第十三章・・・戦闘



隣にあるダークラウンの・・硬質ででも・・なびくような髪をさらりと触れると、相手はピクリと反応して見せた。

「・・起こした・・か。」
「・・はい---」

少しまだ眠たそうな声・・だが、此方を向いて・・そのパープルの瞳はやさしく輝いていた。
細長い指が、イザークの銀髪に触れそのくすぐったさに少し眼を細めると優しく微笑まれて抱き寄せられる。
自分の頑丈な首に・・しっかりと巻きついた細く白い腕。
イザークも背中へと手を回して、黙って素肌を触れさせあっていた。





「ディアッカたちの・・足取りがつかめたのだよ。」

その言葉を聞いて、思わず眉を潜めたくなるのを皆我慢し、会話に入る。

「アルテミス・・・の、ようだ。今彼らは。」

この王都の北に位置するアルテミスを地図で指して、ユラはコクンと頷いた。

「だが・・繁華街で殺しあうわけにも行かない。」

そう言うとギルは「分かっているよ」と頷いて、だからこそと付け加える。

「君らに・・どうにかして、捕まえてほしいのだ。反乱軍ともども---」
イザークはディアッカまで反乱軍扱いされるのが気に入らず我慢していた眉を、もうないほどに潜めてしまう。

「・・・ここ、使えるんじゃないか?」

そうアスランが言い出してその場所を見た。

「森・・?」

そこは、アルテミスと王都の間にある森。
「----そうか、アルテミスを封鎖して・・探そうとすれば、必ず逃げ出して・・隠れるようにこの森を使うかもしれないな。」
ユラも賛同し、話し合いは続く。そして重大な壁に行き当たった。

「だが・・相手の戦力も分からず、仕掛けるのは少し無粋だ。」
「・・ふん、怖気づいたのか。」

そう言い返されて、アスランはフイッと顔をずらす。
ディアッカと・・キラがいない。これは結構痛いことなのかもしれないとカガリは頭を痛めたが・・。
まあ・・その方が色々助かる事もあると開き直る事とした。
結局、他の兵に封鎖を任せユラとアスランとイザーク、それにレイも加わって、森で網を張ることとする。

アスランとユラ、レイとイザークに分かれて。

作戦は明日決行されることとなった。






「人・・相手か。」

ユラは実際・・人と対峙した事はない。
アスランと手合わせはしていたが・・それだって術は使わないのだ。
それが・・酷く心配でならない。

「ユラ・・今日は、少し本気でやるぞ。」

そう訓練の時に声をかけると「俺はいつだって本気だ」と言われ、それもそうかと溜息を付いた。

「・・ユラは・・まだ実際の人と余り対峙した事がないから・・」

そう、言って・・ユラの眼をカッと睨む。殺気を伝えるように---だが、いつもの様に行かずやはり敵でない者には辛いと思った。
ましてや・・ユラになど、本気で殺気を送れるはずもない。

「・・・やってみる。」

そう静かに言ってユラもカッと眼を開いてじりじりと睨みを利かせてきた。

「・・そんな感じだ。」

実際はもっと緊迫した空気になるから大丈夫だろうと言って、次の話しに入る。

「実際・・人が戦う時、思いのほか単調な動きになることが多い。素人ならなお更。」

そしてユラに戦闘パターンを教えていく。
相手の特徴を掴んで、どう動けば勝てるかと。

「たとえば・・ユラは感情が直結だから・・---動きが読みやすくなってしまう。」

そう弱点を突くと、ユラは不快に眉を潜めたが頷いてくれた。どうやら自覚があるらしい。

「だが・・キラもそうなんだが・・---アイツはそれを速さと術の応用力でカバーしている。」

キラは唯一Sランクを名乗る事の許された人間でもある。---・・実際本気で対峙した事はないが・・・。

「ユラも術は得意だろ?---そこでカバーするしかない。」
「わかった。」

そう真剣に頷いて、アスランも頷く。

「イザークは逆に・・剣術は秀でているが、術との兼ね合いが巧く出来ていない。」

そうしてレクチャーをして、ユラは頭では分かるが身体がついてくるか・・と声を漏らした。
ユラは・・頭も良いし、作戦立ても巧い・・だが。
身体能力の低さが・・どうしても、足を引く。

「-----・・剣術は仕方ないとしか・・言い様がないな。実際ユラの頑張りは目で見ているし・・」

力や、体重は・・やはり天性的なところもあるのだろうと思う。
ユラは嫌なようで、顔を顰めて・・でも「やれるだけやるさ」と笑った。







「今回は早いみたいね。」

そうマリューが口にして・・みなの意識が高まる。

「もしかして・・俺のせいか・・」

そう少し申し訳なさそうなディアッカをポンポンと叩いて慰めたのはニコルだった。
そしてどうするか話し合う。

「どうします?森にはいらないと・・街道で見つかりますよね。シンは顔・・見られていますし。」
「だが・・俺らもつい最近通ったばっかだ、あんま街道は・・。」
「大丈夫よ。---街道を通った人間を一々覚えてなんかないわ、周りは・・。」
「・・私は・・---・・」
「貴方は・・街道のほうがいいわ。カツラでも被ればばれないでしょうし・・」

問題はと、見られたのはシンとディアッカだった。

「この二人は・・無理ね、顔も知られてるし・・気配もある」
「じゃあ俺とシンは・・森でいい。」
「----僕も行きますよ。援護だけ、顔が見えないように隠れて。」

そう話して、シン、ディアッカ、ニコルは森へ・・マリュー、ムウ・・ミリアリアは街道で・・またヘリオポリスに移る事にする。






「・・・封鎖して・・もう、六時間経つな」

そうイザークが言ってレイが頷いた。
この森は・・二本道があり、こちらをイザークとレイが、もう片方をアスランとユラが見張っている。
ガサッと音がして、出てきた相手に・・イザークは声を失った。

「--------貴様・・っ」


ディアッカ

そしてその隣には・・この間捕まえたはずの黒毛で赤い目の少年。

「・・!!どういう事だ!!!!!」

そう・・イザークが問おうとすると、レイは既に剣を出し・・黒髪のやつも二刀を構えている。

「ま、こーいう事に・・なるんだろうな。」

そう・・言ったディアッカに、イザークは頭に血が上ってしまう。


「貴様あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


一瞬でデュエルをだし、ディアッカもバスターを構え受け止めた。
そして激しい切り合いとなる。
ディアッカは大剣、そして・・何よりイザークは剣術の得意な奴だった。

----くそ、早すぎて術も使えない。

そう思いながら素早いイザークの剣をただ止めていた。
そう・・シンが、闇の能力を使えば・・この場など一瞬で逃走できる。
ただ・・そうするには少し気を溜める時間が必要らしく、---シンをフリーの状態にもって行かなければならないのが難点だった。
だから・・一刻も早くシンにはレイと決着をつけてもらい、そしてイザークともども暗闇状態にして逃げる。
それが一番良い方法だと、話し合ったのだ。


何度目となく刃を合わせる相手をシンはキッと睨みつけた。
ガラスだまのような綺麗な目には、シンへの殺気で満ちているように思える。
だが---素早さは・・俺のほうが上だっ!!
そう判断して一気に懐に切り込むと咄嗟に剣の柄で肩を叩かれて怯みそうになる。
だが・・その時そいつの左腕を掴んで炎を送った。

「・・・っちぃ!!!」
「・・っぅ-----」

お互いはなれて、レイは直ぐに火の着いた箇所に自分の氷をつけ鎮めるが・・どうやら相当の使いらしい。
もう・・左腕は役に立たない。
レイは右手だけで剣を構えて、シンも打たれた左肩を庇って左手に持っていた小太刀をしまい、右手だけに直す。



「・・ッ!!」

さすが、イザークといった所だろうか、疲れを知らないようにどんどんスピードの上がるイザークにディアッカは術を使うことを決心する。

----本当は・・使いたくなんてないんだけどな。

そう・・心で思って、イザークが深く地面に足をついた瞬間飛び上がり、揺らした。
「っ---!!」
イザークも負けずと倒れかかった体制で・・バスターを避雷針として電気を集めて雷を落とす。





「・・・・・----・・あっち・・か。」
「そうみたいだな。」

イザークの雷が見え、ユラとアスランも立ち上がった。

「・・・ディアッカ・・だったりしてな。」
「しゃれにならないな・・それ。」

そう話して・・二人は走り出した。






五秒、イザークは自分の剣を使い何とか体制を崩さず・・ディアッカは避雷したバスターを瞬時で腕輪に戻し直ぐに出した。
・・・お互い、無傷のまま。

「・・・・-----・・許さん・・貴様。」
「・・許される・・なんて甘い事、考えてたらザフトに戻ってるさ。」

そしてまた・・刃を交えあう。






「・・あーあ、・・移動し出しちゃった。」

遠くから観察するニコルはカガリともう一人が動き出したのを確認して、空に向かって矢を放った。
これが・・援助がくると言う印なのだ。
それをして・・ニコルは誰にも見つからないように、シンとディアッカの戦闘場所近くまで足を運ぶ。
そして・・遠くからじりじりとしあっている、シンの相手に矢を放った。
その気を感じ取ったのはシンのほうが早く、直ぐにレイが逃げられないよう・・矢のほうにレイが背を向けたまま追い詰める。
そして・・ニコルの狙い通り、放たれた矢はレイの足に深く掠って地面に刺さった。

「・・・ッくそ!!」

レイは啖呵を切って、もう一度向かってくるシンに剣を構えるが痛みが邪魔をして・・そうもいかない。
だが・・カンッと金属質な音を立てて、レイの前に誰かが立っていた。

「・・---・・君は下がれ・・、此処からは俺がやる。」

そう---声を出したのは、アスランだった。




「・・・ッ」

アスランより少し遅れて戦場に来たカガリは思わず息を呑んだ。
よく知る者達が・・切りあっている。
そう・・思っただけで--哀しくて、でも---シンとディアッカを逃がさなければと考えた。
だが・・その瞬間、ガッと視界は暗くなる。
これがシンの能力だと知っていたカガリは怯むことなくいたが・・いつもより・・爪が甘い。
そう感じた。
術を練る時間が少なかったのだろう・・これでは---・・見えてしまう。
そう思っていると・・急に、イザークの「うっ」という声が聞こえた。
そして、パッと視界が明るくなる。
ソコには・・肩から炎上する・・・イザークの姿があって・・対峙していたディアッカも眼を見開いていた。
そして・・シンが消えている。
アスランは直ぐにイザークに水を流して、何とか炎上を止めたものの・・・そこには痛々しくもその痕が残っていた。





「・・・もういっちょ!!!」

そう言っていたのは・・ニコルの場所に移り、ニコルの矢を借りて・・そこに能力を託しているシンだった。

「・・考えましたね、シン。」

シンは矢の先端を触り、自分の炎の能力を存分にこめて敵に矢を放ったのだ。
そして・・もう一人、全く負傷していない敵がいる。しかも---そいつは此方に気が付かず、やけどした仲間に水をかけている。

----これをチャンスといわずなんと言うのだ。

そう・・思って、シンはもう一度その矢を放った。





「・・・・ディアッカ・・」

イザークの代わりに・・今ディアッカと対峙するのはユラで・・でも、ディアッカはもう知っていた。
ユラは・・カガリで、本当は此方の人間なんだと・・。
だから、少し笑い---殺気のない剣を交わらせていた。
カガリも分かっているらしく、適度に流し合っている。




だが・・ふと、嫌な予感が・・頭を過ぎった。

シンは---・・何処だ?

矢が在るという事は・・ニコルもいるはずだ。
そう・・思っていると、ヒュッという音が・・カガリの脳に響きその方向を教えてくれる。

----アスランだ。

そう思い、ディアッカとのカタチだけの交じえを止めて、一気にアスランのほうへ飛んでいった。


何故か分からない。

ただ、身体がそうさせていた。

アスランの前まで来て、急に止まれるはずもなく・・かといって方向を変えて剣を構える事も出来ないほどの速さで突っ込んでいた。


-------・・矢が払えない。


アスランの言葉を思い出す。

"ユラは感情が直結だから・・---"

・・・・・刺さる。
そう・・感じた時、すでに矢は腹に刺さっていた。
そしてわき腹から火が噴出す。



「・・ッっああああ!!!!!」


痛さに思わず悲鳴が洩れて・・ディアッカは唖然とし・・当然矢を放った本人のシンも呆然とした。
そして何より、目の前で・・焼かれている相手に・・アスランは大きく瞳を開く。

「ユラっ!!!!!!!」






「・・シン・・---今のうちですよ、逃げます。」
「でも・・カガリが・・ッ俺がっ!!!!」

「カガリは大丈夫です!!彼女の能力を忘れたんですか?!」

「でも・・カガリっ・・」


「ディアッカも早く!!!!!」




そうニコルは叫んで、シンの腕を引き・・ディアッカも走り出す。







「ユラ・・っ---・・」

アスランは直ぐに火を止めたが・・もうそこは人体の焼ける匂いが充満していた。
イザークの時より・・強く炎が送られたらしく、ユラのほうが・・ずっと、痛そうに見える。
レイは傷ついた足を引きずりイザークの燃えた肩の表面を凍らせて・・急いで馬に乗せていた。
アスランもいそいでユラに応急処置をして、意識が朦朧としているカガリを馬に乗せる。

そして・・急いで城に帰り、アスランは自分前に作った薬のなかにやけどに効くものがあったのを思い出して、それを持ち出す。


レイはイザークを運び、どうやらシホに預けたようだった。





「・・ッアス・・ラン・・?」

意識を取り戻したユラにアスランは情けなく顔をあわせてしまう。

「すまない・・今手当てをする」
「・・よか・・無事で・・---」

俺のせいだ、----矢に・・気がつかなかった。
そう思って、急いで服に手を掛けようとすると・・パンと払われてしまう。

「・・ユラ?」

「・・・---さわ・・るな・・、手当てなら・・自分で・・する・・。」

「無茶言うな・・!!---・・早く・・」



「触るな!!!!!!!!!」



ばれてしまう。
そう・・思った。

まず第一に・・カガリの腹に触るには・・胸まで続くコルセットをとり・・中にある砂袋を外さなければならない。
そんな事になれば・・女だとばれてしまう。
アスランはそのはっきりと拒絶された言葉に驚いて・・手が止まった様に見えた。

「・・大丈夫・・だから。お願いだから・・一人に---」

一人になれば・・回復の呪文が使える。だが、アスランがいたら・・それこそ女だとばれてしまう。
だが・・アスランはスッと立ち上がり、布に入ったあるものをカガリの鼻と口に押し当てた。

これは・・っ---・・。


この間・・私が教えた・・・・睡眠・・薬の・・---・・・



そう・・頭が回った瞬間・・、もう意識は途切れてしまった。































































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あとがき
戦闘シーン・・巧く伝わってないかな・・(文章力の問題・・?)
2006/05/03