第十章・・・盤面



「----------・・どういう・・事・・だ?」

そう・・声をあげたのは、・・・誰だっただろう。
分からない、分からないが・・・。
ディアッカの顰め顔は・・当分なおりそうにはなかった。



「・・・・まさか、知り合いとはね・・君らの。」

そう淡々と話す相手をディアッカは睨む事も出来ずに俯いていた。

「・・・刑は早いほうがいいでしょう、---・・どうしましょうか?」
「ふむ・・この間の彼らの報告によると・・この城下町一体、まだ先のこの国の王を頼っているようだね。」

その言葉を・・カガリは良く理解しているつもりだった。そして・・思わず口に出してしまう。

「---見せしめにでも・・するつもりか?」

そう言ったユラを、ディアッカは睨んでしまった。

「だが・・片方は女だ、殺すまでも無い。」

イザークの言葉には、"ミリィは殺す必要はないはずだ"というニュアンスが含まれていて・・アスランもそうだと思う。
女は・・参政権も無い変わりに、安全に生きる事だけは・・プラントでも確かに保障されている事だから。

「だが・・相手は反乱軍の一員・・それも片方は相当の使い手です。此処で一人逃がし・・仲間に会われても面倒でしょう。」
「-------もっともだ。」

レイの言葉に冷酷に返したユラ--・・眼を見張ったのは、此処にいた全員かもしれない。だがユラは直ぐに口を開きなおす。

「だが・・処刑となれば別だろう、アジトや内通している此方のものを・・あぶりだしてからになる。」

冷静に振舞って見せるが、キラとアスランには・・・ユラの性格上、殺したくはないのだと分かった。
そう言って、ユラは「・・・本当に・・反乱軍なのか確かめてくる」と言って、地下牢に足を運ぶのを黙って見送る。




「・・・----・・っ」

まさか・・シンが掴まるとは。
二対一・・それに、ミリィ連れじゃ仕方が無い。
そう考え、ミリィの前に顔を出すと、案外・・泣きそうでもないしっかりとした面持ちの彼女に会う。

「・・・大丈夫か?」
「・・ええ・・なんとか。でも・・シンが---」

そして、隣の牢にいるシンに近寄ると、凍傷のようになった手を見つめていた。

「・・レイ・・か。---見せてみろ」

差し出された手を鉄格子を通して握り、直してやる。だが・・完璧に治すとばれるので、加減を見計らって。

「---悪い、俺が・・いたのに。」

悔しそうに手を擦りながら言うシンにカガリは優しく微笑んだ。

「なに言ってるんだ・・、大健闘だ。あの二人なら・・だが。」

アビリティ・ストーンを・・反乱軍が所持していることが明確になってしまった。

「よかった、これ・・まだ外されなくて。」
「・・はずしたら・・死ぬからな。」
「・・・・・しってる。」

きっと・・レイも色々シンから聞く予定でいるのだろう。ミリィはどうみても反乱軍に身を置いたにしては日が浅い。
アビリティ・ストーンを任される様な人材である・・シンから情報を収集するのは王道といった所だ。

「・・・---手は打つ。だから・・頑張れよ、シン。---ミリィも・・すまない。」

そう頭を下げると、ミリィは苦くでも、しっかりと微笑んで

「・・・頑張る、---もう迷惑かけたくないもの。」

その笑顔にカガリも微笑み返して、地下牢から上がった。




---------心配なのは・・。


そう、今・・一番心配な人。それは・・。

ラクス・クライン。

アビリティ・ストーンを作れるのが今現在彼女だけとされている世界で・・この事が彼女に被害を加えてしまう。
---それは、出来るだけ・・避けたい。
あのアビリティ・ストーンに・・力を加えたのは・・カガリだから。

「キラ・・っ」

廊下にいたキラと・・その隣にたまたまいたアスランを呼び止めて、直ぐ傍のキラの部屋に入る。


「ラクス・クラインの事なんだが・・」

その言葉に、アスランは「ああ」と頷く。
もっとも・・怪しいのは彼女だ。---もっとも・・オーブの先代の姫、カガリが生きているとすれば話は別だが・・。

「・・・アスランか・・キラ、どちらか---彼女の傍にいてやって欲しい。」

その言葉にアスランは頭に?を浮かべる。まるで、助けるような言い草。

「アスラン・・お前、あの子の婚約者だろう?-------・・監視と・・護衛を兼ねて、傍にいてやってあげられないか?」

監視と護衛・・それは----

「反乱軍が・・命を狙うとしたら・・ラクスであり、もしも裏切っていたとしても・・」

ラクスの傍に誰か置くのは当然の事かもしれない。
だが----・・・。

「そうだね、ラクスも---・・アスランがいたほうが、きっといいね。婚約者だし・・・。」
「ああ、もし彼女じゃないとして・・いらぬ疑いがかけられた時・・誰か傍で支えてやれる奴も必要だと思うんだ。」

そう、アスランを行くように進めるユラとキラに・・アスランは声を返した。

「俺は・・」

嫌だ。

「--------アスラン?」
「・・俺は・・ユラの面倒を見るように王から・・父上から言われている。・・キラ、ラクスの監視・護衛は・・お前が行ってくれ。」

・・・馬鹿みたいな話だが・・・・・---。
正直、ラクスと・・ユラとキラ、どちらといて楽しいかといえば・・ユラとキラで。
それに・・監視と護衛といっても、・・・・・俺は・・やはりまだ---
女性には・・抵抗がある。
----それなら・・ミリィとも普通に会話できていた・・・キラに行かせるべきだろう。

「いいけど・・、でも・・君の婚約者だよ?ラクスは・・・」
「俺は・・彼女の事がすきでも・・なんでもない・・・ただ、子を作れと言われている相手に過ぎない。」

そう言うと・・ユラは顔をしかめるが、分かったと言い・・キラにプラントに帰るように指示をした。

「----・・アスランは・・まだ、女性が嫌いか?」
「・・・、分からない。-------女性・・と、言うもの事態・・俺はまだ良く分かっていないから・・」

シホのように気の強い者・・ミリィのように、弱弱しいが・・芯が強そうな者・・・---・・。
-------本当によく、分からない。






「・・チェックメイト。」
「・・・・・・・・・リードされてしまいました・・折角、並んだところだったのに・・。」

ユラの部屋で幾度となく行われる試合はもう、200を超えていた。
そして・・それでもまだ飽きないようで、二人はチェスに没頭している。

「検討といこうか。」
「はい・・、私の十五手目が・・」

今日に入り、ただやるだけだと進歩しないという結論に達し、検討もし始める。
そして二人でその一局について、あでもないこうでもないと言い合うのだ。
だが・・シホは、今日から感じるイザークのいつもと違う感覚に・・少なからず気がついていた。

「・・・どうか、いたしましたか?」
「何がだ?」
「・・・・いえ・・、少し、雰囲気が・・」

暗い、いや・・重い。

「----・・嫌な事でも?」

そうシホが尋ねるとイザークはフゥッと溜息を付いて、前かがみになっていた体制をソファーに押し付ける。

「----・・雷・・いや、電気とは・・非常に面倒なものだ。」
「・・?」

口重くでも、直ぐに出てきた言葉にシホは耳を傾け、黙っていた。

「-----尋問役を・・頼まれてな・・ここの参謀に。」

その相手とは・・おそらく、カガリ様の言っていた・・シンと・・ミリアリアだろうと思ったがあえて何も言わないでおく。

「・・・敵なのでしょう・・・?---躊躇うんですか?貴方は・・。」

それは・・ある意味挑発だったが・・おそらくイザークは気がついていないだろうと思う。

「・・敵だが・・知り合いだ。女だが・・・・別に思い入れがあったわけでもないし・・・ただ、な。」

反乱軍が・・言いたい事も分からなくも無い。
そう言いたげな顔を見て、シホはさすがカガリ様と思ってしまう。
常識を覆す、・・それが出来るお方なのだと。

「・・・・・---------・・私は・・貴方に何も言えません。ですが・・」

そう声を出したシホを、イザークは黙って見つめてシホも意見を言う。

「---反乱軍だろうが・・ザフトだろうが・・女だろうが---みな、人です。」

それだけは忘れないで欲しいと、いうシホのパープルの瞳を見てイザークは笑みを零した。
その、珍しい顔に・・シホは思わず、息を呑む。

「・・・分かっている・・----------・・」

そう言って立ち上がり、部屋を出て行ったイザークをシホは不思議な気分で見送っていた。





「・・・イザークか」

地下牢の前に行くと、ディアッカは暗い顔で尋問に来たイザークを見あげて溜息を付く。

「・・貴様・・一般兵の仕事だろう・・それは。」

俺たちAのやる仕事じゃないというと、ディアッカは顔を顰めて声にする。

「・・・-----------。」
「気に・・なる、のか?ミリアリアが。」

そう言うと、ディアッカは黙ってうなずいて、イザークもどことなく暗い気分になった。
本当は・・イザークは女を嫌ったことなど一度もない。
ただ、国がそうするなら、国民として従うだけ・・・だが。

国の・・その女性に対する政策のせいで・・イザークの母、エザリアは失脚した。
だが・・・・できてしまった法律に文句をつけるよりも、イザークは国の中で偉くなる事を選んだのだ。
母を・・不自由な所に送り込む事のないように。
ましてや・・母が売女など有り得ない話だったから・・・・。

「-----・・国の、方針だ。反乱軍からは・・吐かせなければならない。」
「知ってるさ、そんなこと。」

納得いかないと、いう顔をするディアッカにイザークは溜息を付きながらも・・その苛立ちを共有する。

「・・ミリアリアは---・・命は、助かるかも、しれない。」

だからと、そうイザークは言って・・地下牢の前の扉に座るディアッカを退けた。
ギィッと鈍い音を立てて少しひんやりとした・・その中にイザークは入ることとする。



燃える様な・・赤い目の少年に、イザークは出来ると一瞬で判断して・・すぐにミリィに顔を向けた。

「--------・・ユラは・・円満な夫婦に--預けたと言っていたが・・」
「・・・---。」

何も答えず、パッと眼を逸らしたミリアリアにイザークは問いかけた。

「・・・・憎い・・、か。当然かもしれないが・・反乱軍を取り締まるのも・・、それも仕方の無い、当然の事だ。」
「・・・・しってる。」

恨むわけでもなく、はっきりとした声にイザークはそれならと頷いて、ミリアリアを見た。

「・・・反乱軍とは・・何処まで内通していた?---次第によっては・・死刑や終身刑は免れる。」

そう、イザークは救いの手を差し伸べたつもりでいった・・だが・・。
思いのほか、キッとした目でミリアリアからにらまれ不快に感じる。

「・・・生きて・・どうしろっていうの?売女にでも・・なれっていうの?」

この国にはその道しかないじゃないと、半ば諦めたような目で言うミリアリアにイザークは顔を顰めた。
そう・・かもしれない・・、だが。

「生きて・・生き続ければ---・・変わるときも来るかもしれない。」

その声を聞いて隣の監獄から笑い声が聞こえた。

「・・・・馬鹿だな、ザフトは---その為の・・俺らだ。」

そう憎しみを込めて言われた言葉。話しにならんと溜息を付いた。

「お前・・その中では力は使えんぞ。」
「---知ってるさ・・、何度も試した。」

この鉄格子は特別なもので出来ていて・・中から外には力は通らない。
逆に外から中には・・いとも容易く通じるのだが。

「なら・・言葉を慎むんだな。」

そう、言ってイザークは牢獄から出て行く。
今日は・・もういいと、勝手に見切りをつけて。







国の・・判断・・か。
そう人知れず・・ディアッカは考えにふけっていた。
ミリアリアは・・何か悪い事をしただろうか?
していないはずだ。
村が焼かれて・・・・売られた・・ただの女の子にすぎないではないか。
なんでその子を・・死刑にするなど、そういう考えが浮かぶのだろう。
俺たち軍人のように・・人をあやめたわけでもないのに。

-----なんで。







「いつまで・・ほうっておくつもりですか・・ギル。」

そう、氷のような冷たい言葉に・・ギルは半ば笑みを零した。

「・・・いつまでもなにも・・、今はまだ捉えるには早い。ナイトもいるしね。」

そうチェスのナイトを指して、ギルは不適に微笑みレイを見る。
そして、レイもその笑顔に安心したように・・ギルの傍に寄った。

「だが・・・・すぐに、一つ、ナイトは離れる。もう一人も・・---時間の問題だろう。」

そして、机の上にあるチェス盤にはクイーンがただ一人、立っていた。


そして今弾かれたコマ、黒のナイトと白のナイトを・・ギルは微笑みながら箱にしまう。































































+++++
あとがき
動き出しました。ギルが(笑)
2006/05/02