第七章・・・お前は?



ヘリオポリスを包囲するまでの期間・・ユラとアスランは、プラントのほうに馬を走らせていた。
ミリィを拾った街・・あそこの風俗店は凄かった。
だから---あそこにいけば・・、色々見られるのではないかと思ったのだ。



朝出発して夜になり、丁度その街に入る。そして街の人の噂を頼りに一つの店へと入った。

「・・・・っ」

アスランがあからさまに息を呑んだのが聞こえる、目の前に来た女性は・・有り得ないほどの露出で・・女のカガリでもビックリだった。

「いらっしゃい?どういたしますの?」

その誘いを遮るようにユラは声をあげる。

「いや、どういう場所か知りたくて・・来たような物だから。・・・・どこか、他の部屋が覗けたりする部屋が欲しいんだが・・」
「あらぁ〜いい趣味ですのね。いいですわよ、じゃあ・・覗いてもいいと仰っているお客様のお隣に部屋を取りますわね。」

そうその女性は商売スマイルで対応しユラとアスランをその部屋に通した。

「・・・・・・・・・・・---・・。」
「・・顔蒼いぞ?アスラン」
「・・女って・・キモチワルイ・・・」
「ああいう格好しなきゃ・・儲からないんだろ?儲からなきゃ生活も出来ない。」

そんな事・・言われなくたってアスランも分かっていた。
だが・・初めて目の当たりにした場所で、あんな露出の激しいのは・・正直嫌だった。
はみ出る胸、くびれているが肉つきのいい腹・・。人から言わせて見れば色っぽいのかもしれないが・・。
初めてのアスランからしてみれば・・引く一方だった。
閉まった扉からまた先ほどの女性が顔を覗かせる。

「お隣お客さんははいりま〜す☆・・相手の子今日入ったばっかりの子だから・・・スリリングなのがみれますわよ!」

その言葉に蒼くなったのはカガリで、そんなのを見なければならないのかと激しく身体が拒絶していた。
ガラス越しにその部屋を見ていた。どうやらこっちからは普通に見えるようで、あっちからは鏡になっているらしい。
そして直ぐに物凄い悲鳴と共に一人の女の子がショーツ姿で入ってきてアスランは思わず顔を赤くしてしまう。
だが・・すぐにそのこの表情が蒼くまた嫌悪感に満ちているのを見てアスランは眉を潜める。

「・・・・・あの子・・すごく嫌がってるな。」

そうカガリが言ってアスランも頷く・・そしてすぐに---金髪でマッシュルーム頭の男が入ってきた。

「やっ・・来ないでっ!!!・・近寄らないで!!」

そのこは叫び散らして、茶色の長い髪を左右に揺れるほど激しく揺らし
その相手を拒絶するように部屋の隅に行ってしまう。カガリはそれを見ているだけで胸がはちきれそうだった。
そして相手はにやりと笑みを浮かべて壁にかけてある鞭を持ち出す。
アスランは何をするきなんだと・・顔を蒼くした。

バチンッ

そう音がして、その子の手は赤くはれ上がり、一気に血も出る。
カガリは思わず眼を逸らして、アスランは呆然としてしまった。
そしてカタカタと震えるその子の身体を無理やり起こして、手を後ろに組ませて手錠を駆けてしまう。
壁にダンと身体を押し付けて始まった行為にアスランは眼を丸く開いて顔を蒼くした。
その子は足をばたばたとさせて・・「やめてやめて」と叫んでいる。
だが・・相手はそれが、気に食わないようで・・その子をもう一度鞭で叩いた。
カガリは耐えられなくなって・・アスランの服の袖をぎゅっと握る。

「・・・・・・・・・アスラン・・」
「---------・・っな・・なんだ・・」

アスランは自分の国で・・こんなことがさも同然のように起こっていると知ってショックのようで・・気が動転しているようだった。

「---------・・助けてくる・・。」
「ユラ?!」

パンと立ち上がりユラはシュッと剣を出した、そしてそのガラスに切り込む。
パリンと音を立てて割れたガラスに、その中にいた相手も・・その女の子も驚いて音のした方向を見た。

「----------・・離れろ外道。」

そう静かに言ってその男に刃を向ける。

「--------出て行け。・・今すぐに。」

そういうとその相手は一目散に逃げ出してユラは自分のマントを外してその子を包んだ。

「・・・・・大丈夫だ・・。もう」

だがその子は気が動転していて・・真っ青で、ユラは歯がゆく唇を咬んでその子を包むように抱きしめる。

「・・・・安心しろ・・私たちは・・何もしないから・・、な?」

今までに聞いた事のないような優しい声にアスランは驚きながらも女の子を慰めるユラを見ていた。
でも---あの状況で・・これ以上この子に何かあったら・・アスランでも止めに入っただろう。

「アスラン・・悪いが下に行ってオーナーと掛け合ってくれ・・この子は私が貰う。」
「----・・分かった。」

そう言ってその部屋に・・そのことユラを残してアスランは階段を下った。

「・・・買って・・どうするの・・ッ---」
「・・安心しろ・・私は・・」

その子の・・血の出た手を見て、カガリはパッとその・・隠れた能力を使った。

「・・・・っえ?」

ぱっつんと揃えられた前髪から覗いた目は、その・・直った腕に驚いてみせる。
そして・・目が合うと、その子は声をあげた。

「・・・---・・カガ・・リ様・・・?」
「え・・?」

「・・シホです・・っ---オーブ軍の養成学校に・・いました・・シホ・ハーネンフース」

そう言われて、カガリも思い出す。
そういえば・・この子にも・・・・----。

「・・では・・お前も力が・・」

オーブでは・・プラントと違い限られた一部のものだけがアビリティ・ストーンを使うことを許されていた。
この子は・・たしか、最年少でアビリティ・ストーンを装備する事が許されたもの・・・。
それを思い出して、現状を軽く説明する。
今はザフトに潜伏中だと・・そして男として振舞っているという事も。

「わかりました・・ユラ様とおよびします。」
「・・・何とか仲間と会って・・---お前を引き取ってもらえるようにしてもらう・・それと。」

腕に埋め込まれたアビリティ・ストーンを見てシホは絶対ばれないようにいたしますと頷いてくれた。

「ユラ・・、---売って貰えるそうだ・・それとガラス代弁償してほしいと・・」
「分かった。」

そしてその場所からシホとでて、服を買い馬に乗せ・・王都に走り出した。



ユラは・・また、女を買い取った。
まあ・・あの状況だ・・仕方ない、が-----・・。
いいのだろうか・・あの子を連れて帰って。
ディアッカも・・キラも、イザークでさえこの間のミリアリアを心配するような兆しがあった。
それは・・きっと、このような事が日常的にプラントで起こっていると知っていたからだろう。

だが・・・・----・・。

これ以上なく、ぐらついているのはアスラン自身だ。
なんで父上はこのような事になる政策を取る?
いや・・もっと、護ると言うのなら・・これ以上のこともしてあげるべきだ。
生存権だけでない、社会権・・せめて・・今回のように無理やり虐げられるようなことは・・起こってはならない。
何もしないのなら・・参政権がないのは仕方がないと、それは分かる。
だが----・・そうだとしても、女を道具と言うには・・・あまりに可哀相だ。
ちゃんと考えがあって・・自分達と同じように生きている人間なんだから・・。
モノ・・と、言っても・・人間としての範疇だと思っていた。だが---その考えは甘かったらしい。

「アスラン?---どうかしたのか?」

四時間ほど走ってヘリオポリスにつき、今日はここで宿をとることとする。

「いや・・」

駄目だ、俺は・・皇子なのだから。
父上を信じて・・それを---実行するのが役目・・だ。
そう言い聞かせてキッとシホと呼ばれる少女を睨むと、その少女もキッとにらみ返してくる。

「ユラ様」

そうユラを呼んで駆け寄ってしまう。

「・・どうした?シホ?」
「いえ・・、馬をしまってきます」
「・・俺もいこう。---アスラン先宿入ってくれ」

そう言われて、アスランは何だか嫌な気分になる。
なんだあの女は・・。
そう眉間にしわを寄せてから、アスランは黙って宿舎に入っていった。


「ちょうどよかった・・此処でたしか・・仲間が---」

そう言うとシホは首を横に振った。

「いえ・・私は、カガリ様のお傍にいさせていただきます。」
「・・だが---」

「・・・・--カガリ様にもしもの事があっては---・・それこそ、オーブの終わりです。
女の私であれば・・、戦力として見られることもありません。ですから--」

"傍においてください。"

その言葉にカガリは言い返すことが出来なかった。・・・私も何か出来る事があれば・・こうやって無理にでも頼んでしまう。

「----分かった・・が、・・あいつらの前で能力を出すなよ。感づかれると厄介だから」
「はい、承知しております。」

そういって嬉しそうに微笑んだシホにカガリも微笑み返した。


「・・・・・シホを・・傍に置く・・のか・・?」
「ああ・・行く当てないみたいだし・・それにシホ自身俺の傍で働きたいそうだ。」

そう言ってアスランを見るとアスランは嫌と言うほど眉間にしわを寄せてシホを見た。シホはツンとその視線を返す。

「いいだろう?---あんな所で働くより、俺の所の方がずっと安全だし・・な、シホ。」
「はい・・。助けていただいたユラ様に尽くすのは当然の事ですから。」

凛とした声でそう言われて、アスランは女らしくない子だと感じた。
女の子と言うのは・・・もっと弱くて、守られるべき人であるはずだという考えが先行する。
ラクスとか・・ミリアリアのように・・もっと、頼りないような感じだ。
だが・・この子はどうだ、まったくそんな感じがしない。

「まだ・・女性に抵抗があるのか?アスランは---」

そう言われてアスランは何も反応しなかった、抵抗・・?いや・・違う。
ソレより何より・・。

「----------・・」

ユラが取られるような気がして嫌だ。

「・・・じゃあ・・シホ、お前の部屋は俺の隣な・・」
「はい、おやすみなさい」

そう深々と礼をして去るその人を見てアスランは溜息を付いた。
キラの時もそうだった。---ユラに・・キラを独占されたような気さえ起こってしまう。
アスランは大切なものが少ない---少ない分・・大切なものには・・どこにもいってほしくはないのだ。

「・・俺は・・・あの子好きだぞ?意思があって・・此処に置いていこうとしたら着いて行きたいって言ってくれたし・・」
「・・俺は嫌いだ。」
「なんで?」
「女性は・・、もっと自粛すべきだ。---助けてもらっただけでも・・」

そう言いかけるとユラの目はアスランの翡翠の眼を射抜いた。

「--------・・そう、思うのか・・?お前----女性にだって意見があって・・在りたい世界があるのに・・」

そんな事を言うのか?
自粛しろと?
----------・・お前は・・。
アスランは・・そう、思うのか?

「----・・あんな・・酷いのを目の当たりにしても・・まだ、女性が虐げられるべきだと?」
「・・そこまでは言って・・」

「そう言ってるじゃないか!!」

カッと立ち上がったユラの目には明らかに涙が溜まっていた。
それにビックリしてアスランも立ち上がる。

「お前は・・アレを見てどうも思わないのか?!・・そうであるべきだと・・いうのかっ!!」

まるで・・信じられないものを見る目でそう言われて、アスランは内心ショックを受けた。
---だが・・。

「確かに・・さっきのは酷いとは思う・・しかし、プラントはそういう国なんだ!君も分かっているだろう!!」

そう怒鳴ると、ユラは信じられないと頭を振る。

「・・・・それは・・---アスランが・・思ってることなのか?---皇子が・・思っていることなのか・・?」

その問いにグラリと何かが傾いた。
・・・・・皇子と言う立場でなければ---・・
おかしいと・・感じている・・。
そういう---自分もいる。
だが・・--俺は・・。

「--------・・俺は・・この国の皇子なんだ・・国の・・父上の政策に・・疑問を持つわけには・・----」

いかない。


「・・・・アスランに・・聞いている。」

そう吐き捨てるような小さな言葉に、アスランはハッとしたがもう遅かった。
ユラは自室入り鍵を駆けてしまう。

「・・ユラ・・」

ユラは・・俺の事を・・一度だって皇子扱いした事はなかったのに。
それを・・嬉しいと感じていたはずなのに。
なのに・・・・。
崩してしまった。
せっかく・・"アスラン"・・と見てくれる人だったのに。








-----信じられん。---アスランは・・っ・・。

そう思って部屋に入りガッと重たい鎧を脱いだ。
そして上に来ていたネックのある服を脱いでTシャツになりソレも脱ぐ。
腰から胸までもある長いコルセットの紐をガッと外した。

そして・・中からは腹や・・身体全体に巻きつけていた砂袋が落ちる。

そして下着姿になり鏡の前に立った。

砂袋を全身に巻きつけてコルセットをしなければ・・体格で女だとばれてしまう。
だから・・5kもある砂袋を毎日コルセットの中に忍ばせているのだ。
身体のラインが見えないように。
昔よりずっとずっと女らしい身体に溜息を付いた。

早くしなければ。

-----アスランを・・変えなければ。
でないと・・いずれ殺すことになってしまう。


現王・・パトリック・ザラはもう・・誰も変えることが出来ない。

あの王は・・最愛の后亡くしてから・・・おかしくなってしまった。
女性を・・・・・・もう二度と、見たくないような雰囲気になってしまったと父も言っていた。
そして・・アビリティ・ストーンを使い始めた。
理由は定かではない・・ただ、あちらの国でも聖母が発見されたと・・それだけしか知らない。


ベットに倒れこみ溜息を付いて首から掛かる赤石を眺めた。

「・・・・お母様・・・。」

お母様の・・アビリティ・ストーン。

--------お父様のは・・きっとパトリック・ザラが・・・・・持っているはずだ。

その石をぎゅっと握って、心に誓う。
なんとしても・・アスランを変えなければ・・・・そして現王・・パトリック・ザラを負かさなければ。


---------アスランまで・・殺さなくてすむように---・・。



なにより・・オーブを元に戻す為に・・。































































+++++
あとがき
男前カガリですねぇ・・(笑)そしてアスランが愚かです。
これから皆動きます。
ついでに、
この世界の社会権は社会に貢献できる権利です。

2006/04/30