ユラにアスランはマントを渡して・・服を脱いでこれをかぶるようにと進める。
そして---適当な木を集めてそこに雷を落とし炎を作ってからユラは木陰へと入っていった。
その揺ら揺らとする炎を眺めて、アスランはあの日を思い出す。
ユラの横腹から火が噴出した時・・。
-----俺の、せいで。
そう・・思って焦っていたあの日。
ユラを寝かせたアスランは直ぐに服を捲り上げて腹だけを出した。
だが・・コルセットがついていて・・腰でも悪いんだろうかとか少し考えながら、シュッとその紐を抜き・・今度こそと腹に触る。
「・・・?」
だが・・そこにあったのは、腹ではなく・・布袋だった。それも・・水をかけたせいか泥臭い。
腰や腹に巻きついていたその袋を数個ガッと取り外して、その下にあった・・薄い布をごしに腹を見た。
痛々しいな・・。
そう---思ったのだが、それ以上に驚くことがあった。
砂袋を外すと・・異様に・・腰も---その他も細い。
いや・・そうしなくたって細いのに・・---実際は更に・・こんなに細いなんて。
腹だけを見ているアスランに・・その答えは出ず、すぐに腹に薬草を塗りつけて消毒した布を貼った。
思ったより・・酷くない、多分あの砂袋が矢の威力を弱めたのだろうと感じた。
スースーと寝息を立てるユラに微笑んでから、アスランはそれを元の体制に戻そうと考えて砂袋数個とコルセットの紐を取る。
「----随分と・・長いコルセットだな・・---」
普通・・腰につけるものだと思うのだが・・だがユラのは今服で隠れている胸にまで伸びている。
砂袋を適当な配置において・・コルセットを閉めようとガッと服を上にあげた。
・・・・・。
「え?」
薄い・・布越しに、はっきりと見えたのは二つの盛り上がり。
そしてその薄い布も・・キャミソールのように見える。
目が点になると言うのは・・まさにこのことだ。
「-----女、、、なのか・・・?」
そう・・疑問視してユラの顔を覗いた。
女にも・・見える、、気がする。
高い位置で結わえられた髪を解いてみると・・思った以上に長い髪は、どうみても----女の人だった。
---------まさかだ。
最初に来たのは、好奇心だったかもしれない。そしてすぐに困惑も訪れる。
腰に触れて、両手で掴めば・・もう手が届きそうで---それほど細い腰に、驚くしかない。
だが---寝ているユラを物色しているような気分になりすぐにコルセットの紐を締め上げた。
「・・・君は・・女だったのか。」
そう・・言ってユラの肩に付くほどの長さの金髪を優しく撫でると少し唸るような声がして、また静かに寝息を立てていた。
ユラは・・女。
そう・・考えながら、アスランはソファーへと身体を寝かせた。
違う・・ユラが、女なのだ。
ユラ=女ではない。アスランが・・アスラン=皇子ではないように。
ユラの一部分として、女と言うパーツがあるに過ぎない。
・・・いつも、ユラは俺に"そういえばお前・・皇子なんだっけ"という接し方をしてくれる。
・・ユラが、そうしてくれて---俺は嬉しかった・・なら・・
俺も、そうで良いじゃないか。
ユラが女だからといって-----もう、アスランとユラには譲れない信頼も友情もあるのだから。
そう・・思って、静かに眼を閉じた。
そして・・その日から、確実に・・何かが変わる。
ユラの・・行動行動が、以前にも増して鮮明で・・はっきりと映る。
少なからず・・アスランは"女"というものに差別の眼を持って育ってきた。だが・・ユラはそれを覆す。
兵に説教をかまし、モンスターをなぎ払い・・---まるで女らしくない振る舞い。
守られて・・ただ、生きているような、そう---教えられていた女とははるかに違う印象。
そして徐々に気が付いてくる。
女と言うものは、自分と同じ・・人間であり、考えがあり---それを実行する力も持ち合わせているんだと。
だが・・その力を、潰しているのは・・プラントの政治なのだ。
それを掻い潜るように・・少なくとも一般の女性よりはるかに力を持った者。それがユラなのだ。
ユラは・・嫌だったのだろう、女性が虐げられる世の中が・・そして、男になりすましてまで軍に入った。
力も弱い、身体だって小さい・・けど。
それでも、ユラは----その強い意志で、戦術を学び出来る限り戦力もつけてきたんだろうと。
・・・そう、考えているとユラはとても凄い存在に思えてきて・・でも、こうやってアスランの隣で微笑んでくれている。
それが嬉しくてしょうがない。---もしも、ユラが・・こうしてくれなければアスランは何も知らないまま父の政治を引き継いだだろうから。
だが、そうしているうちに・・・そのユラはずっと自分と共にいて欲しいと考えてしまう。
欲張りかもしれないが・・----・・確かにそう思うのだ。
傍にいて笑っていて欲しい、生涯支えていて欲しい。
そうした感情が少しずつ容を変えて・・また別の欲も出てくる。
本当のユラを知りたい。
そして、アスランを・・もっと知って欲しいと。
「アスラン?」
そう・・物思いにふけっていると、ユラが草陰からヒョッコリと顔を出して・・身体にはアスランの赤いマントを肩から羽織っていた。
干してあるユラの服に眼をやって・・ユラはアスランの直角の位置に腰を下ろす。
だが・・アスランはパンパンと自分の隣を叩いて傍に来るように促した。
「?、どうかしたのか?」
そう・・眼に炎とアスランを映してユラはアスランの隣に座りなおす。
そして・・アスランはすぐに、ユラの細い腰に片腕を回した。
「・・・ッ---・・?」
少し・・息を呑むような声がして・・アスランは、何も言わない。
ばれて・・いたのだろうか?
カガリの頭にはそれしかなくなっていた。
腰を触られては・・もう、分かってしまう。・・・男ではない細さに・・・・・。
伺うように、瞳を覗くと翡翠の瞳は優しく微笑んで見せた。
「--------俺は・・ユラが・・女でも、良いと思う。」
「・・・・え?」
やっぱり・・、そう感じているとアスランはゆっくりと瞼を閉じて・・そして髪にキスをされる。
カガリは何が何だか良く分からず、ただ、されるがまま濡れた髪を撫でられて・・そしてまた・・狭い肩にも前から腕を回された。
ギュッと・・鎧越しに、抱きしめられていて・・ただ---眼をパチパチと動かす。
「---アスラン・・・・・?」
何なんだ一体。
そう・・動転する気持ちと、恥ずかしい気持ちを---・・心の中で殺した。
「・・ユラに・・感謝しいてる-----俺は。」
そう言われ・・カガリはすぐに・・いつも通り微笑んでしまう。
女らしくもない笑顔。
「そっか、ありがとな。」
アスランは・・きっと誰にも言わないだろうと信じられるし・・。
そうして・・----悩む焦点を・・此方にずらしてしまった。
だが・・なんで、抱きしめたのだろうと・・さっきだって、人工呼吸にしては長く唇を付けすぎたと---・・。
感じていた、けど、それを聞くわけにはいかなかった。
私は今、女を捨てているんだ。
アスランにばれようと・・ばれまいと・・、ザフトでのユラは男なのだと。
---オーブでの、女の・・カガリに----まだ戻るわけには行かない。
オーブと・・プラントのために。そこに生きる人のために。
ただ・・"女"としての・・一時の感情に囚われてはならない。
「・・あら?---シンじゃない!久しぶり!!」
「本当はもうちょっと早く会える予定だったんだけどな---」
そう・・本当ならば、ミリィを此処に預けた時に会えるはずだったのだ。
ルナとも・・メイリン・バルトフェルトとも。
「そうだ・・メイリン、カガリが・・怪我したとか噂なかったか?」
メイリンは情報のエキスパートで・・自分の足で探したり、また客から話を聞きだすのが非常に巧いのだ。
「うーん、結構前の夜・・ザフトの人が負傷者抱えて、城に戻っていったのは聞いたけど・・」
それだと思い・・シンはあいたーと頭を掌で押さえる。
どうしよう、カガリに・・オーブの姫・そして王妃になるものが・・もしもの事になっていたら・・・。
「でも・・ちゃんと次の日から、その人たちちゃんと夜の訓練みたいなのに参加してるから・・きっと治ったんだろうね。」
メイリンはそう言って・・良かったと胸を撫で下ろす。
「それより・・なんだか不穏なニュースが流れてきたぞ?」
そう・・言って、バルトフェルトはシンに----少し、その不穏なニュースを教えた。
「ギルバート・デュランダル---?」
そう・・聞いて、誰だと頭を捻らせているとルナに「ここの復興大使・・で、プラントの参謀よ」と補完されて納得する。
「ああ、そいつが---・・少し、変な動きを見せているらしい。」
「変って・・具体的に?」
バルトフェルトの入れたコーヒーを啜りながら・・シンはそう尋ねた。
「・・・ふむ、なんでも・・彼は---オーブを元に戻したいらしい。」
「・・良い事じゃん・・それ、」
素直にそういうと、メイリンに「あのねぇ」と突っ込まれる。
「・・世論は簡単に動くかもしれないけど・・----・・その人を本当に知らない以上、信用するのは難しいの」
「・・・そうか?正しい事いってるじゃん、そいつ。」
「だ・か・ら!なんで・・プラントの大使が、国を裏切るような発言をしているかも---考えなきゃならないの!!」
そう・・言われたって、そっちにはそっちなりの事情があるのだろう、権力とか・・。
シンにはその程度の事にしか考えられず、でも---・・実際俺はオーブが元に戻ってくれればそれで良いと思っている。
「そしてソレからが面白い、---彼は・・カガリを探しているそうだ。」
「・・カガリを?----オーブを元に・・戻す為?」
「なら・いいが----・・カガリは・・聖母だ。その力を利用するつもりなのかもしれないな。」
「・・何に?」
「--------・・戦争に・・だ。」
そう話して・・そうなのかと、シンは納得する。
メイリンは物憂げに頭を捻って・・何かを考えているようだった。
「・・さて・・、----・・どうしたものだろう。」
そう・・悩ましげに発せられた言葉に・・レイは黙って、でもそれが答えだった。
「流石に---動いた方が良いと言うことかな。」
「・・・・ラウは・・どうしますか?」
「・・そうだね、ラウのことも・・考えないとならない。」
そう良いながら・・ギルは白のビショップを、摘まみあげた。
「・・ともかく・・王を摘む-------両方のね・・。・・まあ・・片方はもう・・詰まれているが・・。」
盤外の黒のキングを見つめてギルは笑みを零し・・また、白のキングを外す。
「だが・・キングになれる可能性のあるものが・・いるからね---そちらも・・潰さねばならない。」
「はい。」
なんならと、レイはギルに言う。
「君では・・駄目だろう、戦力は彼が上だ。・・彼に勝てる者は・・今、この城にはいない・・。」
そう言い放ち、すぐに「戦力ではね」とつけた。
「・・レイ、---チェスで・・一番、使えるコマはなんだったかな?」
その・・問いに、レイは静かに答える。
「・・白のナイトなら、黒の・・クイーンが潰すべきです。」
そう言ったのは、丁度ギルとレイの目の前にある盤面がそうだったのかもしれない。