あれから、何をするにも・・ユラはキラと一緒だった。
「キラっ」
「ユラ!」
・・・・・・・何だ・・この二人。
そう眉間にしわを寄せたくなってしまう。
この頃は平和で軍といっても得にする事もなくのんびりと過ごしていた。
そんな時は決まってキラとのんびりと話したり、王宮の庭を散歩するのが日課だと言うのに・・。
ユラは、ずっとキラと一緒にいるつもりらしい。
イライラしながら部屋で薬学の本を開き薬草と・・すり鉢なべなどを持って研究を開始する。
傷が一瞬で治る方法とか・・色々、戦術以外にも国の為にこうやった開発をしたいと思っていたからだった。
元来、男性には回復の能力が無い。
攻撃系の能力ばかり出て・・回復、増強の補助系の能力は女に出やすいのだ。
----・・・ラクスの回復の能力は、本当に素晴らしい・・が。
・・男だって別の方法で出来るようになれば・・別に問題ない。
アスランは女が嫌いなわけではないが・・頼るのは嫌だった。
自分より弱い存在、守っているはずの存在に助けられる。
・・・・それが嫌だ。
「・・・・・へー、キラの親友って・・・アスランなのか。」
「うん、王宮で倒れてるの・・助けてもらった。」
同じ部屋で暮らすようになって、五年間の穴が埋まっていくように思えた。
でも・・そっか、キラは・・皇子と親友なのか・・。
「----------いいのか・・?親友の事・・」
「・・大丈夫だよ、殺し合ったりしない道・・・探すんでしょ?カガリも」
そう微笑まれ「うん」と言うと「なら大丈夫だよ」と頭を撫でられる。
「・・私も・・アスランに逢いたいな。この国の皇子がどんな奴か知りたい。」
そう言うとキラは微笑んで「良い人だよ」と言って部屋に一緒に向かった。
「アスランー。いる?」
そう声をかけると直ぐに扉が開く。
「キラっ!・・・・・、とユラか」
そしてアスランは自分よりずっと小さいユラを見つめて顔をしかめてしまう。
「・・どうぞ。」
ぶっきら棒に言われて、カガリも眉間にしわを寄せた。・・こんな奴が、キラの親友?
そう思わざる得ない。
部屋に入ると流石は皇子と納得する綺麗さ、豪華さだったが・・薬草の匂いが充満していた。
「どう?進んでる、研究」
そう席について鍋を目の前にしたアスランにキラが話しかけると「まあまあだ」と返される。
「へー、勉強熱心な親友だなぁ・・、おいキラも見習えよ。」
「え〜、僕はこんなミリ単位の仕事は向かないって。」
勝手にソファーに腰を駆けて偉そうに会話するユラが何だか尺に思えてアスランはキッと睨んだ。
それに気が付いたのかユラもアスランを見て、そして近づいてくる。
「今・・何の研究をしてるんだ?」
そういわれてアスランはあからさまに眼を逸らして、薬草を切り分けた。
「・・アスラン?」
不思議に思ったキラは問うように見て、機嫌が悪い事を察する。
だが、そんなのお構い無しのカガリはアスランの開いていた本を取り上げた。
「なるほど。・・アビリティ・ストーンの研究か。」
その言葉にハッとしてアスランはガッと本を取り上げる。
この本にはそんな事・・一行だって書いていない、だが・・回復系のアビリティ・ストーンを作るのにこのページは不可欠なのだ。
アビリティ・ストーンは装備者の天性的なもので発動する。それだってラクスがいなければ話にならないが・・。
だが・・もし回復系のアビリティ・ストーンが作れたとしたら・・。
女に頼らずとも、回復が出来るようになり実践でも使えるのではないか。
そう、考えて・・回復薬草のページを開いていた。
だが・・その力を石に移すことは・・書いていないはずだ。
「・・・何だその顔?図星か?」
そう笑われてアスランはユラを睨むしかない。だがユラは笑って
「石に頼らなくたって、このページに書いてある薬・・調合しただけでも結構良い薬になりそうな気がするぞ?」
そう言って、ユラは勝手にアスランの書斎・・と言っても世界から集めた薬草が置いてある部屋に入り見て周る。
弄られたら堪らないとアスランは立ち上がり後を追った。
「・・おっ!こんな貴重なのもあるのか・・。」
ガラス瓶を手にとって眺めるユラにアスランは怒鳴ってしまう。
「・・ッ勝手に人の部屋を荒らすなっ!!!出て行け!!」
そう声をあげると、キラはまるでユラを護るようにユラに近づいて、ユラはアスランを睨んだ。
「・・ふん、これだって・・全部・・」
オーブからとれた草花じゃないか。
そう言いたくてカガリは瞳に涙を溜める。
今もっている草は・・春に綺麗に咲く・・オーブのシンボルともいえる白い花の芽。
育つと薬草としての効果が無くなるから・・こうやって早い時期に摘み取って干からびさせてしまう。
プラントは不作の地だった。何故かときかれれば・・カガリは明確に答えることが出来る。
・・・・パトリック・ザラが・・こんな土地にしてしまったのだ。
なのに、その代償を・・オーブで払った。
そして・・そこで手に入れた薬草を・・さも当然のように・・ここの皇子は使うのか?
そう思うとイライラして、でもここでそんな事を言うわけには行かないと思いとどまって、キラの肩をポンと叩いた。
「・・・帰ろうか、キラ。」
「・・・そうだね。」
そうやり取りをするユラとキラにアスランはグッと出てきた独占欲を抑える。
キラと親友なのは俺なのに。
弟だからといって・・・。
だがユラは此方を見て少し寂しそうな顔をする。
その顔が、やっぱりとういか・・キラに似ていてアスランは少し悪いことをした気分になってしまった。
二人が帰ってからベットに寝転がりゴロゴロと転がってうつぶせになる。
ユラが・・悪いわけではない。
五年間も離れていた兄弟とあえて・・嬉しいのは・・当然の事だと・・分かっている。
・・ただ。
俺は・・あの仲に入っていけない。
人付き合いは・・苦手だ。
---------それが出来ないから・・こうやって、ユラを嫌に思ってしまう。
「・・・ごめんね、アスラン・・いい人なんだけど。友達少なくてさ・・。僕とかとしか、あんま話さないから---」
「・・・ふーん・・・・・・・ま、そういうのって人それぞれだし・・」
部屋に戻ってカガリは自分が姫だった頃を思い出す。
私は誰とだって・・普通に話せた。
・・・・アイツ・・誰とも普通に話せないのか?
変な奴だと思いながらも、可哀相だなと感じた。
だって、友達一人なんて。
でも。
さっき見たアスランの書斎を思い出す。
あれは・・全部オーブのものなのに。
----------あいつが悪いとは言わない。けど・・。
悔しい。
沢山の人、植物・・・動物。
全てこの国に持っていかれたのだ。
命も・・源も・・・・・・・全部全部。
その怒りを静めるように、カガリは立ち上がった。
今怒ってどうする。
怒るべきは今じゃない。
今は・・・・・・・・身を潜めるべき時だ。
「そうだ、キラ・・・この国の聖母に会いたい。まだ正式に顔をあわせたことないから・・」
一度あわせたのは、アビリティ・ストーンに力を入れてもらった時だけ。
綺麗な顔の・・優しそうな人だった。
「うん、いいよ。ラクスって言ってね・・アスランの婚約者なんだって」
それを聞いて、カガリには手に取るようにパトリック・ザラの考えている事が見て取れる。
「・・・そうか、大変だな。その子も・・。」
そう呟いてその子の所に向かった。
「すまないが・・ユラ君を見なかったかね?」
ユラに謝るわけではないが・・申し訳なく思って部屋を出るとクルーゼ参謀に呼び止められ、頷いた。
「なら話が早い、君とユラ君、それにイザーク・・。国王陛下がお呼びだ、見つけて王室に来て欲しい。」
「分かりました。」
・・・手っ取り早い・・、謝りはできないかもしれないが・・。でも此方から話しかけるだけでも意味はあるだろう。
そう考えキラとユラの部屋に脚を急がせた。
「・・あ、アスランだ。」
「ほんとだ、どうしたんだアイツ。」
二人で顔を見合わせて、アスランは深呼吸をする。
「・・王が・・呼んでいる。・・ユラと俺を、だから・・」
言いながらアスランは自分が可笑しな事を言っている事に気がついた。
だからもなにも・・そうなのだから、普通に行けば良いだけの事なのに。
・・これだから・・・・キラ以外の奴と話すのは嫌なんだ。
変に作ろうとして・・駄目になってしまう。
「わかった、行くな。じゃあキラ、さっきの話は今度!」
「うん、気おつけてね。」
ユラはそんな動転しているアスランを気にもしない様子で隣に来て笑いかけた。
「嫌われたと思ってた。・・よかった、お前から話しかけてきてくれて。」
ニィッと笑ってくれて、アスランも良かったと安心する。
そして小さな手にポンと背を叩かれた。
「お前さー、さっきが素だろ?あんま作るなよ、こっちも疲れるしお前も疲れる。」
偉そうで、でもその全く皇子だという事に臆さない態度でアスランは嬉しくなる。
そうか、キラの弟だもんな・・。
--------・・素でも受け止めてくれるのだろうか、コイツも。
キラと同じように。普通の人として。
信じるに値するにはまだまだ時間が足りないように思えたが、でも・・きっと信用できると思えて笑い返すとユラも笑う。
「うん、そうそう。その感じがいい!!」
またパンパンと肩を嬉しそうに叩かれてアスランもまるで自分の弟が出来たかのように肩を優しく叩いた。
「・・・・さっきは・・悪かった、人見知りが激しいから・・」
「いや、うん。まぁ気にしてないし。驚いたけど」
許してやるよと、偉そうに言われて--でも・・今までアスランの前で偉そうにした事のある同僚なんていなくてちょっと新鮮に思えた。
王室に付くと既に王とイザークとクルーゼ参謀が二人を待っていた。
「「遅れました」」
二人でそう敬礼をして見せると王は何も言わず口を開く。
「・・・プラントの治安はもう大分改善したといえる。だから、お前達にはオーブに行って欲しい。」
その言葉に反応したカガリだが態度に出ないよう直ぐに隠した。
「・・あの国では今反乱軍が基地を作っていると言う噂もある・・恐らくオーブ軍の生き残りだ。」
アスランはもう負けたのなら素直に従えばいいのにと溜息を付きそうになる。
イザークもせいぜい猫が引っかく程度しか出来ないと高を括っているようで呆れた眼をしていた。
第一、あの国にはラクスのような聖母がいないからアビリティ・ストーンが作れないのだ。
それが無い以上、あの国はもうどう足掻いたって・・先は見えているも同然だ。
そしてイザークはハッとして王に言葉を投げる。
「・・それは・・一種の左遷・・でしょうか?」
「君らのように優秀なものがこの国にいてももう力を使う場は殆ど無い」
その王の言葉に確かにとイザークは頷く。実際彼は仕事熱心でやることがないと暇をもてあますのだ。
「安心したまえ、あそこには我が親友にして参謀のデュランダルがいる。」
そう誇らしげにいうクルーゼを睨みたい気持ちでいっぱいになりながら、カガリは堪えていた。
そして王も・・・。
「指揮は・・初めてだろうがユラに任せよう。」
「はっ!」
敬礼をして瞳をあわせる。
・・・・・睨んじゃ駄目だ。
例え・・お父様を殺したのがコイツだとしても。
ここでばれるわけにはいかない。
「アスランとイザーク・・この二人がサポートしてくれるだろう、それに兄弟のキラもつける。」
「ありがとうございます。」
「期待しているぞ、ユラ」
「喜ばしい限りです。」
敬礼を止め頭を下げて一歩下がる。
「・・・そういう事だアスラン・イザーク、各隊にこの事を知らせ準備し明後日の朝出てくれ。」
「「はっ!!」」
二人も敬礼して、アスランは残される。
「ラクス・クラインとはどうだ?」
「・・・・・・---それは・・」
どういう意味で?
そう分からない顔をすると父は怒ったようにアスランを見据えた。
「早くしろ、大事になるかもしれない。」
「・・・?」
そして・・今日、一緒に寝るようにと言われてしまう。
・・・・・・そんな事言われたって。
そう悪態を付きそうになりキラとユラの部屋に邪魔する事とする。
「・・・ラクスと寝るように言われたの・・、それはまた・・・」
キラは少し頬を染めてユラは眠たいようで顔に枕を押し付けていた。
「----早く・・といわれても、---困るよ、正直」
アスランは今まで女と言うものがどういうものか全く知らなかった。
ただ、外見では胸が膨らんでいて身長が小さいと言うだけ、それと補助系の能力があるという事だけしか・・。
それ以外本当に何も知らないのだ。
「どうするの?アスラン・・」
「・・・・・ディアッカに前聞いたんだが・・言っている意味もよく分からないんだ。」
ラクスとの婚約が決まった時、ディアッカは何かと教えてくれた。
そういえば・・よく王宮専用売女の所に行っていた彼だから、色々知っていたのだろう。
「----・・はぁ・・。」
そう溜息を付きユラを見ると微動だにせず枕にギュッと顔を押し付けている。
「・・どうかしたのか?ユラは・・」
「うーん、ちょっと眠たいみたい・・・・。」
「そうか」
結わえてある髪を撫でて「・・まだ小さいからな、ユラは」と微笑むとキラには仲直りしたんだねと微笑まれる。
「・・・もうじき食事だ、その時には起こしてやれよ」
そう言って部屋を後にする。
「・・・・・---カガリ・・大丈夫?」
カタカタと震えだしたカガリを目の前にしてキラは哀しくなって溜息を付いた。
カガリは・・女の子・・だもんね。
何だ・・この国は・・っ
アスランの言葉を聞いて沸々と怒りと悲しみがこみ上げていた。
まるで・・アスランの意思でどうにでもなるような・・言い方。
相手の子・・女の子の事をまるで考えていないじゃないか。
抱かれる方の気持ちが分かるのか?あいつは。
好きなのかも分からない・・相手に抱かれるなんて。
有り得ない。
なんて、恥辱的な侮辱だ。
「あれでも・・全然、良い方なんだよ?アスラン・・もっとモノみたいに使う人だって多いし・・」
フォローしているつもりだろうが・・・全然だ。
あれで良い方?
酷い子は・・何をされているか分かったもんじゃない・・っ
・・・・・女と言うだけで・・。
「-----・・アスランは・・たぶん、しないよ。きっと・・今までもそうだったから・・・・・。」
そうだとしても・・・。
酷い。
酷すぎる。
「・・・・・・・っ」
「王宮専用風俗店とか・・在るくらいだし、アスランそこにも・・いったことないし・・」
「・・・・・何で、王宮専属で・・風俗店なんて・・っ」
信じられない、この国は。
そして淡々と話すキラさえも睨んだ。
「・・・・・お前も・・っ・・行ったのか?」
「-----・・一回・・だけ。」
そう言った弟にカガリは思わず殴りを入れた。
「酷い事はしてないって・・っ」
「キラの馬鹿」
この国の男は信じられんと啖呵を切るとキラは哀しそうな顔をしてしまう。
「でもね、この国ではそれが日常なんだって・・。哀しいけど・・、僕は手出してないし・・。」
信じてという声と、これが日常だと教えられて少なからず衝撃を受けた。
だが・・王宮専属でそういう事が普通にある・・と、いう事は・・
「・・・・下町は・・?郊外は・・っ----もっと酷いんじゃ・・っ」
カガリにその酷い事の全貌は分からない、だが・・きっと酷いんだ。
そう思うと、涙が出そうで・・。ぐっと心に誓う。
「・・・・・・絶対に・・」
そんなの・・間違ってる。
--------壊してやる・・そんな、ふざけた行政。
あの国王は・・本当に理解しているのだろうか?
・・・・・・・今まで犯してきた過ちと、今起こしている過ちに。