第四章・・・ヘリオポリス



三つ目の宿場町を通り終わる頃、ざわざわとした感覚に襲われるようになってきた。
この感じ・・そう四人は思う。
プラントでは滅多に発生しなくなったが、オーブではまだこのような・・俗に言うモンスターがウロウロしているのだ。
理由は良く分からないが・・蜂や蟻、普通に存在するそれらのモノに何か不思議なアビリティ・ストーンのようなものが働いたと考えられている。

「来るぞ、もうじき。」
「分かっている」

パッといち早くイザークはデュエルを手から出した。
これは腕に巻いてある特殊な腕輪が念じるとパッと武器を出してくれるのだ。

「・・・デュエル」

そう愛刀に確認するように声を出してそのモンスターの気配がする方向へイザークの隊が切り込みにいった。
ユラは不安がるミリアリアを宥めて背後から近寄ってくるモンスターに雷を食らわせる。

「す・・すごいのね、ユラ・・」

ミリィは驚いて同じ馬に乗るカガリの腕をギュッと掴んだ。
そして前方の敵を倒したイザークとディアッカ達が帰ってくる。

「これからもっと増えるからな・・まぁ適度に気をつけていくぞ。」

-----------?
アスランは、何か嫌な気を感じてハッとして後ろを見るが誰もいない。

「どうしたの?アスラン・・」
「いや・・、今誰かに・・」

見られていた、確実に。
そう感じたが今は黙っておくことにした。


やっと最後の宿場町についてユラは嬉しそうに手を伸ばしてから街を見て・・また哀しそうに笑った。
それに・・アスランはずっと気がついていた。
なんで・・ユラはいつも、街に着くたびに哀しそうに笑うんだろう?

「この町は・・あまり男女差別がないみたいね。」

そう嬉しそうに微笑むミリアリアにユラも嬉しそうに微笑む。
この町は・・ヘリオポリス。オーブの王都に一番近い場所だった。
町の者は男女ともに分け隔てなく会話しており、アスランは少し驚く。
これが・・---この人たちの普通なのだろうか?
そうして歩いていると町のものからあからさまに・・自分達がいやな目で見られていることに気がついた。

「・・・なんか・・居心地悪くね?此処。」
「しかたないよ、だって僕ら・・プラントの人間だもの」

オーブ滅亡の時・・まだ12だった僕らにはどうしようもないことだけどとキラは笑っていっていたが、町のものは眉間にしわを寄せている。

「----・・それに、オーブは男女平等社会だったから・・。やっぱり僕たちとは考え方は違っちゃうしね」

そう言ったキラにディアッカはあの子もそうだったのかと納得がいった。

「・・・まあいい、ともかく早く宿舎に入ろう。」





「・・・嘘ッ・・嘘よ!!!!!!!!!!!!!!」


急にミリアリアの悲鳴にも近い声が町を包んだ。
ユラはミリアリアを慰めるように肩を撫でる。

「嘘・・嘘、村が・・滅んだなんて・・嘘よ!!」

悲痛な声に町の人たちは顔を歪めて、その子の傍に寄った。

「・・・・反乱軍が・・いると思われたらしい。----そのせいだ。」

そう小さな声で言われた言葉にミリアリアは眼を開く。

「いるわけない・・、・・なんで、なんで・・・・・・・お母さん・・っお父さん---」

町の人が言うに、その村は綺麗に焼き払われたらしい。
-----まるで・・跡形も残さないように。
そして、その町の人はまた・・小さくだが声に出してこういった。

「・・・オーブが・・残ってくれれば良かったのにね。」

それは・・・遠まわしに「プラントのせいだ」言われているように思えてアスランは顔をしかめる。
確かに・・攻めたのはプラントだった、だがそれだって・・・約束していた穀物の半分も譲らなかったオーブにだって非はある。
不作の地のプラント領・・国民が生き残るにはオーブに頼るしかなかった、なのに。
戦争の起こる前年・・・オーブは大幅に物資を提供しなくなった。
理由は定かではないが・・お陰で沢山に人が死んだのだ。
それに怒ってプラントはオーブを攻め・・滅ぼした。
プラントだって食物を提供してもらう代わり兵を出してオーブのモンスターを退治してやっていたのに。
約束を破って・・多くの人を殺したのは、オーブが先ではないのか?
そう思って睨み付けそうになるがユラは哀しそうな顔をしていて、黙ってミリアリアの肩を抱いていた。
その姿を見てアスランはフッと、これが本来あるべき男女なのかと思ってしまう。
泣きそうな女の子の肩を・・慰めるように抱く男。
これが・・オーブでは昔日常的に起こっていたことなのだろうか・・・?
それは、何故かまるで別世界の事のように考えられる。
そう遠くを見ているとイザークは早く入るぞと促され宿舎に入った。

「・・・・・・・どうする・・ミリアリア。」

そう尋ねられて、無理に笑顔を作ってユラに見せた。

「だ・・大丈夫・・よ。私----もうこれ以上・・ユラに迷惑かけられないし・・。」

かえる・・家も無いけど・・。
泣きたい気持ちでいっぱいになって、顔を手に埋めた。ユラは慰めるよう擦りミリィに尋ねた。

「・・何が・・悪いんだろうな?」

反乱軍・・?違う・プラントだ。
でも・・ユラを悪いとは思わないし・・いえない。・・助けてくれた恩人だから。

「-----プラントが・・悪いんだろうか?」

そう疑問を投げられて・・ミリィは言葉を詰まらせてしまう。
確かにプラントが悪いとミリィは考えていた・・けど、ユラが・・まるで庇うような言い方をしているのを見ると・・恨めるわけもないのだ。

「・・・・・・・・悪い・・とは思う。だいたい・・男女差別なんて・・」

そう言ったミリィをユラは見て微笑んだ。

「-----・・着いてきてくれ・・。多分・・ミリィはこっちにいたほうがいい。」
「?」












「帰ってきたみたいだぞ、・・カガリ。」
「ザフトの一員でしたけど。」

その二人の報告を聞いて、ブゥッとコーヒーを吐き出したのはムウだった。

「あら・・それはまた。」

そのコーヒーを拭きながらマリューは笑う。

「いいのか!!まさか・・カガリがザフトとして帰って・・・・この街に入るなんて・・・」
「ですから、偵察だって・・。ザフトに潜り込んでいるだけですよ、カガリは」

その言葉に賛成するようにマリューは頷いた。

「シンは熱くなりすぎよ?---大丈夫、あなた・・誰よりもカガリを信頼してたじゃない。」

そうマリュー笑われてシンは「そりゃそうだけど」と溜息を付いた。

「まーニコルがそういうならそうなんだろ?」

さっきの動転は何処へやら・・ムウもそう言い出しそこは和やかな雰囲気となる。
カランと音がして上の喫茶店に誰か入ってきたのかと察し、もう閉店時間なのにとマリューは駆け上がった。

「あらっ!カガリ」

そう声がして、皆は飛び上がった。

「カガリ・・?」

ユラが・・今、カガリと呼ばれた。
そうボンヤリ思っているとその喫茶店の下に通される。

「おおっ新入りだな!」

そう年上の人に見られてミリィは少し怯んでしまった。

「安心して、此処は平等よ。」

そうお姉さん的な人に微笑まれて、安心するとユラは立ち上がってしまう。

「も、もういっちゃうのかっ!!!」

黒髪の少年は哀しそうに声をあげて、ユラは微笑んで見せた。

「-----・・まだまだ、色々知らなくちゃならないからな、私は」

そう言葉を残して・・ユラは出て行ってしまった。


「あの・・・此処って・・-----」



「俗に言う・・"反乱軍"よ・・・私たちは」

その言葉にミリィは眼を見開いた。



夕飯時になってやっと戻ってきたユラを迎えると、ユラは嬉しそうに微笑んで見せた。

「ミリィ・・結局どうすることにしたんだ?」

そうディアッカが尋ねるのを、・・・彼自身不思議な気分で言っていた。
別に・・一人の女がどうなろうと・・俺の知ったことではない・・・だが。
三日間・・・・・一緒にいたその子の・・身の振りを心配する・・自分がいたのも確かだった。

「・・安心しろ、ちゃんと・・愛のある夫婦の所に預けてきたから。」

そう笑うユラを見て、イザークも・・ディアッカもそれならあの子は大丈夫かと安心する。

その・・二人の表情を見ていたアスランは何だかもやもやした気分だった。
男女平等・・それは、プラントとオーブの決定的な差ともいえることなのだ。
それを・・少し・・変に思える自分がいた。

-------皇子である・・アスランが国の習慣を倣わなくてどうするとおもいながらも・・。

・・普通・・一緒に居合わせた人間を・・心配するのではないかと、考えてしまう。
だが・・そういう小さな疑問や不安は・・いずれ、国家の不安定をもたらすと承知していた。
だから・・アスランは心に言う。

プラントの皇子なのだ・・自分は。だから---・・。
父の言う言葉に、反感を持ってはならない。
女は守られる存在であるがゆえに・・政権にも参加できない・・だが。
守られている。
それは・・変わらない事実だ。





「どうしたんだ?アスラン・・浮かない顔して」

そう夕食が終わり話しかけられて、アスランは顔をしかめてしまう。
----カガリがあの子を連れてこなければ良かったのに。
女なんて・・。

「--------・・カガリは・・女が好きなのか?」
「・・だって・・男が男と結婚できないだろ?」
「・・・・・・・・・・けっこん?」

ケッコン?

なんだ・・それ。
そうアスランの頭には流れ込んでくる。ケッコン・・。

「お前だって・・いずれあのラクスと結婚するんだろ?」

曖昧な態度のアスランにカガリはそう言い放った。

「--------・・結婚って・・。」

いや・・俺と・・ラクスは婚約者だ・・・だが。
結婚とは・・・男女平等だからこそ・・出来ることだ。
違う、
プラントでは・・結婚なんてもの存在しない。

「-------・・俺は・・ラクスは好きじゃない。」
「・・・・?」

女なんて、-------守られていればいいだけの存在だ。
ただ・・安全に生存して・・子供を産めばいいだけの存在。
・・それだけだ。

「・・女に・・好きとか・・愛しいとか言う感情は持ち合わせたことはない・・。」

ラクスにも・・ただ、良い人なのかもしれないと・・その程度で。

「・・・・じゃあ・・お前、誰が一番すきなんだ?愛情でなくても・・友情でも・・」

そう聞かれアスランはキラとユラで迷ってしまう。
数日間ユラと過ごしたが・・ユラの女に対する態度以外は・・やっぱりキラと同じように落ち着いて一緒にいられるし---。

「俺は・・キラと・・ユラとかが・・一番一緒にいて楽だと感じている。」
「・・・---そりゃ、俺だってキラだってお前の事好きだけど・・」

だけどと、ユラは声をあげた。

「キラは・・多分・・いつかちゃんと結婚するぞ?---俺もだが・・」

それを聞いてアスランは「え」と声を出してしまう。
結婚?
結婚と言うのは・・お互い好きだと認めた相手をただ一人を選ぶという事だ。

「---------・・なんで・・だ?」

プラントでなら・・一夫多妻制もとれるではないか。
態々・・・この人だと決める必要だってないはず。

「・・なんでって・・一番好きな人とずっと一緒にいたい・・。それって・・自然の摂理みたいなもんだろ?」
「・・それを・・なんでたった一人の人に限定する必要があるんだ?」

・・大体・・相手は女だ。
-------それに、相手だって愛してくれるとは限らないし・・。

「・・・だって・・お前は・・俺やキラと・・・一緒にいたいと思ってくれるだろ?」
「ああ。」
「それが・・もっとずっと強くなった感じなんだよ。」

きっと。そう微笑んだユラを黙ってみていた。


・・・---別に、それって異性じゃなくてもいいじゃないか。

そうボンヤリと思ったが・・今は考えないでおくことにした。































































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あとがき
アスランは今までラクス以外の女の子と全く接さず生きてきています。
なので・・そーいう感覚が麻痺しているのかも?(苦笑)
反乱軍登場。異色なメンバーだと感じたのは私だけではないはず・・
2006/05/01