第四十六章・・・稀薄な希望



「・・・・・・・ご、ごめんなさい・・ッ・・カガリ様・・・・・・・・!!!」

そう・・大聖堂の扉の前で、叫ばれ・・カガリだけ、無理やり中に入れられた。
疑わなかったわけじゃない。だが・・、もし連れてこられなくてミーアの立場が危うくなったりしたら・・嫌だった。
大きな・・アビリティ・ストーンの前に、当然のように立ちはだかる者。
「・・・・・・・・・・・・・・・・切り札でも・・ある、のか。」
その・・余裕の表情に、カガリは大きく溜息を付く。
予想はしても・・対処が出来ない。そういうふうに仕込まれた事柄に、カガリはうんざりだと頭を下げた。
でも・・簡単に、引いてやらないぞ。私は・・。そう思い、キッと睨むと、ギルは淡々と話し出す。

「・・洗礼・・・・・して、もらおうか。」

「・・いつも・・お前はそうだ。私の拒否権をなくす方法を・・よく心得ているように見える。」

まだ・・何か、その切り札が・・何かまでは分からないけど・・でも。
「その通りだよ・・だが、君も・・平和の為なら本望だろう?自分がどうなろうと・・・・・・」
それはそうだ。だが・・
「お前の望む未来の容、平和の容と・・・・私が望むものは、違う。」
「・・安心したまえ。・・・・・・・私は本当に平和にしたいだけなのだ。・・ラウは・・そうではないようだが。」
「お前の・・創る、支配の平和など・・・私は望まないっ!!」

分かるような気がする。ギルが考えている事が。

この間の・・話で、何となく・・・・ギルが私にさせようとしていることも、そしてそれで得た力をどうするのかも・・・・・。
こいつは本当に、平和を・・望んでいるのだろう。それは・・分かる。
だが・・・。

"それで力の調節が出来れば・・素晴らしい事だと思わないかい?"

それは・・一体、誰がするのだ。

お前が・・

「・・・・・・言っておくが・・この力は・・例え石を通しても、お前には使いこなせないぞ。」

「だろうね、石は・・もとより人間と自然との間にあるその不思議な力を・・ただ行き来させるだけの存在なのだから。」

ただ・・この石は特別巨大で、その働きが強いと言うだけで・・そうつける。

「・・・なら、何故・・・・」
「・・カガリ様、あなたは・・この石といると・・不思議な気分にならないかい?」
「・・・・・・・・・・・・・?」

確かに・・初めてあっとき・・酷く変な感じがしていた。何だか・・共鳴するような・・・。

「君が来てから・・この石は少しずつ、洗礼なしにその力を発揮し出しているのだ。」

「・・どういう事だ?」

「共鳴・・なのだろうね、同じ働きをするも同士・・・、」

同じ・・働き?

「だが・・当然、これには意思がない。」

だから・・・。

「・・・君に、洗礼され・・また、人物なしで・・行えば、どうなるかな?」
「・・人に合った能力を出す・・それが、アビリティ・ストーンだ。人無しでは・・・・・」
「いや、これは特別だ。・・洗礼さえ、切っ掛けさえもらえれば・・・・・君と同じ働きをする。」

有り得ない。・・・・・・・そんなの。
そう・・心の奥で否定するのは・・それが、母から子に、聖母を引き継がせるのと・・方法が全く同じだったからだ。
聖母の血を色濃く引いた子供は・・その素質を開花させる為に、母から洗礼を受ける。
どういうわけか・・女の子供のほうが母の血が強く・・決まって継承者は女だ。
そして・・その、継承が終われば----母親は、その聖母の力を失う。
それを・・そんな、無生物にやれと?

「・・・・・・・やはり・・却下だ。」

そう・・決断を下すとギルは「そういうと思っていたよ」と笑い、レイを呼んだ。
寝室から・・出てきたレイの腕に・・抱えられていたのは・・。


「・・・・・・・・ミ・・ボ、シ・・。」


一瞬、顔が蒼白になるのが分かる。なんで・・ミボシが・・・・・・・・ホムラは・・・?
レイは一度此方を伺い・・そして、ミボシに剣を突きつけた。
当然・・泣き出す・・・・・・・ミボシ。

「こういう事は・・私は嫌いなんだ。だが・・そちらもラクス様を拉致している訳だし、その後も分からないのなら・・この程度の事はお互い様だろう?」

「・・・・・・・・・ッ・・貴様ッ・・・・!!」

思わず・切り刻もうかとブレスレットに力を込めたが・・フッと、力を抜いた。
「・・・--------・・っ・・。」
子供と・・国、どちらの命を選ぶと・・聞かれているような気分だった。
でも、コイツのこの・・平和主義は恐らく信じるに値するだろうとも思う。
それに・・・
希薄な望みだと・・カガリは思った。でも
私に・・何が起ころうと・・アスランは、このプラントを、もう・・間違った方向には持っていかないだろう。
それだけで・・十分、希薄な望みは確かな未来のように思えた。

「・・ミボシに・・・手を、出すな。」

そして・・その、巨大なアビリティ・ストーンを・・目の前に見つめ、レイはミボシから剣を離した。
それでも泣き止まない我が子を・・カガリはそっと、抱き上げて・・・あやしてやる。

「安心してください、聖母カガリ・・・・あなたの国は、傷つけません、それだけは・・誓います。」

初めてギルはカガリに深々と頭を下げ、その誠意信じるぞと、思う。
アスランと・・同じ髪色、瞳・・・・その、我が子を抱きしめて、泣き止ませてから・・レイに渡し、耳元で囁いた。

"・・ホムラも・・いるんだろ?・・・せめて、これが終わったら・・アスランのところに連れて行ってやってほしい。"

泣きそうな声だと、レイも感じ・・その、ホムラと同じ金褐色の瞳を覗く。
何の・・罪もない、子供まで巻き込んで・・・・、その親の・・最期の願いぐらい、かなえてやろうと頷いた。


「・・ありがとう。」


だが・・ホムラはこれから・・ラウのところに届ける事になっている・・・まあ・・いいか、もとより・・ラウの意見とはそりが合わないのだから。

カガリはそのミボシとレイを見て微笑んで・・アビリティ・ストーンに手を構えた。
全てを・・・吸われそうな感覚だと、思う。
それに・・きっと・・これは人間ではないから、・・・洗礼する私の精神も・・持たないかもしれない。

ああ・・そうか、だから・・

さっきから・・異様に、ギルとレイが・・畏まっているのか。
その・・数秒後、大聖堂には今までにない・・美しい光が溢れ出ていた。








「カガリ・・?いるか?」

そう・・声をあげたシンの隣に・・いたのはルナで、ルナは一人じゃ顔をあわせられないと言うのだから・・来てやるしかない。

「・・あれ・・・・・・・王のところにでも・・。」

そう言葉を漏らすと、角からその王が曲がってきた。
「・・-----すいません・・カガリ様、ごぞんじありませんか?」
そのセリフに・・アスランは大きく溜息を付いた。なんだ・・カガリが来たと思ったから・・こうやって足を運んだのに。

「いや・・先ほども訪ねたんだが・・いなくて、今話し声がしたから・・てっきり、いたのかと・・・」

その・・顔に、ルナは一瞬眉を潜めるが・・・頑張ってそれを止める。
ホント・・尊敬している人が・・こんなあっさり、しかも敵国だった・・皇子だった人と、くっついてるなんて。
そう思うのだが・・結局昨夜、あれから随分とシンに抱かれ、精神的に満足しているせいか・・もうそこまで怒る気にはならなかった。

「・・すまないが・・カガリに会ったら、伝言を・・頼めないか?」

式は・・明日。・・・・・・・・でも。

「・・約束を・・守りきるまでは、絶対に・・・何も・・しないから。」

まして・・好きでもない子との・・・・結婚なんて。


「・・・・・・・・・・・・・・・・良く分からないけど・・分かりました。」


もう・・アスランはその明日・・脱走する気満々で・・でも、一応準備にまで参加して・・最後の最後で抜け出すつもりだった。
国・・の、王としては間違った判断なのかもしれないが・・だが、それだってデュランダルが勝手に進めたこと。

自分の意志で・・動いて、国をよくしたい。






「・・・ッ・・・---------・・あ・・え・・?」

「・・君にまで・・迷惑を掛けてすまないね・・ミーア。だが・・やはり、こういうのは女性の君に任せるべきだと思ったのだよ。」

そこに・・用意されている物をみて、ミーアは気が動転していた。
・・明日ミーア自身が着るウエディングドレスより・・ずっと質素なのに、すごく・・綺麗なドレス。
そして・・。

「・・平和のために・・犠牲が出るのは止む得ないかもしれない・・だが、その人たちを丁重に・・・扱う義務があると私は思うのだ。」

眠っているように・・動かない、その人。







昼過ぎになり、アスランは式場になる予定の・・このプラントの町が見渡せる、城の中庭に来ていた。
どうやら・・明日はここで式を挙げて、誓いの言葉などを言うらしい。
その準備のためか兵は否応なしにせっせと働いていた。
はぁ・・そう深く溜息をついていると、ミーアがギルに連れられてこの場に姿を現す。

「・・王・・明日はよくその顔を国民に見せてやって下さい。・・・・即位式も兼ねていますのでね。」

そう言ってくる者にアスランは冷たい目線を向ける。カガリの言葉通りならば・・デュランダルに、自分は不要だと思えるからだった。
そしてその隣にいるミーアは少し縮こまっているようで・・男ばかりだから不安なのかと少し同情する。
カガリ・・そうだ、カガリもこの場に・・・・・。
そうすれば、アスラン自身カガリと共にいられるし・・この怯えているミーアも安心できるではないか。
考えているうちにギルは姿を消し・・アスランとミーアは指揮の予行練習まで二人になっていた。

「・・----えっと、その、式・・頑張りましょうね!国のために!」

そう・・式を国のためと言われ、アスランも少し考えてしまう。・・・・ミーアと・・形だけでも式を挙げた方が良いのだろうか?
いや、でも・・長い目で見て、カガリと結婚するとき・・・・自分がバツイチでは、更に強く反感を持たれてしまう。
思考を巡らせた結果、アスランはそのミーアの言葉に曖昧に微笑み返した。
だが・・ミーアの顔はどこか落ち着かずそわそわとしている。男に怯えているとかそういうのではない感じだが・・・・・。
心なしか・・顔も青ざめているし・・

「・・?・・・気分でも・・優れないのか?」
「え・・ッ・・ううん!!全然・・、全然大丈夫!!」

そう答えられアスランは、この子が大丈夫という以上深追いはやめようとあっさり手を引き・・ミーアは安堵の溜息をもらした。
「時間・・ある、みたいなら・・・ちょっと歩いてくるわ。・・・・・久しぶりに大聖堂から出られたし・・」
本音を言えば一刻も早く・・アスランの傍から離れたかった。顔に出てしまう。・・・・・言えない。言わない。
アスランは・・カガリ様をとても好いているように見えて、だから・・尚更言えない。
そう・・ふらりと歩くが・・本当に広いお城だと思った。もう・・ココに来てから・・ミーアの世界は・・大聖堂だけ。
聖母の変わりに・・守られているとはいえ、やはり・・外に、出たかったな。

そう感じて歩いていると、二十メートル先の角を・・・・通った者に、目を見張った。

知らない・・金髪の男の人。顔は、仮面を被っていて見えないけど・・・・。
その人が・・問題なのではない、その人が・・抱えて走っている者。

さっき・・ミーアが・・ドレスを着せた人。

淡いグリーンのドレス。それを・・着せたとき、目に入ったのは・・胸元に沢山付いていた、赤い痕だった。


あれは・・誰からの?


ミーアも唐突に走り出し、角を曲がるとよく見慣れた人とぶつかってしまった。

「・・?ミーア・・あ、そっか、明日式か・・・・。」
「あの・・ハイネッ・・この先の部屋って・・・・・・誰の?」
「この先?この先は、アスランだけだぞ?こっから向こうは皇室って決まってっから。」

「・・・アスランの・・部屋・・・・・・・ッ・・。」

あの人・・今の人・・もしかして・・。

「それがどうしたんだ?」
「え・・っ・・えっと、別に、大したことじゃなくて・・ほら、私あそこから出たことないから・・ちょっと。」
「あと・・どれくらい暇?」
「・・うーん・・三十分は・・・・・・・」

「・・じゃ、俺が案内してやるよ。」

不安がっているミーアを・・ハイネがほおっておけるはずなくて、手を引き・・城内を巡る。
最初は不安そうにしていたミーアも・・しだいに笑顔になり、ハイネも笑って見せた。
でも、笑っていても・・どこか自分の顔が曇っているのではないかと、ハイネは思う。
明日になれば・・ミーアは、アスランの・・嫁。この国の・・・王妃。
もう、こうやって・・・・一緒に他愛もない会話をすることも許されなくなりそうな気がする。

明日なんて・・来なきゃ良いのに。

そう心の中でどうしようもない暴言を吐いていた。


式の練習は滞りなく終わり、そしてアスランは・・夜もふけった、城内を一人で歩いていた。
ドンッ・・と、音を立て、胸板に痛みが走る。

「--------・・君か・・、どうした?」
何度も・・対峙した相手。そういえば・・この間の村の件は悪かったと少し申し訳なく思い・・自分より少し目線を低くして赤い目を覗いた。


「・・・・カガリ・・みませんでした?」

「・・・・・見てないが・・まさか、まだ・・見つからないのか?」

「・・・・・・なら・・いいです。失礼しました。」

そう言って去っていこうとする背中に、アスランは言葉を投げた。

「・・この間は、すまなかった。」

「・・・・・・・・・・----別に。」


カガリが・・まだ、戻らない・・・。

それを聞いて、アスランも探しに出ようとすると・・後ろから走ってきたミーアに呼び止められてしまった。

「アスラン・・っ・・今日一緒にディナーとりましょう?ね、せっかく私も出られたし・・・ね?」

ぐいぐいと引っ張られ食堂の方に連れて行かれて・・アスランは少し眉をひそめていた。































































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あとがき
ミーア・・・・う〜ん。ミーアはアスランとの絡みさえなければよかったのになぁ・・。
ハイミア傾向です。新境地?
2006/05/29