くそッ・・そう、・・悪態を付きたくなるがルナがいて・・そんなことすら許されない。
だがすぐに自分の頬を自分でパァンッと酷い音を立てて叩いた。
「か・・カガリ様ッ!?」
「たるんでるッ!!!あ、ルナじゃない、私がなんだ・・・・・。」
すぐにフォローをいれ・・カガリはその腫れた頬を自分で擦って、ルナには笑顔を向けてみせる。
本当にたるんでる。有り得ん。
あんなことで、内心取り乱すなんて。
「あ、あの、愚痴なら聞きます!カガリ様だって大変な役職ですし・・。力になりたいです!!」
そう・・言ってくれるのは大変ありがたい、だが・・ルナでは駄目だと心の中で思ってしまう。
ルナが・・もし、私がアスランに恋心を抱いているなんて、知られたら。一大事だ。
「いや・・いいんだ。ありがとう、ルナマリア。」
それだけ言って・・カガリはパタンとベットに倒れた。
部屋に戻り・・アスランは夜の分の薬を飲み、風呂に入って・・考え事していた。
カガリを・・いつの間にか呼び捨てにしていた。いや・・それが本来の姿だと思っただけだが・・・。
王、その呼び方も非常に気に食わなくて。だいたい・・カガリは俺の事を、一度だって・・そういうしらがみ染みた見方をしていないのに
いつも・・そうだ、カガリは・・俺を俺だと見てくれていたはずだ。
なのに、なんで急に王なんて呼び方。
非常に・・不愉快だ。
ザパッと・・顔にお湯をかけてアスランは風呂から上がり・・バスローブに着替えてベットに寝転がる。
そうだ、ちゃんと「アスラン」とあんなに呼んでくれていたではないか。
そこまで・・考えてやっとハッとする。
「・・・・・・・いつ、だよ。」
確信した・・言葉だった。
やっぱり・・・・きっと、俺はカガリを知っている。
そう考えて眼を閉じる、きっとまた・・何か思い出せるはずだ。
なんだか、寝るのにも興奮し出して・・早く寝られるように瞳を閉じるのだが、いったいどんな記憶が出てくるのだろうと、
まるで・・中身のわからない宝箱を開けるような気分だった。
でも・・ハタリと眠りに落ちる。
だが、その日。まるで夢を見なかった。
コンコンッ・・そう、音がして・・カガリはバスローブのまま、戸を開ける。一体誰だ?ミーアか・・シン?ニコル・・・。
「・・おはよう、カガリ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
思わず、呼吸が止まって・・その者を見あげていた。
「お、おはよ・・・・アスラン・・、、、えっと、何しに?」
「いや・・食堂に・・・・・朝食を誘おうと・・。」
少し・頬を赤らめて言う・・相手に、カガリはどうしようもなくて背を向けていた。
「き・・着替えたら、出るから・・・・・・。」
食事なんて・・・・、持ってきてもらえるはずだろ?いや、実際昨日だってそうだったじゃないか。
ガサゴソと着替え出すとルナも眼を覚まし「どうしたんですか?」と眼を擦りながら尋ねてきて・・どう説明して言いか分からなくなってしまう。
「何だか・・王が朝食を一緒にって。」
「そうですかぁ・・・ッて、え!!!!」
眠気が吹っ飛んだように、ルナは声をあげて・・彼女もガバッと着替えを始める。
「駄目です、いや、行くのはいいですけど・・・お一人で何ていかせられません、私も同行させていただきますから!!」
「ああ、すまない、ありがとう。」
あの・・イケメン王は何を考えているんだとルナはいよいよ疑わずにいられなかった。
まさか・・カガリ様をたぶらかす気じゃ・・・そんな事、私がさせない・・ッ
そう・・意気込んで、ルナは扉を開けて・・その王をひと睨みしていた。
「君は・・?」
翡翠の瞳・・どんなに綺麗だからって、私は騙されてやらないとルナは睨みながらおもう。
だが・・カガリ様が出てきた瞬間、その、翡翠の瞳にはさらに・・磨きが掛かるように透明さを増したように見えてしまった。
「・・いこう、カガリ。」
緩やかに・・幸せそうに、微笑む王に、ルナは睨むことすら出来ず・・黙ってカガリ様の後ろを歩くことにする。
そして・・その王はあろうことにカガリ様の手を引いて・・時々本当にかっこいい、緩んだ甘い顔をカガリ様に向けているのだ。
って・・これってまさか。
カガリ様がたぶらかされるんじゃなくて・・
相手が、もう、すでに・・カガリ様にぞっこんなんじゃないの?
カガリ様は、曖昧な笑みを見せるものの・・・気の許したような笑顔を向けていないし。
まー分からなくもないけど、カガリ様綺麗だし。
でも。
「・・・・・忘れないで下さいよ、アスラン王。貴方の父が、オーブを滅ぼし・・カガリ様の父上を殺したって事。」
思わず、小さく・・その王の隣に行って、口に出していた。その王にだけ聴こえるように。
そうよ、許されることじゃないわ。
カガリ様だって・・・・許さないに決まってる。
そうして、一瞬すれ違った翡翠には・・少なからず、哀しみの念が見て取れたと、ルナマリアは感じた。
食事中・・ルナは急いで先に食べたようで、直ぐに立ち上がり・・カガリの斜め後ろについていた。
「・・どうか・・したのか?」
「・・・・・いや、・・。」
急に・・アスランは元気をなくしたように見える、ルナに・・何か言われたのだろう。
何を言ったのかは知らないが・・・・・・・・、
「・・・今日は・・晴れだな。」
食堂から覗かせる空を見て、カガリは言う。
アスランは・・その、注ぎ込む光がまるでカガリのようだとボンヤリと思いながら・・・さっきルナに言われた事を気にしていた。
"・・・・・忘れないで下さいよ、アスラン王。貴方の父が、オーブを滅ぼし・・カガリ様の父上を殺したって事。"
そうだった・・・なんて、正直失礼すぎていえない。
嫌われておかしくない、いや・・寧ろ、嫌っていない方が・・・・・おかしい。
そんな事を・・したのだ、自分の父は。・・・・・・・それが酷く悔しく思える。
謝ってどうこうなる問題でもないが・・・・、嫌われるのは嫌だ。嫌わないで欲しい。
そう・・言おうにもルナがいて・・それを切り出すわけにもいかず・・会議の後に聞こうと心を決める。
「食欲ないのか?ちゃんとたべろよ。」
優しく言われた言葉に・・アスランは頷き、本当は朝食なんて取らない派の人間なのにと、思いながらも食べていた。
今日は・・夢を見なかった。カガリの夢も・・花の夢も。
だが、朝起きれば・・異様なまでに会いたくなっていて、どうにか"朝食"という理由を見つけカガリのところへ歩いていたのだ。
会議の最中・・今日は鉱山の物資について・・滞りなく話が進み・・その間ずっと、アスランはカガリだけを見ていた。
隣に居る、薄緑色の髪の男の子も、ルナも・・黒髪の男の子も見えない。当然参謀だって。
ただ・・カガリと二人っきりでいるような、そんな気分だった。
話し合いが終わり・・アスランは急いでカガリに声をかける。
「すまないが・・カガリ女王、お話したいことがある。」
「・・いいが・・。」
「二人で・・お願いできるか?」
「・・分かった。」
そう言い・・護衛達はしぶしぶと背を向けて歩き出し、アスランはカガリの横を陣取って、自分の部屋へと歩かせた。
城の廊下じゃ・・兵に会話を聞かれてしまうから。
「・・どこ、行くんだ?」
「・・・ちょっと・・聞きたいことがあって・・」
兵がいないことを確認してから、ゆっくりとその手を握る。
そして自分の部屋の戸を開けて・・カガリを入れてしまった。
「・・・・?なんの・・話だ?」
少し・・警戒するように上げられた声にアスランは内心悲しくなる。
「・・・・君の・・国と、父上を・・亡き者にしたのは、俺の・・父上だ。」
「・・・知ってる。」
哀しそうに言われ、アスランも切なくなった。
カガリの父を・・国を、滅ぼしたいわけないのに。
それに・・・・・・・君に、そんな顔・・してほしくないのに。
「・・・・俺を・・恨んでいるか?」
その・・言葉に、カガリは目を見開いていた。
"お父様は・・お前の父に・・殺されたんだぞ!?その息子のお前と・・結ばれると、本気で思って・・っ"
その・・もう一年近く前に・・アスランに吐き出した言葉。そして・・アスランは酷く傷ついた顔をしていた。
"・・ごめん、と、俺が言っても・・"
その・・・会話が、もう一度、再現される気がしてならない。
「・・カガリ?」
ピタリと・・大きな手が頬に当てられ、持ち上げられれて・・翡翠の目から逃れられなくなったような気分だった。
でも・・違う。
もう・・アスランの中に、あのときの・・カガリはもういない。
だから、
繰り返されることも・・ない。
-----こんな会話は初めてだと・・いうことに、なるのだ。
「お前が悪くない事ぐらい・・知っている」
それだけ言って・・逃れようとするのに、アスランの手は顔から離れない。それに・・もう一つの腕はカガリの肩を掴んでいた。
お前が悪くない事ぐらい・・知っている---------------・・聞いたことがある。
間違えない、知っている。
カガリと・・この会話は・・二度目だ。・・今が初めてじゃない。この間も・・そう、言ってくれていた。
急に、真剣になったアスランの目にカガリは黙って金褐色の光を注いでいた。
どうしたと・・いうのだろう。そう・・ただ、適当に考えていたのかもしれない。
「カガリ・・。」
ああ、カガリだ。
よく分からない、だが・・今確かに、何かと何かが繋がった気がする。
その言い様のない気持ちに・・涙が流れていた。
「ッ・・・?どうしたんだよ・・っ!?一体・・・・」
「・・カガリ・・っ----------・・逢いたかった。」
「!!?」
思わず・・ギュッと抱きしめていて、何でかなんて・・アスランにさえ分からなくて・・でも。
ずっと・・こう・・・・・カガリの細い身体を、小さい身体を・・。
抱きしめたかったような気がする。
「何・・言って・・離せッ・・離せってば・・っ!!」
そう叫ぶカガリの口を掌で塞いで、アスランは瞳を覗いていた。
戸惑うような瞳から・・急に力強いものへと変わるその目。
その眼を煽るようにみてから・・・アスランは微笑んで、カガリの身体を・・ゆるりと間隔を開けて、でも腰に手を回していた。
「何を・・しているのか、分かって・・」
「・・・・・抱きしめたかった。・・ずっと。そう・・・・・感じる。」
薬の効き目が・・切れた?いや・・あれは一生切れないはず・・・。
なんで・・アスランは・・こうやって今・・私を抱きしめるんだ?
「・・・離して・・くれないか?」
そう尋ねると・・アスランはちょっと眉を潜めてから「もう少し・・そしたらすぐに離すよ」と、耳元で囁いていた。
また・・ぎゅっと暖かく抱き寄せられて・・背中を広い手でさすられる。
"今まで・・頑張ったんだよな。"
そう・・言われている気がして、カガリは泣きそうになっていた。
本当に・・・大変だった。ミボシやホムラを産む時・・アスランが・・傍にいてくれたら、どんなに心強いか。
毎日の暮らしの中で・・お前が、傍にいて・・支えてくれていたのならば。
どんなに・・
嬉しかったことか。
アスランの、胸に納まる中・・・カガリは涙を流してしまう。ああ、駄目だ、たるんでる。
どうしようもなく・・たるんでいる、私は。
暫くして・・腕が離れて、ゆるりと涙を指先で拭われた。
「・・・俺と・・君との思い出は・・辛いものなのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
辛い・・はず、ないじゃないか。
最後・・最後だけ、辛かったけど・・・・・・・・・でも。
・・・・本当に、満たされていたと思う。
アスランの問いには答えず・・カガリは部屋を後にしていた。
涙を流したのがばれないよう・・乾かしながら歩いて・・遠回りをして部屋に着く。
カガリを離して・・なんだか、どうしようもなく・・興奮しているのが嫌でも分かった。
ヤバイ。
心、記憶・・それより先に身体がカガリに反応を示しているような気がしてならない。
どう・・したんだ?俺・・・・・・・・。