第四十二章・・・動いたビショップ



「キラ様ッ・・ラクス様っ!!!!!!!!」

そう・・半泣き状態で入ってきた、マーナさんに・・出産を終えてスヤスヤと寝ていたはずのラクスとその・・赤ん坊までも眼を覚ました。

「ホムラ様と・・ミボシ様が・・ッ・・いらっしゃらないのです!!!!!!!!!!!!!」

その場にいた・・誰もが、顔を蒼白にした。







「キラと・・ラクスは此処にいて、私たちが頑張って探すから・・」

探すって・・でもそう言うのがせめてもの慰めだと、キラは思いミリィを見る。
だいたい・・・生後三ヶ月弱の赤ん坊が・・どこかに行くはずがないじゃないか。
つまり、

「・・・・・プラント・・なのか?」

冷静にいうディアッカに、マリューは顔を顰めてしまう。まさか・・こうも容易く城に入られ、攫われるなんて。
ラクスの・・出産、それに皆気を取られていて・・でも、誰かしらあの部屋に人がいると思っていたのが真実だった。
「・・・ああ・・お二人とも・・ご無事でいられれば・・」
マーナさんの悲痛な祈るような声に・・キラも、カガリの顔を浮かべる。
カガリが知ったら・・・、もう、目も当てられない状況になってしまう。・・・アスランとの・・子供なのに。

「・・・・俺、行くわ。プラント。」

「なッ・・・何言ってるのディアッカ!あんたお尋ね者じゃないっ」
「けど・・俺はあの城の事詳しいし・・」

俺に行かせてくれ、そう言ったディアッカを押したのはムウだった。

「そーだな、行ってこいよ。ディアッカ。」
「そうですね、何だかんだ強いですし。」

シホにも言われて・・ディアッカはおう!と声をあげて・・、早速支度にとりかかる。
それを少し・・心配そうにミリィは眺めて・・でも、皆の言うとおりだと溜息を付いた。
「あっちには・・シンもルナも・・ニコルもカガリもいるから・・ただ引き返すだけの戦力なら・・十分あるよね?」
「ああ、それに・・何だかんだイザークなら手を貸してくれそうな気もする。状況が状況だし。」

「それと・・プラントについたら、二番街の一番小さな宿屋で、"キサカ"って人に頼ると良いよ。」

「分かった。・・・・って、睨むなよミリィ。」

「・・死んで帰ってきたらお葬式してあげないわよ。」
「はいはい、ありがとう。」

心配そうにする彼女にディアッカは微笑み、おでこに軽くキスをして・・馬に乗りオーブの城を後にしていた。
「・・・・・・・大丈夫だよミリィ。ディアッカ強いから。」
「・・うん、・・・・・・・・ありがとうキラ。」

いつも・・私は、見送る事しか出来ないような気がする。

そう・・内心自分の非力さに酷く哀しさを憶えて・・ミリィは城へと戻っていった。








「・・ッ・・?おしめか・・?ミルクか・・。」

泣き出した・・二人、いつもこいつらは二人で泣き始める。
洋服に書いてあった名前は・・ホムラとミボシ。さすがに・・二人を抱えて馬で走れるほどレイも器用ではない。
ゆっくりと馬を進めて・・出来るだけ振動を与えないように進むと・・結構時間も掛かる。
あと・・四日か。あと・・三分の一、まあ間に合うだろう。
子供と共に馬から下りて・・おしめを確認してからレイはミルクをやる。

「あっ・・ぅ・・」

哺乳瓶を六つを・・保温袋にいれて持ち歩き、村があれば必ず寄り宿舎でお湯を貰っていた。
その・・ミルクにかぶりつくように唇を合わせる二人にレイは何故か笑みがこぼれる。
自分も・・小さい時はこんな風に、何も考えず・・がむしゃらに生きていたのだろうか?
暫くしてビンの中身が減り軽くなると二人は両手で支えながらそれを飲みだして、レイは手を離してその光景を見ていた。

「・・・おいしいか?」

そう・・尋ねても当然返事などするはずもない、だが、二人は飲み終わると・・幸せそうな顔をして寝息を立てていた。
それをそっと抱きかかえ、レイは又馬を歩かせる。
最初のうちは中々慣れず・・直ぐに起きていたのだが、もう馬のゆれにも慣れたのか二人はぐっすりと寝ていた。

「・・・すまない。」

たった数日、この・・赤ん坊と生活して・・思ったことだった。
こんな・・生まれたばかりの者を、政治に使わなければならない。
この子供たちには・・なんの罪も、つまらぬしらがみもないのに。






今日の会議は・・ギルが何故かプランと本国の不作について、話を持ち上げていた。

「・・・それは・・この国の問題、態々オーブの女王を巻き込んでする話ではないと思うが。」

ラウの言う意見がカガリも最もだと思う。だが・・ギルは前々から・・多少なりとアビリティ・ストーンについて研究していたらしい。
もしかして・・もう、アビリティ・ストーンが原因だと・・分かっているのだろうか?

「ラウ、君は知らなかっただろうが・・不作と、私の研究しているアビリティ・ストーンは・・本当に縁深いものなのだよ。」

その・・またしても始めて聞くことを持ち出され、アスランは不安を感じざるおえない。
いつも・・そうだ、こいつは。王である自分を・・無視しているようにも思える。

「・・・カガリ女王も知っていることであると思うが・・・・。」

「ああ・・知っている。」

そしてギルはその説明を・・ラウとアスランに始めた。
自然の力を吸い取って使う石、その影響として・・植物が枯れてしまう事。
「・・・そして、オーブは逆にその力が溢れすぎて・・モンスターが生まれやすい。」
それくらい、当然カガリは知っていて、ただ頷いて見せた。その様子を見て・・ギルは提案を出す。

「先日・・私が大聖堂に運んだ、あの巨大なアビリティ・ストーン。あれならば・・その力の管理が出来そうなのだ。」

え?
パッと・・カガリはギルを見た。だが・・それは・・・・・。

「そこで・・是非、聖母であるカガリ様に・・協力をしていただきたい。オーブと・・プラントの為に。」

その瞬間、舌打ちをしそうになったのはラウで・・カガリの隣にいたニコルは、それを見逃さなかった。
対立が・・起きているのだろう。

「・・・デュランダル参謀・・その様な話ならば・・せめて私と王にとおしてから、伝えるべきことなのでは?」

「もうしわけない・・だが、これはまだ不確定な段階なのだ。だからこそ、聖母であられるカガリ様にこうやって頼んでいる。」

・・・よく言う、前は殺そうとしたくせに。
カガリはそう思いながら・・「話を聞いてからだ」と答えておいた。








会議が終わりカガリは・・アスランとギルと・・護衛にシンとルナをつけて大聖堂に向かうことになった。
「・・・今日は・・いっぱいいるのね。」
そう言ったミーアに・・シンは少し驚いて小声で「ほんとにそっくりだ」と零している。

「で?・・・・・詳しい事を、聞かせてもらおうか?・・・貴方には少し私の中で前科もあるしな。」

あくまでも、ふざけるように痛いところをつくと、相手も受け流すように笑い・・説明をしはじめた。

「これは・・まだ、空っぽなのだ。それに・・聖母の力が必要だと私は考えている。」
「曖昧だな、具体的に教えて欲しい。」
「要するに・・石を洗礼して欲しいのだ。」

その言葉に・・カガリは眉を潜めてしまう。洗礼・・それはアビリティ・ストーンが人の手にあり、それをその人が使えるようにする。
詳しく言えば、カガリがその石を通し、使用者と石の持つ自然の力を物質に変える能力を適合させてやるのだ。
普通・・ただの洗礼する前のアビリティ・ストーンならば、人が持っていてもどうにもならない。
だが、洗礼をする・・つまりそれは・・人と石を同化させる、適合・・むしろ、融合なのだ。
だからその石をはずすと・・死んで、しかも・・とてつもなく早く腐蝕もせず・・砂になり自然に変える。

「・・・・・・・人もなしに・・出来るはずがないだろう。」

それに・・こんな大きな石、誰も装備できない。
「やってみなければわからない。・・・・実験のような軽いノリでやってもらいたいのだが・・」
「そう・・易々洗礼などできないな・・これでも聖母だ。今までだって・・私は、素質のあるものにしか洗礼を施していない。」
キッと・・睨むと、相手は未だやんわりと微笑んでいるように見える。
いつもそうだ・・・・・、きっとまだ何か、重要な事を隠しているに違いない。

「だが・・もし、それで力の調節が出来れば・・素晴らしい事だと思わないかい?」

「・・・。」

力の・・調節。
そう・・考え出して、カガリは一つの仮説にたどり着いたような気分になった。

・・ならば、聖母がその・・調節者・・ではないのか?

私や・・・ラクス。ラクスは自分の意思に関係なく、多くのものに・・力を渡してしまいプラントが不作になる。
逆に・・カガリは殆ど渡さない・・だから、モンスターが増える・・。
それを、

その・・・・石にやらせる?

「・・・・・・・やはり・・この話はなしにしていただこう。・・お前は、真実を隠しているように思えてならない。」

もしも、今・・・・カガリ自身、考えた事を・・彼がやろうとしているのなら・・。
それこそ、独裁だ。
そう・・考えて、カガリは大聖堂を出て行った。



「・・・何か、隠しているのか?」

アスランは・・改めてギルに尋ねると、ギルは少し笑い。

「王・・多少、偽るのは仕方のないことです。ですが・・私の方法ならば必ず世界は平和になる。不作も・・モンスターの発生もない」
「・・・何を隠している?」
「・・・・安心を、王には・・プラスにも、マイナスにもならないような事です。」

「・・・・?」

王には?
では・・・

誰かにとって・・マイナスの事、なのだろうか?







「さて、ギルが動き出してしまったな。」

会議室・・独り言をいうラウは少しほくそえむ。
あの・・女王次第。・・・・・・・どちらにせよ、結果は変わらない。
私は唯・・・・・・クイーンが対にさえなっていれば良いのだから。
ラウは・・何度も、ギルの・・その書斎に入り、その事を知っていた。
これから・・・・ギルが、あの女王に、頼むであろう事の・・結果までも。



そして・・


それにより、誰よりも・・あの、王が傷つき・・ギルを恨むことさえも。

そしてまた笑いを漏らす。








「っあー!!何だか俺一人旅ッ!!」

街道を離れた先で・・ディアッカはそう一人で声を出していた。まあただ街道なんて歩いて、知り合いの兵などにあっては堪らないから。
それにしてもと、街に入るたび思う。

変わったな。

それは・・風俗店の数であり、街、村の雰囲気であり・・・

何より、ディアッカ自身のことだった。

あれの時は、こんな男と女が一緒に歩いてるのなんて・・信じられなくて。
そして笑いが出る。

「俺の人生最高だな。」
ミリィにあえて、・・・・こうやって、守りたい者が沢山いて。
理想があって、夢もある。

一人で旅をしていると、ふいにそんな昔や、未来の事を考えてしまうものだと・・ディアッカは思った。

でも、

「次は・・ミリィも一緒にだな。」

そう・・独り言を言い、・・そのディアッカ自身の理想を、夢をかなえに、馬を走らせる。

姫と・・皇子攫いとはやってくれるじゃん?
その・・理想の為にはオーブのあのお転婆な王女が必要で、その王女の一番大切なものを・・取られる何て、

・・絶対、あってはならない。そう・・意気込んでいた。

































































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あとがき
ディアッカ〜。一人旅いいなぁ・・・。
ギルが動いたッ!!ラウも・・あと結婚式ですね!!
2006/05/26