「じゃあな、キラ・・・気をつけろよ。」
「ユラこそ・・、アスランもちゃんと面倒見てあげてね。」
「ああ。」
そう会話して、馬にまたがり数人の兵を連れてキラは颯爽と走り去っていく。
それを・・アスランと二人見送っていた。
「・・・・---入ろうか、ユラ。」
そう、無意識に手を伸ばして腕を引っ張って城に入る。
「----------・・え?」
「・・・。------・・何だ、その反応は。」
ユラの部屋で朝から四時間ほど対局して、イザークは話題を切り出した。
それに・・驚いたのは、シホで・・。
「・・・---・・いえ、その、なんというか---意外・・と・・いうのか・・・---・・。」
普段、冷静沈着なシホからは考えられないような行動、まず・・持っていたチェスの駒が落ちた。
そして・・・頬を、少し赤く染めている。
「・・・どうなのだと、聞いているんだ。」
シホは何度か瞬きをして、サファイアの瞳を覗きこんで・・コクンと静かに頷く。
「・・・・よし・・では、今日の訓練の後--迎えに来る。」
「はい・・お待ちしています・・----」
あの、イザークの口から・・二人で飲もうなんて・・・・・・----。
シホは不思議と赤くなる顔を冷ますように・・カーテンを開けてベランダに出て・・深呼吸をした。
ガチャンと戸を閉めてから、赤くなったのは・・・イザークで。
ディアッカから・・たまたま・・、美味いと評判のバーのペア一日タダ券を貰ったと言うのが真相で・・でも。
それを・・シホと行きたいと、望んだのは・・やはりイザーク自身で・・・・。
そう少し考えて、少し染まる頬を気にせず・・長い廊下を歩き出した。
「・・・そうだ、ユラ・・ちょっと部屋・・来てくれないか?」
「ああ。」
そう手を引きずられたまま隣り合って廊下を歩いて、アスランの部屋に入ると・・すでに薬草臭い匂いで充満していた。
「今朝・・やっと、即効で効く回復薬ができたんだ。」
そう嬉しそうにするアスランを横目で見て・・何となくカガリまでうれしくなってアスランの肩を叩いた。
「よかったじゃないか!!お前が研究熱心だからだな!!」
そしてその調合表を見て、こんな細かいのお前にしか作れないよと言うとアスランはまたうれしそうにする。
「ユラに・・見てほしかったんだ。・・・この間は酷い事を言ってしまったから・・」
「なんだっまだ気にしてたのか!?全然構わないのに・・」
そう話して二人で薬学の話しに没頭する。
ユラは・・何故か薬草に詳しくて、プラントの不毛の地で育ったアスランにはよい知識となっていた。
そして簡単な調合の仕方をユラに教えるとユラは嬉しそうに笑って、やらせろと声をあげる。
そうしているうちに夜となり・・ユラとアスランはいつも通り、訓練に出かける。
「・・そうだ、今日は・・特別な所・・・。教えてやるよ」
「・・・?」
「キラも知らない場所・・、あ、秘密だぞ?他の人にも・・。」
そうユラは微笑んで郊外でアスランの手を引いてテクテクと歩き出した。
「・・・・---誰だ。」
そうシンが咬むような言葉を聞いて誰か力を持った人が来たのだと・・ミリィも把握する。
すると・・ギィッと地下牢の扉が開いて、蝋燭をもった人の影が・・近づいてきた。
「---・・ディアッカ・・・?」
そう、顔を見てミリィは瞳を開いた。
あの時・・私が刺そうとした人。
出逢って直ぐ・・脚を触ってきた人。
でも・・・一緒に・・馬に乗ってくれた人でもある。
「静かにしろよ。」
そう・・一言、言って・・がちゃんと戸を開けられてミリィは驚いた。
「な・・え?どういう事よ・・でぃ・・」
「静かにしろって。」
そう小声で人差し指を立てて、ディアッカはシンの扉も開ける。
「----どういう・・事、ですか?これは。」
シンは小声でディアッカに聞き、ディアッカはスッとシンにブレスレットを差し出した。
「・・つけろ、---ミリィを護れ。」
そう・・短く言われた言葉に・・シンはコクンと頷いた。
そして誘導されるまま、ミリィとシンは城の地下の道を通る。
だが・・シンは直ぐに、ざわついた感覚に襲われた。
「・・あんた・・後付けられただろ?」
「・・・・え?」
「・・いるぞ。この出口に・・そいつ。」
そう忠告をしてやる。だが・・ディアッカは鼻で笑った。
「まー・・それも、運命でしょ。」
「・・・どうする気・・貴方・・。」
そうミリィが心配そうに伺うとディアッカはニッと笑って・・すぐ、外に出た。
「--------・・どういう、事、ですか?」
そう尋ねてきた金髪の少年に、ディアッカは「あいたー」と額を手で押さえる。
「・・・ま、ここは俺に任せて・・。お前らは逃げてくれよ。」
「・・えっ!?---ど、どういう意味よ・・それっ」
シンは黙ってミリィを引っ張って行こうとするのだが、ミリィはソレを許さなかった。
「あんたは・・あんたは・・--お尋ね者に・・」
「気にするなって、好きでしたことだし。」
シュッとバスターを出して、ディアッカは静かにレイに構えた。
「・・・---死刑は・・免れませんよ。」
「ああ・・・・---それも構わないさ。」
その・・やり取りを見て、シンは溜息を尽き・・だが、ニィッと笑って・・パッと手を出した。
「・・・------・・シン?」
そうミリィが尋ねた時、視界が・・暗くなった。
「え・・・?」
何処?-----何も・・見えない。
そうミリィが思っていると、ガッと腕を捕まれて走り出される。
縺れながらも走りぬくとある程度のところで視界は明るくなった。
「・・・---・・何が・・起こったんだ・・?」
ディアッカも・・どうやら引っ張られたらしく、ミリィとディアッカは顔をあわせて驚く。
「-------・・仕方ないだろ・・?--あんたら、馬鹿なんだ。」
口ではそう・・悪態を付いて、でもシンは満足そうに笑い・・北をさした。
「・・・行くんだろ、あんたも。もうザフトに戻ったって・・居場所ないんだから。」
「-------アルテミス?」
「ああ・・、この街にいたんじゃ・・見つかるからな。」
「俺も?」
「・・・・・・・行かないなら置いていくけど?」
「--------行く。俺も。」
そしてチラッとディアッカはミリィを見て、ミリィは眼をパッと逸らす。
だが・・すぐに目を合わせた。
「ありがとう---・・あなたのお陰で・・助かったわ。」
ぶっきら棒に言われた言葉に、ディアッカにも笑みがこぼれる。
「よし、戦える奴も仲間になったし・・・、行くか。」
そうして、三人は夜の中を・・アルテミスへと向かっていった。
「ほ〜女の子連れとは・・粋ですなぁー。」
そうマスターらしき男性に言われイザークは顔を顰めた。
だが・・シホは少し瞬きをさせてパッと眼を逸らす。
"バルトフェルト教官"
そう・・頭の中で、何度も相手の名前を呼ぶ。
もう---忘れてしまったであろうか、この人は。
仕方ない、五年前の事だ。
シホ自身そう思いながらも・・、やはりやるせなさが募った。
「----どうかしたか?」
「いえ、ただ・・どのお酒にしようかと・・・」
「てきとーに名前ってもらえれば、その名前に合ったもの、つくるけど?」
そう聞かれて、思わず・・シホは声に出してしまう。
「"養成学校の生徒"・・って、しゃれてると思いませんか?」
その言葉を聞いて、優しく微笑んだバルトフェルトをシホは見逃さなかった。
「そっちの銀の彼は?」
「----・・ふん、では・・"ナイトとポーン"・・だ。」
その・・意味を汲み取り、シホは心なしか頬を染めてイザークも少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
すぐにバルトフェルトは片手で器用にシャカシャカと作り始めて、すっと前に出された飲み物は綺麗なパープルのカクテル。
そして、イザークには透明と白で色分けがあるカクテルだった。
「もしも・・君のような綺麗な目の生徒がいたら、きっと忘れないさ。---誰もね。」
そう笑われて、シホはやはりと笑い返すとイザークは面白くないようでカクテルを飲み始める。
シホはソレを見て苦笑し、そのパープルのカクテルを飲んだ。
「二人とも・・チェスはやるのかな?」
そうバルトフェルトに言われて、「ええ、たしなむ程度に」と答えるとイザークは「嘘付け」と笑う。
「有名な話だが・・チェスと言うのは一つで言う"戦争"の縮図のようなものらしい。」
物知りのように説明し出すその相手に、変わっていないなと思いながらもその余談を聞いていた。
「チェスの中で・・一番、影響力の強い駒は・・なんだったかな。」
「クイーンだ。」
「ご名答。」
グラスを拭きながら、店内に三人で・・・ここのオーナーはチェスに詳しいらしく、まあ知っていることばかりだが教えてくれる。
ちょうど酔ってきたし・・しずむのに丁度いいと思い、ぼーっとしながらその話を方耳で聞いていた。
だが・・暫くしてうとうととしだし・・意識が途切れる。
「---・・何かしましたか?教官」
「さぁね、でも・・まあ後で起こせばいいだろう。」
そう言って、バルトフェルトはチェス盤を運んできた。
「さて、-----・・銀の彼が白のナイトだとして・・---」
その先は?そう聞かれてシホは黙って駒を取る。
黒のクイーン、黒のナイト・・黒のポーン---白のナイト二つ・・それと、・・・白のキングを指した。
「これの小さいのです。」
そういえばバルトフェルトにも伝わり、ふむふむと頷かれる。
「ずいぶんとまぁ・・豪勢な所にいるわけだ、クイーンは。」
「・・それと、」
白のビショップと・・白のポーンをだして、それを別枠で置いた。
「・・ほうほう、----なんだか危険だな。これの状況は・・・。」
「はい---そして・・」
黒のナイトを・・盤から外す。
今朝・・出て行ってしまった人。
「ふむ・・あまり、いい状況とはいえないなぁ。」
「はい・・ですが、みな・・黒のクイーンは白のルークだと思っています。」
そう説明するとバルトフェルトは頷き、シホも目線を合わせる。
「クイーンにもしもの事があれば・・」
そう言って、バルトフェルトは黒のポーンを・・黒の陣地に戻した。
「-----頼むぞ。そうしたら俺たちも動ける。」
「はい。」
そう話して、チェスの盤を整えてからイザークを起こす。
だいぶ・・酔ったのと、おそらく教官の入れた睡眠薬が効いているようで、眠たそうに眼を開いた。
「--強いのだったみたいですね・・。大丈夫ですか?」
「ああ・・---・・。」
そう頼りない返事にシホは溜息を付きながらも微笑んで、肩を貸す事にする。
「---・・すまん。」
「いえ---・・たまになら、いいです。」
そう夜風に当たりながら話して、城へと帰っていった。
「・・・・・っ・・ここ・・は?」
「綺麗だろ!!此処・・お気に入りの場所なんだ!!」
広がる一面の花畑・・ならぬ、薬草畑にアスランは眼を奪われる。
どれもこれも----プラントにはないものばかりだ。
一歩踏み入れて草を見れば、もう研究したくて仕方がなくなってくるのはアスランの性分だった。
「一応昔だが・・全部調べたぞ!此処の薬草の事は!!」
そう自慢げにいうユラにアスランは教えてくれと眼を輝かせると、ユラは少し困った顔をして声を出した。
「でもな、アスラン---ここにあるのは・・オーブでも凄く貴重なんだ。だから・・研究にも・・あんまり使わないで欲しい。」
真剣に言われた言葉にアスランは肩を落とすが・・なら、見せないでほしかったと思ってしまう。
でも・・咲いた花々に嬉しそうに顔を近づけて笑うユラを見て、薬草だけが草花の役目でもないか・・と考え直した。
「・・綺麗だろ・・?ほら、これ---この間お前の部屋に・・置いてあった奴だ。」
そういわれて・・白いその花に眼をやるが、アスランは見た記憶などなくて・・何のことだと頭を捻らせた。
「ほら・・怒っただろ?前・・その時の・・」
・・ああ、アレか。
そう合点がいってそれを見ると・・まるで違う草花のように思える。
あの薬草は・・芽が出た頃に摘み取らないと薬草としての効果が出ないから・・こうやって育ったのを見るのは初めてだった。
それに・・ここまで大きくなるのか?あの小さな芽から・・
「・・・綺麗だな・・---この花・・」
大きく咲いた真っ白な花にアスランは暫し眼を奪われて、その様子にユラからは笑い声が聞こえた。
色とりどりの花をユラは眺めて・・楽しそうに「これは・・」と説明してくれる。
少しして・・二人でそのばに寝転がった。だが・・ちゃんと花のない芝の上で。
「・・・ここら辺には・・あまりモンスターがいないんだな。」
「ああ・・まあな。」
モンスターがいれば・・あの綺麗な花たちはすぐ・・踏み荒らされてしまうだろうから・・。
「・・巧くできてるんだよ、世の中ってのは。」
そうユラが笑って・・アスランは頭に?を浮かべた。
ここにモンスターが来ない理由を・・カガリは知っていた。
だって・・この花畑を作ったのは・・カガリ自身だから。
「-----・・ユラ。」
「なんだ?」
「・・・一つだけ・・摘んで帰ってもいいか?」
そう聞かれて、眉間にしわを寄せるとアスランは直ぐに「城で・・培養したい・・、薬草用でなくても・・観賞用に」
「いいけど・・どれだ?」
「あの・・最初に見た白い花。」
「-----一個だけだぞ。」
アスランが選んだ花・・それは、この国を代表する花で・・カガリも一番のお気に入りだった。
でも--アスランに見られるなら、その花も喜ぶだろうとカガリは思い許可を出す。
「アスランなら・・ちゃんと、してくれそうだからな。特別だ。」
その答えに、アスランは何か嬉しくなって・・何となく頬が緩んだ。
信用されていると感じるし・・---大事な人に、そういわれるのは嬉しい。
「ありがとう」
そう言うとユラは笑って・・アスランも笑顔になる。
そしてその花を根から摘んで・・、城に持ち帰った。
夜だと言うのに帰って直ぐ、アスランとユラは二人でアスランの部屋のベランダにレンガと土を運びその花を植える。
「よし!これなら・・大分繁殖しても平気だな!!」
「ああ。」
手を泥だらけにして二人で笑い、その夜はふけていく。