第四十九章・・・眠り姫



ともかく・・カガリを元に戻すことが、おそらくこの状況下では一番だと・・話は付く。
カガリが目覚めれば・・・オーブからプラントへの進行はあり得ない。
そして・・・・あの、アビリティ・ストーンを止める術も見つかるかもしれない。
だが、カガリが目覚める方法がないからこそ・・・困っているのだ。






「まあ・・王が、こちら側について下さるのなら、話は早いですね。」

片っ端から全て調べに入ればいいと、ニコルは言うが・・それにイザークは反論の声を漏らす。
「だが・・今のザフト内は・・混乱している。前陛下の死・・・・その御陰でザフト内では派閥が三つある。」

派閥?

アスランはそう・・全然知らないと、目を点にしていた。
「貴様がぼやっとしているからだ馬鹿者。・・ともかく、ザラ派、デュランダル派・・・クルーゼ派・・・。」
ザフト内では前陛下の死後、何かと対立していたのだ。それも・・当然アスランなんかの目の届かないところで。
ザラ派には・・旧知の貴族が多く、デュランダル派には平和を掲げる者が多い。
そして・・クルーゼ派には、このままのプラントの・・男女差別・オーブ進行を促す傾向が強いのだ。

「・・そして・・・・今、もっとも力がないのは・・当然、ザラ派だ。」

そう・・言い切られて、アスランは少しこの数ヶ月を恨んでいた。ただ・・デュランダルとクルーゼの操り人形をしていたような日々に。
カガリのことを忘れ・・もう、政治のことにまるで無関心で・・・。
「-----だが、いないわけではない。・・・・その人たちをフルで使わせて貰う。・・頼んででも。」
アスランはその翡翠の瞳を光らせて、黙々と現状を理解し、イザークに使えそうな者の人数を聞く。

「・・俺の隊、それに・・前、お前が持っていた隊。・・・・それと・・・・前陛下と親しかった者の隊だけだ。」
およそ・・・多くても、30人・・。
「デュランダルの所にはハイネの隊が全面的についている。レイも・・・人数も多い。だが・・・戦力的には引けは取らない。」
イザークはここにいるメンツを見てそう言い切り、クルーゼはほぼ自分の隊だけ・・だが、
根強いプラントの男性社会主義の者に支えられている。と言う。

「・・だが、俺はこんなんでも王だ。---・・従えさせられるのなら、全面に呼びかける。
"デュランダル参謀が、オーブの王妃を傷つけ意識を不明にした罪。"
そして・・それを理由に"クルーゼ参謀がオーブに戦争を投げかける罪。"----それだけでも・・牢屋入りは免れない。」

デュランダル派は、平和主義者だと聞く。その・・彼が、オーブのしかも王妃を傷つけたとなれば・・数人はこちら側に来るだろう。
だが・・

「・・けど、それより先に・・・・・あの人が、デュランダルって人があのでっかいアビリティ・ストーンを・・・・」
「もう・・やるっきゃない。----・・・やらなきゃ、やられる。オーブも・・カガリ様も・・・」

そう、ルナはやっと自分を取り戻したように言い、ニコルもそれに同意して見せた。
「ともかく・・僕とルナは帰ります。---ミボシ様と、ホムラ様を・・こんな危険なところに置いていたら、カガリさんにひっぱたかれちゃいますし。」

そう・・その言葉、戦力にならないと・・遠回しにだがニコルに言われルナは少し顔をしかめていた。
だけど・・・そう、出来ることは少ない。けど。
「・・・・今すぐにでも出ましょう。-----キラさんにも、マリューさんにも・・・伝えないと。」
出来ることを・・する。それに・・ニコル一人ではもしも追っ手が来たときに手が回らないかもしれない。
そうだ。だから。

「----私は・・私の出来る精一杯をします。」

そう言って、ルナは寝ているミボシとホムラを抱き上げて・・アスランはその赤子に近付いていた。
アスランと・・カガリの子。最愛の人との・・大切な、子供。

「・・・・二人を頼む・・何としても。」
そんなことしか・・言えない、自分が不甲斐なく、情けない。けれど。

"・・ちゃんと、理解してくれる人、・・・いるのか?今・・・・お前の傍に。"

少なくとも・・こうやって、同じ事を目標にして・・・・頑張れる仲間は・・出来た。
だから、一人で頑張らなくて良い。
みんな・・・・そう、此処にいる者と・・・カガリを救い出す。

「・・あたりまえです。----絶対、二人は無事にオーブに届けますから、」

「そうですよ?王、信じてください。これでも僕裏街道にはすっごく詳しいです。」

そうキッと言ってきたルナマリア。そしてやんわりと微笑みながらも・・心強く頷いてくれたニコルに、
感謝の念を抱いて・・二人は部屋を後にしていった。シンは町の郊外まで送るといい、二人の後に付いていく。

「さてと・・で、明日の結婚式。-------せっかくだし・・----------。」

ディアッカの・・・ふざけながらも的確な言葉に、アスランも「それで行こう」と口に出す。
「イザークは・・早朝に協力してくれる兵達をあつめて・・全員に、このことの連絡をしてくれ。」
「・・当然だ。」
「ディアッカは・・・ここで、カガリを守っていて欲しい。明日一日。」
「おう。」
「・・シンには・・・・素早い能力を生かして、情報を探って欲しい・・その時、見張りをイザークの隊から出してくれ。怪しまれないよう」
「・・ああ。」
善は急げ・・・、明日の・・式は、

「・・・存分、使わせて貰おう。」







霧の立ちこめる中、ギルは相も変わらずその巨大アビリティ・ストーンと対峙していた。
触ろうとしても・・触れない。一体・・・。
紙の上の計算、資料からではいつかは限界が来るだろうとギル自身が思っていたことで、これだって予想の範囲内の話だとギルは笑う。
そして・・ずっと思い続けていた仮説を、確かめてみようと・・ギルはほくそ笑んでいた。
だが・・。

「レイ・・悪いが、明日--------ハイネと共に、引き続きカガリ様捜索に力を尽くしてくれ。出来るだけ・・早く見つけて・・」

"此処に。"

本当は・・そう、この力を自分が使えなかったのなら直ぐに試そうと思っていたことだった。だが・・全く。
不運にも・・親友に、邪魔されてしまったからね。
そう・・深く溜息をついて、ギルはその霧の中をコツコツと靴を鳴らしながら歩いていた。









「いってくる・・カガリ。」

そう・・小さくつぶやいて、綺麗な顔で眠るカガリの唇にそっと自分の唇を当て、閉じた瞼を見ていた。
あの・・金褐色の射抜くような目が見たい。
動いて・・・・抱きしめたい、抱きたい。
そして何度か頬と鼻先、耳元。そしてまた唇とキスをする場所を変え、暫くしてから・・部屋を後にしていた。







「おは・・よう、アスラン----えっと、あの・・」

気まずそうに・・おずおずと口を開くミーアを見て、ああ・・知っていたのかこの子は・・・と潜めそうになる眉を堪えて見ていた。
「----・・誰だ・・・・・・あんな、事をしたのは。」
わざと何も知らない風なことを口に出すと、ミーアは直ぐに

「部屋に運んだのは・・・金髪の・・仮面の人。」

"部屋に運んだのは"ってことは・・・・カガリをあの状態にしたのはやはりデュランダルと言うことだ。
そして・・ミーアはそれを、知っていた。知っていて・・・昨日、アスランが部屋にはいるのを必死で止めていたのだ。
「・・・君は・・彼女に、何かしたのか?」
もしも。
そんなことが・・あれば。

「す、するわけないじゃない!!でも・・ッ・・デュランダルって人が・・平和のために力が必要だって。。。だから・・聖母の・・」
平和のため。
その・・平和を・・・・誰よりも望んでいた、カガリがいない世界の平和?
・・・笑わせてくれる。

「ただ・・私は、カガリ様の正装を選んで・・着せただけ。その時・・」

痕が


「だったら・・・。なんだって言うんだ?」

「だ・・駄目よ、アスランッ・・・カガリ様だって・・きっと平和を望んで自ら参謀に協力したのかも・・」
「実の子共で脅してまで?」

「こど・・も?」

アスランとの・・子供?
それは・・もう、別の誰かによって・・成されていたの?

なら----私の・・役目は?

「ともかく・・・式は予定通り始まる。-------・・・君も、準備しておけよ。」
そうサラリと言い、ミーアはウェディングドレスに着替えて、アスランもタキシードに着替えていた。
そのなか、ミーアは・・もやもやとした気分を・・抱えていた。







「オーブに戻る前に、一度・・・キサカさんのところに寄りましょう。ルナマリア。」
「・・キサカって・・・あの、オーブの参謀・・だっけ?」
「ええ、プラントに潜伏してくださってるんですよ。」

キサカさんも・・きっと、カガリさんの子供の顔は見たいでしょうし・・・・そう考えて、
また・・キサカさんに頼めばこの事態が一刻も早くオーブに伝わるからだった。
小さな宿屋について、ニコルは急いでキサカの元に向かい事情を説明する。

「・・カガリが・・っ・・」

あの・・キサカさんが珍しく息の詰まる声を上げて、もう娘同然に見守っていた彼からしてみてもそうとう驚く内容なのだとニコルは思う。

それを・・もしも、国民が・・・・知ってしまったら?
「絶対・・国民にはこのことを伝えないようにと、念を押してくださいね。まあキラさんなら大丈夫だと思いますが・・・」
戦争に何てさせるわけには行かない。

そう・・言い残し、ニコルとルナは足早にプラントを後にする。








ふぅ・・・・そう、溜息をつき、クルーゼはコーヒーをすする。
なんとも・・・良い朝だ。
自分らしくもなく・・・そう考えて、さて、と・・・白いキングを取り出していた。
「・・・・使わせて頂こうか・・・陛下。」
何とも・・・楽なのだろう。創り上げるのは・・・・そう、このプラントだって隣国のオーブだって・・数百年かかった・・なのに。
壊すのは・・・
たった一度の戦争で良いのだ。

--------愚かだ、とも・・・クルーゼは思う。

狂った・・あの、パトリックも。そして・・・馬鹿のように頑張る・・・ギル、そしてオーブの女王。
どんなに・・・頑張ろうと、それは一瞬で消えてしまう儚い物に過ぎない。
さて、と。
ソファーから立ち上がり、鎧に着替え・・・・・クルーゼは自室を後にする。

----------もうじき・・動く、ころだろう。・・ギルが・・。







結婚式・・・・思い切り、国民に言ってやるつもりでいた。
デュランダルと・・・そしてクルーゼのことを。----------だが。
それを言うには・・・・どうしたって、カガリの説明をしなければならない・・・、オーブの姫が・・意識不明だと。
だが、そんなことを言っては・・・元も子もない。
もうタキシードに着替えたアスランはどうするのかを必死で頭を使い工作していた。
だが・・・・式は始まりだし・・・・まず即位式を・・アスランが言う事になっている。
そうだ・・、これを使おう。
これ以上式が進めば・・・あらん事にミーアに誓いの言葉を言わなければならなくなる、そんなの・・・・できるか。
数歩すすみ・・・その高場から国民を見下ろす。

・・・やはり・・男ばかりか。

溜息半分・・・・そして、翡翠の目を光らせて・・・アスランは大きく声を上げた。








「なーんつーか・・・・予想通り?」

ダンダンと叩かれる入口に・・・ディアッカは溜息をつく。しかも・・二人・・・・っぽいな、相手は。
ザワザワとした感じが高鳴るのが分かる。一対一で・・・・同じくらいの実力の奴らだ。
頭ではそう計り・・・だが、負けるわけにはいかない・・・・・・・そう、気持ちに言い聞かせる。
そうだ、・・・・カガリを守らなければ・・・オーブが駄目になる。つまり・・・・ミリィだって。
そして、俺が負ければ・・・ミリィは本当に葬式にも参加しないほど怒り、悲しむだろうと。
----------どっちにしたって、勝つしか選択肢はない。
そう・・考えたところでガッと扉が開き・・・・二人、目の前に立ちはだかる物を見る。
レイと・・・・もう一人、オレンジ色の髪の男。































































+++++
あとがき
ディアッカふぁい!!
2006/06/07