突き落とされるのを覚悟しなかったのがいけないのだろうか。


第十一輪+救出



「?」

連れられて・・来たのは、細い・・・裏道だった。大通りの・・家々の間。
夕方の冬でも少し延びた影・・その中に入るように言われる。
今日で・・終わり、その事実に・・・・・足が浮かれていたんだと思う。

「・・カガリ」

熱っぽく・・・・囁かれて、カガリは・・初めて、今自分がされよとしていることに気が付いた。
近付いてくる頭を抑えて・・・カガリは声を上げる。

「やめろっ・・来るな!!触るなっ---・・」

「・・これからも、こうやって・・逢ってくれるなら、ね?」

「嫌だっ・・終わりだ、」

怒ったように言うと・・・相手はすねた顔をしてから・・怒って、カガリの手首を掴もうとする。
嫌で・・兎に角、嫌で、カガリは思いっきりひっぱたいていた。


バシンッ・・!!


そう・・音が響いて、カガリは少し息を切らす。

---信じられん、この男。私の何も知らない癖に、こうやって・・まるで、自分のものかのように扱うなんて・・。

もう・・終わりなんだと、カガリはその男を押しのけて・・・・大通りに戻ろうとした。


だが・・。


「駄目・・・--、話さないよ、良いって、言ってくれるまで。・・・・お金ならいくらだって払える。」

グゥッッと・・・後ろから抱きしめられて・・持ち上げられてしまう。

足が着かず・・ばたばたとして・・・・叫ぼうと口を開けた。

「たすけ・・ぅんぐ・・。」

叫んだ声を・・消すように、抱き上げたまま・・掌を口に当てて・・そのとき丁度ぶつかった肘を胸に食い込ませた。
「っ・・つう・・。」

痛い。

そう・・思っていると、ユウナはその肘をゴリゴリと回しだして・・否応なしに痛みが走ってしまう。
痛さで・・顔を歪めて、カガリは・・負けずと、相手の肩を肘でど突いた。

一瞬・・顔に、あった手が放れて・・・とっさに出た・・叫び声。


「アスランッ・・・・」


それだけだった、それだけ言ったところで・・・また口を塞がれる。
息が苦しくて・・・・もう、窒息するんじゃないかと・・思って・・俯いた時、暗かった視界が・・更に、影が増えたように暗くなる。


「・・・っ・・」

そう・・息の引く音がして・・・・・でも・・すぐに、その・・目の前に来た人は、声を出す。
「・・何をやっている、・・・・現行犯で・・連れて行かれたいのか?」
聞き慣れた・・声、その声に・・ユウナは震えたように声を上げる。

「この子は・・僕のだ!お前等大天使になんの・・っひぃ!!!」

キンッっと・・金属質の音を立てて・・ユウナは慌てたのか、カガリを置いて・・去ってしまう。
地に着いた身体を・・預けるように、カガリは・・目の前の、人物に倒れ込んでいた。


「・・アスランっ・・・。」


布に・・爪を立てるほど、しっかりしがみついて・・・・・・カガリはボロボロと涙をこぼした。

ただ・・怖さから・・解放された、安堵の涙。



-------それを・・アスランは・・居たたまれない・・気分で、眺めていた。

君・・・・・・なの、か。

なんで・・カガリが・・・・・・・・。

君は・・・俺を・・。

そう・・考え出したのを・・殺すように、アスランは・・優しく、カガリを包む。


「大丈夫だ、カガリ・・俺が居る。」
「うん・・っ・・」



・・・・抱きしめて・・・抱きしめて、

いっそ・・潰してしまいたい。

そんな・・どす黒い、感情に・・・・覆われているのに、・・・カガリは気が付けなかった。



カガリが泣きやむと・・アスランは、優しく・・笑みを作って、カガリに向ける。

「明日・・あえるか?」
「・・うん・・・・・逢える。」

カガリは・・ただ、この・・恐怖の感情を、アスランに消してほしかった。

甘えたかった、一緒にいてほしい。


・・・・・・・・・・・・・・それだけだったのだ。


---------ただ・・それだけの事・・・だった。









誰かを・・叩くような音がして・・音のする方へ向かった。
でも・・直ぐ、分からなくなって・・次は、助けて、の言いかけのような・・叫び声を聞く。
その声を・・・誰かに重ねながら、アスランはキョロキョロとして・・最後に・・。

"アスラン"--------そう・・カガリが、叫ぶ声がしたのだ。

・・そして・・やはり、君だった。
男に・・抱き上げられる、君。

紫髪の・・男。

街のものに聞いたが・・ここ一ヶ月ほど・・ずっと、一緒にいたらしい。
そしてこの状況。


-------------・・どういうことか・・、分かって・・・いる・・・?

カガリ





思考が、暗く、黒く・・染まっていくのに。

---・・前のように・・君は、手を・・・・・




-----------------差し伸べては・・くれないのか?














思い出したのは・・出会いだった。










丁度・・・二十人目の、客が・・・・・アスランと、隣にいる父に・・・礼をする。

「・・・・。」

アスランも・・黙って、礼をしていた。
周りには・・・・・そのご焼香の焼けた匂いと・・煙が充満する。
チラリと・・客から目を背けて・・見た先。

最新技術の・・写真だった。

---こんな事に・・使うなんて。

その・・"写真"の・・中には、柔らかく・・微笑む、母の顔があった。

もう・・・・・・・見られるはずのない、笑顔。







通夜も・・・・葬式、全て終わり・・・・父は直ぐに・・仕事場の大天使へと、戻ってしまう。
アスランは残された・・広い広い・・家で、泣くこともなく・・・母の遺影のある部屋の縁側に・・腰掛けていた。

---------十二歳・・・だってね、息子さん・・可哀想に・・。

可哀想なのは・・俺じゃない、母さんだ。
まだ・・三十・・半ばだったというのに。
人生だって・・これからだったはずなのに・・・・・・・・・。

父上は・・一度も、涙を見せず・・・・、母上を、愛していなかったんじゃないかと思った。

けど・・アスランだって・・・・・泣けなくて。

哀しいけど・・逆に、ただ、ただ・・喉が詰まっていた。


----泣きたかった。本当は・・・。


けれど・・それが、格好悪い気がして、亡くなった・・母さんに・・心配を掛けるんじゃないかと・・心配で・・・・。

泣けない。

そう・・思い詰めて、一人で・・このまま泣くことも出来ず、息を殺してしまいそうになっていた時だった。




「あぁぁぁぁぁぁぁん・・う゛ぁぁぁああん」




ものすごい・・泣き声、家の外から聞こえて、アスランは・・・ビックリして・・庭にある草履を履いていた。
凄いと思ったのだ。自分が・・・恥じて出来ないことを・・糸も容易く・・しているのが。
道に出ると・・一人の、・・子供が・・大声で泣いている。
駆け寄って・・・アスランより小さい・・その女の子に話しかけた。

「・・・大丈夫・・?」

「ぅ・・ひ・・っ・・んぅ・・」

嗚咽を吐いて・・・・泣く・・少女に・・・・アスランは、訳も分からず・・同調していた。
「おまえ・・だって・・っ--ないてるじゃんかぁ・・っ・・ぅ・・う"・・ん・・、ひぃっぐ・・」

え?

そう・・言われて、頬に触れると・・確かに、涙が・・流れていて・・・。思わず・・・・・アスランも、


---------大声で、泣いた。



その子は・・驚いて・・自分が泣いていたのを忘れたように・・アスランの背中をさする。

焦ったのだろう、いきなり出てきた・・自分より大きい男の子が泣き始めたことに。

けど・・たった今、大声で・・泣いた子の、目の前ならば・・・・アスランが泣くのも、許されるような気がして・・・・・。


泣いていた。



結局・・・・・---最後まで、泣き通したのはアスランで・・・・・・その女の子は、アスランの手を引いて、家を教えると一緒に入ってくれる。

その時・・アスランは、自分はこんなにも泣くことが出来たんだと・・思った。
その女の子も・・自分が泣きたいのに、こんな年上の・・男の子に泣かれるなんて・・良い迷惑だろうとか・・思ったけど・・・。
黙って、アスランの手を握ってくれていた。

一時間も経った頃・・アスランの嗚咽が止まり・・・その子を見る。

「・・・お母さん・・・・死んだのか。」

遺影を見て・・ぽつんと呟かれた言葉に、頷いて・・・・・アスランは泣きそうになった声を止めた。

歯を食いしばって・・泣かないようにして・・・・・、だが・・その様子を見て、隣の子はいう。

「・・もう、どれだけ泣いても・・一緒だぞ、----------我慢するなよ。」

私だって、泣きたいときは泣くんだ、さっきみたいに。
そう・・言われて、アスランはポロポロと涙をこぼす。

逝ってほしくなかった。
まだまだ・・・・・・甘えたかった。

空いている手で畳を掴むように爪を立てる。・・・・・もう、戻ってこない、それが・・とても残酷だと、思う。


「・・・・・・私もな、---お父さんと、お母さん・・・・死んだんだ。」


ボソッと・・・・・・・吐いた、言葉。


「おそろいだ。」


だから・・大丈夫だ・・・・・・と。




----------引き上げてくれた、少女だった。




暗いところから。

自分ばかりが・・・・哀しい訳じゃないと。教えてくれた。

そして・・それから、一ヶ月だけ・・・・・一緒に・・生活をして・・・君は




-----------------居なくなってしまった。



約束を残して。




"愛してる"




-------------それだけに・・縋って、生きていた・・・・。











なのに。




君は・・・・・・・













---------破って、いたのか。































































+++++
あとがき
追憶ダイジェストを入れてみる!まともなのは今度入れますっ!(多分。)
2006/06/19