「ちっ・・」
「・・・舌打ちしないで下さい・・感じ悪い。」
そうソファーに向かい合って・・今日の午後からヘリオポリスに行くのに平然とチェスを打っているシホとイザークを眺めてカガリは頬が緩んだ。
そうなのだ、男女は仲良くなれる。
その当然の事が目の前で立証されたような気がして・・嬉しくなっていた。
ギィッと音がして、キラが入ってきて二人でその白熱したバトルを見ながら・・笑い話をしていた。
そうしていると、イザークの声に気が付いたのかディアッカまでが部屋に入ってきてがやがやと騒ぎ出す。
「おおー、シホちゃん強いねー。イザーク・・まけてやんの。」
「黙れ!!総合なら俺のほうが上だっ!!!!」
「・・・・七十三勝七十敗ですね、---あと二回、勝たせていただきますけど。」
「いったなぁ---!!!」
そう楽しそうにするのを見ていると、アスランまでもがこの部屋に来る。
「・・・・なんだか・・凄い事になっているな。」
「お!!アスランっ!今なこいつ等エンドレスで試合中なんだよ」
そうユラが笑って声を駆けてくれるのが、アスランには嬉しく思えて微笑んでしまう。
ディアッカはその笑顔を珍しげに眺めて、またチェス盤に眼を移す。
「・・二人とも・・・・中々だな。」
その試合中継をアスランは見守るように言ってユラの隣に腰を下ろした。
一昨日から・・昨日にかけて行われたカガリとの喧嘩・・というか意見の違い。
それは痛いほどアスランの中に入り込んできた出来事だった。
あんなもの・・見たくなかった。
そう思うのは山々で、でも----皇子たるものが国の現状を此処まで知らなかったことに唖然としてしまう。
実際・・アスランはまだ王になる為に何か父から習った訳でもなく・・ただ、ザフトに入っていた。
それは・・皇子と言うレッテルを少しでも剥がしたいが為の行動でもある。
ザフトでは・・身分や生い立ちに関係なく、戦えるものなら誰でもはいれるのだ。(女性が当然のように除かれているが・・)
だから・・ここでなら、アスランも普通の兵として・・受け入れてもらえると思った。しかし---。
軍に入って直ぐ、何の試験も無しに・・獲得したのは「小隊隊長」だった。
有り得ない、----・・まだ、7つの子供が・・小隊と言えど、隊長を勤めるなんて。
確かに一般の子供よりはるかに戦闘能力も高く、知恵があったのは認めよう。
自慢でもないが・・アスランは出来る子だった。
だが----どう考えたって、20を超える歳の男の中で、小隊隊長になるなど・・有り得ない。
すぐに気が付いた、父上か・・誰かが、気を使ったのだろうと。
少しでも後方にいれる"隊長"に選んだのだろうと。
そして・・アスランの隊にくる大人は・・決まってAランクだった。
もう・・隊長なっても可笑しくない人ばかりに、護るように囲まれている。
それが嫌で、----嫌で。
堪らなかった。
誰の一度も、アスランを"人"として見てくれる人は・・いなかった・・が。
キラ・・それにユラ。
この二人だけ・・・。
キラは・・どちらかと言うと意見を話すと「そうだね、でもさ」と意見を受け入れながらも別論を言ってくれる。
だが・・ユラは違う。
違うといったら違うんだと・間違えているといったら間違ってるんだと・・・・はっきり言ってくれる。
それが・・嬉しかった。
叱咤してくれる存在など・・いなかったから。
そして・・自分のいいところを認めるように笑ってくれるのも・・なんだかくすぐったい。
そう思って眺めているとユラは頭の上に「?」を浮かべてからにこりと笑ってくれる。
おかしいな・・年下のはずなのに。
自分なんかより・・全然、頼りになる存在のような気がする。
--------ユラのような人が、王なら・・きっと国は良くなるだろうに。
そうボンヤリと思ってその騒がしくも明るい、楽しい時を過ごしていた。
昼時になり、皆で席を外し最終調整に入る。
会議室で地図を片手にユラはパッパと指示を始めた。
「いいか?ヘリオポリスには二本の道がある、西プラント方面、東・・オーブ方面」
分かりきった事をもう一度説明され、あくびをするディアッカにユラはキッと睨む。
「キラ・・あと兵四人は西から、ディアッカ・イザーク・・レイあと兵四人は東からだ。
俺は西からアスランは東から・・ヘリオポリスに潜入し、不穏な動きがないか見る。」
そう言うと、すぐにアスランは声をあげた。
「いや・・ユラを一人行動させるのは良くない、君は一応司令官なんだ・・」
「一人のほうが動きやすいんだ、何かと。」
それは・・あの喫茶店の下に、まだシンやマリューさんがいた時逃がせるからなのだが・・・。
「いや・・駄目だ、俺は父上に言われているし・・君と行動を共にする。」
「いや・・しかし・・---アスランはいざと言うとき司令を出せる人間だ、そう言うが双方にいないと困る。」
「・・ならば、俺が行く。」
そう・・イザークが言い出して、アスランは何だか自分のポジションが取られたような気がしてならないと顔を顰めると馬鹿かと言われた。
「誰がユラの隣を買って出るといった、俺はお前の役を買って出るといったのだ。同じ隊長格・・依存はないな。」
そうイザークが確認を取るようにユラにいいユラはうなずいた。
「分かった、じゃあアスラン。お前は俺とだ。イザークは・・ディアッカとレイの援護を忘れるなよ・・レイがどの程度の強さか分からないしな。」
ユラにそういわれてディアッカは余裕の笑みを浮かべる。
彼らAランクはエリートとされる集団だ。だから・・当然、そうなのだろうとユラも思った。
そうしているとガチャンと戸が開きレイが入ってくる。
「・・・言っておきますが・・、俺はA-B-Bです。」
そう少し不機嫌そうに眉を潜めて。
「じゃあ・・私たち、先に出てるわね。」
「はい。」
昼ごろ、マリューさんたちは支度を済ませて荷物を背負って手を振る。
それを・・シンと二人で見送っていた。
「大丈夫ですよ、シンはこれでも僕達の中で多分本気になれば一番強いんですから!どんなモンスターでも大丈夫です!」
そうニコルが安心してくださいと微笑んでミリィもにこりと笑みを浮かべた。
「これでもと多分が余計だって!!」
そう子供っぽく顔を顰めたシンにミリィは笑いを零し、見つめていた。
全然私より子供なのに・・、凄いのね。
そうまるで姉が弟を見守るような目にシンはくすぐったくなってしまう。
「ちゃーんと嬢ちゃん届けるんだぞ?ルナたちのところに」
「わかってるって、へましたりしない。」
そう微笑んだシンにムウさんも笑って「アルテミスでまってるぞ」と手を振った。
五時・・ちょうど夕暮れになる頃、ヘリオポリスに到着して・・イザークとユラとアスランは先行して街に入る。
完全に封鎖して・・中を探る。そうしなければならないからだ。
「・・・・----・・っ?!」
「・・どうしたの?シン」
ざわざわとした感じ・・それも---これは----・・。
「アビリティをつけた・・人間が来る。」
人と獣の微妙な違いをシンは何故か弁えられる。---第六感とでも言うのだろうか?だが・・外れた事はない。
「・・・隠れるぞっ」
「え?」
一本道の草薮の中に身を沈めてミリアリアの頭を押さえた。
そして・・ゆっくりと近づいてくるそのざわついた感覚を鎮めていた。
シンは・・元から戦うのが好きなわけではない、だが・・
アビリティ・ストーンをつけてから来るようになった、強者が来る時の感覚が好きだった。
腹の下がキュンとして、意識が高まり心臓の鼓動が早くなる。
しかし---今は出ちゃ駄目だ。・・・ミリィもいる。この子は・・王都まで無事に連れて行かないと。
そう思って・・ミリィの頭を押し付けて下にしたまま、目の前を通り去った銀髪の青年を見送る。
良かったと思ったが・・まだいるようで、シンとミリィはそのまま・・草薮を通る事にした。
こんな時・・ニコルがいてくれればこの草達をどけてくれるのに・・。
そう少し悪態を付いて。
「ユラ、人はもう皆家に入らせたぞ。」
「ああ・・。分かった。」
そうしているとすぐにイザークも到着し、家の中を見て周るのを二人に任せる。
「ユラ・・お前は?」
「俺は・・まだ人がいないか辺りを見てくる。」
家になど入って、もし知り合いがいて騒ぎになったりしたらそれこそ一大事だ。
そう思い、二人とは別行動をとることにする。
だがそれでもアスランは心配そうに、ユラを眺めていた。
「・・・あのなぁ・・これでも一応Bだぞ?---それにこの街内ならもしものことがあったって・・すぐ駆けつけられるだろうが。」
そう怒り口調で言うと、アスランは分かっていると顔をしかめていってしまう。
「---まったく、過保護な兄のようだな・・アイツは」
そうイザークも笑ってアスランとは別の方向に足を伸ばした。
「暇だな〜、レイ」
「そうですね。」
何か他に言うことないのかよと思いながらディアッカは鼻歌を歌っていた。
こういう仕事は・・決まって何も起こらないのがいつもの事だと知っていたから。
「そういやお前・・反乱軍と顔あわせたんだろう?---強かったのか?」
そう尋ねると、初めてその綺麗な整った顔が嫌悪感で歪んだ。
「はい・・、とても。----しかし・・あの時此方も高を括っていた。・・・・次は勝つ。」
どうやら・・とても屈辱的だったらしいとディアッカは思ったが合えて口には出さないでおき、その鼻歌を続行させる。
すると・・ざわついた感じがして、モンスターかと首を傾げ一応だが剣を出した。
レイも・・パッと白い剣を出す。
ガサガサッ・・
そう音がして、そちらの方向を見るが殺気もなければ襲ってくる気配もない。
だが・・レイはその発信源に近づいて行く。
---ばれたか。
そう思いシンは見えないようにパッと剣を出した。
「・・っ・・くる・・の?」
潜めて出されたミリィの声に、シンはコクンと頷き囁くように小さな声で命令をする。
「----・・いいか?俺はどうにかなるから・・相手の注意が俺に来たら・・静かに逃げるんだ・・分かったか?」
そう言うと、ミリィも分かったと頷きシンは飛び出した。
ガッと出てきた相手に、ディアッカは驚きながらもしっかりと剣を構えた。
バスター・・愛用の大剣。
しかしその相手の・・まだ子供の事に驚いて、でもその真っ赤な目からは明らかに殺気を感じる。
「・・---・・・・やはり・・お前か。」
静かにレイは剣を構えて、その相手を見据える。ディアッカはどうやらあった事があるらしいと合点してそいつを見据えた。
「・・・また・・村を焼きに来たのかっ!!あんたらは!!!」
そう怒鳴ったシンにミリィはハッとして見る。
この間・・・私の村を焼いた人たち・・・---その人と・・対峙している。
「---言わせて貰うが・・お前らのような反乱軍がいるから・・っ---村が焼かれる!!」
シンの問いに・・怒ったのはミリィだけではなかった。
ディアッカ・・、その、漆黒の髪の少年を目の当たりにして、ミリアリアを思い出してしまう。
・・--悲しんでいた、その少女。
特別な思い入れがあった・・のか?・・よく分からない、だが、初めて・・・人として触れた女の子だった。
だが・・そんな走馬灯のような思いを組む暇もなく戦闘は始まった。
「・・・・ふざけるなぁッ!!!!!!」
そう叫んだ、少年の声が合図のように。
一瞬、ディアッカとレイの視界から・・その少年は消えた。
「・・・っ!」
しかし、ディアッカの身体は反射的にその影を追い、降りかかってきた剣を跳ね除けた。
その瞬間、赤い瞳と視線を混じり合わせ、ディアッカも眼をキッと光らせる。
レイは、そのディアッカと対峙しようとした少年を後ろから狙う。
だが二刀流の少年は器用にレイの剣とも対応して、ディアッカの大剣の先が下がったのをいい事に足をかけて飛び上り中を舞う。
その瞬間をディアッカは見逃さなかった。
その・・少年が着地するのにあわせ、地面を大きく揺らす。
グラッとその少年の身体が揺らぎ、レイは空かさず包囲するように地面から水分を集め尖った氷で囲いを作った。
ミリィは・・見えないながらもその、素早い戦闘を眼を凝らしてみている・・そして・・やっと確認できる状況になった時。
シンは--包囲されていた。
ミリィは駆け出しそうになるが・・その心をグッと押さえて・・ソコを立ち去ろうとする。
ここで出て行って・・私は何を出来るわけでもない。
逃げて・・逃げて---・・王都にいる・・ルナや・・バルトフェルトと言う人に連絡を取らなければ・・。
ガサッ
そう音がして、草薮を見られた瞬間・・やばいと判断したシンは力を使うこととする。
本当は・・ザフトの前で、これを見せるなんてタブーだ・・だが。
人のためなら・・カガリは怒らないだろう。
カッと意識を高めて、囲っていた氷を溶かした。
「-----・・やはりな。」
そう草薮を見るのを止めたレイは、鼻で笑ってもう一度シンと対峙しようとする。
「俺はこいつをやる・・・そこにいるネズミは頼みました。」
「OK」
「っ----ちっ」
ミリアリアは---・・逃がさないと。
俺一人ならまだ・・掴まっても逃げられる・・だけど。
力なのない・・ミリィを連れては・・無理だ。
そう考えて、シンはミリィの方向に向かう大剣を持った男に飛び掛った。
「-------・・見え透いているな。」
レイはそうなる事を予想していたようにそっちに走る。
ディアッカも・・そうくると予測していて、向かってくるそいつをレイと鉢合わせに捕まえた。
「・・ッ---シン・・」
小さく声を出して、ミリィは覚悟を決める。
逃げられない・・逃げたとしても・・掴まる。
がっと・・草薮から出て、持っていた・・・短剣を----突き刺そうとした。
目の前にいた・・人に。
だが、反射神経でカッとその細腕をつかまれて、シンもビックリして声をあげる。
「ミリアリア・・っ!!!」
「-------・・え?」
ミリアリア・・・?
そう・・掴んだか細い腕をみて、ディアッカはその持ち主を見る。
「・・・・・・・---っ・・」
泣きそうな顔で・・青ざめた・・----------・・。
「ミリアリア・・」
なんで・・お前が・・。
そう、頭に・・---疑問が浮かんだ。