「・・・南に・・変更?」
「ああ、キラと・・俺の希望でな。今日から俺達の管轄は・・南だ。」
南・・・か、野禽のある所じゃないか・・・。
なんで・・と、いおうと思ったのだが・・今はアスランの隊の隊員がみんな・・集まっている。そうそう声は上げられない。
そうしていると・・ムウの隣のキラが畏まったように声を上げた。
「今日から、この隊の・・副隊長になりました、キラ・ヤマトです・・って、みんなそんなこと言わなくたって分かるよね。」
「副隊長っ?」
思わず・・・声を上げて、アスランはキラを見た。一言だって・・聞いていない。
「うん、アスランに言ってなかったね。でも・・ほら、君この頃寝てるか稽古してるかだったから・・話す機会なくて・・。」
あぁ・・くそ、いや・・副隊長なら・・なろうと思えば二人だってなれる。
だが・・カガリのためにも・・・・やっぱり、キラが少し羨ましく感じてしまう。
集会が終わり、キラと共に部屋に戻っていた。
「おめでとう、キラ。」
「・・・・ありがとう、アスラン。」
確かに・・キラはここに十の時から勤めていた。最初の内は・・雑用ばかりだったらしいが・・。
でも稽古に出る内に・・才能を開花させていくのは・・やはりキラが天才であることを思わせる。
アスラン達が・・入ったのは十五の時、当然・・出世の時期だって・・キラの方が早いのだろう。
----分かっては・・いる、が。
「俺も・・頑張って早く・・上に上がらないと。」
「なんで?」
「・・・・・迎えたい・・人がいるんだ、だから・・。」
そう・・初めて自分の恋人のことを・・キラに言うと、キラは少し・・考えてから
「僕ね・・恋人と・・妹が、野禽に居るんだ。だから・・どうしても、お金貯めて・・・二人を出してあげたくて。」
「・・っ・・・野禽?遊廓に・・・?」
「うん、・・二人とも・・いい子で、真っ直ぐで・・・・・だから・・。」
そうか・・と、アスランは思う。キラは・・色々と大変なのだろう。
互いに・・黙って白い息を吐きながら、その・・思う相手を水蒸気の中に見ていた。
「大丈夫・・じゃ、なさそうですね・・二人とも・・。」
そう・・メイリンに深く同情の目線を向けられたのは・・言うまでもなく、カガリとラクスだった。
「ふたり・・辛い?すてら・・励ます、ふたり・・元気、でる?」
心配そうに・・のぞき込んでくるステラにカガリは微笑みかけるが・・その笑顔さえ、何処か曇っていた。
ラクスは・・笑みとは裏腹に、少し影を落としている。
「そんな・・辛い、相手・・なんですよね?」
ためらうように・・聞いてきたメイリンに・・ラクスは淡々と声を漏らした。
「お仕事と割り切ってもやはりやるせませんのよ、あの手の人は・・。それに・・何よりモラルが・・価値観が合いませんの。もう・・なんであの方は他人の迷惑を考えないのかとか、自分が言われたときだけ酷く憤慨するんだろうとか・・・ともかく、人道から外れているようでなりませんし・・それに言ってくることは全て自慢話。いえ・・決して悪い人だというわけではありませんのよ?根が良くても環境でねじ曲がる人はごまんとおりますし・・きっとあの方もそれと同じ類なのだと理解はして出来ますの、理解、は。けれどやはりどこか・・」
長々と続くラクスの言葉に、メイリンはあわあわとして・・カガリも、そんなに辛いのかと思う。
カガリ自身・・・・・簪を始め、今では・・反物まで選ばれる始末で・・それを着てこいとも言われる。
でも・・もう、仕事なんだと割り切ってしまえば・・そこまで嫌でもない。触られたときは・・もう手を叩いたりしているし・・・・・。
「まぁ・・あと、そう日にちもないから・・・」
最後の一ヶ月は・・・宴の席でお酌をする程度だし・・今より大分マシになると・・自分とラクスに言い聞かせる。
「そうですわよね・・あと、一週間ほど・・ですものね、頑張りましょうっ・・・カガリ!」
「ああっ!!」
座敷の上でガッと指を絡めてお互い泣きそうになりながら今後一週間の冥福を祈り合っていた。
アスランは・・この野禽周辺の・・夕方の部に配属された。キラは朝・・ムウは夜。
そうなれば当然力のあるアスランは・・二人と別の時間になる。
だが・・夕方のその遊廓の門の辺りは・・・・・どうも、男と女の組み合わせが多くて・・それに人の多さと勇ましいほどの香の匂いがして気持ちが悪い。
隊員・・十人ほどを引き連れて・・・途中数人ずつに別れて、南の方面を見て回る。
アスランは・・面倒なので人を付けず一人で・・ブラリと歩いていた。
人が多くて・・誰が何をやっているなんて、本当によく分からないと・・・思う・・だが、
一瞬、目に映った金色の髪・・それだけが鮮明に見えた気がした。
隣を・・横切っていった、その影。
思わず・・・振り向いて、後ろ姿を見る。
髪を・・幾つもの簪で束ね・・・いかにも高級そうな着物を着る女の子・・女性?と・・隣りに立っている・・紫色の髪の男。
恋人同士・・・・・・だ、ろうか?
束ねていて・・長さはよく分からないが・・・その色と、印象が・・・酷く、似ていた。
「・・・・?」
そんなこと・・在るわけないか。
すぐ、そう思えて・・アスランはその付近を見回して・・・・治安が破られていないことを確認する。
足早に・・その場所を離れたような気がした。
野禽にある・・・・カガリ達の店、永遠に戻り・・・・カガリはもう海の底より深い溜息をつく。
直ぐに・・ついてた簪を全て外して・・・自分の布団に横たわろうとすると、ステラが寄ってきた。
「このごろ・・すてら、かがりといっしょじゃない・・・いや・・かがり・・遊んで・・。」
泣きそうな・・顔のステラに、カガリは抱きしめて・・・・お話ししてやるからと、布団に入れる。
ステラは黙って・・カガリの胸に顔を埋めて・・心配そうにこちらを覗いていた。
「昔々・・あるところに、ステラという可愛い女の子が居ました。」
そう・・・話を始めると、ステラは最後を・・希望するように声を上げる。
「さいごねっ、カガリと・・きらと、一緒に暮らすのっ・・幸せなの・・ラクスも・・メイリンも・・みんな---それにして?」
「わかった。」
そうして・・続く、物語には・・ユウナも、アスランですら・・・・・いない。
ユウナはともかく・・・・アスランは・・いてほしい。・・そんなことを思いながら適当に作った物語を読み上げて・・カガリは寝てしまった。
「・・・本当は・・私が、ステラと外に行ければいいですけどね・・一番。」
ラクスが戻ってきて・・眠りにつく、二人を見て・・メイリンは小さく本音を漏らす。
それを聞いて・・ラクスは、どうしてですの?と優しく聞き返した。
「カガリさんも・・ラクスさんも、忙しいのに・・私外に出ないから・・買い出しも二人で・・・。」
メイリンが・・外に、出ない理由を・・・ラクスもカガリも・・・知らない。でも・・無理に、聞く気も・・ない。
「・・でも・・もう、そんな我が儘言ってられませんよね。」
そう言って微笑んだ、メイリンは・・何処か吹っ切れたようにも・・見えた。
「ちょっとシンっ!!私の食べ物・・っ」
「あ、わるい。つい箸が・・・・・。」
そう・・言い争いを始める二人を見て・・レイは溜息をつき、ルナにレイ自身の魚をあげる。
「・・俺のをやる、だから騒ぐな、いいな。」
「さっすがレイっ大人〜〜!」
「シン、ありがとうでしょ?レイに。」
ニコルが行儀良く突っ込んで・・その場は大人しくなる、それをみて・・ムウとバルトフェルト隊長は宴会場の様だと笑っていた。
「おっ・・そーいや、キラ、アスラン。お前等・・さすがにもう、遊廓デビュ−しないか?」
その・・ムウの言葉に、キラとアスランは・・・ぶぅっと飲んでいたお茶とみそ汁を吐き出していた。
「な・・何で急にそんな話が・・・」
お茶を拭きながらアスランはそう・・ムウに訪ねると、ムウはご飯を食べながら答える。
「いや〜俺のよく行く店でさ・・。女の子二人が振袖新造になるらしくって・・めっちゃいい子だから、初めくらいまともなのと顔を合わせさせてやりたいんだと。」
それを聞いて・・キラはピクッと耳を動かした。
「なんて・・店、ですか?」
「"永遠"・・だぞ?知ってるのか?」
「いや・・別に。」
カガリと・・ラクス、の・・・店だ。
「僕行きますよ?アスランも行こうよ、折角だし・・。」
「キラ・・俺は・・・・。」
正直・・お前のように親族や・・恋人が居るわけでもない・・・それに、そんなところに行くのは・・カガリに申し訳ない。
考えさせてくれ-------------そう、答えて、アスランは夕食の席を外した。
・・考えるも何も・・行く気なんて無い。イザークにでも行かせてやればいいと・・何となく思っていた。
「あと・・二回、頑張ってね。」
「それが終わったら・・次こそ宴よ。・・・それに申し訳ないけれど・・一対一も経験して貰わないと。」
本当ならば・・こうやって外に遊びに行くのと・・宴を同時にやり・・それが終わってから、夜の部屋で一対一をやるはずだったのに・・。
ユウナと・・アズラエルのせいだ、とカガリは心で悪態を付く。
あんな手の掛かる・・嫌な客でなければ、宴の経験だって例年通りに出来たのに・・・。
・・・・・一対一・・かぁ・・。
深く深く溜息が出るのはもうどうしようもない、嫌なことは嫌。・・・・・・アスランじゃないと、やっぱり。
「カガリッ、オハヨっ・・・あ、僕の選んだ着物、よく似合ってるねぇ・・」
「ああ・・。」
着てこないと怒る癖によく言うと思っていると・・・野禽を出て直ぐに、ユウナは簪を見せる。
「今日の気分はコレっ、さっ髪貸して。」
これは・・もう、逢うたびの日課で・・・・。だったら店でやればいいものの、どうやら見せびらかしたいらしい・・。
いつもこうしているせいか・・周りの店から、恋人同士だと勘違いされてるし・・・・っ!!
ムカツキながらも、その髪のセットが終わり・・ユウナは、いつものようにカガリの背に手を回す。
長かった・・・一ヶ月、よく頑張ったっ・・!!あと・・今日を入れても二回、二回でコイツとはサヨナラだっ!!
そう・・もう、顔の周りに花が乱舞しそうになりながら、噛み締めるようにしみじみと思っていた。
「・・淋しいな・・こうやって、僕とカガリが一緒に過ごせるのが・・あと、たった一日だなんて。」
「・・・・ははっ、ありがとう、褒めの言葉だよなっ、有り難く頂戴しておく。」
こっちは万々歳だと、思うのだが、さすがに・・それを言っては可哀想だと思ってよしておく。
一応・・客だし、スッキリと終わらせてやるのも・・こちらの勤めだろう。
そうして・・いつものように、ユウナとカガリは南町の店をぐるっと回っていた。
ちょうど・・・三時になった頃、アスラン達は街の南に入る。
相変わらず・・騒がしいところだと、思っていると・・・・何処からともなく、あの・・琴の音が聞こえてきた。
・・・季節はずれだと思う。
---------・・"さくら"・・・だ、、なんて。
そう思いながら・・アスランは隊員を見回りに行かせ・・・見回りと称して、アスランはその震源地へと行った。
「・・うわ。」
人が多すぎて・・中を見ることは適わないが、どうやら・・楽器のお店で、試し弾きをしているようで・・でもその音色は・・とても綺麗だった。
観客が出来て・・見えないほどに。
最後の・・飾り符まで弾き終わると、見ていた者達から拍手が上がり・・・アスランも思わず手を叩いていた。
引き込まれる・・音、いつもなら・・ついつい、眠たくなってしまう・・カガリの・・音。
それに・・・・・・・似ていた、いや・・同じ・・だった。
まさか・・。
そう思って、アスランは人をかき分けて・・中に入ろうとする。
こっちに・・戻ってきていたのか、・・・なんだ、なら声を掛けてくれればいいのに・・。
しかし・・アスランが人を・・かき分ける前に、・・・・・男の声が、その街の南の一角に響いた。
「ちょっと・・じろじろ見るなッ!!!!!---この子は僕のなんだからなっ!!!!」
まるで・・子供の、玩具のような言い様。アスランは少し焦って、前に進む。
「ほら・・カガリ、行こうっ!!!!・・・君が琴が巧いのは・・嬉しいけど、僕の大切なハニーが人目にさらされるなんて・・ゴメンだっ!」
「えっ・・ちょ、---ユウナっ!!?」
「あ、店長・・後日、その琴買いに行くから、絶対僕以外の人に売らないで、いいねッ」
やっと・・列の、一番前に出たとき・・・・ソコにいたと思われる人は・・居なかった。
そして・・ぞろぞろと、解散する人並みの中に・・・・様々な声を聞く。
「あの二人・・ラブラブだよな」
「女の子・・可愛いのに、勿体ないよなぁ・・。」
「・・いっつも一緒に歩いてるわよね。」
「ベタベタと・・彼氏、触ってねぇ・・いっつも彼女怒らせちゃうの。」
----------・・は?
いつもって・・いつだよ。
ラブラブって・・それに、ハニーって・・相手も・・・・それに「カガリ」・・・・・?
嘘だと思った、琴の音は・・確かに、カガリのものだったが・・・・・まさか。
有り得ない。
顔を見たわけではない。
それに・・カガリがこの町にいて・・俺に会いに来ないで・・。
---あんな、馬鹿みたいな声を上げる男と、付き合っているはずがない。