「ラクス?!・・ラクス!!」
うっすらと・・目を開ければ、愛しい人が泣きそうな顔でこちらを見ていた。
目を少し薄めて笑うと、ガバッと抱き付かれてしまう。
「・・キラ・・ご心配おかけいたしましたわ。」
「・・良かった・・・丸二日寝てるから・・っ・・。」
隣のベットを見れば・・まだカガリは目覚めていないようだ。
「アスランは?」
「今・・兵の指揮取ってるよ。・・もう戻ってくると思う。」
「そうですか・・。」
・・カガリさんが起きたとき一番に会いたいと思うのは間違いなくアスラン。
ですから・・・傍にいて上げて欲しい。
「ミーア・・さんは?」
「ミーアは隣の部屋・・君とカガリの看病とか着替えとか手伝ってくれたんだ。」
良い子だね。と優しく笑うキラにラクスも笑い返す。
そうして・・隣のベットに近付きカガリの頬に触れた。
「暖かい・・ですわ。」
良かった・・と、涙腺に涙が溜まっていた。
泣き出したラクスをキラは優しく抱きしめる。
「・・キサカさんにはシンが伝えてくれた・・、クルーゼ参謀とデュランダル参謀は逃がしちゃったらしいけど・・オーブでもプラントでも指名手配されるから・・例え捕まらなくても、行動範囲は狭くなると思うんだ。」
そう・・外を見ながらキラは言う。丁度・・朝焼けが差し込んで、綺麗な景色だった。
ラクス様と・・カガリ様が寝ている間、キラ・・と呼ばれる、カガリ様の弟と少し話していた。
オーブの国のこと・・カガリ様のこと。何より・・愛するラクス様のこと。
ラクス様は・・私とは、かけ離れて違う人間だと感じた。何で此処の兵は気が付かなかったんだろうと・・不思議になり聞いた。
「ラクスはね・・生まれてから殆ど大聖堂以外の場所を知らなかったんだ・・だから、本当に世間が分からずに育って・・両親が死んでからはただ此処に居るだけの・・人・・だったから・・。」
自我、と言うモノを持つ必要がなかったんだと思う、とキラさんは言った。
でも・・自分の身に起こる危機や、周りの人とふれ合って・・本来のラクスが見えてきたのだと、言っていた。
「・・君も・・これからだよ、大丈夫!僕等もいるから。」
いっぱい、いっぱいいろんな所に行けるから。
そう優しく笑う姿は・・とても、素敵な人で・・・初めてあったときのカガリ様ととてもよく似ていた。
「おい、貴様いつまでそこに座っているつもりだ!」
大聖堂の整理と・・巨大アビリティ・ストーンをどうするかについて話し合う。
だがそれだけではない、デュランダル派の兵を今後どうするか。
実質的権限を握っていた二人がいなくなったせいで、街も、城も極度の混乱状態なのだ。
二人が仕切っていた研究・・国営政策も、諸々アスランがやらなければならない。
あの奇襲から丸三日、アスランには水を飲む暇もなかった。
「・・イザークか、何だ?俺はデュランダルが仕切っていた研究の概要を把握してる最中なんだが・・。」
「そんな事は知っている!だがな、貴様は二日前・・いや、三日前から一度も休憩を取っておらんだろうが!」
「・・そんな暇はない・・分かるだろ?」
アスラン自身、よく飲まず食わずで三日も過ごしたと思う。
だが・・極度の緊張とこれからの不安、国の長としてのプレッシャーで正直食べる気にも休む気にもなれないのだ。
「・・そんな状態だからだ!貴様はそんなんだが王なんだぞ!貴様が倒れて見ろ、今より大変になるだろうが!!!」
「--兵が動いているのに王が休めるか。」
「皆サイクルで睡眠は確保させている!貴様だけだ!寝てこい!!」
ビシッとドアを指され・・、早く行かないと噛みつかれそうなのでアスランは渋々書類を置きドアから外へ出る。
フラリとしそうになりながら歩いていると、医務室が見えそこに入った。
「・・あ!来た!」
キラの声がして・・アスランはカガリのベットへと近付く。
まだ寝ているが・・頬に精気が戻っていた。
それに安心して一気に体が重くなる。限界だと叫んでいるようだ。
「・・もうハードワークも良いけど、お風呂くらい入ってよ。」
「・・すまない。」
考えてみればハイネと戦闘し、あの炎が巡る暑苦しい中を走り回って・・それから三日。
こんな姿ではカガリには顔見せできないな・・。
そうぼんやり思い、アスランは風呂に向かう。
「じゃ、僕はアスランの代わりに行ってくるね。」
「私も行きますわ、二人きりの時間お邪魔は出来ませんから。」
そういってキラとラクスは指を絡め医務室から出ていった。
風呂から上がり・・アスランは倒れるようにカガリの居るベットへと歩き、同じ毛布の中に入る。
カガリの顔を見ていたいのに・・眠気に襲われ、目を瞑りながらカガリを抱き寄せた。
「-------細い・・。」
この間抱いたときより・・ずっと細い。
起きたら・・すぐ・・食べさせなきゃ・・。
そう・・考えながら、アスランは眠りについた。
暖かい。
お湯の中に居るみたいだ・・。
まだどこかを彷徨うような脳でカガリは暖かさを感じる。
ついさっきまで居た場所との違いに、カガリは何故か涙がでそうになっていた。
懐かしい場所。大好きな匂いがする。
すんすんと鼻を鳴らすと、やはりこれは・・
"アスラン"の薫り。
縋り付くように掴み、カガリは頬に更に温かい物が触れるのを感じる。
キラリと、光が見えた気がした。
「あす・・ら・・?」
感じたモノをそのまま声に出してみる。
「カガリっ・・!!」
ガバリと、温かいモノが自分の体に巻き付き名前を呼ぶ。
アスランだ・・!と分かってはいるもののなかなか目が開かない。
「カガリ・・っ!」
彼女が自分を手繰り寄せた。
泥のように眠っていたアスランはその反応にピクリと目を覚ます。
そして・・しがみつくように、アスランの服に力を込める手を見たとき、アスランはカガリを抱きしめ、名前を呼んでいた。
「カガリ・・!!」
うっすらと見えた琥珀色の目。
だが・・それは直ぐに閉じられてしまう。
「・・光り・・眩しい・・・。」
久しく見ていないモノ。
ちかちかとして目が眩んでしまいそうでもある。
だが・・思い切って目を開けてしまった。
「・・・・・・・・・っ、カガリ・・!!」
真っ白の世界。
それに・・だんだんと陰がつき、色が分かる。
その瞬間、カガリの瞳から大粒の涙が溢れた。
「・・・・・・・っ・・あす・・らん・・ッ・・・?」
「カガリ・・っ。」
これ以上ない力で抱きしめられ、カガリは止まらない涙をアスランの胸に擦り寄せる。
「・・・・っ・・!カガリ。カガリ・・ッ!」
存在を確かめるように、何度も名前を呼ばれ・・カガリは"戻ってこられたんだ"と思う。
そう・・思えた刹那に、カガリは励まし続けていた自分の心を晒すようにアスランに伝える。
「恐かった・・・・、二度と・・っアスランや・・みんなに・・オーブに・・会えなくなるんじゃないか・・っ・・って・・ッ。」
一生独りぼっちになってしまうかもしれないと、思った心に・・何度も鞭を打った。
恐いと・・思っては負けてしまう。
アスランやみんなを信じることだけで・・繋がれた精神。
「・・恐かった・・っ・・、恐かったんだ・・ッ。」
信じていた。信じていても・・恐かった。
私は完璧などではない、ただの人間に過ぎないのだから。
「俺も・・カガリが居なくなることが・・恐かった・・。」
君は俺にも・・、オーブにも・・・なくてはならない存在。
「・・でも・・もう・・大丈夫だ・・。」
俺も
君も。
「アスラン・・っ!」
幼き日の子供に戻ったように、カガリはアスランの腕の中で泣き続け、アスランも涙を流していた。