第三十七章・・・安らぐ場所



あれから・・彼女は俺の眼を一切見なくなった。
会議中だろうと、・・・花の世話をしている時だろうと。
・・そんなに・・似ているのだろうか?

-----・・どうだって、いいこと・・なんだが。

気が付けば・・もう、オーブに滞在できるのは・・明日の昼まで。
珍しく・・時間の流れが早く感じる。
・・おそらく、大半は花と戯れるカガリ姫を見ているときに急激に重たくなる頭のせいだ。
眠たくない・・なのに、意識が飛ぶ。・・気絶と言うわけでもないのだが・・。
薄っすらとした意識の中、毎度姫は毛布をかけて・・時々髪を一二度梳いてくれる事を知っている。
その指先を感じると・・意識は完全に途切れてしまうのだ。
でも、ふんわりとした感触が頭に残る、それが・・何となく好きだった。





「・・姫。」

そう・・花の世話をしてくれと部屋に尋ねかけると、カチャンと小さく音を立てて・・カガリ姫は此方を見ずに手招きする。
そこには・・月明かりに照らされたホムラとミボシが・・気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「可愛いだろ?」
そう・・囁かれ、「ああ」と答える。
そっと・・手を伸ばし、ミボシの夜のような髪とホムラの太陽のような髪に触り・・少し頬が緩んだ。

「・・確かに・・俺に似ているかもなミボシは。」

小さくそう言うとカガリ姫も「そうだな」と・・小さく返す。
そのまま・・二人で並ばず部屋を出て、アスランの部屋の花を見て・・カガリ姫は小さく笑った。
楽しそうな笑いではない、・・・何かをごまかすような笑い方、花も・・気が付いているのかどこかげんなりして見せるようだった。

「・・・そんなに・・似ているか、俺は。」
近寄って・・背中越しに尋ねると「似てる」といわれる。
「・・・・良ければ、話してくれないか?その・・恋人との話。」
そう・・口を開くと、姫は驚いて・・こっちを見て、でもすぐ「わかった」と・・眼を合わせて微笑んでくれた。
ソファーに腰掛け、お茶を飲みながら、カガリ姫は淡々と、自嘲交じりで話し出す。

「・・ずっと、男だと思われててな。」
「・・・は?」

その・・言葉から始まった話は、自分が女という事をうまく隠しながら・・でもその人といて幸せだという事がいやなくらいに伝わってくる話だった。
怪我をして・・女だとばれて、それから・・肩を抱かれたと。
ビックリしたけど・・嫌じゃなくて、嬉しかったけど・・男でありたくて、その人から少し遠ざかっていた・・。
だけど、突然離れなきゃならなくなって・・悔しくて、一夜寝た、と。
そして離れ離れになってしまった。

「・・勝手な話だろ?」

話し終わって・・そう、泣きそうな顔の相手にアスランは駆けてやる言葉を見つけられないままでいて・・どうにか言葉を捜す。

「・・・・今も会いにいけない相手なのか?」
「・・・もう、なお更・・・会っても想いあえない関係だ。」

諦めたように笑う相手に・・アスランは苛立ちを感じる。
好きだったのではないのか?簡単に・・手放してよかったのか?
確かに・・国と言う立場は重要だが・・・・だが。

「・・・間違いを、犯したんだろうな・・君は。」

「・・・・・・・・間違い?」

だって、そうだろうとアスランは説明する。
想いあっていた相手と・・通じ合った途端別れるなんて、馬鹿げてる。
それに・・子供まで産んで、まだ君が想っているなんて未練がましい。
そう・・いうと、カガリ姫は「そうだな」・・簡潔な答えを出した。

「"そうだな"・・その程度の想いなら・・いいんじゃないか、別に」

皮肉たっぷりにそう言うと姫はカッと立ち上がり・・部屋を後にしようとする。

「・・・・・・お前には、もう・・一生分からないさ。-----これが、どんな気持ちだか。」

そして・・もう一言。

「・・・・そのほうが・・"幸せ"かもしれない・・、でも私は・・本当に、自分の行動を・・後悔していない。」

したくない。

そう・・言い残して去った人をアスランは呆然と見ていた。
ベットに倒れこみ・・考える。

分かるわけがない。
俺は・・生まれてこのかた-------一人の人を、愛した事なんてないんだから。

考えはそうなのに、心臓だけ打ちのめされたように痛かった。

その痛さに耐えかねアスランは枕にしがみつく。

「・・・・ッ-----」

痛い、なんでこんなに痛いんだろう?
締め付けられるような痛さにも、次第に覆われ出し・・助けてくれと声に出す。

「-----・・・・カガリ・・・・っ----------」

浮かんだのは、金髪の・・あの人で。
眼を瞑るとそこにいてくれるような錯覚さえ覚える。

"しょうがないな・・お前。"

そう・・いつもの様に頭をなで髪を梳き・・、額に暖かなものが押し当てられたようにさえ・・思えた。

"・・アスラン"

暖かな、お湯のようだとアスランは眼を閉じ・・その感覚に身体を委ね、深く眠りに付く。





後悔していない、その言葉に嘘はない。たしかに・・私はお前が好きだ・・・・・・・けどな。
ホムラとミボシの髪をなでそして自分自身のベットに潜る。
お前が・・オーブに行くなんて、国を投げるなんて言うから。
そんな事・・・・・・・・・・許せるはずなくて。
カガリと・・一緒にいるためだと、嬉しいのに・・酷く、ムカついた。
アスランだって・・分かっていたはずだ、そんな事をしては・・またプラントとオーブの戦争になるだけだと。
それでもと、愛してくれると・・・・・一緒にいたいと望んだお前に。
私は・・・絶対に答えてやれないから。
だから・・いいんだ。








昼、カガリはアスランとイザーク見送りに・・城の外へと出た。

「・・・じゃあな、お前ら。頑張れよ。」

そう言うと、イザークに「当然だ」と罵られる。

「・・・君こそ・・・頑張れよ。」

キュンと胸が締め付けられるのが分かる。
頑張れよ・・・・この人は既にもう頑張りすぎているのに・・俺はこんな言葉しか駆けられないのだ。
それに・・俺は・・・
"離れたくない"
もう・・起きてから、そればっかりが脳を支配する。
離れたくない。
花より・・・・・何より。

俺は・・・

「・・・・皇子は・・いや、プラントの王もこれから即位式などで忙しくなるだろうしな、ほんと頑張れ。」

君といると・・落ち着いていたんだ。

「ああ。」

そんな事・・気が付いたって・・どうしようもない事なのに。
ただ・・毎日顔をあわせていただけで・・・・・・気持ちが凄く軽くなっていたのに。
プラントに・・戻ってしまったら、俺は・・・・。
また、何にも執着しない人間に戻ってしまう。

「・・・出ないのか?」

そうイザークに尋ねられて、でも・・名残惜しくて、金褐色の瞳を見つめていた。
「しょうがないな、お前。」

そして・・インナーの中にあるネックレスの石を手繰り寄せて、首から紐ごと外して目の前に出される。
赤い・・石。

「餞別だ、プラントの王になる・・・・・・・アスランに。」

"アスラン"
初めて、名を・・・・・呼ばれた?
そして・・それを受け取り・・首にかけた。
キラリと光る赤い石を見下ろし・・アスランはカガリの頬に唇を寄せる。
ちゅ、そう音がして、イザークも・・カガリさえも眼を大きく見開いた。

「・・ありがとう。」

そう・・残してアスランとイザークは馬を走らせて・・・王都から、姿を消した。


きらきらと・・光を放つその赤い石を・・アスランはカガリ姫だと思うことに決める。
会議中・・、部屋、花の前。
どんな時だって・・・誰かの、他人の為に必死だった姿を眼に浮かべた。
国を思い・・子供を想い、花を愛でる姿。
夫の・・話をするときの、酷く切なそうな、幸せそうな顔。
ちくりと胸が痛んだ気がした、だが・・・・これがあれば俺は・・まだ、
頑張れる。----------そう、思えた。









「・・・・貴様・・思い出したのか?」
「---・・?何を?」

道中・・イザークにそう尋ねられ、アスランは何のことだと頭を捻る。
思い出す?
何を・・・・・・?

「カガリ・・・・・を、だ。」

姫?
そう・・考えていると、急激に頭が痛くなる。まただ・・・今日は・・頭痛薬飲んでない・・
なんで・・姫を・・カガリ姫を、思うと--------毎度頭が痛くなる?
考える方向をカガリ姫の事からその・・記憶へと切り替えるとフッと痛みは消えた。
「・・・まただ・・・・・・・また、彼女を・・彼女との事を深く考えようとすると・・頭痛が・・・・」
その様子を見てイザークは大きく溜息を付いて・・フッと笑みを零す。

「・・結局・・奴がいなければ、駄目らしい。」

その・・セリフはアスランに届かない。だが・・イザークは思う。
あの調子じゃ、記憶が戻らなくたって・・・・アスランはまた、あのお転婆な姫に恋をしてしまうだろう。
それはもう酷く容易に想像できるものだった。






「結婚式の服は・・っと」
鼻歌交じりで、衣装を選ぶミーアにハイネは少し切なそうな顔をする。
いや・・国的には、ミーアが聖母ラクスの代わりをし・・アスランの妻となる道は正しい。だが・・

「決まったか?衣装。」
「まだ〜〜!だって・・こんな可愛いの選べない!!」

連れてきたのも・・守ってきたのも、
自分だったのに。
「ねぇ?!ハイネは、どれが・・」
でも、
そう・・無邪気に微笑み、国の為に頑張ると言っていた、ミーアの意思を無視できるはずもない。

「そうだな・・うーん。」

まぁ・・いいか、アスランはミーアなんて範疇にないし、ミーアだってアスランの事恐がってるし。
そう・・・歓楽的に考えられる自分自身を、ハイネは結構好きでいた。








アスランたちがプラントに帰還した日の夜・・・ギルとラウは私室でチェスを打っていた。
酷く、コマの配置が違うチェス。
「・・・さて、王が帰還した。」
コトンと・・白のキングをラウは右に引く。白のナイトと共に。
「クイーンは・・どちらも駄目だった、まあ当然だがね。」
だが、と・・・・ギルはほくそえみ、ラウもまた笑う。

「結婚披露宴・・・・・楽しみにしているよ。」

ラウは・・ギルがそこで、黒のクイーンをいかようにもてなすかをとても楽しみだと笑う。
「・・・・あの、鉱山から取れた・・石だろう?ギル・・君の切り札は。」
「ああ。」
包み隠さず答えるギルに、ラウは苦笑を漏らした。
だが・・ギルも引くつもりはなくはっきりと答える。
「・・私の・・見間違え出なければ、アスラン陛下はどうやら・・あのカガリ女王より、餞別・・いや、形見、を貰ってきたようだ。」
それは・・王がオーブを、あの姫を気に入ったという事を刺す。
それを聞き・・ラウはマスク越しに眉を捻り

「だが・・此方の切り札とて、見過ごしてもらわぬようにしていただきたい。」

ギルは知っている。
ラウの切り札・・・それは、
群集の恨みだと。

だからこそ・・・・・・・





負けられない。










































































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あとがき
ギルとラウの陰謀スタート!分かりやすく表現できるか非常に謎。(見捨てないで下さい!!)
2006/05/21