第五十章・・・詰め



部屋を出たクルーゼは足早にアスランの部屋へと足を急がせる。

そして・・・・ちょうど、見たかった物を見て、ほくそ笑んだ。








「ちぃ・・!!」

誤算だ・・・いや、アスランだって・・まさかAが二人来るなんて・・・・思っても見なかったのだろうが・・。
レイと・・・ハイネと呼ばれる二人を相手に、ディアッカは苦戦を強いられる。
当然だ・・・だが、-------・・負けるわけには。
運悪く、ここは城内・・・ディアッカの土の力を使えば城全体に響き・・・他の兵を呼んでしまう。
いや・・だが、いっそ使って・・アスランやイザーク達にこの状況を知って貰うのがいいのだろうか?
アスランは王だ、なら・・・・自分に対して罰することもないだろう・・・。
バスターを、防戦にのみ使いながら・・いや、防戦にしか使えなくさせられているのが本音だが、ディアッカは意を決して能力を使う。

それを見て・・・・角の人影が素早く走り出した。







即位式の最中・・・国の今後を言いながらアスランは、いつ・・どういうタイミングで話を切り出そうか考える。
駄目だ、こんな・・・おどおどしていては。

「・・・・・国際関係では・・オーブと平和宣言を結び・・そして、仲も良好になってきている・・だが・・」

今だと・・アスランが大きく息を吸い込み・・・・深刻そうに、口を開く。

「・・・城内に、-----その、オーブとの関係を・・崩そうとする者が多数存在する。・・・・それを・・、一掃する事を・・私は誓う。」

その声に・・おそらくクルーゼ派と呼ばれる人間の多くはブーイングをしていた。当然・・ココに来たのは男性が多い。ブーイングも起こる。
・・・きっと・・・一年ほど前の俺なら・・この者達のように、不快に思ったに違いないと・・・・思う。

「すぐに分かれとは言わない・・だが、いつか分かるときが来る。・・・・格差社会では・・ないような幸せを・・知ることが・・絶対に。」

その言葉に・・・ミーアはアスランの八歩後ろで・・・・国民に見えない位置から・・・クッと唇を噛んでいた。
アスランの・・・妻は、私になるのに。----アスランが今・・言っている人は・・・オーブの・・王女じゃない。
ミーアだって普通の女の子だ、愛する人と結婚できたら・・どんなに幸せか。
そしてアスランと・・結婚して、この国の多くの人に・・・・・多くの女性の希望になれたら、どんなに素敵か。
素晴らしいことだと思う。それに・・アスランだって、愛せると思う。
なのに・・・・

---------アスランは、絶対に・・・・こっちを向いてはくれない。

それが嫌で・・悔しくて、なんで・・・・折角・・・一年近く、、、私は・・ミーアは、聖母の代わりをしていたというのに。
もっともっと・・・・幸福を受けてもいいはずよ。
冷たいアスランにだって動じなかった、・・・・あの大聖堂から抜け出したことだってなかったのに。
なんで?言いつけは全て守ったでしょう?-----なのに、なんで?
・・なんで、こんなに・・・・・つらくならなきゃいけないの?







「・・・・はっきり・・言う。その者達は・・・このザフトでも多大な権限を持ち・・この国の・・さん・・」
そう・・言いかけた時だった。
グラリと・・・建物の振動で、アスラン達の足場が揺れる。
瞬時に・・ディアッカだと察しが付いて、同時にカガリの危険を知り・・・その、演説をなげうってでも・・・部屋に戻ろうとしていた。
だが・・国的には、まずいと、警護のイザークはアスランを睨み、自分がいくと目で言ってくる。

しかし・・ッ・・・カガリが・・

揺れが収まり・・イザークが急いでカガリの元に走ろうとするのを・・・・金髪の仮面の男がやんわりと止める。


「陛下・・・演説中、申し訳ありません・・・ですが、一刻を争う--------事態ですので、了承願いたい。」


アスランは・・・一刻を争う、そう言う割に・・・・のんびりとした口調の男を、睨みつけていた。







「・・・・?-------・・地震・・?」

シンがイザークの兵に見回りを頼み・・勝手に・・デュランダルという者の部屋を詮索していると、グラリと建物が揺れる。
そして・・すぐに、ディアッカのだと感づき、部屋を出て・・・アスランの部屋の前まで走る。
「・・・ッ--------くそッ・・」
分かる・・・ざわざわと胸に触る感じ・・・・Aだ、しかも・・・・二人・・?か。
そうして角を曲がると、ガツンと思いっきりぶつかり・・・・・・・・・相手は、そう、あの・・・金髪の・・・・宿敵。
その横の・・オレンジの髪の男は、布で包んだ・・・・誰か、を、抱えていた。
「・・・・カガリをおろせッ・・!!!」
A二人では・・流石に分が悪い、だが・・・・ディアッカとの戦闘のせいか二人はとても疲れているように見える。

「・・ハイネは、その王女を。----------俺は・・今日こそ、コイツと片を付ける。」

もう・・・何度目だろうか、コイツと戦うのは。
そうシンもレイも・・・・心で想い、ハイネはその場から立ち去る。
カガリを助けなければ・・・・、そう解ってはいるものの、シンだって・・・A二人は辛いと分かっていた。
きっとさっきの地震で・・他の仲間が気が付いたはず・・・だから、そいつ等に任せる他・・ないじゃないか。
大丈夫・・・・あいつ等・・何だかんだ-------カガリが大切なようだし。
それに・・この状況で・・・他の選択肢はない。
そう決めて・・・・シンは、インパルスを抜いた。







演説を中断され・・・少なからず城内はざわつきだし・・・それを聞いて笑うように、クルーゼは・・・国民に聞こえるほど大きな声を出す。

「・・カガリ女王・・そう、オーブの女王の命が狙われています、無論・・・このザフトで今現在。」

その言葉に・・アスランは・・・・息を呑んでしまう。
ディアッカが・・・力を発動させるほどの相手・・・・あいつは土系だから・・・城内では不利、だがその能力だって使うほどの相手。
と・・なれば、ディアッカは・・負ける、--------つまり、カガリは・・・。



その・・・混乱しきった瞳の相手に、イザークは思いっきり悪態を付いてやりたくなる。

馬鹿者、今はそこが論点ではない!!!

--------問題は、その事を・・・国民に知られた事・・・つまり、オーブにだって遅かれ早かれ流れる、この情報が問題なのだ。

オーブの女王の命が狙われるなど・・・公言しては、それこそ、"無事なのか"と・・・オーブ国民は言ってきてしまう。
そして、無事でないと分かれば・・・・また戦争の火種になってしまう。
あの国は王政・・・・・当然の事だ、たとえどんなにオーブ軍が頑張ろうと・・・世論は、どうしたって厳しい。

--------動かざるを得ない。

-----------"戦争"が・・・・起きてしまう。


「・・・・・式を中止させろ!!・・・今すぐにだ・・ッ」

これ以上・・アスランの失態を噛ませる訳にはいかないと・・・イザークは大声で兵に呼びかけ、兵も動揺のせいかイザークの言葉に従う。
すぐに・・走り、アスランの頬を殴りつけたい衝動に駆られながら・・・・だがとうのアスランは既にこの式場にはいない。

・・・馬鹿者め。

だが・・確かに、アスラン自身初めての演説、そして・・・どう、あの二人のことを国民に伝えようと動揺しているさ中。
----------あの一声は辛い。
そう考え・・・イザークは思いっきり、目の前に佇む参謀を睨みつけていた。







走り出して・・アスランは一直線に大聖堂へと向かう。
カガリが・・危ない、まさか・・・・・ディアッカが負けるなんて。
しかしそれほどの相手がいるのを・・・アスランは知っている。ハイネと・・レイ。・・あの二人はAだ。
そう言えば・・昨日式でも護衛で参加するはずのハイネとレイが・・今日はいない、---二対一は・・荷が重いか。









扉を・・ハイネが厳重に外から閉めて・・・護衛に立たせ、今来た女王を見下ろし・・・ギルは一言「すまない」と漏らす。
だが・・・平和のためだ。

-----この危険な能力を、まだこんな少女が管理するのは荷が重い、その上・・とても不効率かつ、難しい。

ならば・・それが出来る者が管理すべきだろう?
そうして・・・ギルは抱き上げたその者を、巨大アビリティ・ストーンへと近づける。すると・・共鳴する磁石のように・・・引かれるのが分かる。
やはり・・・この石の、洗礼相手・・・・・は・・女王自身なのだろうか。
そうなのだ、アビリティ・ストーンは・・元来より人と石が共鳴する、石の力を意志のある人間が使うことで力が発揮される。
だから、もとより自然に近いチンパンジーなどは、石無しでもその自然の力が流れ込み、
またそれなりの頭脳があるので能力を発揮できてしまうのだ。
だから、おそらくこのアビリティ・ストーンにも・・・その能力を司る、人が必要で・・・自分自身がそれになろうと思っていた。
しかしこの石は・・今までのアビリティ・ストーンと違い、人に寄生し共存はしない。
ならば・・どう、扱えばいいのか、正直分からない。

「・・・・やはり、特別なモノ同士・・・と、言う訳かな?」

だが・・今こうやって、この石は・・・この聖母に反応しているのを見ると・・やはり、これの持ち主は彼女なのかとギルは思う。
なら・・尚更、人の意識に介入することはさほど難しい事ではないと、ギルは知っている。
「・・・・・聞こえているだろう?・・聖母・カガリ・ユラ・アスハ・・・・----・・すまないが・・その力、貸していただけるかな?」
意識が・・未だ残っていると、ギルは知っている上で話しかけていた。
そう・・、あの石を・・・・洗礼しても、聖母は絶対に意識を失うはずがないのだ。
ただ・・・どういう訳か、身体は使い物にならないらしいが・・・・・。

「君には・・・本当に申し訳ないことをしたと思う、---だが・・・分かって欲しい。私は・・戦争を無くしたいのだ。」

意識があるのに・・言葉も発せられず、自分から動くことが出来ないなんて・・・・なんて拷問なのだろう。
しかし・・・それだって、----アビリティ・ストーンというその・・・異様なまでの力を、巧く使いこなすため、そう・・その為に必要なのだ。
モンスターを・・・消滅させ、また・・穀物は成るように。
程良い人のみが・・・・この石を装備する、そして・・・その人材だって、選び抜かなければならない。

--------平和を愛する者、力を悪用しない者。

それを・・やる、義務があるのだ。聖母には・・・だが、それは難しい。


----ならば、私が代わりにやるだけだ。








「よ・・アスラン、どうした血相変えて・・・・」

大聖堂の目の前・・・、見慣れた者に・・・アスランは呼吸を切らせながら質問をする。

「カガリは・・・オーブの女王は?!」

此処にいるはずだと・・・・、そう直感が言っている。

「・・あれ?-------もしかして・・・オーブと内通してるのって・・王自身だった訳?」

そう声を漏らしてから、ハイネはいやいやと頭を振り言葉を選ぶ。
オーブは・・良い国だとハイネも思う、だが・・・・その、女王を好いていたのなら、アスランには酷だ。

「悪いが・・、今・・式中だし。中もお取り込み中だし・・・---、まぁ悪いようにはならないさ。」

へらへらとそう言い切ったハイネに・・・アスランは珍しく、頭に血が上るのが分かる。
悪いようには成らない?・・・・カガリが動かないのに?
気が付いたときには・・・・ハイネの胸ぐらを掴み上げていて・・・ハイネは少し不快に眉を曲げる。


ハイネは・・・ミーアのことが好きだった。・・・助けてやりたいと思った。
なのに、国と・・・ミーアが選んだのはアスランで・・・・・しかしそれだって・・不可抗力だ。ミーアが望んでいるのなら何も言えない。
だがしかし・・・。

なんだ、今のコイツの顔。

まるで・・・。

「なんだお前・・・・王女に、恋でもしてたのか?」

そう・・・見える、少なくとも・・・ハイネには。

翡翠の目が自分を睨みつけて、ハイネは図星なのかと、目を疑う。


ならば・・・・・ミーアは?
自分を選ばす・・・・アスランに、想いを寄せた・・・ミーアはどうなる?


---------------・・あんまりだ。


そう・・思った瞬間、温厚だと思っていた心に、火がついたのを感じた。































































+++++
あとがき
それにしてもハイネさん格好いいなぁ・・・・!!アスランは何だかヘタレ感が否めないのに!!
それと・・ディアッカごめん!戦闘シーン省いたッ!!!!

ついでに、ラウが何であのタイミングでモノをいってきたのが不味かったのかというと。 徴収の面前でオーブの女王が命を狙われて危険な状態と発言する→時間次第でオーブに伝わる
→戦争の火種・・って訳でラウは狙って言ったんですね;
2006/06/07