第四十三章・・・宵月



日に日に・・思い出す、そのカガリの記憶は、、、鮮明なまでに、アスランの初恋である事を語らせていた。

「ユラっ」
そう・・呼んでいた日々。そのころから・・志高く、凛とした人で、男前で・・。
「アスラン」---------・・誰よりも、アスランを皇子としては扱わない。
そうして、昨日も・・今日も、恋焦がれるような気持ちで・・目が、覚めた。







式まで・・あと、三日。
明日は・・・ほぼ、その準備に時間を割く、だから・・会議もない。
せっかく・・こんなに思い出してきているのに。---------ミーアとの結婚なんて・・・・・・。

有り得ない。

「カガリっ・・」

でも、

君は・・許さないのだろうか?・・・俺との・・事。

もしかしたら・・あの子供さえも・・。

俺と、君の間の子供なんじゃないかって・・・・。そう・・思うのに。







朝、・・ギルと廊下ですれ違い・・言葉をかけられていた。

「・・昨日の・・事ですが、協力できないとおっしゃられるのなら、なおの事・・・ラクス様を返していただきたい。」
「・・知らない、もしくはまだこの国に返すに値しないと答えたら?」

ギルの・・思惑など乗るはずがないと、睨むと・・やはり微笑まれる。
なんだ、この余裕は・・・・・・----何か・・切り札でも・・。

「・・・ですが、それだと本当に・・ラクス様拉致の疑いを持たれかねません。むろん・・私にも。」
「・・・・何が言いたい?」
「そのような・・国には、こちらの対応も荒くならざるを得ない・・と、いう事です。」

そして、そいつの顔には余裕の笑みが浮かび・・、カガリは直感的にまずいと感じる。
なにか・・良くない、国を巻き込んでまで・・良くない事が起きる。
そう・・感じてしまった。

「・・・ニコル・・、お前・・悪いがキサカの所に向かってくれ。・・・きっと、私は時期に動けなくなる、と。」
「・・・え?どういうことだよ!!」
シンはどうやらそれの意味が分からないらしく、食いかかってきて、ルナはそれを止めていた。
ニコルは真剣な表情で頷いて、たったと直ぐにでもかけだしていた。
「・・今の・・デュランダル参謀・・ぜったい、何か良くない事たくらんでましたよね。」
「・・ああ。」
そう話していると・・アスランが、角から出てきて・・カガリは自分自身を落ち着けさせるのにいっぱいいっぱいになる。

・・・ああ、なんでこんな時に・・。

そう・・悪態を付いても、やっぱり嬉しくて・・。緩みそうになる頬を引き締めて相手を見ていた。


「おはよう・・アスラン。」

「・・おはよう、カガリ。」


何か言いたげな顔に・・シンはルナから聞いていてキッと睨みを利かせて見せて・・ルナはその表情をまじまじと見ていた。
似てる・・非常に似てる。
翠の瞳・・・・・藍色の髪。
ミボシ様・・・・・そのものじゃないの?これって・・・。
そしてカガリに視線を移し・・まさかと考えてしまった。でも・・カガリ様はそんな素振り見せたこともない。
我慢・・してる?もしかして。

「・・ったく、お前の所の参謀は・・曲者揃いで本当に困る。大変だろうお前も。」

へらへらと普段の会話を始めるカガリに、アスランは苛立ちを募らせていた。
ユラのときも・・今も、君はいつだって・・国を優先して・・・・・・・俺を、後にまわすのか?
よく・・まだ思い出したわけではないが、キスはしてたはずだ。

「・・君こそ・・、俺は殆ど参謀が物事を進めていて・・まだ、把握できない事が多いが・・君は」

まるで・・一人だ。

「一人で・・頑張りすぎているように・・・・・思える。」

ポンと、金色の髪を撫でると・・シンは犬のように唸り出して、カガリは「そんなことない」と真顔で言ってみせる。
・・・仕方ないじゃないか、頼れるものが・・あまりいないのだから。
でもそれだって・・ラクスやマリューさんキラ・・・・沢山の人に支えられて、たっているのだ。

「私は多くの者に支えられている。だから大丈夫だ。・・・・・お前の方が・・心配だぞ、結構。」

参謀を把握しきれていないし・・それに、いや・・それ以上に・・・

「・・ちゃんと、理解してくれる人、・・・いるのか?今・・・・お前の傍に。」

キラが言っていた、アスランは立場から・・性格から、友達が少ないと。それは・・到底カガリには理解出来ないことで。
凄く・・冷めた人間だったらしい。皇子である事に縛られている・・者だったらしい。
私の前では・・そんな風に全く見えなくて、それが本来の姿だと思っていたけど・・でも。
二度目の・・初会のとき、お前の目は・・酷く虚ろだっただろう?
また・・一人なのか?

「・・大丈夫だ・・・・・それなら、陰で支えてくれる人は・・いる。」
「そうか・・なら、良かった。」

では・・この頃明るいのは・・そいつがいるお陰なのかな。
そう思うとなんだか悲しくて、でも・・もう、それで良いと思う。

「・・会議の後、少し・・話したい。いや、君の国の事を聞きたい。俺はまだまだ政治家として下っ端だから・・」

「・・・・・分かった、じゃあ・・。」

"逢いたかった"・・・きっと、あれは一時的に思い出したに過ぎないんだろうとカガリは頭で完結させる。
でも・・一瞬でも、ああやって・・抱きしめてもらったのは嬉しかったな。








会議中・・やはり、最後の会議はラクスの事で、ギルにも・・ラウにも責められてしまった。
だが返すわけに行かない、今・・ラクスは出産後か出産直前だ。
それに・・この二人の思惑、そう易々了承するはずもないだろうに。







会議が終わり・・その場で話をしようと思っていたら、アスランは部屋の方が良いと言われて・・少し、疑念を持つ。
思い出して・・しまったり、してないだろうかと。

「・・カガリ様、お一人で・・」
「大丈夫だと・・思う。アスランは危害なんて加えないだろうし・・」

その言葉に珍しくルナはあっさりと身を引いてくれていた。








部屋に入り・・相変わらず薬臭いと感じていると、アスランはソファーに座りオーブせいの茶を入れてくれた。
カガリも・・真正面の位置に座り、お茶を飲む。
「オーブの・・何についてだ?政治・・、文化、色々あるしな。」
「じゃあ・・政治・・かな、やっぱり・・心構えとか、理念とか・・知りたい。」
真面目なセリフにカガリも、良かったと、心で思う。


"・・・・・・・・来て、くれないか?----プラントに・・俺の・・妻として"

"・・・・・・君が・・俺を愛してくれるなら-----・・俺は他に何も要らない。"

"カガリが来られないのなら・・俺が、、、俺が・・オーブに行く。"


もう・・こんな、子供染みた事も・・言わないだろう、今の・・アスランならば。
それが嬉しい反面やけに哀しくて、でも・・これがお互いの為だったと、今改めて思えるようになった。
こんな・・政治家として、認め合う事が出来て・・もう恋と言う感情では繋がっていないけど。

「語り出すと止まらないか・・、聞きたくなくなったら、言ってくれ。」

そう忠告してから・・カガリは自分の国と、父の理念・・そして昔と今の心構えをアスランに一方的に話していた。


「お父様は・・国民が自由に暮らせるのが、一番幸せで・・・」

「オーブは本当に作物が豊かなんだ!茶も巧いし・・、あ!それに・・」

「しんどい時もあったけど・・やっぱり、姫だったから、それなりに政治を見ていたし・・最初は哀しくてそれどこじゃ・・」

「お前らアスハのせいでって・・あのシンに言われて・・頑張ろうって・・本気で思って・・・」

「やっぱり・・私はオーブが大好きだから・・・お父様とお母様が・・ずっと守っていたように・・私も・・・・」

「時々嫌気も差すんだが・・国民と国の為だと思えば・・そんなの、どうって事無くなるし・・」


もう・・一時間半は話したと思う頃、初めて・・アスランが話しに口を挟んだ。


「・・・君は・・本当に国が大切なんだな。」

「あたりまえだ!!」


そう気張ると、アスランは微笑んで・・声に出して言う。

「・・・俺の話も・・聞いてもらえるかな?」
「いいぞ?話して・・私は少ししゃべりすぎた。」

そういうと・・アスランは淡々と過去を語り出した。


国に興味がないこと、ただ皇子の立場に縛られていて・・それが嫌でザフトに入ったこと。

けれどそれですら・・守られ続けていた、ただ、やはり・・皇子として存在し続けていた。

それが非常に気に食わなくて、沢山努力したけど・・結局他人の目は変わらない。

ただの・・"皇子"だった。

「でも・・・それでも、親友になってくれた奴がいたんだ・・。多分君も知っている、キラ・ヤマト・・」

そいつのお陰で、初めて・・友がいるとはこういうことなんだと思った。とても感謝していた。でも、

「ある日、突然来た奴に、・・・・・・・俺のポジションを持っていかれてしまった。」

それを聞いて・・カガリは、アスランの翡翠を覗き込む。

「だが・・俺は・・その、親友を・・奪った、その人に・・色々教えてもらった。」

国がどういう状況か、苦しんでいる人がどんなにいるか・・・・、それが、誰のせいか。

「全部・・俺の父、そして・・俺の責任で・・・・・それが、耐え難く嫌だったんだ。」

そして立ち上がり・・アスランは、出たばかりの月を見上げる。
一度・・深く、溜息を付いて、話を再会した。

「・・それに、俺自身・・そのころ余裕がなくて、今は・・まだ、余裕が出来たんだけど・・・」

振り返り、翡翠がカガリの目に注ぎ込まれて・・カガリは思わず逸らし、立ち上がろうかとまで考えていた。
なんで、そんな鮮明に・・憶えている?いや・・出来事だけ覚えていて・・その・・ユラである私の事は忘れているのかもしれないし・・。

「・・国より・・ずっと、大切にしたい人がいて・・・・・その人と、自分の事にしか頭が回らなくて・・」

一歩一歩・・近寄ってくるアスランに・・カガリはどうしていいか分からず、立ち上がって・・眼をあわせたまま後ずさりしていた。
いや・・でも、・・・・・・・・・・・私とは・・言ってないけど・・でも、

「・・だから・・今も・・こうやって、愛想をつかされているみたいだ。」

「ッ・・!!」

逃げ出そうとしたカガリの手首を、アスランは嫌と言うほど強く引き・・肩を引いて、カガリと眼を合わせる。

「君を・・忘れてから、俺は元の・・冷めた自分に戻って・・・・・・・、」

その切なそうな表情に、カガリは言葉を詰まらせて・・何を言って良いのか、此処から動いても良いのか・・
なんで・・・思い出してるんだとか・・。

「でも・・一ヶ月前・・君と再会して、憶えてなかったけど・・また・・冷めたのが・・解けて・・」

ポタッと・・カガリの瞳から涙が零れていた。何で何か・・全く分からないけど・・・でも。
哀し泣きではない。

「・・それから・・何だか、政治を頑張らなきゃいけない気がして・・でも、やっぱり・・それは・・・・・」


"きっと・・無意識で・・カガリに・・・・・認めて欲しかったんだと思うんだ。"


グイッと・・腕を引かれて、胸板にカガリのおでこがくっつき・・カガリは黙る事しか出来なくて・・黙っていた。

「・・もう、あの頃みたいに・・今すぐなんて言わないから・・だから、カガリ・・」

クイッと・・顎を持ち上げられて、涙を唇が拭う。


「・・・君を・・好きでいたい。---------・・君に・・愛されていたい・・・・。」

そして唇を重ねられて・・カガリは何だか喉が詰まって死にそうだとまで思えてきた。

嬉しさと、罪悪感と・・・・良く分からないゴチャゴチャした気持ちでいっぱいなのは確かだと思う。
































































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あとがき
結婚式三日前なのになぁ・・アスラン・・・・。(笑
2006/05/26