第二十章・・・終わりと始まりの合図



「・・ユラ?」

王都の入り口は、本当に人一人いない。みな・・中央の処刑台のほうへ・・人は詰め掛けている。
ここに・・いるじゃないのか・・・?
でも半ば強引にイザークの言葉を理解していた事を思い出し、そこからその台を見た。
そして・・ふと、今日処刑される姫を思う。
一応・・アスランと同じ立場の人。どんな気分で・・戦後五年を過ごしていたのだろう?
逃げ腰?いや、そんな人間を・・人々は慕わない。それに、・・ここに初めて踏み入れた時、一人の少女が言っていた。


「いつか元に戻すから」


そう・・その姫は、国民に伝えていたらしい。

「凄いな。」

ポツリと言葉を吐いた。
女性なのに・・いや、女性だから?
ユラと・・少し似ているのかもしれない。自分の力で・・国を取り戻そうとした姫。
アスランが同じ立場なら・・そう、出来たか分からないから・・・----・・。
そう・・思って処刑台をみると、イザーク・・だと思われるものの前に、女性が歩いていた。
真っ白いドレスに・・輝く金髪。

「・・あれが・・・・カガリ姫・・・----・・。」

そうして・・ただ呆然と見ていると、その人は十字架の前においてある台に上り・・他の兵に縄でその十字の木に留められている。
----今、死のうと言う時・・国民に見守られて---彼女は何を考えているんだろう?
泣いて・・いるのだろうか、やはり。
処刑まで・・もう・・時間はない。



「カガリ様っ--------!!!!!!!」

そう・・悲痛な声が響く中、カガリは表情を作らず・・その場にいた。
紐で身体を固定され、イザークは親切からか・・腹にも紐を括ってくれる。
普通、火あぶりと言うのは、火で死ぬ前に・・手に巻きつけられた紐では体重を支えきれず、身体が落ちていき
そして、呼吸するのに使う横隔膜が使えなくなり、窒息死するのだ。
だが・・ここに巻いてもらえれば・・窒息死は免れるだろう。

「----・・いいたい事ぐらいあるはずだ、---お前の国だったのだから。」

そう・・呟かれて、ありがとうと返した。

「時間だ」

そう・・ギルの声がして、薪に火がくべられた。



「・・カガリ様っ・・!!カガリ様---っ!!!!」


嗚咽が混じる、国民の声に応えるように・・カガリは声をあげる。

「泣くなっ!!!オーブの意思は・・私一人がいなくなっただけで消えたりしない!!!!」






そう・・王都全体に響く声に、アスランは身をビクンとさせた。

「・・ユラ?」

今・・遠くの方から・・ユラの声が・・。
そしてその声を辿り処刑台を見た。---あそこらへんからだった気がする・・・。
だが・・アスランからそこは良く見えず、かろうじて分かるのは・・火がつけられたという事だけだった。



「先代の王・・王妃・・、みなこうやって処刑されてきた---皆その時、絶望してしまった・・それでは駄目だ!!!」

そう叫ぶと・・国民はそれに反応するように返す。

「カガリ様がいなければ・・この国は--------終わって・・!!!!!」

「違う!!この国が終わるのは・・私の意思を次ぐ者が消えたときだ!!!」

そう・・公言するカガリに・・ギルは顔をしかめる。誰だ・・腹にまで縄を括ったのは・・と。
チリチリと・・音を立てて、炎が素足に触れ出し、カガリは顔を顰めるが、安心していた。
シンと・・ディアッカがくるはずだ。大丈夫。

「・・いいか!!私・・カガリ・ユラ・アスハは・・死なないっ!!オーブを再建するまで・・死なないから!!」

だが・・正直、イザークとレイ相手だと・・他の兵には手が回らないだろうと感じていた。
でも---・・。
そうやって、カガリがいなくとも、頑張ろうとする者がいれば・・--私の意思を次いでくれる者がいれば・・大丈夫だ。

オーブは・・滅びたりしない。






"カガリ・ユラ・アスハ"


そう・・言った声が、誰かと被るとアスランは感じていた。

---ユラ?

「・・姫は・・カガリ・・ユラ--アスハ・・。」

ユラ----・・。


まさかな。


遠いから・・声も何となく似て聞こえたんだろう。






チリリと・・音を立てて、カガリの着ている白いドレスに火が付く。
その瞬間だった。



ガッッ!!!!!!!!!!




風の音とは思えないほどの、風音に・・カガリ含め国民自体驚く。

そして・・何より驚いたのは、カガリの姿が消えていることだった。
だが・・直ぐに真上にいるモノに気が付く。
木の十字架の上に・・・立つもの。
鮮やかなアメジストの瞳・・そして、甘栗色の髪・・白いマント。
その・・天の使いのような・・・容姿に、国民は息を呑んだ。

「・・・いける?カガリ-------・・」

そう・・お姫様抱っこの相手に聞くと・・コクンと驚きながら頷かれ、キラは笑みを零した。

「キラ・・貴様・・貴様まで!!!?」

そう・・叫んだイザークをキラは無視して風を起こす。
攻撃の為ではない・・逃げる為に。
キラはすぐさま足元・・・それも一箇所に集中して竜巻風を起こし・・中に舞う。当然カガリと共に・・。
白いマントと、純白のドレスがまるで翼のようにも思える。

「・・くそ・・---追えっ!!!!」

そう・・命を下したイザークは内心混乱していたが・・プラントの為と割り切る。






「・・・まさか。」

あの・・術の使い方・・あの、素早さ-----・・

「キラ・・・・」

そう・・呆然として、イージスを構えると、目の前に・・それらは飛んできた。
そして・・その、キラらしき人物が抱き上げている、カガリ姫の姿も・・より正確に目に映される。


「-------------・・ゆ・・・---ら・・。」


パタンと・・自分の前に舞い降りてきた、その・・天使のような人たち。
アスランは・・ただ、息を呑んだ。




「・・大丈夫?カガリ----・・」
「ああ・・キラ・・」

あまりの驚きに・・カガリは目の前で呆然とする相手に気が付かず弟の顔を見ていた。

「まさか・・お前が来るなんて----驚きだ。」
「まあね、---あ、ほら・・これ、取り返したよ。」

そういわれて出されたものは・・赤い石の付いたネックレスと・・ルージュが収納されている腕輪だった。

「ありがとう、キラ---・・」

そう言って直ぐ・・キラは目の前を見つめる。

「・・キラ?」

そうカガリが尋ねて・・その、方向を向いた。


「-----------・・アスラン」


ズン・・そうお互いに何かを背負ったような気持ちになる。
でも・・ここで、のろのろしている暇は・・ない。

「・・カガリ・・行こう、イザークたちが追いついちゃう。」
「ああ・・---・・分かってる・・キラ・・」

アスランは動けないでいた身体をやっと動かし・・声をあげた。

「ユラ・・なんで---・・君が姫のわけが・・」

酷く・・情ない顔をしていると・・承知で・・でも----・・。
ユラが・・姫のはずがない。
だって・・ユラは・・


"お前を---ずっと、愛してる"


「・・私は・・カガリ・ユラ・アスハ・・だ。----ユラではない。」

「・・ユラ・・っ」

「・・カガリ・・いこう、---もうイザーク達が・・・」

「キラっ---どういう・・・・」


そう・・目があった親友は・・一度、哀しそうに微笑んで・・言葉を繋いだ。

「ユラはカガリ・・・もう、僕達は---君の傍にいられない。」

バッ!!!そう・・風が舞い上がって・・キラと・・ユラは姿を消した。


「--------・・ユラは・・---・・カガリ・・・?」



"アスランっ"



そう・・微笑んでくれたのは・・誰だったのだろう?

一夜を共にした・・あの、愛しい少女は・・?


「----・・ユラ?」


ユラは・・カガリ。もう傍にいられない。



「・・カガリ・・・・・?」











もう傍にいられない・・・その少女の---本当の名を呼んだ。































































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あとがき
山場なのに山場らしくないのは何故だろう?
アスランが唖然としすぎなのかも・・・。
2006/05/06