「?」
連れられて・・来たのは、細い・・・裏道だった。大通りの・・家々の間。
夕方の冬でも少し延びた影・・その中に入るように言われる。
今日で・・終わり、その事実に・・・・・足が浮かれていたんだと思う。
「・・カガリ」
熱っぽく・・・・囁かれて、カガリは・・初めて、今自分がされよとしていることに気が付いた。
近付いてくる頭を抑えて・・・カガリは声を上げる。
「やめろっ・・来るな!!触るなっ---・・」
「・・これからも、こうやって・・逢ってくれるなら、ね?」
「嫌だっ・・終わりだ、」
怒ったように言うと・・・相手はすねた顔をしてから・・怒って、カガリの手首を掴もうとする。
嫌で・・兎に角、嫌で、カガリは思いっきりひっぱたいていた。
バシンッ・・!!
そう・・音が響いて、カガリは少し息を切らす。
---信じられん、この男。私の何も知らない癖に、こうやって・・まるで、自分のものかのように扱うなんて・・。
もう・・終わりなんだと、カガリはその男を押しのけて・・・・大通りに戻ろうとした。
だが・・。
「駄目・・・--、話さないよ、良いって、言ってくれるまで。・・・・お金ならいくらだって払える。」
グゥッッと・・・後ろから抱きしめられて・・持ち上げられてしまう。
足が着かず・・ばたばたとして・・・・叫ぼうと口を開けた。
「たすけ・・ぅんぐ・・。」
叫んだ声を・・消すように、抱き上げたまま・・掌を口に当てて・・そのとき丁度ぶつかった肘を胸に食い込ませた。
「っ・・つう・・。」
痛い。
そう・・思っていると、ユウナはその肘をゴリゴリと回しだして・・否応なしに痛みが走ってしまう。
痛さで・・顔を歪めて、カガリは・・負けずと、相手の肩を肘でど突いた。
一瞬・・顔に、あった手が放れて・・・とっさに出た・・叫び声。
「アスランッ・・・・」
それだけだった、それだけ言ったところで・・・また口を塞がれる。
息が苦しくて・・・・もう、窒息するんじゃないかと・・思って・・俯いた時、暗かった視界が・・更に、影が増えたように暗くなる。
「・・・っ・・」
そう・・息の引く音がして・・・・・でも・・すぐに、その・・目の前に来た人は、声を出す。
「・・何をやっている、・・・・現行犯で・・連れて行かれたいのか?」
聞き慣れた・・声、その声に・・ユウナは震えたように声を上げる。
「この子は・・僕のだ!お前等大天使になんの・・っひぃ!!!」
キンッっと・・金属質の音を立てて・・ユウナは慌てたのか、カガリを置いて・・去ってしまう。
地に着いた身体を・・預けるように、カガリは・・目の前の、人物に倒れ込んでいた。
「・・アスランっ・・・。」
布に・・爪を立てるほど、しっかりしがみついて・・・・・・カガリはボロボロと涙をこぼした。
ただ・・怖さから・・解放された、安堵の涙。
-------それを・・アスランは・・居たたまれない・・気分で、眺めていた。
君・・・・・・なの、か。
なんで・・カガリが・・・・・・・・。
君は・・・俺を・・。
そう・・考え出したのを・・殺すように、アスランは・・優しく、カガリを包む。
「大丈夫だ、カガリ・・俺が居る。」
「うん・・っ・・」
・・・・抱きしめて・・・抱きしめて、
いっそ・・潰してしまいたい。
そんな・・どす黒い、感情に・・・・覆われているのに、・・・カガリは気が付けなかった。
カガリが泣きやむと・・アスランは、優しく・・笑みを作って、カガリに向ける。
「明日・・あえるか?」
「・・うん・・・・・逢える。」
カガリは・・ただ、この・・恐怖の感情を、アスランに消してほしかった。
甘えたかった、一緒にいてほしい。
・・・・・・・・・・・・・・それだけだったのだ。
---------ただ・・それだけの事・・・だった。
誰かを・・叩くような音がして・・音のする方へ向かった。
でも・・直ぐ、分からなくなって・・次は、助けて、の言いかけのような・・叫び声を聞く。
その声を・・・誰かに重ねながら、アスランはキョロキョロとして・・最後に・・。
"アスラン"--------そう・・カガリが、叫ぶ声がしたのだ。
・・そして・・やはり、君だった。
男に・・抱き上げられる、君。
紫髪の・・男。
街のものに聞いたが・・ここ一ヶ月ほど・・ずっと、一緒にいたらしい。
そしてこの状況。
-------------・・どういうことか・・、分かって・・・いる・・・?
カガリ
思考が、暗く、黒く・・染まっていくのに。
---・・前のように・・君は、手を・・・・・
-----------------差し伸べては・・くれないのか?
思い出したのは・・出会いだった。
丁度・・・二十人目の、客が・・・・・アスランと、隣にいる父に・・・礼をする。
「・・・・。」
アスランも・・黙って、礼をしていた。
周りには・・・・・そのご焼香の焼けた匂いと・・煙が充満する。
チラリと・・客から目を背けて・・見た先。
最新技術の・・写真だった。
---こんな事に・・使うなんて。
その・・"写真"の・・中には、柔らかく・・微笑む、母の顔があった。
もう・・・・・・・見られるはずのない、笑顔。
通夜も・・・・葬式、全て終わり・・・・父は直ぐに・・仕事場の大天使へと、戻ってしまう。
アスランは残された・・広い広い・・家で、泣くこともなく・・・母の遺影のある部屋の縁側に・・腰掛けていた。
---------十二歳・・・だってね、息子さん・・可哀想に・・。
可哀想なのは・・俺じゃない、母さんだ。
まだ・・三十・・半ばだったというのに。
人生だって・・これからだったはずなのに・・・・・・・・・。
父上は・・一度も、涙を見せず・・・・、母上を、愛していなかったんじゃないかと思った。
けど・・アスランだって・・・・・泣けなくて。
哀しいけど・・逆に、ただ、ただ・・喉が詰まっていた。
----泣きたかった。本当は・・・。
けれど・・それが、格好悪い気がして、亡くなった・・母さんに・・心配を掛けるんじゃないかと・・心配で・・・・。
泣けない。
そう・・思い詰めて、一人で・・このまま泣くことも出来ず、息を殺してしまいそうになっていた時だった。
「あぁぁぁぁぁぁぁん・・う゛ぁぁぁああん」
ものすごい・・泣き声、家の外から聞こえて、アスランは・・・ビックリして・・庭にある草履を履いていた。
凄いと思ったのだ。自分が・・・恥じて出来ないことを・・糸も容易く・・しているのが。
道に出ると・・一人の、・・子供が・・大声で泣いている。
駆け寄って・・・アスランより小さい・・その女の子に話しかけた。
「・・・大丈夫・・?」
「ぅ・・ひ・・っ・・んぅ・・」
嗚咽を吐いて・・・・泣く・・少女に・・・・アスランは、訳も分からず・・同調していた。
「おまえ・・だって・・っ--ないてるじゃんかぁ・・っ・・ぅ・・う"・・ん・・、ひぃっぐ・・」
え?
そう・・言われて、頬に触れると・・確かに、涙が・・流れていて・・・。思わず・・・・・アスランも、
---------大声で、泣いた。
その子は・・驚いて・・自分が泣いていたのを忘れたように・・アスランの背中をさする。
焦ったのだろう、いきなり出てきた・・自分より大きい男の子が泣き始めたことに。
けど・・たった今、大声で・・泣いた子の、目の前ならば・・・・アスランが泣くのも、許されるような気がして・・・・・。
泣いていた。
結局・・・・・---最後まで、泣き通したのはアスランで・・・・・・その女の子は、アスランの手を引いて、家を教えると一緒に入ってくれる。
その時・・アスランは、自分はこんなにも泣くことが出来たんだと・・思った。
その女の子も・・自分が泣きたいのに、こんな年上の・・男の子に泣かれるなんて・・良い迷惑だろうとか・・思ったけど・・・。
黙って、アスランの手を握ってくれていた。
一時間も経った頃・・アスランの嗚咽が止まり・・・その子を見る。
「・・・お母さん・・・・死んだのか。」
遺影を見て・・ぽつんと呟かれた言葉に、頷いて・・・・・アスランは泣きそうになった声を止めた。
歯を食いしばって・・泣かないようにして・・・・・、だが・・その様子を見て、隣の子はいう。
「・・もう、どれだけ泣いても・・一緒だぞ、----------我慢するなよ。」
私だって、泣きたいときは泣くんだ、さっきみたいに。
そう・・言われて、アスランはポロポロと涙をこぼす。
逝ってほしくなかった。
まだまだ・・・・・・甘えたかった。
空いている手で畳を掴むように爪を立てる。・・・・・もう、戻ってこない、それが・・とても残酷だと、思う。
「・・・・・・私もな、---お父さんと、お母さん・・・・死んだんだ。」
ボソッと・・・・・・・吐いた、言葉。
「おそろいだ。」
だから・・大丈夫だ・・・・・・と。
----------引き上げてくれた、少女だった。
暗いところから。
自分ばかりが・・・・哀しい訳じゃないと。教えてくれた。
そして・・それから、一ヶ月だけ・・・・・一緒に・・生活をして・・・君は
-----------------居なくなってしまった。
約束を残して。
"愛してる"
-------------それだけに・・縋って、生きていた・・・・。
なのに。
君は・・・・・・・
---------破って、いたのか。