「やぁ、よくきたね。」
そう長身長髪・・そして黒くなびく髪の持ち主・・ギルバート・デュランダルと対面を果たす。
オーブの王都・・行政府と呼ばれる王宮の建物に入り以前・・オーブの国王が座っていたはずの席にその者は座っていた。
「こっちは・・私の秘書のような役割をしてくれている、レイ・ザ・バレルだ。」
紹介された彼は綺麗な顔立ちでペコリと頭を下げた。
「さっそくだが・・ユラ君、君には色々手伝ってほしいことがあるのだよ。」
「はっ!わかりました。」
そう敬礼し、その人に着いて行くユラを何となく目で追っていると「君たちもどうかね?」と言われて一緒に行く事となる。
部屋を映して、大きなテーブルにオーブ全土の地図が乗せられている・・いわゆる会議室のような所で話し合いは始まった。
「・・・・近頃・・いや前からなのだが・・、反乱軍が出てきてね。
--表立った行動はあまり起こさないものの・・だからこそ心配な状況なのだよ。」
その言葉に、イザークは「正面を切って戦える能力のないものなど、いずれ負けます」と言い切る。
「----・・という事は、その者たちは戦える能力がある・・という事だな?」
ユラがそう言うと、ディアッカは「有り得ない」と言い、アスランもそうだと思う。
「・・アビリティ・ストーンを持ち合わせない者なら・・我々がいけば----」
その言葉を待っていたように、ギルは眼をアスランに向けた。
「・・そこなのだ、問題は。」
一瞬、キラの顔が硬直するのをユラは見逃さない。だが・・ここはあえて驚いて見せるのが大筋だろう。
「つまり・・相手もアビリティ・ストーンを持ち合わせていると・・いうことか。」
「そういうことになるな。」
バンと机を叩く音がしてイザークは声をあげた。
「有り得ん!第一、あの石を使えるようにするには・・ラクス・クラインの力が不可欠だ。」
「だが・・一度レイが対峙した相手・・・そのものは炎を使っていた。」
そう言われ今まで黙っていたレイは口を開いて説明を始める。
「・・・この間、ある一角の村で反乱軍が在留しているらしき情報を聞き・・私はその村に出向きました。」
それを聴いた瞬間、ディアッカとユラの頭にはミリィの村だと言う確信が浮かぶ。
「そこで、出逢った者は・・・確かに炎の技を使い、ザフトの一般兵では相手にならないほどの力の持ち主でした。」
ザフトの兵全てにアビリティ・ストーンは使われる、それを・・蹴散らすほどの力・・。やはり・・。
「---断言できる、彼らも持ち合わせているのだよ・・。どういう訳か分からないが・・」
「-----------・・で?ザフト軍はどうしたんだ。」
そう話の流れを遮るように出された声に、ギルは眉を潜める。
だが・・そう、そこからが問題だと感じたのは何もユラだけではない。
「・・・・で、焼いたって訳か。----その村。」
ディアッカがまるで吐き出すように言われた言葉に、キラも同情の色を見せる。
あの時のミリィが------・・思い出されてならない。
「仕方ありませんでした。---彼以外にも潜んでいるのかもしれないと考えられましたから。」
「・・・それで、どうなんだ。その後の反乱軍の目立った動きや・・スパイの可能性は。」
もう、いいと。ユラは話の流れを戻しギルも続けた。
「----君たちも分かっていると思うが・・アビリティ・ストーンを作れるのは・・この世で一人・・ラクス・クラインだ。」
「ラクスを・・疑うのですか?」
そうキラが心配そうに声を出して・・アスランも少し考えてしまう。
「彼女は・・知っての通り、大戦の折に父親を・・・陛下に殺されているからね。---動機は十分なのだよ。」
「ですが・・彼女はあの王宮から外には・・」
アスランは庇うように声を出した、そう王宮にい続けている彼女に・・そんな事は出来ない。
「------兵の中に・・裏切り者・・または偽者がいると・・---考えているのだな。」
そうユラが声を出し、ギルは頷いた。
「兵に扮して・・ラクス・クラインの元に行く。---彼女は純粋だと聞く。恐らく何の疑いもなくアビリティ・ストーンを授けるだろう」
「・・ですが、王宮の見張りはそこまで甘くは無い」
イザークは自分達が侮辱されているような気分になったのか、少し刺刺した声を出す。
「・・・私は・・王宮の中にも手引きするものがいると考えている。」
「・・・・これを本国には?」
「・・まだ報告していない、だがいずれ目だって来たら・・報告するしかなくなるだろう。」
そしてもう一つと、ギルはレイを使いある資料を持ってきた。
「これを見てくれないか?」
その本を見た瞬間、カガリはまずいと感じたが・・いや、バレはしないと高を括る事にした。
「・・これはつい最近隠し部屋から発見した・・家計図のようなものだ。」
そこには・・二本の系統に別れ、最後の者に丸が書いてある。
二本の樹形図の右端と左端。
「・・・・・これは・・」
右端には・・ラクスと言う文字。
左端には・・・
「カガリ・・か」
そうアスランが低く声を出して、ユラは面白い図だと眺めてみせる。
「おそらく・・これはアビリティ・ストーンを作れる後継者の図だと・・我々はにらんでいるのだ。」
「・・つまり、ラクスじゃない・・もう一人の可能性もあるという事だな」
ユラは少し笑ってギルを見た。
「だが・・ラクスも白とはいえない・・---双方から探りを入れるほうがいいだろう。」
アスランは・・極力、ラクスを疑いたくはなかった。
彼女の優しさは・・知っているし---・・。
キラはその態度を見て困ったように笑らう。
「さて、問題はこっちだ。カガリ----・・もしかしたら・・ラクス・クラインと接点のある女性かもしれん」
そうカガリが切り出してギルは「めぼしはついている」と口を開いた。
「・・・この城にすんでいた、姫・・それに間違えない・・と、睨んでいる。」
「・・姫?オーブに姫がいたのか・・初耳だな・・。」
イザークがそう言ってギルは「君たちは幼かったから余り良く覚えてはいないのだろう」と笑い説明をする。
「実子ではないらしいがね、---だが、名はカガリ。----この家系図にもウズミ・ナラ・アスハの名は無い。」
此処までの話を聞いて、アスランはハッとする。
「ですが・・オーブもアビリティ・ストーンを作れる・・なら、何故大戦の折・・それを使わなかったのでしょうか?」
「さぁね、---私もそれについては考えたのだが・・
アビリティ・ストーンに副作用のようなものがあるという事をオーブは知っていたのではないだろうか?」
そう話して、これ以上はなしても結局は分からないと言う結論に終わった。
そして・・次の日から、アスランたちは街に聞き込みに行くように指示される。
夜はモンスターが増える為、少人数に別れて野外で訓練する事となった。
「ユラは行かないのか?」
そう昼に声を掛けるとユラは「いい」と言い切って城を歩き出す。
ユラの性格を考えれば・・直ぐにでも外に出て、城下町の人と仲良くなりそうなのに。
「じゃあ・・アスラン、行こうか。」
鎧を着けず一般人の格好をして街に出ると、ちらほらと・・女子の姿も見えていた。
「・・・なんだか・・ね、空気悪いね。」
歩いている人の・・活気が無い。城下町だと言うのに・・。
「慣れてないのだろう、男性だけの社会と言うことに。」
そうイザークが言って、横を向くと小さな女の子が花を持って駆け寄ってきた。
「おにーちゃんたちっ・・お花いらない??」
それを見てアスランは優しくでも少し嫌悪感をもって声に出す。
「・・女の子は・・働いちゃいけないだろ?---おうちに入ってないと・・」
しゃがんでそう言うとその子は顔をしかめてしまう。
「だって・・パパ・・死んじゃったし・・---昼ママは外で働いちゃ駄目だって・・言われてるし・・---」
そういう場合、プラントでは既に売女になるか・・もしくは、国の微々たる支援を受けるかどちらかだった。
「---ママ・・夜・・働いて、病気になっちゃった・・っ---もうお布団から出てこないのっ---」
そうその子供は泣き出して、アスランは顔をゆがめそのこを見た。
だが・・アスランにはどうすることも出来ない。ただ一日も早くこういう人々の為に・・制度を作ってやることしか・・。
「戦争って・・いうのでね、死んじゃって・・・・・---でも、お姉ちゃんは大丈夫だよって」
お姉ちゃん・・、そうかまだ身内がいるのか---良かった。
そうアスランたちが感じたのも束の間で、その子は信じられない事を口にした。
「カガリお姉ちゃんがね、前・・戦争で負けちゃってからだけど・・"いつか元に戻すから"って・・言ってくださったて・・街の人が・・」
その言葉に、その街の一角がどよめき・・偶々通り縋った女がそのこの手を引いた。
「・・早く帰りましょう?じゃないと・・ママが心配するわ。」
そう・・紫と赤の中間のような短い髪の子はキッとアスランたちを睨んだ、そして・・その子の手を引いて歩いていってしまう。
「・・・・カガリ・・だってな。」
そうディアッカが声をあげて、アスランは考えた。
この・・街のものは、きっとその姫の帰りを待って------今を潜んでいるのだろう。
つまり---・・。
「・・・この街から・・探した方が良さそうだな・・、きっと此処にある---反乱軍のアジトは----」
イザークもさっき「カガリ」という言葉だけでどよめいた街を見て此処だと確信したようだった。
「・・・・凄い・・文献だな・・。」
「ええ・・私も始めてみた時・・驚きました。」
レイに頼んでオーブの書物庫にに入れてもらうと信じられない数の本がおいてあった。
----知っていたが。
「敬語じゃなくていいぞ・・堅苦しいのは苦手だ。」
「・・はい、分かりました。」
そして先ほど話しに上がったアビリティ・ストーンの副作用らしきものはあるのか、どうなのかという話に発展する。
「詳しい事は・・分かりません、ただ---アレだけの力を放つものに・・副作用が無い事の方が不思議だとギルは考えている」
「そうか・・それもそうだな。」
アビリティ・ストーンの副作用を知って・・なお、使い続けることなど・・不可能だとカガリは思っていた。
いや・・在りすぎれば困る・・なさすぎても---困る。
そういう代物なのだ。アビリティ・ストーンは。
それを----本当に知らないのだろうか?プラントは・・ギルは・・あの王は。
夕日が沈む頃、アスランとユラは共に町を出た。
訓練・・---強いものがつき、弱いものが実践する場。
キラはザフト一の腕前から、一般兵を四人も面倒を見ることになっている。
イザークとディアッカは二人ずつ。
アスランは・・父親に言われた通り、ユラに付きっ切りになることとなった。
それに・・アスラン自身、ユラやキラと一緒にいられるのが一番楽しいし楽である。
「・・・野外戦闘ランクは?」
「査定ではB-C-Cだったぞ?」
アスランのランクはA-A-A、キラはS・・・イザークはA-B-A、ディアッカはA-B-Cだった。
つまり、Sが最上、つぎにA-A-A、その次がA-A-Bといった具合だ。
「Bか・・低いな・・」
一般兵がCだとして・・Bは少し強い程度の意味だった。それに、B-C-Cなら・・ほぼCランクともいえる。
司令官クラスならば・・戦場にでなくともBの上は欲しい所だった。
「低い言うなよっ!!---一応・・頑張ってるんだぞっ」
プクッと頬を膨らませてユラは睨んでくる、やれやれと笑って頭を撫でると「ごまかすな」とすねを蹴られた。
「・・ここら辺だと・・---そうだな、カラスや狸のが出るだろうから・・・まずは腕試しで・・」
そう離している間にも、ざわざわとした感覚に襲われる。
「みてろよっ・・その程度なら俺だって」
そうユラは気張って、パッと腕輪から剣を出す。細身のピンク色のような剣。
刃に色がつくのは決まって何か能力があるのだとされていた。
「---なんの能力だ?その剣は・・」
「増強だ、・・力のな。もとより腕力がないもんだから、こっちで補うしかない。」
まだ小さいから身体が出来て無いのだのろうと思い仕方ないかと溜息を付いた。
実際アスランの剣も特別な能力がついている。
だが---剣に能力をつけるのは色々大変なのだ。まず技術が必要だ・・それに----。
誰かが使い終わった・・アビリティ・ストーンが必要だから・・それと、そのストーンと使用者の波長も合わなければならない。
そう考えているとパッと目の前に現れたカラスの・・まぁ通常のからすの2,5倍ほどの大きさのものにカガリは剣を立てた。
「見てろアスラン。」
軽やかに飛び上がり、その細身の剣で二三度裂くとカラスは直ぐに動けなくなりサラサラと消滅し出す。
-----そう、この消滅の仕方も・・アビリティ・ストーンの使用者と同じなのだ。
アビリティ・ストーンをつけたものが負けると・・肉が・・サラサラと粉になり、残るのは骨とその石だけ。
だから・・このような獣達は何らかの理由でアビリティ・ストーンを手に入れていると考えられている。
だが・・人間と決定的に違い・・獣とたちからは石は出てこない。
「・・・見事だ。小さいものには強いようだな。」
ユラの身体の小ささからすると・・小さいものには強いのだろう、だが・・
「・・くる・・」
そう口に出して二人で振り向けば・・犬が、いや大きさ的には虎ほどの犬がいた。
「・・っち」
もう自分より大きなものになると力負けしてしまう。
そうアスランが思っていると、カガリは直ぐにその獣に雷を落とした。
そして怯んだ隙に切り裂いてしまおうとするが、皮が硬いせいで中々上手く切れていない。
だが暫くすると痺れを切らした獣はカガリのほうに牙を向けた。
とっさにアスランが助けに周ろうとすると、その獣はパタンと倒れてしまう。
「---今脳に直接電気を流した。」
泡を吹いて倒れている獣の首に真っ直ぐ刃を立ててグッと押すと、その獣もようやくサラサラと風に紛れる。
「能力を使うほうが上手いんだな、ユラは」
「だから・・力が無い分こっちで補うんだって。」
そうどうだと微笑んでいるユラを見て「さっき負けそうだったくせに」と笑うと、煩いと肩を叩かれる。
「まあ力は身体が大きくなれば・・徐々についてくるだろうしな---裁きはまだ雑だが・・悪くも無い。」
「本当かっ!!」
ユラは嬉しそうに微笑んでやったと声に出して駆け出す。
そう言うところを見ていると・・まだやっぱり子供だなとアスランは思った。
時々・・ユラは凄く大人に見える瞬間がある。ミリィといたとき・・それに誰かに説教をするとき。
なにか、ちゃんとした信念の元動いているように見えて・・アスランはそれが羨ましくも思えた。
------自分は・・ただ、父のいう事だけを・・信じて守ればいいのだから。
「---どうしたんだ?アスラン・・」
「いや・・なんでもない。」
そして小さな川にたどり着き向かいの岸に大きすぎる熊を発見する。
「・・あれは----・・象ぐらいあるな----」
そうユラは遠い目で見て、アスランはシャンと剣を出した。
「・・お前のも・・色つきだな。」
「イージス・・父から譲り受けたものだ。」
「へぇ・・・---」
パッと能力を使い、その川の一角を凍らせて向こうの岸に行き、アスランはその獣と対峙する。
タッタと木の上にあがりその獣の肩を切り裂いた。
凄い力だなとカガリは羨ましいながら見ていた。
私は---女だから・・どう足掻いたってあそこまでの力を手に入れるのは無理だから・・。
そして反撃してきた爪を避けてもう片方から伸びてきた爪にを何処から発生させたか分からない水で押さえ込み心臓を一突きする。
「---凄いな・・アスラン」
パチパチと手を叩くユラに近寄り、アスランは返り血を・・もう粉になっているそれを払った。
「これでも・・Aの上だからな。」
そう少し自慢げに言うとユラは笑って「おいついてやる」と言う。
「お前は水と氷なんだな。」
「ああ---・・まあな。」
アビリティ・ストーンは・・その人の天性的な所の力とされていた。
だから・・アスランはこの力が出た時、多少なりとショックを受けたのだ。
「----------水も・・氷も冷たいものだよな。」
そう思った。---あの時まだ、キラとも会っていなかったから・・本当に毎日退屈で冷め切っていて・・
そんな自分の思い、冷めた性格が反映されたのだろうと・・思ってしまう。
それに・・・そんな冷たいもの、だれも必要としないだろう。
昔から・・必要とされていたアスランは・ただの皇子・・じき・・国王と言う名称を持つ為に生まれた。
"アスラン"そのものは・・誰にも必要とされていないように感じる。
「そうか?---水は生きるのに必要なものだし・・氷だって、熱い時は本当にあってくれたら助かる。」
「・・・----そう、かな。」
「ああ、必要だ。」
そう暗い気分になっているアスランを蹴飛ばすようにユラは笑った。
「なんだ、お前----馬鹿だろ。もうでちゃった能力にいちゃもん付けてないで、有効活用すること考えろよ。」
馬鹿だなとユラは笑い、アスランも・・なんだか、馬鹿馬鹿しくなってきた。
変られないことをくよくよ悩んでどうすると、ユラに言ってもらえると・・なんだかどうでも良くなってくる・・・・それに。
「・・そうだな。」
俺には・・ちゃんとユラとキラが必要としてくれているように思える。
二人だけだ、皇子ではなくて、"アスラン"と友達になって・・同僚になって----こうやって支えてくれているのは。
「---ああ」
そう笑うユラにありがとうと小さな声で呟いて、城に戻っていった。