「・・父が・・・・?」
そう・・横で、少しの動揺を見せ直ぐに、いつもの真面目な顔に・・・戻った相手を、イザークはサファイアの瞳で睨んでいた。
----お前は、誰だ?
何が、あったのだろう。
あれから。
あのときから。
一年弱前だった。
"忘れたくない"
そう・・涙を流した、奴を見たのは。
そしてアレから、徐々に何かがずれて行くような気がしていた。
「・・薬は・・---出来たのか?」
そう尋ねたのは・・イザークが戻ると平然とした顔で城を歩いていたアスランを見つけたからで・・
"カガリ"
そう・・それを"忘れたくない"と、泣いた顔で訴えた相手に・・少なからず同情したからだった。
「・・?何の事だ?薬・・・?治療のか・・?」
「違う!ふざけるの対外にしろ!!泣いていただろうが!!」
「俺が?----夢でも見たんじゃないか?」
「・・貴様ッ----・・馬鹿言え!」
始めは・・ふざけてだと思って、ちゃんと答えろと胸倉を掴み上げると・・アスランはイラ付いた顔をしていた。
「・・なんで俺がお前に涙を見せる必要がある?!」
「なっ!」
「・・ライバル意識するのは勝手だが-----・・俺が泣くはずないだろ?」
「・・カガリは・・ユラはっ・・!貴様・・っ」
「・・・・・?」
"何の名称だ?"
「・・・・・ッ」
忘れてしまった。
いともあっさりと。
それからだった、奴が・・アスランがおかしくなったのは。
「・・よ!イザーク、アスラン!!」
そうハイネから話しかけられ・・煩いやつだが仕事は出来ると見ていると・・アスランは素通りしてしまう。
一応、年上のハイネに気を使うと言う礼儀くらい持っていたはずだと見ると・・アスランは表情一つ変えず・・淡々と廊下を歩く。
「・・どーした?アイツ・・なんだか無愛想に拍車が・・」
「・・さーな。」
映っていないように見える。
あいつの目には何も。
確かに・・昔から無愛想な奴で、キラ以外の前では・・笑顔も見せはしなかったのに。
でも、あの時、飲みに言った時・・・お前は、笑っていたはずだ。
あれは・・
きっと、カガリのお陰だったのだろう。
-----もう、それがない・・お前は笑う事も出来ないのか。
ガチャンと戸を開き・・大聖堂に入ると、一人の少女がいる。
ピンク色の髪の偽者。
アスランの中では・・そう、定義されていた。
「・・アスラン・・?」
そう・・弱々しく声を出したミーアにも理由がある。
この人は・・始めてあった時酷く優しい印象を受けたのに、今ではまるで別人だと・・そう感じていた。
・・・所詮、この人も王族で・・女なんて、子供を産む為の道具としか・・思っていないんだ。
そう・・思えて、ミーアは泣きたくなってしまう。
まだ・・この国の国王に・・偽者だとばれてはいない。けど・・
もしも・・ばれたら?彼が・・ばらしてしまったら?
----私に命なんてない。
「・・紅茶飲む?それとも・・」
そうわたわたしていると・・アスランは顔を顰めて
「いや、一日に一度は顔をあわせるようにと父に言われたから来ただけだ。」
そうして・・振り返り、アスランは・・部屋に戻る。
この頃・・何にも興味をもてない自分が虚しく・・そして、それでも良いと肯定し出していた。
ただ・・父のいう事を聞いて、参謀達の意思を率先して・・する。
それだけでいい。・・・なんて楽な生活なんだろう。
そういえば・・つい最近、オーブの村を一つ焼いた気がする。
・・・まあ俺が焼いたわけじゃない、相手の炎使いとアスランの戦いが・・少し民家に飛び散って、それが原因だった。
でもどっちにしろ、焼く予定だったし・・まあ一件落着だと思う。
あの炎使いは・・本当に強かったな。
そうぼんやりとして、部屋にたどり着き・・顔が綻ぶ。
「・・咲いてる・・かな?」
いつだっただろう、あの種をまいたのは。
そう・・思って部屋に入ると・・やっぱりまだ蕾で、白い大きな花が、今にも開きそうなのに開かないでいた。
調べて分かったのだが・・これはオーブ原産の花の突然変異らしく・・大きさが数十倍ある。
小さい花の・・名前ならあるのだが、この突然変異の花の名前はまだない。
だから・・と、言うわけでもないのだが・・。
「・・カガリ。」
そう・・呼んだいた。
それはメモに・・殴り書きで書いてあった言葉からだった。
・カガリ=ユラ
・白い花
・金褐色
たしか・・こんな内容。
どう見ても・・アスラン自身の字なのだが、いつかいたかも良く思い出せない。
だが・・白い花、そして金褐色とは太陽の光の事かと思っていて・・それがカガリ=ユラだという事だと勝手に解釈した。
だから・・カガリ。
「おおきくなったな・・」
この花と・・向かい合っているときだけ嫌に落ち着く。
何本かある花に手を添えて・・話しかければ、その花は何かを語りかけてくるような気さえ覚える。
そして・・水をやって・・その花と、時が止まったように見詰め合っていた。
うとうととしだし・・眼を閉じる。
"アスラン"
「・・・また・・君か?」
そう・・寝言を言い・・夢の中へと引きずり込まれてしまう。
場所いっぱいに咲いた・・白い花に囲まれる、・・一人の人。
顔も・・見えないし・・見ているはずなのに、何も分からない。
ただ・・ヒトとして存在しているであろう者にアスランは・・いつも夢で逢う。
たぶんこの白い花の・・蕾が、はっきりと出てきてからだと思うのだが・・・・。
誰だか分からないその人は・・いつも花畑の中にいるのに、アスランはそこには入れない。
それも・・いつもの事で。
だから・・無理に入ろうとせず、花と会話するその・・人を眺めては、微笑んでいた。
----なんて美しい光景なんだろう。
人の存在しか理解できないアスランにも・・その場所は凄く神秘的に思えてならなかった。
そしてその人は時々、此方を向いて・・手招きをする。
「・・呼んでるのか?」
でも-----これ以上は入れないんだ。
入ろうとすると・・夢が終わってしまうから。
でも・・これも毎度の事ながら・・その人はアスランに手を伸ばす。
「・・触れたら・・消える、くせに。」
それでもと伸ばされた手に・・今日こそ、今日こそと・・手を伸ばすアスランは自分でも馬鹿だと思った。
掌を合わせるように手を出し・・パッと・・その人は消える。
ほら・・まただ。
言いきれない悲しさに襲われて・・花が、散って行くのを見る。
この世界の終わり。
崩れる土地。
俺が手を伸ばせば・・君は死んで、世界も死ぬ。
そう・・言われているような気がして、
また・・泣きながら眼を覚ます。
「・・葬儀には・・でないのか?」
そう・・イザークに尋ねられて・・アスランは「ああ」と短く答える。
「貴様の・・父、それも・・国王だぞ?」
「・・仕事だ、オーブに行く。」
「俺も言われている、だが・・親の葬式ぐらい出るのが・・」
「仕事に私情は関係ない。父が死んだ、そんなときに・・隣国で大国でもあるオーブに・・挨拶をしないわけにも行かない。」
「しかし・・ッ!」
「それに・・ラクスの話もある。」
ラクス・・それは、アスランの婚約者で・・親友に攫われて、未だ戻らないプラントの聖母の事だった。
そして・・ギルがいうに、国の活気を上げる為に・・偽者といえど結婚披露をするべきだと言われている。
だが・・クルーゼが言うには、どうやら本物の方がずっと良いと言うのだから・・まったく板ばさみのこっちの身にもなってほしい。
「・・・まあいい、お前も言われているんだろう?---行くぞ。」
「・・ああ、」
そうして、二人は・・オーブへと馬を走らせることになる。
その・・様子を、会議場で見下ろす者が・・二人いた。
「・・さて、君と・・私の賭けは、どちらが勝つと思うかね?」
「・・それは・・・・皇子、いや陛下しだいだよ・・ラウ。」
そうして・・ギルはある資料を手にする。このプラントは穀物はまるで取れない国だったが鉱山資源だけは嫌に取れる国だった。
もちろん、アビリティ・ストーンの原石だって。
「君は・・白のクイーン待ちだが・・私は、白でも黒でも・・どっちでも構わないのだよ。」
それ以外、それ以外のものは全て揃った。
「ほう・・・また、何か面白いものでも、ギル?」
そう・・話していると会議室に兵が数人やってきて敬礼をした。
「デュランダル様!仰せの物を大聖堂にお運びいたしました!!」
ギルはひっそりと微笑み、ラウも・・これからどうしようかと、微笑んだ。