第二十三章・・・大切な時間



ヘリオポリスの喫茶店の地下に・・なぜか、広い空間があるのは、突っ込まないでおきたいとキラは苦笑した。

「・・・なに---ここ。」

地下二階・・それも隠すようにあった階段にキラとラクスは驚く。

「ああ、ここキサカが作った訓練室。ほら、外でチャンバラなんてできないからな!」
「・・すごいですわ・・---」

そう二人が驚くのも頷ける、その地下室は大空洞で・・岩肌が覗かせる中幾つものランプがかけられていた。

「私も・・よくここでシンと手合わせしたんだぞ!」
「・・ま、俺の全勝ちだったけどな」

そう話す二人をキラとラクスは微笑んで見ていた。





「シホっ!つきあってくれ、手合わせ!」

そうカガリはシホを呼び二人で手合わせをする。
シホの使う武器は独特で、最初は戸惑ったが慣れてくるとやっと本来の手合わせらしいものになる。
そしてソレを見てキラはカガリの欠点を言いあげてカガリはソレを直すように剣さばきを巧くしていく。

「へぇー、前よりずっとマシになったな。」

感心したようにシンも声をあげて、入ってきたディアッカも口笛を吹いた。

「ディアッカ、俺たちも手合わせしよ!」
「"さん"をつけろ"さん"を!!」

そう笑いシンとディアッカも手合わせを始める。
そしてそれにまたキラは二人の欠点を言いあげていた。

「ディアッカ間合いに頼りすぎ!」
「シン・・速いからって雑に裁くと弾かれるよ!」

その的確な指示にシンはムカつきながらも確かにと納得する。
キラは眺めて・・一通り注意をするとみんなのために水を持ってきたラクスに笑いかけ皆で休憩をとることにした。

「ニコルは?」
「今、マリューさんのお手伝いで上にいますわ。」

そうしていると上からミリィも降りてくる。

「差し入れ、果物買ってきたの」

そのエプロン姿にディアッカはパァッと明るくなって、シホはその姿に呆れながらも笑っていた。
皆でワイワイとやっていると・・シンはふと家族を思い出す。
それほど・・気の許せる相手であると何となく思っていたのかもしれない。

「でもさーキラってホント強いよな。」

そうカガリが言い出して、皆でうんうんと頷いた。

「だって・・風操って飛んだんだ!それも・・一分以上!!」
「まれに見る天才?なんだよ、キラさんは」
「シン!お前なんで俺にはさん付けないのにキラには---」
「アンタが尊敬するに足りない人間だからよ。」
「酷いミリィっ!!」
「---食べながら・・口開けないで下さい。」

そう楽しげに会話を出来るこの時を・・尊く感じるのは・・間違っていないだろうと思った。
キラも・・カガリも。





そして夜になり・・・カガリとキラ、ラクス・・それとマリューとムウは次なる作戦を立てていた。

「・・・何はともあれ・・城を奪い返したい。・・だが、それをすると・・他の町や村がザフトのものに駄目にされるよな。」

王都を・・奪い返せば良いというものではない。地方も考えなければ・・・・。
王都で反乱軍が暴れれば、地方の者だって血の気立ち・・ザフトと争ってしまう。
だが・・アビリティ・ストーンを持たない一般人に-----それは辛いだろう。

「・・・じゃあ、地方に一人ずつ・・私たちの中から能力者を置きましょう。」

ヘリオポリス・アルテミス・オノゴロ----・・。

「重要な街は・・これだけかしら?」
「だが・・アルテミスはもう殆どザフト色だぜ?」

どの街にも十人ほどのザフト兵がいて・・だが、アルテミスはもう駄目だとムウは言いきった。

「あそこ、もうザフト軍の休暇を過ごす場にもなってきちまってる、---悲しいがあの街はもう駄目だ。」
「だが・・ザフトばかりと言うなら・・逆に王都が堕ちれば大人しくなるかもしれない。」

そう話していると、キラは

「・・でも、王都を落としたら・・次に助けてあげよう、女の子が・・沢山いるでしょ、きっと。」

その言葉にラクスも頷いて話を続ける。

「戦力的に・・どうですの?カガリ・・」
「イザーク・アスラン・・レイ。この三人だろうな。後の兵は・・まあ数あわせだ。だが---問題は参謀のギル。」

アイツは頭が切れる。

「早く・・捕らえるか何かしないと・・いずれ大変な事になると思うんだ。」

そう言うとマリューは考え込んで「まずは出方を伺いましょう」と判決を下す。

「じゃあ・・キラ、シン・・ディアッカは・・酷かもしれないが----・・」

そうチラッとソファーに座るディアッカを見るとディアッカは「ぜんぜん」と苦笑いして見せた。

「・・ムウさんは此処に残って・・オノゴロは・・あそこは殆どオーブの人間だ、
だからニコル、シホ---反乱に乗じて血の気が上がらないよう言ってくれ。」

「「分かりました」」

そうして決まり、決行は一週間後となる。

「カガリは・・・・?」
「私は・・王都に行く。折角城を奪い返しても・・王がいなければ話にならないだろう?それに・・街の者の協力も必要だ。」
「・・私は?」
「ラクスは・・キラと一緒の方がいい。だから王都だな。」

そう言っていると、ミリィは少し悲しそうな顔をしてソファーに座っていた。

「・・私、いつも重要な時役に立てない---・・。」

そう言った言葉にディアッカはポンと頭を撫でる。

「何言ってるんだよ、----・・待っててくれる人がいるから・・行って来られるんだぞ?俺達は。」

そう・・言われてミリィはコクンと頷いた。







「・・・---・・。」

あれから、アスランは他の兵と共に・・訓練に行くようになっていた。
三人ほどの面倒を見ながら・・だが、思考は一度だって現実を見ていない。
兵を王都の入り口まで送り届けて・・アスランは決まって同じ事をいっていた。

「すまない・・俺はまだ戦ってから帰る----だから、先に帰ってくれ。」

モンスターと戦う気なんて殆どなくて、でも・・

ポツポツと歩き出し・・決まった場所に付くのが何だか愚かだなと思える。


「ユラ・・」


"特別な所・・・。教えてやるよ"

そう・・言って連れてこられた花畑は季節を終えて・・もう草畑になっていた。


"キラも知らない場所・・、あ、秘密だぞ?他の人にも・・。"


君と・・俺だけの場所。

ここはモンスターが殆どといって良いほど出ない・・だから、此処でゴロゴロと寝転がるのはもう日課でもあった。


ただ・・

ここにくれば・・いつか、ユラに会えるような気がしていた。
・・・時間を共にした人、---考えを変えてくれた人。
認めて・・愛してくれた人に。

"裏切られた・・のだよ、ユラに----・・君は"

これが・・全て、偽りで・・・ユラに・・騙されて出来た感情だとしても------・・。







汗をかいて・・風呂に入って、自分の部屋へと戻りバフンと音を立てベットに寝転がる。

「・・アスラン」

怒っただろうか---・・と、いうか・・帰ってきちゃ駄目だ。
ギルの傍にいちゃ駄目だ。
アイツは・・お前を殺す気だ。

「・・死ぬなよ---・・」

そう・・呟いていると、ラクスが入ってきて・・少し頬の赤いラクスに疑問を覚えて質問をした。

「・・どうかしたのか?」
「いえ・・その、------・・キラと・・少し。」

その幸せそうな顔を見て・・カガリはいいなと心の中で呟き、ラクスと話していた。
部屋は二人ずつの相室で・・カガリとラクス、ミリィとシホ。ニコルとシン・・ディアッカとキラ。ムウと・・マリューは一人ずつ。

「私・・知りませんでしたの、今まで・・世界がどうなっているか。」

そう・・語り出した彼女に、カガリは黙って耳を傾けていた。
キラが連れ出してくれた、キラが見せてくれた。キラが守ってくれた。
今まで鳥籠で・・何処にもいけなかった私に翼をくれたと

「・・・私、・・---がんばりますわ、聖母ですもの・・人のために。今まで出来なかった分。」

そうして・・愛しそうに眼を細める姿は・・きっと、キラを想っての眼だろうと想った。

「・・ラクスは・・ただ一人と、幸せになりたいとか・・思わないのか?」

キラと・・そう思って聴くと、ラクスはクスリと微笑んだ。

「・・世界は自分の為にあり・・また、自分は世界の為に存在すると・・母と父に言われましたの。」

ですからと・・綺麗に微笑んだ人に・・カガリは言い知れぬ敬愛を感じる。
------さすが、聖母だ。
カガリも・・聖母だが、・・人を束ねるぐらいしか脳がない。
この子は・・いるだけで癒せるのだと、思った。

「凄いな・・ラクスは・・---」
「いいえ、私は・・カガリさんのほうが・・ずっと凄いと思いますわ。」

そう・・言われて、カガリは頭に?を飛ばして・・それを見てラクスは微笑んだ。

「国を見れば分かりますわ・・カガリさんがどれほど優れた人格をお持ちの方なのか・・」
「・・国民が・・凄い、私は全然だ。」

その・・健気さが凄いのですと言おうと思ったが止めておく。
だが・・本当に凄いと思っていた。

自分と同じような立場の人が・・ずっとずっとがんばっていたのだ。

そう・・思うだけで、ラクスは自分も強くなれるような気がした。

































































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あとがき
キララクが羨ましいカガリを書きたかった・・
2006/05/07