好きだとか・・愛しているだとかははっきり言われなかった。
が。
-----明らかに・・スキンシップが多すぎるんだよ。
不快になる気持ちを抑える事無く吐き出したくなる。
隣の相手に。
「ユラ。」
そう・・微笑まれて、なんだといつも通りに・・招かれて部屋に入ると、この間植えた白い大きな花が生き生きと更に伸びていた。
「おおっ!!凄いな・・才能あるんじゃないか!!!」
そう笑いあって・・いた、のに。
なんで・・急に背中に手を回すんだ。
今だけじゃない。
訓練で外に出る時も・・不用意なまでに・・肩に手を回す。
「なんで肩パット入れてるんだ」と聞かれて「ばれるからだ」と答えると・・哀しそうな顔をされる。
嫌だ。
---全部嫌だ。
そういう態度を・・取らないでほしい。
「---離してくれないか・・?アスラン」
突き放せない、そんな自分を悔やみたくなる一心で・・アスランに言うと、アスランははっきりと「嫌だ」と返す。
はっきり言わないのは・・アスランなりの優しさだろうか?
正直・・それだって、こんなことされると・・迷惑だ。
「馬鹿にしているのか?私を。---侮辱する気がないなら離してくれ。」
そう・・鎧も何もない----お互いの服越しの熱を感じながら言うとアスランは腕を離してくれた。
「・・俺がカガリを侮辱するなんて-----有り得ないだろう?」
そう・・哀しそうな瞳。---嫌なんだ。それも・・・・。
お願いだから・・もう、近づかないでくれ。
そう・・切に願い・・一歩また一歩と・・身体をアスランから離す。
瞳は合わせたままで。
だが・・アスランも・・黙って、一歩・・また一歩・・近づいてくる。
そして、、カガリが壁に付き・・あと四歩と言うところで・・アスランの足は止まった。
「------・・悪い。」
そう・・謝られては・・カガリは何も言えず、コクンと頷き返すしかなかった。
近づきたい、ユラをもっと知りたい。---自分を・・アスランを、もっと知ってほしい。
そう思う気持ちは・・日に日に増して行くばかりで・・。
でも・・それは駄目だと、思いとどまる自分もいた。
ユラは・・今は男でありたいのだと・・理解しているつもりだった。
差別される女性を助ける為に・・プラントで地位を築きたいのだろうと---思っていた。
王にも値する権力を持ち・・そして、その力を持って・・その蔑まれている者を救いたい。
ユラの考える事など・・大体はお見通しで・・でも、そうするには女であるユラを捨てなければならないのも事実だった。
女である事がばれれば・・全て終わってしまうから。
アスランと・・そういう関係になって・・---もしも、ばれたら・・それこそ終わりだから。
--------・・そう、分かっているつもりで・・これでも自分の気持ちを抑えていた。
抱きしめるだけなんかじゃ足りない。
唇を合わせたい、---女である・・ユラを見たい。
明るいのも、元気なのも君ならば、女である君も・・またユラなのだから。
信じられないほどの欲望に支配される。待っていられない、ユラの全ての面が見たい。
怒っているのも・・笑っているのも泣いているのも----・・恥ずかしがっているのも・・喜んでいるのも・・全部、全部
俺に見せてほしい。
そして---見てほしい。アスランを。
お互い理解して・・その上で・・----ずっと、一緒にいたいのだ。
いつか・・ユラが言っていたセリフを思い出す。
"いつかちゃんと結婚するぞ?"
"一番好きな人とずっと一緒にいたい・・。それって・・自然の摂理みたいなもんだろ?"
"お前は・・俺やキラと・・・一緒にいたいと思ってくれるだろ?それが・・もっとずっと強くなった感じなんだよ。"
その時のアスランには・・結婚なんて、有り得ない事だと思っていた。
結婚・・お互いがお互いを生涯ただ一人・・愛すべき人と決める事だ。
プラントでは・・その権利を女性は持ち合わせない・・。だから----結婚なんて殆ど有り得ない。
アスラン自身・・自分から女性を欲する事もなく・・だから尚の事有り得ない事だと感じていた。
けど、今。
生涯・・ただ一人愛したい人がいる。そして・・その人に・・生涯ただ一人と・・認められ、愛されたいのだ。
・・紛れもなく・・目の前にいる---ユラに。
ジッと見つめられる目線に・・思わず眼を逸らした。
駄目だと思った、吸い込まれてしまう。
お前を・・"好き"だとか・・"愛する"なんて事、私はしてはいけないのだ。
まして、男女間の話で---・・有り得ない。
やはり・・あの時、無理にでも押しのけて・・部屋を出て行けばよかったのだ。
そう---後悔しても遅く、じりじりと止まった筈のアスランの身体は動き出す。
来るな。
来ないで。
カガリは・・、オーブの姫だ。----国の為に頑張ると・・誓った。
何もかも捨てるのと・・誓ったのだ。
全ては平和になってから・・捨てたものを、少しずつ・・取り戻せばいい。
なのに。
捨てたはずの・・女が・・ここで帰ってきてもらっては困るんだ。
激しい感情の起伏に・・構っている暇などない。
・・私は-----・・オーブを・・再建しなければならない・・の、だから。
「来るな・・、アスラン----・・こないで・・」
弱々しい・・でも、はっきりとした声にアスランはショックと・・そして、懺悔の念を抱いた。
男であろうと・・、人のために頑張ろうとするユラの邪魔をしているのだ、アスランは。
彼女が大好きなのに---そのせいで、こんなにも・・ユラを追い詰めている。
ユラも・・アスランの事を---少なからず"好き"でいてくれているんだろう。
だが・・その望む未来のために・・押し殺しているのだ。
女としての・・ユラを。---・・人の・・為に。
そいう所が大好きで・・大好きで愛しくて堪らないはずなのに。
アスランは・・もう、ユラの身体を抱きしめて無理なキスをしていた。
啄ばんで・・試すように、そして・・欲望を満たすようなキス。
「・・や、やめろ・・---ッ・・止めて・・」
そう・・唇が離れるたびに、静止させる声を・・アスランは聞こえない振りをしていたかった。
頬に涙が伝って・・アスランはそれを・・哀しい気分で眺めてしまう。
愛している・・この人を、俺は崩すのか。
いいんだろうか・・それで----・・。
そう・・思って、キスを止めた。
「・・アスラン----・・」
濡れた瞳のまま見あげられて・・もう、理性が飛びそうなのにと思いながら・・しぶしぶ身体を離す。
ユラも・・安心したように涙を拭いて、そして深呼吸をしていた。
「・・ありがとう。」
そう・・礼の言葉に・・アスランは哀しくなってしまう。
"今は男でいたいんだ"と・・そう---断言されてしまったように思える。
でも・・俺は・・・・・。
そう言い返すことも出来ず・・アスランは黙って---部屋から出て行くユラを見送った。
急ぎ足で部屋へ戻り、いたシホを見つけて---なんだかもう、ぐちゃぐちゃな気分を暴露したくなった。
「・・・どうされました?」
そう・・優しげな声に、カガリは眉を潜めて涙目になる。
「ううん・・私---頑張るから。----オーブの為に・・頑張るから。」
シホは・・あれから夜何度か抜け出して行っている、バルトフェルトのバーで聞いたカガリ様の話を思い出していた。
王が殺され・・后が殺され・・---・・実の弟は行方不明。そんな時・・・・。
当時・・12歳のカガリ様は即座に・・参謀のキサカと一緒に・・動揺し堕ちて行く国を纏め上げたのだと。
群衆の前では・・涙一つ見せず。
"私も頑張る・・だから、皆もこの時を乗り切ってくれ"・・と。
最初、少数のものに"国を守り抜けなかった、お前ら一族が悪い"と罵られ・・でも、カガリ様は休む間もなく走っていた。
そして・・しばらくして、やっと国のものの殆どに認められ・・オーブの民衆が一丸となったとき、初めて・・涙を見せたそうだ。
悲しみの涙ではない。
"・・頑張ろう、これからだから---これから、私も今以上に・・頑張るから"
そう・・いって。
「・・がんばりましょう、カガリ様---私も、お支えします。」
でも・・本当はどれ程泣いたかわからない。
大好きだった国王・王妃が・・処刑され---しかも、あれは公開処刑だった。
シホ自身・・あれを見て、戦意喪失し----そして、王都から離れた所を・・奴隷として使われた。
あの時はまだ・・身体が子供だったから、そういう道には使われずにすんだのだ。
その処刑を・・カガリ様は・・見ていたらしい。
おそらく----その場にいた誰よりも・・・泣いていただろう。
イザークの事は・・好きだし---愛している。
それは・・シホの中で紛れもない真実だった。
だけど--------・・。
私は・・私の国を・・手放しにして、男の元に走るなど・・ありえない。
私が使えるのは・・生涯、この人だ。
そう・・心に誓って、シホはやっと元通りになったカガリに優しく微笑んだ。
「・・・私・・誰かから・・イラナイ存在だと---思われているのでしょうか。」
物憂げなその口調に・・キラは優しく微笑んだ。
そうすると・・ラクスも優しく微笑んでくれると・・知っていたから。
あれから・・毎日毎日・・キラはラクスに付きっ切りだった。いや・・それが任務でもある。
大聖堂に二人で・・他愛のない会話をし・・時々----・・キラはラクスを優しく抱きしめる。
だが・・・当然夜は部屋に戻るわけで・・その瞬間、いつもラクスは哀しそうにする事を・・キラは知っていた。
そしてまたその夜が来る。
「・・じゃあ・・僕部屋に戻るね。」
「はい---お気をつけて・・」
「うん。」
そう・・いつも通り、行こうとするキラに・・ラクスは瞳に涙を浮かべた。
「・・ラクス?」
そう・・振り返って、問うと---ラクスは、直ぐに微笑んで見せるが・・涙は依然そこに見えていた。
「哀しい事・・不安な事があるの?----・・聞くよ・・。」
そう言って・・近寄ると、ラクスは飛びついてきて・・その小さく震える肩をキラは優しく撫でていた。
「・・私・・前、キラが来る直前・・・・一度、ザフトのものに-----・・能力を使われましたの。」
そう・・静かに語り出すラクスに・・キラは眼を見開いた。
ラクスは聖母だ・・ラクスを殺せば、ザフトの強さだって---ないに等しい。
「その時・・なぜか、----その人たちは命をとる事無く・・去って行きましたわ・・でも・・・・---」
そうして泣き出すラクスを見ていられなくて・・キラはラクスに提案する。
「ねぇ・・ラクス。」
-----そうして、その提案に・・ラクスは驚いたが・・コクンと頷いた。
「・・・まったく、黒の女王は・・中々---厄介な事をしてくれるものだよ。」
黒のクイーンと隣り合わせの白のナイトそして黒のナイト隣り合わせの白のクイーンを眺めて・・ギルは深く溜息を付いた。
「・・・そうですね。」
だが・・ギルは既に・・微笑んだ顔をしたいて、それは・・また新たな案が浮かんだのだと・・、レイは理解している。
「白のナイトと・・黒のナイト-----・・なんて、どうだろう?」
その・・答えに、レイは「適役かと」と微笑んで答えた。