・・さくら、か。」



呟くように・・言ったのは、アスランだった。

「綺麗な曲だね。」

「ああ。」

コソコソと・・演奏を邪魔しないように・・話していると・・アスランは思い至ったように・・簾の中を見ていた。
・・・・・・、気の・・せいだろうか。

---カガリの音だ。

弾き終わると・・・・・丁寧な声が聞こえる。


「ようこそ・・いらっしゃいました。ごゆっくりとしていってくださいな。」


もう一人・・は?
確証が持てず・・アスランは苛々とする。だが・・カガリがこんな所に・・いるはずがない。

-----------・・勘違いだ、きっと・・この頃全く聞いていなかったから・・忘れてきているに違いない。

「お疲れさま、ラクスも・・二人とも。」
「?」

そう・・・・・キラが言って、アスランはキョトンとする。
ああ・・もしかして・・キラの言っていた恋人は・・・・・。


「キラっ!キラですのっ!!」
「うんッ、ラクス!!!」

簾の中から・・飛んできた、ラクスをキラは容易に抱きとめていた。

「いってくださいな、すぐにでも・・出てきましたのに・・。」

「綺麗だったよ、二人の音色。」

抱き合う二人に・・アスランは横目でいいな・・と溜息をついていた。
俺も・・カガリと逢いたい。

「カガリも・・・出てきて、アスランと挨拶しなよ。いい人だよ?」



「「え?」」



ピクンと・・・・簾から出ようとしていた・・カガリの手が止まった。

----------アスラン?






嘘・・だろ?



簾にかけていた・・手を引き、カガリは考えてしまう。


「・・・・・・・・・・カガリ・・・?」


嘘だろ?


それは・・アスランも同じで、まさか・・・カガリが・・色町だなんて・・・。

簾に手を掛けて・・・・持ち上げていた。


「・・ッ・・!!」

「・・・かが・・り。」


怯えたような・・表情の、彼女に・・アスランは抱きついていた。




ただ・・・逢いたかった、だけだったのかもしれない。

気が付いたら・・押し倒して、唇を重ねていた。
そして・・・カガリが何か告げようとしているのを遮るように、瞳を見つめる。
薄暗い中でも・・・・蝋燭に照らされて、ハッキリと分かった。

カガリの瞳だ。


「・・・・・あす・・らん・・。」

「別れた方が・・なんて、、、、言うから・・・・・・俺、本当に・・・」


-------------だめだった。

苦しくて・・しょうがなかったよ。
君がいないと・・それだけのことなのに。
愛さえ在ればいいと・・・

思っていたのに。

----割り切れるほど、大人じゃないから。


泣きそうな翡翠に・・カガリはポロポロと涙を流していた。
なんで・・・・この人は、こんなに優しいのだろう?
何も・・聞かないで、聞こうとしないで・・・・それでも、こんなに愛してくれるなんて・・。
アスランの顔に手を伸ばし、寄せて・・・・畳に背中を付けて抱きしめていた。

--------・・幸せ・・だ。



「ちょっと・・アスラン、何やってるのさ・・・僕の可愛い妹に・・・っ」
いきなりの光景に・・流石のキラも、事情を説明しろと畳み掛けてきて、カガリはアスランを起きあがらせ、涙を拭いた。
だが・・アスランの、顔は・・・裏腹に、恐かった。

「・・アスラン?」

「・・・誰が、お前のカガリだって?」

「あらあら・・。」

「ふーん・・・・そうやって、カガリの兄の僕に楯突く気?」

「カガリは俺のだ。」

そう・・言い合いが始まり、ラクスとカガリはそれを必死で止める。
止め終わり・・ステラが運んできたお茶を、四人ですすっていた。
そうして・・誰も何も言わず・・だが、決して嫌な沈黙ではないとき、急に・・カガリは頭を下げる。

「・・ごめん・・・・アスラン!今まで・・黙ってて・・・。」

その事について・・今まで散々悩んでいたことを知っているラクスとキラは、カガリの泣きそうな声に・・胸を痛め、アスランを見る。


-------なんて・・私は、卑怯なんだろう。


言えば・・・良かったのに、恐くて・・嫌われるのが、恐い・・なんて。
それだって・・勝手なことで、相手を欺いていると言うことなのに。

「・・・・・----許せ・・ない、が・・・・・カガリも沢山悩んだんだろ?なら・・俺は、怒れない。」

口では・・大人ぶっていても、どうしても態度に出てしまう。
---俺だけのモノに・・・ならない。
嫌だ。
気持ちが繋がっているのに・・・・なぜ?

なんで・・俺だけの・・・。

「・・・アスラン、顔、恐いよ。」

キラに言われ、アスランは慌てて顔をハッと上げる。
不安そうに・・揺れる、琥珀色の瞳。アスランは・・何も言えなくて、俯いてしまった。
俺だけが・・辛い訳じゃない、カガリだって辛かったんだ。
それなのに・・俺だけが、まるで全ての不幸を背負ったような顔をするのは・・申し訳ない。

「よかった・・ですわね、カガリ。----ずっと・・気にしていらしたこと・・・優しい恋人で、よかったですわ。」

ラクスも・・カガリが傷つくことなく・・丸く収まって、嬉しそうに笑っていた。
その笑顔に・・カガリはまた・・涙が出てくる。

「ラクス・・」
「あらあら・・泣いても良いんですのよ?嬉泣きですもの」

ポロポロと泣き出した・・カガリにラクスは優しく手を差し伸べていて・・・アスランはその・・光景に・・どうしようもない感情を抱える。
カガリからの・・嘘が無くなって・・嬉しい気持ち、
これから・・見知らぬ男達が、カガリと共に過ごす時間が・・ある。それに対する---嫉妬心。

----------こればっかりは・・どうしようもない。

「カガリも・・辛かったんですのよ?・・・配慮お願いいたしますね。」

そう・・・まるで気持ちを読みとられたかのように、ラクスに言われ・・アスランはごくんと鍔を飲む。
この子には・・・分かるのかもしれない、どれほど・・アスランが、カガリを独り占めしていたいか。


------------・・傷つけてでも、手に入れたいと望む心が・・・。


恐くなって・・目をそらすと、相手はやんわりと微笑んで見せた。
まだ泣いている・・・カガリをラクスはアスランに預けてくれる。


「・・・アスラン・・ッ・・ごめん、ありがとう・・・・っ・・。」

「・・・カガリ・・。」


こんなに・・・・・必死に、謝ってきてくれるカガリに愛しさが募って・・・・・。
抱きしめてしまう。

---------・・君が泣くのは、ここだけだからな。

俺の・・中だけ。
俺のことだけ。

「・・・キラ、私達、お邪魔なようですし・・・・・別の部屋へ行きましょうか?」
「うん・・でも、心配だなぁ・・・アスラン・・手だしたりしたら・・。」

そのキラの声に答えたのはカガリで・・

「大丈夫・・アスラン、優しいから・・・・そんな事、まだ・・しなくていいって・・・」

ああ・・。
そう・・・溜息をつきたい気分になったが、カガリと二人きりになれるなら我慢することにする。

カガリの声を・・聞いた、キラとラクスは他の部屋へと移ってくれた。








「・・・カガリ。」
「アスラン?」

ピッタリと・・抱き合った状態で、アスランはカガリに話しかける。
冬のせい・・で、服が厚いし・・・・蝋燭の近くとはいえ、やっぱりくらい。
けど。

「・・・君は・・・俺から、離れたりしないよな?」

「・・・・・馬鹿・・いうなよ、---それより・・アスランは、本当に・・・良いのか?」

・・本当なら、こんなコト言わず・・アスランの優しさに甘えたかったが、もう・・そんな子供じみたことは言わない。
私は・・本当に、アスランと一緒にいたいんだ、優しさだけでカバーされた、アスランだけを見ていたいわけじゃない。
さっきも・・怒った顔をしていた。

----・・・だから・・。


「いいに・・決まってるだろ?」


複雑そうな顔の・・意味が痛いほど分かって、カガリは凄く申し訳なく思う。
独占欲が強いと言っていた・・・・、なのに、私はアスランだけの・・自分には、なれない。

「ごめん・・・・言うのが・・いいのか、言わないのが良いのか・・・分からなくて、どっちが嫌われないかって・・」
「分かってる・・・けど・・・・・・。」

邪魔な簪が着いた、髪を撫でて・・もう一度ギュッと抱きしめていた。


「---------・・やっぱり・・少し、嫌・・かな?」

「・・・っ・・。」
「でも・・カガリは、俺だけを見てるなら・・・いい、君だって・・辛いだろうし・・」
「うん、アスランだけだ・・だから・・・」

「こうやって・・俺にだけ、甘えて・・・・・・弱音も吐いてほしい。・・全部。」

「うん・・・。」


俺だけ、俺だけが・・・・・。

-------------君の全てを支える。
君が・・俺の全てを支えて・・なければ、こちらが倒れてしまうぐらい。


依存・・・・・なの、か?これは・・・。

違うな。



「愛してるぞ、アスラン・・」

「俺もだよ・・カガリ」


------独占欲だ。


簪の飾れ等髪を、丁寧に一本ずつ抜いてやる。
ぱさっと・・降りた金髪にキスをして・・・・・・カガリが気持ちよさそうに目を細めるのを微笑みながら見ていた。
異常だと思う、こんな愛し方。
君と・・・・ただ、二人でいたときには、感じなかったのに・・・。

「・・・?アスラン?」

でも、



「・・・愛してるよ、カガリ」



こうやって・・・君といれば・・・





「ん・・ふ・・ぅん」



消えてしまう。

下らない・・独占欲も・・・全部。

カガリがいることで・・枯渇している場所に、潤いが戻る。


----------・・正常でいられる。


ゆるゆると角度を変えて・・何度も唇を重ねる。
カガリの口から漏れる声、うっとりとした・・表情、首に巻き付く腕。


---全てが満たしてくれるから。

「・・アスラン・・」
「どうした・・・」

途切れる口の隙間でカガリが言葉を出して・・アスランもそれに従うようにのぞき込む。
濡らされた唇が・・月の光で揺らいでとても綺麗だと・・うっとりと見ていた。

すると、その・・唇がまた・・覆うようにアスランにのものに重なり・・珍しくカガリから舌を当ててくれる。
当然・・迎え入れないはずなどない。
優しく・・唇を開いて迎えて・・絡めた。

暫くして深い口づけが終わると、カガリは真っ赤な顔でアスランの胸板に顔を押しつける。

「アスランだけじゃなくて・・私も、アスランのこと・・大好きだからな。」
その言葉に・・アスランも真っ赤になって、カガリの髪を梳く。



「・・ありがとう。」



そうして・・・・もう一度、唇を重ねた。































































+++++
あとがき
独占欲丸出しのアスランと、無邪気&無垢なカガリです。
2006/06/23