冷たい・・・まるで、生命が誕生したかのような、---海水のような冷たさ。
だが・・・-------今までの、いつよりも・・目が冴える。
"ここは・・・?"
そう・・問いかける間もなく、何かに制圧され、ゆるりと・・・思考を閉じた。
「・・・まさか・・・・だよ、-----------カガリが・・」
そう・・不安そうに皆で顔を寄せ合っていると、キサカから・・もう一通手紙が届く。
"カガリが・・・その、巨大なアビリティ・ストーンに・・・・閉じこめられたらしい。"
その---手紙を見て、赤ん坊を抱いたまま立ち上がったのはラクスだった。
キィッと・・・・下唇をかみしめて、いつもより・・ずっとずっと、低い声を漏らす。
「・・・・---行きましょう?キラ---------・・もう、ここで安らいではいられませんわ。」
カガリが・・ラクスの身代わりにさせられたから?
-----------違う。
「----------・・私は・・---聖母ですから。」
その役割を果たしに。
ラクスとキラはすぐさま生まれ手間もない子供をマーナに預け、仕度を整える。
「馬は・・」
「いえ、飛んでいきますから。」
そう兵の言葉を退けて、・・・マリューやムウが見守る中、城の屋外よりいっきに飛び上がった。
「ごめん・・ラクス、呼吸辛い?」
「いえ--------キラ、大丈夫ですわ。」
大事な妻を・・・キラはお姫様抱っこをしてそのまま上昇気流と、キラ自身の能力に乗り・・・プラントを目指す。
・・・そう・・時間はかからない。
だがキサカさんの手紙に書いてあった内容を・・・ふっと思い出す。
-------------・・力が・・・弱まる、・・石に近いほど。
「・・大丈夫ですわ・・キラ。」
だって。
「・・・石を司るのは・・・・・カガリさんですもの。」
次の日・・・・アスランは、全兵を集め・・緊急に集会を起こした。
「・・ギルバート・デュランダル---------彼を国家反逆罪、及び・・・第一級犯罪人として・・拘束する!!」
その声に・・・大衆は揺れ、だが・・・昨日の騒ぎもあってか、誰も表だって反対の意見は出さない。
だが・・・その場には、デュランダル派と思われるモノの姿はすでに無く・・・、、、ハイネも、レイだって見当たらない。
「このままではまた・・・オーブと戦争になってしまう、そうなる前に・・・、
王女の安全を確保するのが目的だ・・参謀の身の振りは後で決めよう。」
そう・・なのだ、--------どうしたって・・アスランよりデュランダルの方が、意見が強い、そして皆も聞き入れる。
それはまず第一に、アスラン自身昔から政治に関心が無く・・・父の後を継ごうという姿勢がなかった。
そして・・父が死んでからも、アスランはすぐに即位式を行わず・・・---あの参謀の言うとおりに動いていたからだと思う。
今までに・・自分の不謹慎さが、まさかこんな大事な場面で揚げ足を取るなんて。
---------そう・・心の底から、自分を恨んでいた。
「キラ・・もうじき、力が使えなくなりますわ。」
寝ず、食べずで丸一日飛び・・・・ちょうど、プラントから最も近い街に着きそうなのでその付近で足を地に付ける。
確かに・・・そう・・・キラは手をグーパー動かして、少し異変の起きる身体を実感していた。
「・・・変な・・かんじ。」
「・・・そう--------ですわね。」
だが・・ラクス自身、身体に変な感じを覚える。
----・・カガリ・・・?
共鳴とでも言うのか?分からないが・・・冷たい心地がするのだ。
「・・・?大丈夫・・・ラクス」
「ええ・・・・」
冷たい
「今日は・・・この街で泊まって・・明日、プラントの王都に行こう。」
「はい」
ラクスの・・その引きつった笑みに、キラは少し不安になり抱き寄せていた。
「・・・陛下が・・・城の者を集めて、どうやら・・・ギルの拘束に乗り切ったそうです。」
「そうか・・だが、こちらには聖母がいる。そう簡単には攻めては来ないだろう。」
大聖堂で・・一人の聖母の前で全兵の半分弱ほどが集結していた。
デュランダル派とされる・・・・、ザフトの兵達。
「それに、もう少し・・・この力を操作できるようになれば・・・」
こちらの兵のみでも、アビリティ・ストーンの力が戻るようになる。--------そうなれば。
「その石を使えるかどうかが----問題ですね。--------アスランは気がそう長くないですから。」
ハイネももう・・引ける立場ではない。あろう事に・・陛下に剣を向けてしまった。
そしてその様子を、少し離れたところで・・・ミーアは少し呆然としながら見ている。
----・・これを・・乗り切れば、平和になるの?
そう、何度も何度も・・・呪文のように言い聞かせて・・・そうでなければこんな事しないかと、見切りを付けてしまう。
そうよ、悪いのは・・アスラン達よ。私達は・・私は・・。
-------------悪くない。
ヒンヤリする石に、ギルは手を近づけて触れる。
どうあっても・・この聖母の力を、使いこなして見せなければ・・・。
まさか・・だった、聖母とこの石を・・持ってすればこの人間と自然を行き来する力を容易く動かせると思っていた。
・・・実際、遮断することは・・できた。だが・・・・それだけのコントロールでは意味を成さない。
不意に、ぞくっと・・・悪寒が走る気がした。ひたひたと・・まるで背後から、幽霊が襲ってくるような感覚。
おそらく・・これは今の、この聖母の心情なのだろうと・・・石を通じて理解をしていた。
時たま・・剔るような痛みが、心臓に走る。---------きっと・・この聖母はまだ意識を持っていて・・・自分を否定している。
だから未だにこの力が・・・使いこなせないのだ。
「だが・・時間の問題だ・・・-----------・・。」
そんな・・冷たい心で、そう何日も・・・・正常な意識が続くはずがない。
時間が経つほど・・・シンは苛立ちを隠せなくなる。
駄目だ・・なんで。
カガリが・・・・オーブが危険にさらされているのに、俺は何も出来ない。
・・・確かに・・ここは・・オーブではない、だから・・・シンの力も、権力も・・・通じたりしない。
--------それが・・分かるからこそ。
辛い。
「おいおい・・そんなしけた面、すんなよ。」
「・・・・・・・。」
ディアッカには・・そう、言われるが・・・・とても笑っていられるような気分では無かった。
それは・・当然、ディアッカもそのはずで、でも・・余裕をかますその姿が、もうシンからしてみれば苛立ちの原因に成りつつある。
「どうせ・・あいつ等・・・・力を使いこなすまで、カガリを殺したりしないんだ・・だったら・・・・」
今すぐにでも乗り込んで・・潰してやる。
「お前なぁ・・・・---・・、ちょっとはアスランの気持ちも組んでやれよ。」
「知るかッ!!あんな・・ザフトの・・しかも国王なんて!!!!」
今は目的が同じだから、一緒に行動しているだけで・・・。カガリが元に戻れば、その・・夫婦・・・だかの事だって、問いただしてやる。
シンは未だに信じられないでいた。---------カガリが・・そんな、敵国の王と・・・。
「あいつ・・やっぱ誰よりも、カガリの事・・心配してるよ。」
ボソッと・・・吐かれたセリフで、シンは目を開く。
あいつが?---------・・もしも、心配だというのなら・・今すぐにでも助けに行けばいいじゃないか。
手遅れにでも・・なったら・・・・ッ
「急いで・・カガリが死ぬのと・・・・遅くて、カガリが死ぬ・・・・・・・・どっちもアスランは耐えられそうにはないよな。」
だから慎重になる、臆病になる。けれど・・・何もしないなんて出来るはずがない。
誰よりも・・カガリを助けたいから。
---------そう・・言われてしまい、シンは何も言い返せなくなっていた。
そうかも・・しれないが、でもッ・・。
納得できるほど・・・・大人でもない。
夜になり・・兵が寝静まって、もう早朝になる頃、ミーアは一人・・・その石へと近付いていた。
「・・・カガリ・・-------貴女も・・平和を望んでいたんでしょ?・・なら・・。」
そんな・・粘らないで、力を貸してくれても良いじゃない。
----それともなに?・・・アスランが・・・・・心配だとでも言うの?
敵国の・・王女の癖に。
「・・・・・・・アスランは、---------私の・・夫よ。---貴女が心配する必要なんて・・・ないわ」
式は・・途中で終わってしまったけど、でも。
譲らないんだから、
貴女じゃない、聖母のラクス様でもない・・・・・一般人の・・ミーアが・・・
「私が・・プラントの人を-------・・女性を、元気づけていくんだから・・ッ・・!!!」
そうなるために・・・アスランの妻となり、そして・・・
威嚇するように・・・・その意志の中に閉じこめられた人を睨み・・そして石に触れた。
良く・・ギルがやっているから。
「・・・・・・・・ッ---・・っ--・・」
何・・ッ・・これ・・・。
手が・・・・ひんやりとしたのではない。心が・・・冷めた気がした。
どうしようもなく・・不安で恐い。
何か・・分からないけど、凄く・・・・・・・・嫌な感じがした。
冷や汗が出てきて・・・・けど、一瞬・・・・その悪寒も消える。
"・・ミーア?"
そう・・・聞かれた気がして・・・・驚いて、石の中に浮かぶカガリを見ると・・・どこも変わった様子はない。
うっすらと・・・閉じているハズの瞼から、光を覗かせていた・・事以外。