コンコンッ、その音で眼を覚まし・・アスランは起き上がる。
「ぅ・・つぅ-------」
寝て・・少し頭痛が引いた気がしたがだが・・まだ痛いと感じながら、部屋の前に出されていた朝食を取る。
今日からは・・オーブの姫との、腹の探り合いになる予定だと小さく溜息を付いた。
ラクス返還、また食料の調達の話-------。
・・・どう考えても不利だろうとアスランは思う。
だって・・今プラントには聖母がいない、ならば・・オーブがその気になり能力者を増やせば・・あっさり折れてしまう。
だがこの城には余り人が出入りしていないし・・まず能力の気配も微々たるものだと感じていた。
部屋を出て・・フラリトと歩き出す。
・・・・・部屋以外、ほぼ記憶は鮮明に思える。
なぜ・・部屋だけあまり思い出せないのだろう。
たまたま・・一つの部屋の前に行くと喚く声が聞こえて、赤ん坊かと溜息を付いた。
子供は好きじゃない、喚くだけ喚いて・・何もしない。
そう考えていると、中からは忙しい声がする。
「ミボシッ・・あ、ホムラもっ----!!ちょっとはじっと・・」
ああ、ここの姫か。
随分と急がしそうに・・哀れだな。
そう、同情の念を向けていると・・ゴツンと大きな音がする。
「ぎゃッ!!!ミボシッ!!!!!」
そう・・母親まで嘆く声がして・・、何故か口から声が洩れていた。
「・・・・・大丈夫か・・?」
だって、今ゴツンって。
そう・・思って気が付いたらドアを開けていた。
「ミボシッ〜〜〜大丈夫か?痛かったろ?・・あぁ、泣くなよ、な?」
扉に背を向けて・・話せない子供と必死にやり取りしている人を見て、アスランは深く溜息を付く。
そして今更ながら、「何で・・開けたんだろう」と声に出して自分に問う。
「・・・・・?!・・ど、どうしたんだ?」
急な事に驚いて眼を白黒させた人に・・アスランは、もう一人・・母親譲りであろうその金髪の泣き叫ぶ赤ん坊を抱き上げる。
その子は少し驚いて・・でも、キャッキャと笑い、アスランの指をやんわりと掴んだ。
「・・喜んで・・いる、のか?」
あまり・・笑顔を向けられた事の無いアスランは、その赤ん坊の笑顔に暫し見入る。
見たことがある・・・そんな気分になり、キンッと頭の奥が痛んだ。
だが・・目の前の赤ん坊は気が付かず・・ただその無邪気な笑顔をアスランに向けている。
「・・喜んでる・・凄く。」
小さく・・そう、呟いた方向を見ようとはしなかった。
だが変わりに小さく「そうか」と答える。
「・・よかったな、ホムラ。」
誰にも聴こえないよう・・カガリはひっそりと言葉をはいた。
暫くして・・アスランは、もう一人ミボシと言う女のこの方を見る。
「?どうした?」
「いや・・」
----本当に、似ていない。
姫と・・ホムラは金髪金褐色の目・・。顔立ちも何処となく似ている。
だが・・ミボシは・・。
「・・逆だな、深い藍色に・・翠の瞳」
「・・父親になんだ、ミボシは」
そう・・前聞いたことを言われアスランは「それは聞いた」と答える。
その言葉に、カガリは少し考えたような顔をして・・口に出した。
「・・・優しくて・・良い人だった。愛してくれた人だ。」
「夫にもなってくれないのにか。」
アスランの率直過ぎる言葉に・・ミボシの髪を撫でて・・姫は切なそうに俯く。
「・・ああ、優しい人だ。きっと・・たぶんだが、今も・・優しい人だと思う。」
薄っすらと涙を浮かべた金褐色の瞳にうかがうように覗きこまれアスランは息を呑んだ。
すぐに・・・ハッとして姫は目線を逸らす。
「・・・おせっかいで、馬鹿で・・どうしようもなく甘ったれでな。」
過去を、眺めるように遠くを見据え・・・うっとりとした顔でその頃を思い出しているようにアスランには映った。
だが・・時々酷く眉を潜めて悲しそうな顔をする。
「----・・やっぱり・・私は・・今でも、その人が好きだな。」
晴れやかな笑顔を・・こちらには一切向けようとせず言われたセリフ。
アスランは・・その、顔を横から眺めていた。
--------?
キンッとまた痛んだ脳とは裏腹に、アスランはもやもやとした感じを胸に抱く。
そして・・ふと、なんで彼女は・・此方を向いて笑わなかったのだろうと、どうでもいい質問が浮かんで・・かき消した。
別に・・笑顔なんて。
そう、考えを正す。
いつの間にか・・会議に入り、アスランとカガリは対峙する容となった。
「食料なら・・ちゃんと調達してるじゃないか?・・・・プラント本国での去年分のデータなど・・始めて目にするぞ?」
「・・でしたら、今年分の不足と・・来年度の追加をお願いします。」
その・・言葉にカガリは顔を歪めアスランとイザークを睨む。
「・・・・では、高山が豊かなプラントにお願いしたい、・・・今年分、来年度の高山資源の調達を・・一割増やしていただこう。」
その、要求にイザークは頭を振り・・アスランも顔を顰める。
「・・お前らの不足分だって・・オーブの収納庫を漁る勢いだと、理解して欲しい。」
そう言われ・・イザークもアスランも口を噤む。だが・・それさえ約束すれば、プラントの飢饉は免れる。
「・・わかりました、では、プラントに戻った際、確認をします。」
「・・では次の議題だが・・・」
そうして続く会議に・・アスランは女なのに良くやると思っていた。
だいたい・・ミーアは紅茶と砂糖菓子を出すだけしか出来ないと思っていたし・・・。
でも・・この人は参謀と同じくらい使える人材なんだと納得する。
・・さすがは・・王妃、と、言った所だろうか?
そうして・・会議が終わりイザークもアスランも・・カガリも溜息を付く。
「・・茶にするか。」
そう・・切り出されあっさりと従った。
「・・子供は・・いいのか?」
そうイザークに尋ねられカガリは「ああ」と答える、今頃はきっとマーナが世話を見て・・ミルクを与えてくれているだろう。
だまって、紅茶を飲んでいるとアスランは「何の葉だ?」と聞いてくる。
「お!目が高いなお前、これはなオーブ原産の茶だ。・・沢山あるけどな。原産の茶なら。」
でも・・この中でカガリは最もこの茶が好きでいた。
「・・私はこれが好きだ。」
そう・・言う女性を見据え、アスランは考えごとをする。
アスランは・・もとより薬学が好きだが・・そうか、花や草はこうやって楽しむ事も出来るのかと思った。
そういえば・・あの白い花を目にするまで、観賞するものでもないと思っていたのだが・・全く自分は何処まで視野が狭いんだ。
自分に軽く突っ込みを入れ・・アスランはその茶をおかわりする。
「・・では、次何か送る機会があれば・・この茶でもプレゼントしよう。」
そう・・チラリと自分に向けられた笑顔に、アスランは改めて、何かを発見したような気分になる。
・・いつ、ぶりだろうか?心が軽くなる感覚は。
イザークは・・そのアスランを横目で見て、カガリに視線を戻した。
「「いらっしゃいませー!」」
そう、客に挨拶をするルナとメイリンを少し羨ましく感じる。
「・・ラクス?」
「働きたいですわ。私。」
そう・・だが、今は何より子供だと、ラクスもキラも考えていた。
分かっている、だが、一週間城にも戻れず・・この部屋の中にいるのはあまりに退屈でならない。
その意思を察してキラはラクスを優しく撫でる。
「・・子供生んだら、そのこと一緒にいっぱい、歩こうね。」
ラクスは・・ずっとプラントの大聖堂に閉じ込められていた、だから。
「はい」
僕が、どこまでだって・・連れて行ってあげるよ。
そう心で囁いて、ラクスのすべすべとした頬に軽くキスをした。
「・・----・・、・・。」
「どうしたんですか?イザーク。」
そう・・目の前で淡々とチェスを続ける相手に・・イザークの忍耐の尾と言うものも切れそうになる。
普通・・あれだけ、約一年はぐれた恋人に・・二日連続チェスだけはないだろう?
でも、いや、自分からどうこうするといのは・・少し厚かましい。
・・初めてのときは・・・押していたのは認めるが。
そう悶々としてシホを睨むとシホは何も分からないように瞳を瞬かせ、軽く首を捻る。
-----わざと、だろうか、その態度、その瞳。
そう・・躍起になり、イザークは行動に乗り出した。
「花?」
そう・・聞かれ、アスランは黙って頷く。
どうやら、花はアスランを良く思っていないらしいとその姿で判断が付いてしまう。
「・・-----あの・・花、好きなんだな・・お前。」
「・・ああ、心が安らぐ。」
初めて・・あの花を見ていると落ち着くという事を人にばらした。
本当なら・・そんなの変だと思う、だから・・隠していた。だけど・・
「・・私もだ。」
・・・きっと、彼女ならこう言ってくれると・・何となく感じていた。
部屋に入り・・夕焼けに染まる空をバックにその人はベランダに出て花の近くを歩き出す。
その・・姿に、アスランは思わず手を伸ばした。
よく分からない、自分でも。
届く距離でもないのに延ばされたては、酷く切なく無駄なものに思える。
だが・・振り向かれて、アスランはその手をパッと下ろした。
「・・お前も・・来いよ。そんな遠くにいないで。」
「・・・・・。」
崩れる。
そう感じたのは・・恐らく夢のせいだとおもう。
だから・・アスランはそこで、だまって・・花と戯れるその人を眺めていた。
「・・・え?・・そりゃ大変だ。・・で?」
そう花と会話する人、夢に・・似ていると薄っすらと思うと、また・・キンッと頭が痛くなる。
「・・---大丈夫か?」
そう・・遠くから投げかけられた言葉にアスランは答えられず・・パタンとソファーに倒れた。
意識がないわけじゃない。
だけど・・
あの・・光景を見ていたら・・もっと、もっと----
頭が痛くなりそうだ。
そう考えていると、フワンと身体に毛布を駆けられた事に気が付いた。
「・・すまない・・----」
小さく口にすると「きにするな」と声が返ってきたような気がした。
「・・・な・・何よ、これ・・・・」
そう目の前に運ばれてきた、とてつもなく大きい物体にミーアは眼をパチクリとさせた。
綺麗な・・石、透明で、今は夕方だから外の光と反響するように赤く染まっている。
「いやー、なんかね、必要らしいんだ」
そう・・ハイネは言い、ミーアは「何に?」と尋ねた。
「平和・・の、為かな?」
平和・・その言葉に、ミーアは少し期待を寄せる。虐げられなくて・・済む世界?
「・・どんな平和?」
そう・・きゅっきゅとマントを横から引っ張るとハイネはクスリと笑い、
「ミーアは勿論、他の女の子だって虐げられないのは当然で、それで・・」
戦争もなくなる。
その・・夢のような言葉に、ミーアは瞳を輝かせて、その綺麗な大きい石を見つめた。
「・・やあ、こんな所にいたのか?」
そう・・黒髪の、参謀と呼ばれる、ギル・・・だっけ?まあその男が聖堂に入ってきてミーアもハイネも頭を下げた。
「あの!・・これがあれば・・平和になるんですか?!本当に!」
ミーアは縋るようにその人を見ると、その人もにこやかに笑い
「ああ、だが・・色々前途多難でね。・・すまないね、君に・・ラクス様の代わりのようなことをやらせて・・」
「いえっ!私は・・・・」
平和になるなら、と告げると・・「そうだね」と言ってくれる。
「・・だが、国民の目と言うものも非常に大切だ・・だから、私は・・君に聖母のように振舞ってもらいたい・・その為の陛下との結婚だ。」
結婚・・・その言葉がミーアには重くのしかかっていた。
アスラン・・・・・冷たくて、恐い。
始めてあった時は・・あんなに、優しく見えたのに。
でも・・でも、
「・・それが・・平和になるため・・・・・なんですよね!」
そのためならば。
「ああ、・・陛下も、女子の差別はもう止める方向で行こうと、仰られていた。だから・・君が、この国の女性に光を与えてやって欲しい。」
その・・言葉に、ミーアは改めて・・此処にきてよかったと思う。
聖母の変わりに・・今差別を受けている人に、私が・・勇気を与えられる。
自分と・・同じような境遇に会った人に・・・・・私が
「はい!」
そう・・大きく返事をした。