第五十三章・・・水底の音



例えるのなら・・・水深一キロメートルほどだと思う。





暗かった。
分からないけど・・・・・アスランの・・感覚さえ、感じられない。
最初の内は・・良かった、アスランの声が聞こえたし・・・・キスをして貰っているのも何となく分かる。

「カガリ・・」

そう泣きそうな声を何度も聞いていて・・・・カガリ自身、そんなアスランに答えたくて・・でも瞼も唇も・・一瞬でも動いてはくれなかった。

何度か抱きしめられて・・そこから伝わる熱が、気持ちよくて・・心地よくて。
でも・・このままだと戦争になってしまうと、漠然と思っていた。
どうにかしなければとも---思うのに、身体が動かないんじゃあと・・まるでオーブを突き放すような考えが何度も頭を過ぎる。

きっと・・あの石のせいだ。


だがそうやっているのも・・少し辛い。・・・・意識が途絶えない。
寝る時間になっても・・・眠たくないし、なのに空腹感が堪ってくる。
その点・・・この・・冷たい場所では、空腹は和らいだような気がしていた。
けど。
誰の声もしない。
抱きしめてくれる・・・・・・アスランもいないのだ。

此処は・・ただ暗くて・・・・・・
恐い・・そして淋しい。

そして・・途切れることを許さない思考を働かせる。---なんで此処はこんなに冷たくて・・暗くて、淋しいのだろうか?
国は・・・オーブは、プラントは・・・無事?
まさか・・こうしている間に・・・・・・カガリ自身利用されていたら?
その考えが浮かんだ瞬間、その考えをかき消す。

駄目だ、こんな所で挫けては。--------オーブが・・駄目に・・・・また、国民が・・犠牲に・・ッ・・。

冷たくて・・暗くて、淋しい場所で、そんなことを思うのには・・結構・・勇気が必要だと実感する。
ずっと・・誰かに支えられて生きていたカガリに・・この独りぼっちは辛い。

・・・ああ・・そうか、これが・・・。

-------------アスランの・・昔の気持ち。

そして戦争で・・・・頼れる者一切を・・無くした人の・・・・気持ちなのかもしれない。

なんだかんだ・・・カガリにはキサカや・・マーナ、それにマリューも・・みんないて・・・。
一切を・・失うなんて事は無かったから・・・・・。
なんて・・・・心細いのだろう・・・・・・・此処は・・・。
泣きたいのに・・涙となって表れないような気がして、・・・そう・・考えているときだった。

「・・ッ?!」

不意に・・・何かに、何か・・身体ではなくて、意識に触れられた気がして・・・嫌悪感が募る。
そして意識が、直接流れていた。

"使わせろ"と

すぐに・・あの参謀の者だと気が付いて、カガリはそれを拒否する。
だが・・微かに心の中で、もう・・こんな淋しい場所は嫌で、心を許して・・もし解放できたらと考えていた。

その時・・・

"・・がんばろう・・お互い、国民にも・・認めてもらえるように、私も頑張るから・・お前も・・・・"

ああ・・そうだ。


"私も頑張るから・・お前も・・・・・"


私が此処で・・全てを諦めれば・・国民も・・・・・お前も

---------------裏切ることになってしまうな。

その瞬間、強く何かが流れてきて、意識が圧迫されるのが分かる、だけど・・・。
さっきと違い・・・ずっとずっと、心が強くなっていた。

・・・・・・・・アスランがいる、国民・・いや、支えてくれる人がいる。

それは・・・たとえ、今此処が暗かろうと、冷たかろうと・・・・淋しくても。

「・・・・不変だ。」

そう・・感じた瞬間、視界が開けた気がした。










ベットの上で寝ているのに・・まるで水の上に浮いているような違和感がある。
ラクスは・・何度も夜中起きあがり、キョロキョロと自分の周りを見回した。

何だろう、、この感覚は・・・・。

もう一度・・・・・目を閉じて、うっすらと開けると・・そこはまるで知らないところに見えていた。
いや・・・。


知っている・・・?

開かない瞼に多少苛立ちを感じながら、出来る限りその場を見る。
靄が掛かっていて・・よく見えないけれど・・此処は・・・・。



--------かつて・・私の住んでいた場所・・・?


そう思っていると、目の前に・・自分が現れて・・自分を見上げながら不安げに瞳を揺らす。

口を動かしているが・・何も聞こえない・・。



----そう思っていると、脳に・・良く聞き慣れた声で、言葉が響いた。



「・・ミーア?」




そこで・・・・・・・意識がその場所離れていまう。









「キラ・・早く向かいましょう?」

「ちょっと・・キサカさんの所寄っていくから・・それに、キサカさんの所なら城に内通してる道もあるし・・」


夢のせいか・・ラクスは焦っていた。カガリさんが・・・・。いる・・ちゃんと意識もある。
死んではいないと言うことが・・唯一の救いで、でも心配で、------・・とても、心配で。



------早く・・・・助け出したい。


不意に・・ラクスの視界に綺麗なアメジストが映り・・ふんわりと抱き寄せられていた。
人通りがないとはいえ・・少し恥ずかしい。

「・・カガリも・・大切だけど、ラクス・・君も、聖母だって事・・忘れないで。」

君にまで・・危険になったらと、考えると・・・・気が狂いそうだよ。

そう・・付け加えられ、ラクスは少し・・今考えていたことを恥じた。
どんなに・・・ラクス個人で頑張ろうと限界があって・・その為にキラはいてくれている。なのに・・・

「ご心配・・・・おかけいたしましたわ。」

一人で、頑張ろうとしていた。
そう・・ラクスが微笑むと、キラも緩やかに微笑み・・・・その小さな宿屋へと入っていった。



「キサカさんっ・・」

「キラか・・」


そう、挨拶を交わし・・・現在の状況と、その分析をし始める。
そのアビリティ・ストーン・・・一体、どうなっているのだろうか。


「どうやら・・閉じこめられているらしい。その石の中に・・」

「え・・・・?」

「確かではないが・・・見たものがいる。」


そう・・言われて、キラは視界が暗くなったような気がした。
ラクスはその言葉に・・自分が感じた水の中に浮く感覚はカガリのモノなのかもしれないと・・漠然と思う。












「あら・・・・・・・?」

そう・・ミーアが気が付いたのは、その・・氷のような冷たいところにいる・・一度だけ、楽しく会話をした相手だった。
石の中に・・閉じこめられた人。


「どうかしたのかね、ミーア」

「いえ・・えっと、なんでもないです!」


気のせい・・・・・だろうか、今・・







カガリ様の・・瞼が、少しだけ開いていた。











「・・さーてと・・どうする?こっちももう・・考えないとな・・。」

「そうね・・。」


オーブ城で・・のこされたモノは真剣に話を始める。
キサカから来た手紙。
結婚式での・・・・・・・参謀、ラウ・ル・クルーゼの一言。

「人が伝えるならな・・あとどんなに早くても四日五日掛かるわね。」

「ああ・・・それまでにキラとラクスがどうにかしてくれれば良いんだがな。」


・・そう真剣に話し、カガリが本当にいなくなった場合までもを想定して話を進めなければならない。

王が・・・居なくても、国は動き民は生きる。


それは・・・・・・・当然のことだった。




「問題は・・・・・・国民が戦争を企てないか・・だわ、、、カガリさんの意志を、本気で継いでいれば・・そんなこと言わないでくれるでしょうけど・・」

「・・それは、不可能です。・・・・価値観や考え方は人それぞれ、ましてや・・カガリ様の身に・・もしものことがあって・・・・--それに、プラントが戦争を仕掛けてきたとしたら・・・私達はまた、剣を取らなければならない。」


それが、国民を・・国を守ることだとシホは思う。

カガリ様が居ない・・・そして、プラントに攻められるなど・・最悪の事態だった。


綺麗な考えではないことは・・承知している。


けれど・・・・




「守るモノは・・守らなければなりません。プラントも・・オーブも。プラントも・・オーブから攻め入れば必ずまた剣を取る。それでは・・本当に何の解決にもならない・・-----・・。先の大戦は一体何だったのか・・と、犠牲になった者も報われない・・・、ですし。」





シホの・・言葉を聞き、マリューは「そうね・・」と小さく頷き、シホ頭を軽く撫でる。


「・・オーブから・・攻めるようなことはあってはならないけれど・・・プラントが攻めてくるのならば・・私達も、剣を取りましょう。」































































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あとがき
時間あきました・・。
2006/08/21