「--------・・・大丈夫・・ですか?」
「・・ああ・・・・---。」
本当に何をしてくれたんだあの人はと悪態を付いて・・
誰もいない廊下で自分よりずっと大きな身体を抱えながらその人の部屋に向かう。
ギィッと扉を開き、・・だがその扉に手をかけた瞬間に何とか保っていたバランスの均衡が一気に崩れる。
ダンっ!!!
そう・・音を立てて、倒れて・・痛いと思いながらも酔って、睡眠薬まで飲まされたその相手に同情して、
なんとか立ち上がると相手は銀髪を床につけて寝息を立てている。
「・・ぜんぜん、大丈夫じゃないじゃないですか・・。」
声に出して言いながらも扉を閉めて、銀髪の人を担ぎなおしベットに向かう。
「うぅ・・」
「もう少しですから、痛くても我慢してください。」
かなりきつく腕を持ち上げていて・・きっと痛いだろうと思いながらも、なんとかベットまでたどり着く。
そしてそこに寝かせようと身体を離すと・・離れなかった。
「・・イザークさん。」
酔っているようで・・首に引っ張りあげて逆の肩から引いていた腕を離したのに・・逆にがっしりと肩を掴まれていた。
ベットに座らせて、その手を解くようにするのに一行に解けない。
サファイアの瞳は、閉じるか閉じないかで開かれていてシホはその瞳を覗きこんでいった。
「・・イザークさん、もう着きましたから。」
そう言うのに、相手は離そうとせずただボーっとしているように見える。
なんとか向かい合ってそれでも首に回される手のせいでやけに顔が近いと感じながらも、意識をハッキリさせようと諦めず話しかけていた。
「起きてください。・・---怒りますよ?」
「・・・--・・。」
「イザークっ・・----・・ッ!?」
急に、ふと・・押し当てられたそれに、シホは眼を開く。
ガッと押し返し顔を離すが、またすぐに・・唇を重ねられた。
しかも・・次は深く、中にまで。
「・・っん・・ぃ・・」
イザークさん・・・・そうとう酔ってるのだろうか?
そう・・思いながら、その感覚に酔いだして、舌を預けてしまう。
それをいい事に・・一向に貪る事を止めないイザークは・・フッと、急に・・・唇を離した。
「「・・・・・・・・・・。」」
きょとんとした、イザークの顔に・・シホは頭に?を飛ばす。
「・・・・・・・・・---・・すまん。」
呆然とした顔から出た一言に・・シホは思わず声を出して笑いそうになり、ぐっと声を堪えて背を向けた。
ひとしきり笑いを堪えて・・腹筋を痛くしながら振り返ると、イザークは背を向けている。
「すいません・・あまりに・・予想外の言葉だったので・・。」
笑いたくなる顔を引き締めて、笑った事を謝ると・・イザークは此方を一切見ようとはせず、またそれもイザークらしいとシホは部屋を出る事にする。
「・・別に嫌じゃありませんでした。だから・・気にしないで下さい。」
そう・・扉の前で声を駆けても・・イザークは此方を向いてはくれない・・けれど。
「明日も・・またチェスしましょう。」
そう残して・・去っていく。
その陰を追うことなく・・夜を眺めて・・---イザークはただ真っ白になった頭を必死に働かせていた。
「ここが・・アルテミス・・-----よね?」
そう言ったミリィの顔に・・明らかな恐怖の色が浮かんでいて、ディアッカ思わず肩を抱く。
「安心しろって・・俺がいるし。」
「俺たちだ、つうかアンタ馴染むの早すぎだ!!」
そうふざけているのなんて・・本当に、気にも留められないほど・・ミリィは硬直していた。
ミリィが売られた街・・あそこより・・風俗店が多い。
そう思っているとぎゅっと肩を抱く腕に力が入って、ミリィはディアッカを見あげた。
すると彼は、大丈夫だってと・・心配そうに微笑んでくれて・・ミリィも少し・・落ち着く。
シンは入り組んだ風俗店の道を歩き、それをディアッカとミリアリアは後から追う。
そして・・なんとか、細い階段を地下に下って、その場所に着いた。
「--------・・遅すぎですよ。シン!!!」
駆けつけてきたニコルに「悪い」と苦笑いをするシン・・そして、すぐに一行の目はディアッカに向いた。
「その彼は・・?」
そうマリューが聞いてきて・・これまでの経緯を説明する中・・ディアッカは考え込んでしまう。
勢いで・・付いて来たのはいいが・・。此処で受け入れられる可能性だって・・相当低い。
まぁ・・あのままザフトにいたら死刑だし・・それを思えば随分とマシか。
そうしていると、ムウと呼ばれる男性にポンと肩を叩かれた。
「うん、君採用!」
「まじっすか?」
なんとも早い決断にディアッカはビックリしながらもありがたく思う。
となりの綺麗な姐さん、マリューと呼ばれていた彼女も嬉しそうに微笑んで見えた。
ミリィも・・嬉しそうに覗き込んできて、ディアッカは少し・・照れくさい気分になる。
「僕はニコルです!宜しくお願いしますね、ディアッカ!」
自分より恐らく年下の彼は・・すごく礼儀正しく見えて、ディアッカも「おう」と軽く返した。
そして・・ディアッカが寝た後、ニコルは笑いながらムウとマリューに話しかける。
「簡単に・・決めましたね。」
そう、少し・・心配そうに言うニコルにマリューは微笑んで見せた。
「だって、彼もう立場ないでしょ?ザフトで----なら、此方にいてもらったほうが助かるし、彼にも良いと思ったのよ。」
「お互いプラスってやつだ。」
そう笑いあう二人に、ニコルも笑い・・それを片隅で聞いていたミリィも少し、嬉しくなっていた。
「・・あら・・?」
「・・どうも----」
・・なんだか、初めて面と向かって離すような気がする。
そう思いながらも大聖堂の中で、-------この国の聖母と顔をあわせていた。
なんどかアスランに付き添ってあったこともあるけど・・でも。
・・キラから話しかけたのも初めてで・・というか、今日は珍しく人がいないんだと感じていた。
つまり・・この広い大聖堂に二人きりなのだ。
「・・お怪我はしてないようですし・・---・・どう、されたのですか?」
「-----えっと、僕・・君と話しに来たんだ。」
「・・また、"反乱軍の手引きをしているのか"という話ですか?」
にこやかに・・でも、辛いような声に・・キラは眼を見張って、少し哀しくなる。
カガリが心配していた事が・・起きてしまった。
「ううん、僕・・ただ・・君と話したい。反乱軍とかじゃなくて---例えば・・」
君の歌う唄とか。
そう言うと、その子の顔は・・見る見る、晴れやかなものに変わっていった。
「・・貴方は?」
「キラ・・キラ・ヤマト」
そう名乗ると、その子は・・静かに・・でも、泣きそうに微笑んでその笑顔が・・たまらなく印象に残ってしまう。
「・・・ディアッカが・・----脱走だと!!!?」
そう・・朝一で叫ばれた言葉、ユラも・・アスランも、驚きを隠せなかった。
「ああ・・朝から呼び出してすまないとは思っているのだ・・だが、一刻も早く伝えるべきだと思ってね。」
そう・・どこか落ち着きのある面持ちの相手に・・ユラは少し眉を潜める。
なんなんだ・・コイツ。
それは・・もう、この城に来てからずっと思っていたことだった。
「・・・それも・・、脱獄者を連れて・・か。」
もう・・どう考えたって、死刑しかない。
アスランも・・仲間だった相手に、多少なりとショックを隠せない。
「私が対峙しました---・・。」
そうレイは言って・・イザークは何ともいえない顔をして、その場から立ち去ってしまう。
「・・彼は・・ディアッカと仲が良かったようだね。」
残念そうに言う・・ギルをカガリは眺めて・・---・・おそらく、此方に来たのだろうと推測し、悲しむべきか喜ぶべきか迷っていた。
--イザークには悪い・・が。
此方の戦力を減らせたのは・・大分ありがたい。
そう・・思って自室に行くと、シホはイザークの叫びに似た声が聞こえていたらしく、大きく溜息を付いた。
「昨日、バルトフェルト教官に会いました。」
そう言い出して、シホから近況を説明してもらう。
その間、カガリはシホの微量な違変に気が付いて・・質問をした。
「------何か・・あったのか?」
「少し。」
そう顔を少し顰めてから・・すぐに、シホは説明してくれる。
イザークと・・そういう仲になるかもしれないと。
「そうか・・私は止めないぞ?--お前が選んだ道を行けばいい。」
「・・・公私混同はしません。-------・・彼は彼、---選ぶ未来は・・また別です。」
ですが・・そう付け加えたシホは・・少し低く声を出した。
「・・いつかは・・和解できると、信じてます。」
「そうだな、そうなるように・・頑張ろうな」
そう微笑むと、シホも・・戸惑いの瞳を隠さずでも微笑んでくれた。
「・・心配ですので-----・・見て、来ます。」
「ああ、・・少しでも傍にいてあげられる奴がいたほうがいいだろうからな。」
「はい。」
そう言って・・あるいていくシホの後姿にカガリは溜息をついた。
----・・女らしいな・・シホも。
全く・・これっぽっちも女らしくない、カガリからしてみれば・・羨ましい事だった。だが---・・。
まだ、女らしさはいらない。
そんなもの---平和になってからで十分ではないか。
パンパンと頬を叩いて・・カガリは立ち上がって、首から下げてある石を見つめた。
お母様と・・お父様の為、国民の為。
私はまだ・・---このままでいよう。
五年前に決めた事。
私は・・男でも、女でもない。
ただの・・カガリ・ユラ・アスハなのだ。
私を縛るのは、国王という名称だけで十分だから。
そこに性別は関係ない。
王は国の為・・生きることが、当然なのだから。
それに不要なものなら・・たとえ性別だろうと・・捨てるさ。
たとえ、他の・・なにであろうと。
「綺麗だね・・此処。」
「はい・・そうですわね----大好きですの、ここは・・とても静かで・・」
大聖堂で二人きりで話していると、ラクスは時々泣きそうな雰囲気になることに気が付いていた。
「・・・でも、静か過ぎるのは・・寂しいよね。」
そう言うと・・ラクスは微笑んで、飲んでいた紅茶をコトンと置いた。
そして立ち上がり・・外を眺める。
「---外で、何が起きているのでしょうか?」
「・・・---色々・・ね。争いとか・・差別とか、・・哀しい事ばかりだよ。外は・・」
そう見あげて言うキラにラクスは近寄って・・「おしえてくださいな」と言ってみせる。
「・・でも、楽しい事少ないよ?ユラとか・・アスランとかの事なら、結構面白いけど・・---」
「いいのです、---楽しい事ばかりが・・世界じゃありませんもの。」
その言葉に頷いて、キラはラクスに淡々と見てきたこと・・聞いたことを話していた。
「---・・外は・・哀しいのですね。」
「うん・・でも」
「?」
「・・・此処は・・寂しすぎるよ。」
ラクスと話している間に伝わる事・・それは、彼女がここで・・寂しがっているという事だった。
そう言うと・・ラクスは哀しそうに・・また笑って、キラは何だか見ていられなくなってしまう。
「----・・先日・・、私は一度・・死にましたの。」
「え?」
急な話題の変更と、その内容に驚いていると・・ラクスは哀しそうに声をあげた。
「・・ここに居ろ・・そう言われて私は在り続けています。---・・ですが・・。」
寂しくて・・恐くて・・たまりませんの----・・。
初めて・・顔をゆがめたラクスにキラは思わず寄り添い抱きしめていた。
「大丈夫だよ、僕は君のそばにいる・・。ちゃんと護るから。」
そう言って、ラクスを支えるキラには慈愛似た・・恋が混じっていたような気がする。
「ユラ・・いいか?」
「ああ。」
入ってくるアスランを軽く招いて、コーヒーを入れると・・アスランは急にソファーで横になった。
「お前・・寝るなら部屋で寝ろよ。」
そう言うとアスランは「横になりたいだけ」と言ってごろごろとしだす。
最初会った時とは偉い違いだと思い・・信頼関係と友情が築けているんだと嬉しくもなった。
そしてわざとアスランの上に座りアスランは「苦しい」と顔をゆがめる。
「俺の部屋で寝るバツだ。遊びに来たならそれなりに遊んでから寝ろよな。」
そう笑いかけるとアスランも笑ってその状態で落ち着いた。
「それにしても・・ユラは身長が伸びないな・・あまり。俺が15の時は一ヶ月でも結構伸びたぞ?」
「成長なんて人それぞれだ・・仕方ないだろう?」
「そうだが・・やはり体重も軽いし----」
これでも・・5kほど砂袋を・・今だって腰やいたるところに置いてコルセットで縛り上げているんだぞ?
そう思って・・おもむろに、アスランの腰をつかんだ。
「なっ・・何するんだ・・イキナリ。」
---太い・・し、硬い。
太いといってもカガリと比較してで・・筋肉質で硬い・・。
私の腰じゃ・・全然駄目に見られるのも頷ける。
だが・・これ以上すると肩幅に見合わない太さになってしまう為・・これ以上の事は出来ない。
肩だって・・パットを入れて大きく見せているのに。
「いいな、アスランは---俺とは大違いだ。」
悔しそうにいうユラに・・アスランも考えてしまう。
なんで・・---ユラはこんなに細いのだろうと。
翌日・・朝から、ギルの所に集められる事となる。
だが、イザークが少し遅れて登場したのを・・アスランは不思議な気持ちで、カガリは確信をした瞳で見ていた。
---昨日、シホは部屋に戻っていない。
それがどういう事か、理解できないほどカガリは子供ではなかった。