第十三章・・・贋クイーン



「・・・・・-------・・はぁ・・。」

なんで・・こんな事になってしまったのだろう---・・。
そう・・考えながら・・ベットでスタンバイをしているラクスを見る。
結局---アスランはあれから返してもらえていない。
大体・・ラクスって・・こういう子だっただろうか・・・---・・?

「何やってるの?アスランっ!!・・折角こうやって待ってるのに・・」

いや、、違う・・絶対違う、そう顔を蒼くしながら、ラクスに話しかける。

「・・すまないが・・---・・俺はもう好きな人がいるし---・・何があったかは聞かないが・・---どうかしたのか・・ラクス」

そう・・尋ねるとベットの上で、ラクスはギュッと枕を抱きしめてみせる。

「・・アスランの婚約者は----私よ。」

そう・・父から言われた事を押し付けられ、だが---俺はもう、父上のいう事だけを聞いているモノにはなれないと口を開いた。

「-----・・だが、好きではない。」
「見れば分かるわよ・・そんなの。でも---」
「でもじゃない、好きでもない子を・・俺は抱けない。」

そう、はっきりと否定するとラクスは哀しそうに顔をゆがめる。
笑顔の・・ラクスしか見たことのないアスランにとっては少し衝撃的で・・でも、ラクスなのか?と疑問も浮かぶ。

「・・君は・・---ラクスなのか?」
「ええ、ラクス。ラクス・クライン。聖母のね。」
「・・・---・・では・・君は俺の知っているラクス・クラインじゃない。」

そう言って立ち去ろうとすると、その子はアスランの腕を掴んで離さない。

「・・・・まって!・・ラクスじゃない、けど、この国では私は"ラクス"なの----!!」

訳が分からないと冷たく見下ろすと・・その子は泣きそうな顔で、すがり付いてきた。

「聖母じゃない・・だから、私---あなたが傍にいないと、疑われちゃう-----・・!!」

疑われるも何も・・そう、嫌悪感を募らせてしまう。
・・他力本願すぎるだろう、余りにも。-----まったく女は。
そう・・思った瞬間ユラの顔が浮かびその考えを否定した。
女性が---悪いわけじゃない、ただ、この子が他力本願なのだと・・アスランの固定された考えを崩す。

「・・仕方ないだろう、君は---ラクスじゃないんだから。」
「分かってる---でも・・っ」
「離せ、---不機嫌だ、非常に。」
「嫌!!!!」

そう・・泣きながら訴える女の子を、蔑んだ目で見てしまう。
その子もその目に気が付きながらも・・口を開いた。

「・・・私は・・女だから・・、、、---此処から出されて----あの生活に・・・戻るのが嫌なの。」

あの生活。
それを聞いて、アスランの目に浮かんだのは売女達だった。

「・・ここにいれば・・幸せな生活が送れる---もう、あんな・・身体を売る生活は---嫌なの。」

そう・・苦渋を呑んだ目で見られて、アスランは何もいえなくなってしまった。
その生活を生んだのは、紛れもない---父、いや・・アスランの国なのだから。

「だが・・直ぐにばれる、君はアビリティ・ストーンも作れない。」
「・・今、プラントでは---新たな兵を募集してないって、ハイネが言ってたわ。・・よく知らないけど・・反乱軍が紛れてたからって」


だから・・・。


そう・・言われ、どうしようと考えてしまう。
---ここに・・一日いるなら・・別にいい。何をするわけでもない。

「分かった・・・が、俺は君に何をする気もないし、---・・・ただ、此処にいてやることしか出来ない。」

そう言うと、その子はパァッと眼を輝かせて「ありがとう」と微笑んだ。






「・・・此処は?」

何の変哲もない・・空き家の奥の部屋の床の下に、地下への入り口を開いたキラにラクスは大きく眼を開いた。
キラとラクスは・・プラントから逃げ出したように見せかけ、実際はまだプラントにいたのだ。

「・・平気、仲間がいる所だから・・・」

そう、置いてある蝋燭に火をつけてキラはラクスを地下に通し・・その扉を閉めた。

「大丈夫?足元・・」
「はい、あっ」

そう・・堕ちそうになったラクスの身体を抱えるとラクスは「すいません」と言い「いいよ、大丈夫?」と返していた。
何度かに渡り下って歩いてを繰り返すと、やっと扉の前に着く。

「・・---開けて、大丈夫。」

そう言うとラクスはゆっくりと扉を開けてその中に入った。
そしてキラも後を追う。

「----・・久しぶりだな、キラ。」
「はい・・キサカさん。」

そう・・久々といっても、キラがオーブに行っていた三ヶ月ほどだが・・それでも、長いように感じていた。
そして・・中に通されて、ラクスとキラは木造の椅子に腰掛ける。

「・・いい所に来てくれたな。」

そう・・二人にホットミルクを入れながらキサカは微笑んで、コトンとコップを置いた。

「・・・カガリに会いたいんです。」

そう・・キサカが口を開く前に、キラは真剣に口を開き・・今の状況を説明した。
聖母であるはずのラクスがザフト内で殺されそうになったと、そして・・アビリティ・ストーンについて何か知らないかと。
アビリティ・ストーンとは・・本当に不思議なものだと、小さい頃から思っていた。
つければ・・身体能力は上がるし、それに・・キラの場合風だが、不思議な能力を使えるようになる。
だが・・それの原理を・・自分達は知らない。
聖母である・・ラクスも知らない。


「・・・カガリ・・か、」

そうして・・キサカも、今オーブで起こっていることを・・キラに伝えた。






「・・・・ユラが-----・・オーブの姫・・だと・・。」

そう、息を呑んだのはイザークで・・ギルは淡々と説明を続ける。

「ああ、それで----私の命を狙いに昨日ここへやってきたのだ。・・結果はレイに負けて・・今は地下牢だが・・」
「姫は女だ・・ユラのはず・・!!!」
「・・ユラは・・女なのだよ、---いや、それだけなら良かったのだが・・在ろうことに、姫だとは・・。」

その・・真実を突きつけられて、イザークは顔を蒼くした。
ユラが・・姫?
どういう事だ?
・・・・・・・シホは?

「・・シホと言う・・カガリ姫が連れてきた者は・・?」
「・・・城から姿を消しました。」

イザークは嘘をつく、自分は知らないと。
----知りたくなんてない。
それが本心だった。
あの時・・爪を喉に食い込ませ・・でも、頬にキスをして去っていこうとするときのシホの哀しそうな顔が頭を過ぎる。

「---彼女も・・姫の仲間のようだ。」

そうなのだろう、----昨日・・シホは出て行き・・ユラは正体がばれた。
なら・・答えは決まっている。
シホは・・反乱軍の仲間の元へ返された。
---------・・そうだったのだ。シホは・・・。

「ディアッカの事に続き・・君も辛いと思うが----・・反乱軍の根は・・絶やさねばならない。プラントのために。」

プラントの為。
その言葉が・・イザークに突き刺さる。
そうか、では・・シホは"オーブの為"の道を選んだのか。
そう・・合点がいき・・イザークは哀しげに・・でも、決心した。

「・・・プラントの為、です。---分かっています。」

シホが・・オーブの為なら、俺は---プラントの為に・・働こう。
-----共に・・大事なものを・・護るため。

私情を犠牲にしても。
そうでなければ・・あの、シホの哀しそうな瞳には・・答えてやれないから。







「-----・・カガリが・・処刑!!?」

思わず椅子を逆さに倒し、バンと手を叩いた。

「・・・---ああ、---しかも公開らしい。」

そう・・口苦く零すキサカに・・キラは蒼い顔を向けてしまう。
公開処刑・・そんな事をすれば・・今まで、プラントと対抗する為に蓄えられてきた・・反乱軍いや、民衆の・・指揮が下がる。
そんな事になれば・・もう二度と、カガリの望む・・オーブへは戻らない。
そう・・理論的にはいえる・・だが。
弟であるキラには・・そんな理論より、まず・・カガリの身が大切で堪らない。

「・・おそらく・・反乱軍を動かし・・炙りあげるつもりだろうな----カガリを使って。」

殺すだけにも飽き足らず・・----・・戦力までもそぐつもりだ。
それが・・相手の言う一石二鳥だとして・・でも、

「僕は・・カガリを助けに行きます。」

炙りだされたって・・構わない。

「・・しかし、オーブにいる反乱軍は・・身元が知れ、掴まりやすくなる---分かるだろう、キラ。」
「-----・・僕、一人で十分です。」
「・・キラ---・・・。」

そう少し哀しそうな顔をするラクスに・・キラは微笑んだ。

「カガリは僕の姉だし・・オーブの姫、こんな所で死なれたら・・大変だよ。」
「私に・・お手伝いできる事は---ありませんか?」

健気に・・言われた言葉に、キラは優しく答える。

「・・・---・・オーブの為に・・唄を、作ってほしいな。」

君のその癒しの力で---・・、オーブが・・・国として元に戻れるように。
そう・・言うと、ラクスは「はい」と微笑んで、キラも微笑み返す。

「・・処刑は?」
「一週間後だ。」

一週間なら---余裕でいけるな。
そう感じて、だが・・現地での反乱軍とも顔をあわせねばと思い、ラクスをキサカに預ける事とする。

「・・僕は---オーブに行くから、ラクスは此処に」
「・・私も・・行きます。」
「けど」
「歌を作るのに・・その国を知らねば。」

そう・・強い目で言われて、キラは頷いた。







「食事だ」

そう・・言われて、持ってこられたものに・・カガリは一応だが礼を言う。

「・・ありがとう、レイ。」

相手は黙って・・そこに食べ物を置いて---珍しく、口を開いた。

「・・死に方ぐらい、選ばせてやる。」

そう・・いったのは、せめてもの人情だろうかと・・カガリは思って答える。

「そうだな・・痛くないのが良い。---・・だが、こういうのって火あぶりが王道だよな・・。」

魔女狩りのような風景を思い描きいうと、レイは「何が良いんだと聞いている」と行って顔を顰めた。

「じゃあ・・火あぶり。」
「じゃあって----・・」

溜息を付くレイに、カガリは微笑んで「死なないから、なんだっていいんだよ」と言うと、レイの顔は一気に険しいものへと変わる。

「・・ま、いいけどな。そうギルに伝えてくれ。」

死ぬことに・・恐怖がない訳ではなかった。
ただ・・私はまだ死ねない。
こんな所で・・死ぬことなんて許されない人間だと・・理解している。
もし、仮に・・この世に神がいるならば、そいつは私を殺さない。

だから-----・・

大丈夫なんだよ。

敗戦、オーブは・・沢山の人を不幸にした。
その罪は・・一丸に、カガリにある。
それを、---返済せず、死を選ぶものか。

醜くだって生き残って---私はオーブを再建し、人々をもとの状態に戻す。

そしたら---死ぬ事だって考えてやるよ。



その、余裕の笑みを見せ付けて・・レイは癇に障ったようで牢獄から出て行った。





「・・・オーブの姫が・・見つかった?」
「らしい、で・・お前一時的に帰れだと・・オーブに、その処刑の見張り役で。」

一時的?何故、そう頭に過ぎるとハイネは納得したように声に出す。

「ラクスが・・お前がいないと、嫌なんだと。」

そう呼び捨てにしたのに気が付き、アスランは眼を開いた。

「お前・・知って----」
「そりゃ、まあ・・あのこ連れ帰ったの俺だし・・」
「何で贋物なんて---・・っ」

そう・・口を開くと、ハイネは悲しそうに・・答えた。

「しかたないだろ・・、あの子---・・可哀相で見てられなかったんだから。」

売女---そのことを思い出し、アスランは口をつむいだ。
だが・・・オーブには・・ユラがいる。ユラの傍から出来るだけ離れたくない。

「・・・ま、---あの子はラクス様じゃない・・、それは確かで・・必ずばれる時が来る・・だが---」

そう・・ハイネは眉を潜めて・・でもと、

「・・恵まれなかったんだ、今まで---・・今ぐらい・・恵まれたって・・良いはずだ。」

そう・・哀しそうな顔をした、ハイネの心情に---アスランは気が付かないでいた。
































































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あとがき
ハイネさん・・密かにハイミアです。(笑)いや、結構?
2006/05/05