第三十九章・・・楔



「・・・・・大丈夫・・・?・・ラクス・・ッ」

「ヒッヒフーですよ、ラクスさん!!」


キラが必死でラクスの手を掴み・・そのサイドでマーナは必死に呼吸法を教えていた。

「ッ・・キラ・・ッ・・ぅ・・」

痛みで、ラクスの美しい顔は歪み沢山の涙が頬を伝う。




そんな中。

ひっそりと・・・・・

事件は、おこって、そして・・・

終わっていた。




「出来た・・ッ!!」

結婚まで・・あと一週間、そして・・今日はカガリ姫がプラントに到着する日だった。
やっと・・出来た思い出し薬。
それを・・人さじすくって苦いながら水で押し入れる。
このクスリは・・少量ずつ・・・六日間飲まなければならないらしい。

詳しく言えば、これを飲む前に嗅がされたと考えられる"忘れ薬"は独特の匂いが脳を刺激し
一定の神経伝達物質を脳に出す働きのあるものだ。
そして最も新しい記憶にある事の・・全てを、思い出すことを禁じる。
思い出そうとすれば、そのフラッシュバックで同じ物質が伝達され・・頭にそれ以上思い出すなと歯止めを駆け、
さらに使われないと判断された記憶をいち早く脳の奥へとしまう効果もある。
つまりは禁止された記憶を真っ先に最後に持っていく・・相乗効果でより一層早く記憶がなくなる。

だから・・今口にした薬はその作用を止める薬なのだ。
まず、その物質が脳の記憶に反応しないようにして、さらに・・使わない記憶を奥へとしまう行為を妨げる。
だが、人間は記憶をおくに閉まっていくのが当然の事で、それが出来なくなれば、当然新しい事を覚えられなくなってしまう。
だから・・薬を大量に飲むことは許されず、朝と晩・・それを一週間ほどまでなら飲み続けても身体に害はないらしい。

「・・・・どれくらいで・・効果が出るんだろう・・・?」

だが・・俺が、あの姫を・・本当に前から知っていたのだろうか?
カガリ姫は、そんな素振りも・・そんな事も一言だって言っていない気がするし・・。
・・・聞くのも・・なんだか気が引けるしな。
そう考えアスランは黙っている事にして・・・立ち上がり服を着替える。
迎えに出ねば・・、ただそれだけの筈なのに、心が騒いでいた。







「お前も出迎えるのか。」

イザークに・・そう話しかけられ「ああ」と答える。
そういえば・・イザークは知っているのだろうか?カガリ姫の・・昔を。
ぼんやりとそんな事を考えて、城の門で・・白馬に乗ったその人を出迎えた。
後ろには三人、みなアスランたちより若い。

「失礼するぞ、王。」

王・・・
せっかく・・この間は、アスランと呼んでくれたのに。
それが・・無性に悔しく感じられて・・、だが直ぐにガバッと黒髪の者に袋を渡される。

「・・・?」
「茶だ、お前が巧いっていってた。」

むすっとした黒髪の少年と裏腹にカガリ姫はくったいない笑顔をこちらに向けて微笑んだ。
「ありがとう」と一礼をして、半分持てとイザークに渡し・・城へと案内する。
「へーザフトの城って広いのね〜」
「ザフトじゃ在りませんよルナ、プラントです。」
やんわりと訂正を入れるニコルと・・そうきょろきょろと動くルナをシンは必死で見守る。

「・・ルナッそんなうろちょろするな!!プラントじゃまだ・・女性に対する規約ができたばっかなんだから!!」

もしもの事があったらと、声に出したシンにルナは「平気よ、だってシンが守ってくれるもの!」とさらりといいシンは真っ赤になり
それを・・アスランは少し不思議な様子で見ていた。
これが男女間で・・起こる事なんだろう・・そう想像して。

「一応・・参謀とも顔をあわせたほうがいいよな。」

そう・・確認を取るとカガリ姫は嫌に顔をゆがめてしまう。
「・・・・・・・・構わないが・・」
どう見ても・・嫌そうだな、そう判断してアスランは会わせない様に取り繕う事にする。
「いや・・会いたくないなら良い・・部屋に案内しよう。」
まるで、エスコートするようだとイザークはその光景を眺めていた。

「にしても、広いですね〜このお城。オーブも広いと僕は思っていますけど・・」
「ねー、広い広い!」
「だー!!!ニコルまで!!!」

そうワンワンと喚く部下をカガリは笑みを零して見守っていて・・それがまるで母親のようだとアスランは感じる。
さすがは・・聖母と、言った所なのだろうか?

「ここは・・男性部屋。」

そう指を指されて、ニコルとシンはそこに荷物を下ろしに入る。
「私はカガリ様と同じお部屋で!どこまでも守ります!!」
そう・・言う一方でカガリはカガリでルナが心配でならない、唯一・・女の子だから。
「じゃあ・・カガリ姫と、君は・・この部屋で。」
そう言うと、ルナと呼ばれる女の子は顔をゆがめた。

「姫じゃありません!!!女王です!!」

もう失礼しちゃうとルナは頬を膨らませて、カガリは笑い言葉を出した。

「いや・・私がまだ女王に・・至らないからだ。」
「そんな事・・っ!あるわけないじゃないですか!!?」
「ルナは優しいからな。」
「いえ!!カガリ様が立派だから・・」

そう・・愉快に会話するカガリ姫と、もう一人の紫髪の女の子を見て、こういう風景がプラントでも日常的に見られるのかと思うと少し嬉しくなる。

そして・・その時、アスランの顔は緩んでいて、それに気が付いたのはカガリだけだった。
思わず、、、数回瞬きをして俯く。

「じゃあ・・私たちも、荷物を置いて・・それから、見学と公務に入ろうか。」

ただ・・結婚披露宴を見に来たわけでもない、それだってただ公務の一環に過ぎないのだ。
「・・俺が案内する、準備が出来たら・・、待ってるから。」
イザークは男子達を待つといって・・・シン達の部屋に向かう。





「にしても、かっこいいですよね〜あの人。」

部屋に入って直ぐ・・・ルナはそう声をあげ、カガリもやんわりと微笑む。

「そうだな・・・・でも、ルナにはシンだろ?」
「わかってますよー、だけど・・ほら、目の保養になりませんか?」

そしてルナは"そのかっこいい人が結婚なんて・・・・・一介の女として何だかショック、"と声を漏らす。

「・・・そうだな。」

一年ぶりにあったアスランは・・何処か虚ろで、でも・・オーブに来てから少しずつ・・少しずつ、
柔らかく・・なったと感じていた。・・・・なんだか、それが・・・・・嬉しくて、でも。
さっきのように、あんな・・顔しないで欲しい。
胸にジンと熱いものがこみ上げてきてしまうから・・。

服を少しラフなものに着替え部屋を出ると、アスランは笑って・・出向いてくれる。

「色々・・見て欲しいものもあるんだ。・・・もしかしたら、参謀のギルとも鉢合わせるかもしれないが・・まあ、その時はその時だな。」

そうして・・クイッと腕を引かれて・・ルナは少し驚き、だが、腕を引かれた張本人のカガリはもっと驚いていた。
そして・・とことこと三人・・歩いてきた先は、大聖堂。
だがカガリはその部屋を前にして奇妙な力を感じざるを得ない。
悪寒が・・走る、とでも言うのだろうか。いや・・悪いものではない、だが・・。
酷く、共鳴をする。

何か、と。

部屋に入ると、目に留まるのは大きなクリスタルのような・・でもアビリティ・ストーンだった。

「・・・・・・・おっきー!!」

ルナも驚いたような声をあげ、カガリも眼を見開いてしまう。
---------・・何なんだ・・これは・・。
手を・・・伸ばして触れようとしたが、すぐに引っ込めて・・アスランに尋ねる。

「これ・・は?」
「国家秘密。」

ふざけて笑うアスランに対し・・・カガリはこれが奇妙なものに見えてならない。
そう、ふっと浮かんだ考えは、思いのほか・・一瞬の、一人の言葉でかき消された。

「アスランッ!!」

目の前を掠ったピンク色の陰に・・ルナもカガリも目を見張る。

「ミーアッ・・!」

ミーア・・そう呼ばれた少女をカガリはまじまじと見て、思う。確かに・・そっくりだな、ラクスと・・・

「この方達は?」
「オーブの・・皇女とその家臣だ。」
「・・ッ?!皇女様ッ!!」

オーブの・・そう・・ミーアは息を飲んだ。
もしも、この人たちが・・本当のラクス様の居場所を知っていて・・此方に返されてしまったら?
折角・・式も決まって・・もう・・・
何にも・・不自由しないと・・思ってたのに・・・・・・?
そう思考に過ぎった瞬間、相手は・・その、皇女はミーアの前に手を差し出していた。

「始めまして・・、ミーア・・この度は、ご結婚おめでとう。」

その一言に、この人はラクス様をこちらに返す気は微塵もないように思えて、ミーアは軽く安堵して手を差し出した。

「いえ・・、一応ラクス・・で、公衆の前だけでよいので。それと・・はい、ありがとうございます!」

結婚・・それも、こんなかっこいい人と結婚。
優しくなったアスランは以前にも増してずっとずっと・・かっこよく、ミーアの目には映っていた。

「よし・・じゃあ・・・次は・・・・」

そんな、ミーアの視線にはまるで目もくれず・・アスランは、カガリの服を小さく引き次の部屋に案内する。
ルナはまた・・・その、アスランの行動を少し疑った目で見ていた。
そしてミーアも・・アスランから零れる笑顔、言葉に、眼を見張る。
まるで・・水を貰った花のようだ・・と、思った。







一通り・・部屋を見尽くして、カガリとルナは部屋に戻る。

「なーんか・・ここの王やけに社交的じゃありません?前より・・っていうか、なんか全然敵対国だったって事すら・・忘れてるみたいですし。」

「そうだな・・だが、一応だが平和宣言をしたし・・・・・まあ良いんじゃないか?」

月の昇ってきた夜空を見上げ・・カガリはフッと今日のアスランを思い出す。
ちゃんと、笑うようになっていた、ちゃんと・・目も、生き生きとしていた。
それが・・嬉しい反面やけに悲しくて、落ちそうになる涙を飲み込む。
アスランは・・・・・もう、私がいなくても---------大丈夫、なんだ。

「カガリ様のこと、ずいぶんとお気に入りみたいでしたし。」

「それは・・ただの国際関係に過ぎないと思うぞ。私は」

もう・・恋人でもなんでも・・ないのだから。

ふと、浮かぶ・・ミーアと言う子。
可愛くて・・・きっと、アスランもあの子と幸せな未来を掴むのだろうか。
それも・・それで、いいことなのかもしれない。









自分のベットに入り・・アスランはすぐ、瞼を閉じる。
なんだか・・今日あったこと、いや・・やはり・・あのカガリ姫と入る時は何処か開放的になると感じていた。

急激なまで、身体の芯が温まるような気がして・・アスランはボンヤリと瞳を開く。

薄っすらと見える金色の髪、手を伸ばせば・・とどく。
それを、不思議とカガリ姫のだと、直感で思い・・自分の意思では付いて行かず、だが手を伸ばしていた。
ふんわりと・・笑う、その瞳、血行の良い肌。予想以上にふくよかな胸。

その・・生の姿に、思わず見惚れて・・・・そして抱き寄せた所で目が覚めた。


「・・・・・ッ・・・ゆ・・め・・・?」

びっしょりと汗をかいて、アスランはシーツを掴む。
アスラン以外誰もいた形跡はなく・・・ただ、自分の体温のみで温まったそのシーツ。
だが、嫌に、感触のある・・リアルな夢だと感じざるを得ない。

綺麗だった・・・・・・・。

少し・・潤んだ金褐色の瞳も、汗で濡れた金髪の髪も・・・・肌も、胸も・・・・・・。

ドクン

そう心臓が跳ねて、アスランは驚いて胸を掴む。

ただの夢、そうだ・・・ただの夢だとアスランは自分に言い聞かせていた。

まさか・・恋仲なんて事は有り得ないだろう。


そう---------思っていたから。































































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あとがき
カガリが来た時、まだ薬の作用は働いていません。(と、思います)純粋に再会を喜んでいたと。
2006/05/22