「・・ユラ?」
王都の入り口は、本当に人一人いない。みな・・中央の処刑台のほうへ・・人は詰め掛けている。
ここに・・いるじゃないのか・・・?
でも半ば強引にイザークの言葉を理解していた事を思い出し、そこからその台を見た。
そして・・ふと、今日処刑される姫を思う。
一応・・アスランと同じ立場の人。どんな気分で・・戦後五年を過ごしていたのだろう?
逃げ腰?いや、そんな人間を・・人々は慕わない。それに、・・ここに初めて踏み入れた時、一人の少女が言っていた。
「いつか元に戻すから」
そう・・その姫は、国民に伝えていたらしい。
「凄いな。」
ポツリと言葉を吐いた。
女性なのに・・いや、女性だから?
ユラと・・少し似ているのかもしれない。自分の力で・・国を取り戻そうとした姫。
アスランが同じ立場なら・・そう、出来たか分からないから・・・----・・。
そう・・思って処刑台をみると、イザーク・・だと思われるものの前に、女性が歩いていた。
真っ白いドレスに・・輝く金髪。
「・・あれが・・・・カガリ姫・・・----・・。」
そうして・・ただ呆然と見ていると、その人は十字架の前においてある台に上り・・他の兵に縄でその十字の木に留められている。
----今、死のうと言う時・・国民に見守られて---彼女は何を考えているんだろう?
泣いて・・いるのだろうか、やはり。
処刑まで・・もう・・時間はない。
「カガリ様っ--------!!!!!!!」
そう・・悲痛な声が響く中、カガリは表情を作らず・・その場にいた。
紐で身体を固定され、イザークは親切からか・・腹にも紐を括ってくれる。
普通、火あぶりと言うのは、火で死ぬ前に・・手に巻きつけられた紐では体重を支えきれず、身体が落ちていき
そして、呼吸するのに使う横隔膜が使えなくなり、窒息死するのだ。
だが・・ここに巻いてもらえれば・・窒息死は免れるだろう。
「----・・いいたい事ぐらいあるはずだ、---お前の国だったのだから。」
そう・・呟かれて、ありがとうと返した。
「時間だ」
そう・・ギルの声がして、薪に火がくべられた。
「・・カガリ様っ・・!!カガリ様---っ!!!!」
嗚咽が混じる、国民の声に応えるように・・カガリは声をあげる。
「泣くなっ!!!オーブの意思は・・私一人がいなくなっただけで消えたりしない!!!!」
そう・・王都全体に響く声に、アスランは身をビクンとさせた。
「・・ユラ?」
今・・遠くの方から・・ユラの声が・・。
そしてその声を辿り処刑台を見た。---あそこらへんからだった気がする・・・。
だが・・アスランからそこは良く見えず、かろうじて分かるのは・・火がつけられたという事だけだった。
「先代の王・・王妃・・、みなこうやって処刑されてきた---皆その時、絶望してしまった・・それでは駄目だ!!!」
そう叫ぶと・・国民はそれに反応するように返す。
「カガリ様がいなければ・・この国は--------終わって・・!!!!!」
「違う!!この国が終わるのは・・私の意思を次ぐ者が消えたときだ!!!」
そう・・公言するカガリに・・ギルは顔をしかめる。誰だ・・腹にまで縄を括ったのは・・と。
チリチリと・・音を立てて、炎が素足に触れ出し、カガリは顔を顰めるが、安心していた。
シンと・・ディアッカがくるはずだ。大丈夫。
「・・いいか!!私・・カガリ・ユラ・アスハは・・死なないっ!!オーブを再建するまで・・死なないから!!」
だが・・正直、イザークとレイ相手だと・・他の兵には手が回らないだろうと感じていた。
でも---・・。
そうやって、カガリがいなくとも、頑張ろうとする者がいれば・・--私の意思を次いでくれる者がいれば・・大丈夫だ。
オーブは・・滅びたりしない。
"カガリ・ユラ・アスハ"
そう・・言った声が、誰かと被るとアスランは感じていた。
---ユラ?
「・・姫は・・カガリ・・ユラ--アスハ・・。」
ユラ----・・。
まさかな。
遠いから・・声も何となく似て聞こえたんだろう。
チリリと・・音を立てて、カガリの着ている白いドレスに火が付く。
その瞬間だった。
ガッッ!!!!!!!!!!
風の音とは思えないほどの、風音に・・カガリ含め国民自体驚く。
そして・・何より驚いたのは、カガリの姿が消えていることだった。
だが・・直ぐに真上にいるモノに気が付く。
木の十字架の上に・・・立つもの。
鮮やかなアメジストの瞳・・そして、甘栗色の髪・・白いマント。
その・・天の使いのような・・・容姿に、国民は息を呑んだ。
「・・・いける?カガリ-------・・」
そう・・お姫様抱っこの相手に聞くと・・コクンと驚きながら頷かれ、キラは笑みを零した。
「キラ・・貴様・・貴様まで!!!?」
そう・・叫んだイザークをキラは無視して風を起こす。
攻撃の為ではない・・逃げる為に。
キラはすぐさま足元・・・それも一箇所に集中して竜巻風を起こし・・中に舞う。当然カガリと共に・・。
白いマントと、純白のドレスがまるで翼のようにも思える。
「・・くそ・・---追えっ!!!!」
そう・・命を下したイザークは内心混乱していたが・・プラントの為と割り切る。
「・・・まさか。」
あの・・術の使い方・・あの、素早さ-----・・
「キラ・・・・」
そう・・呆然として、イージスを構えると、目の前に・・それらは飛んできた。
そして・・その、キラらしき人物が抱き上げている、カガリ姫の姿も・・より正確に目に映される。
「-------------・・ゆ・・・---ら・・。」
パタンと・・自分の前に舞い降りてきた、その・・天使のような人たち。
アスランは・・ただ、息を呑んだ。
「・・大丈夫?カガリ----・・」
「ああ・・キラ・・」
あまりの驚きに・・カガリは目の前で呆然とする相手に気が付かず弟の顔を見ていた。
「まさか・・お前が来るなんて----驚きだ。」
「まあね、---あ、ほら・・これ、取り返したよ。」
そういわれて出されたものは・・赤い石の付いたネックレスと・・ルージュが収納されている腕輪だった。
「ありがとう、キラ---・・」
そう言って直ぐ・・キラは目の前を見つめる。
「・・キラ?」
そうカガリが尋ねて・・その、方向を向いた。
「-----------・・アスラン」
ズン・・そうお互いに何かを背負ったような気持ちになる。
でも・・ここで、のろのろしている暇は・・ない。
「・・カガリ・・行こう、イザークたちが追いついちゃう。」
「ああ・・---・・分かってる・・キラ・・」
アスランは動けないでいた身体をやっと動かし・・声をあげた。
「ユラ・・なんで---・・君が姫のわけが・・」
酷く・・情ない顔をしていると・・承知で・・でも----・・。
ユラが・・姫のはずがない。
だって・・ユラは・・
"お前を---ずっと、愛してる"
「・・私は・・カガリ・ユラ・アスハ・・だ。----ユラではない。」
「・・ユラ・・っ」
「・・カガリ・・いこう、---もうイザーク達が・・・」
「キラっ---どういう・・・・」
そう・・目があった親友は・・一度、哀しそうに微笑んで・・言葉を繋いだ。
「ユラはカガリ・・・もう、僕達は---君の傍にいられない。」
バッ!!!そう・・風が舞い上がって・・キラと・・ユラは姿を消した。
「--------・・ユラは・・---・・カガリ・・・?」
"アスランっ"
そう・・微笑んでくれたのは・・誰だったのだろう?
一夜を共にした・・あの、愛しい少女は・・?
「----・・ユラ?」
ユラは・・カガリ。もう傍にいられない。
「・・カガリ・・・・・?」
もう傍にいられない・・・その少女の---本当の名を呼んだ。