「----------・・どういう・・事・・だ?」
そう・・声をあげたのは、・・・誰だっただろう。
分からない、分からないが・・・。
ディアッカの顰め顔は・・当分なおりそうにはなかった。
「・・・・まさか、知り合いとはね・・君らの。」
そう淡々と話す相手をディアッカは睨む事も出来ずに俯いていた。
「・・・刑は早いほうがいいでしょう、---・・どうしましょうか?」
「ふむ・・この間の彼らの報告によると・・この城下町一体、まだ先のこの国の王を頼っているようだね。」
その言葉を・・カガリは良く理解しているつもりだった。そして・・思わず口に出してしまう。
「---見せしめにでも・・するつもりか?」
そう言ったユラを、ディアッカは睨んでしまった。
「だが・・片方は女だ、殺すまでも無い。」
イザークの言葉には、"ミリィは殺す必要はないはずだ"というニュアンスが含まれていて・・アスランもそうだと思う。
女は・・参政権も無い変わりに、安全に生きる事だけは・・プラントでも確かに保障されている事だから。
「だが・・相手は反乱軍の一員・・それも片方は相当の使い手です。此処で一人逃がし・・仲間に会われても面倒でしょう。」
「-------もっともだ。」
レイの言葉に冷酷に返したユラ--・・眼を見張ったのは、此処にいた全員かもしれない。だがユラは直ぐに口を開きなおす。
「だが・・処刑となれば別だろう、アジトや内通している此方のものを・・あぶりだしてからになる。」
冷静に振舞って見せるが、キラとアスランには・・・ユラの性格上、殺したくはないのだと分かった。
そう言って、ユラは「・・・本当に・・反乱軍なのか確かめてくる」と言って、地下牢に足を運ぶのを黙って見送る。
「・・・----・・っ」
まさか・・シンが掴まるとは。
二対一・・それに、ミリィ連れじゃ仕方が無い。
そう考え、ミリィの前に顔を出すと、案外・・泣きそうでもないしっかりとした面持ちの彼女に会う。
「・・・大丈夫か?」
「・・ええ・・なんとか。でも・・シンが---」
そして、隣の牢にいるシンに近寄ると、凍傷のようになった手を見つめていた。
「・・レイ・・か。---見せてみろ」
差し出された手を鉄格子を通して握り、直してやる。だが・・完璧に治すとばれるので、加減を見計らって。
「---悪い、俺が・・いたのに。」
悔しそうに手を擦りながら言うシンにカガリは優しく微笑んだ。
「なに言ってるんだ・・、大健闘だ。あの二人なら・・だが。」
アビリティ・ストーンを・・反乱軍が所持していることが明確になってしまった。
「よかった、これ・・まだ外されなくて。」
「・・はずしたら・・死ぬからな。」
「・・・・・しってる。」
きっと・・レイも色々シンから聞く予定でいるのだろう。ミリィはどうみても反乱軍に身を置いたにしては日が浅い。
アビリティ・ストーンを任される様な人材である・・シンから情報を収集するのは王道といった所だ。
「・・・---手は打つ。だから・・頑張れよ、シン。---ミリィも・・すまない。」
そう頭を下げると、ミリィは苦くでも、しっかりと微笑んで
「・・・頑張る、---もう迷惑かけたくないもの。」
その笑顔にカガリも微笑み返して、地下牢から上がった。
---------心配なのは・・。
そう、今・・一番心配な人。それは・・。
ラクス・クライン。
アビリティ・ストーンを作れるのが今現在彼女だけとされている世界で・・この事が彼女に被害を加えてしまう。
---それは、出来るだけ・・避けたい。
あのアビリティ・ストーンに・・力を加えたのは・・カガリだから。
「キラ・・っ」
廊下にいたキラと・・その隣にたまたまいたアスランを呼び止めて、直ぐ傍のキラの部屋に入る。
「ラクス・クラインの事なんだが・・」
その言葉に、アスランは「ああ」と頷く。
もっとも・・怪しいのは彼女だ。---もっとも・・オーブの先代の姫、カガリが生きているとすれば話は別だが・・。
「・・・アスランか・・キラ、どちらか---彼女の傍にいてやって欲しい。」
その言葉にアスランは頭に?を浮かべる。まるで、助けるような言い草。
「アスラン・・お前、あの子の婚約者だろう?-------・・監視と・・護衛を兼ねて、傍にいてやってあげられないか?」
監視と護衛・・それは----
「反乱軍が・・命を狙うとしたら・・ラクスであり、もしも裏切っていたとしても・・」
ラクスの傍に誰か置くのは当然の事かもしれない。
だが----・・・。
「そうだね、ラクスも---・・アスランがいたほうが、きっといいね。婚約者だし・・・。」
「ああ、もし彼女じゃないとして・・いらぬ疑いがかけられた時・・誰か傍で支えてやれる奴も必要だと思うんだ。」
そう、アスランを行くように進めるユラとキラに・・アスランは声を返した。
「俺は・・」
嫌だ。
「--------アスラン?」
「・・俺は・・ユラの面倒を見るように王から・・父上から言われている。・・キラ、ラクスの監視・護衛は・・お前が行ってくれ。」
・・・馬鹿みたいな話だが・・・・・---。
正直、ラクスと・・ユラとキラ、どちらといて楽しいかといえば・・ユラとキラで。
それに・・監視と護衛といっても、・・・・・俺は・・やはりまだ---
女性には・・抵抗がある。
----それなら・・ミリィとも普通に会話できていた・・・キラに行かせるべきだろう。
「いいけど・・、でも・・君の婚約者だよ?ラクスは・・・」
「俺は・・彼女の事がすきでも・・なんでもない・・・ただ、子を作れと言われている相手に過ぎない。」
そう言うと・・ユラは顔をしかめるが、分かったと言い・・キラにプラントに帰るように指示をした。
「----・・アスランは・・まだ、女性が嫌いか?」
「・・・、分からない。-------女性・・と、言うもの事態・・俺はまだ良く分かっていないから・・」
シホのように気の強い者・・ミリィのように、弱弱しいが・・芯が強そうな者・・・---・・。
-------本当によく、分からない。
「・・チェックメイト。」
「・・・・・・・・・リードされてしまいました・・折角、並んだところだったのに・・。」
ユラの部屋で幾度となく行われる試合はもう、200を超えていた。
そして・・それでもまだ飽きないようで、二人はチェスに没頭している。
「検討といこうか。」
「はい・・、私の十五手目が・・」
今日に入り、ただやるだけだと進歩しないという結論に達し、検討もし始める。
そして二人でその一局について、あでもないこうでもないと言い合うのだ。
だが・・シホは、今日から感じるイザークのいつもと違う感覚に・・少なからず気がついていた。
「・・・どうか、いたしましたか?」
「何がだ?」
「・・・・いえ・・、少し、雰囲気が・・」
暗い、いや・・重い。
「----・・嫌な事でも?」
そうシホが尋ねるとイザークはフゥッと溜息を付いて、前かがみになっていた体制をソファーに押し付ける。
「----・・雷・・いや、電気とは・・非常に面倒なものだ。」
「・・?」
口重くでも、直ぐに出てきた言葉にシホは耳を傾け、黙っていた。
「-----尋問役を・・頼まれてな・・ここの参謀に。」
その相手とは・・おそらく、カガリ様の言っていた・・シンと・・ミリアリアだろうと思ったがあえて何も言わないでおく。
「・・・敵なのでしょう・・・?---躊躇うんですか?貴方は・・。」
それは・・ある意味挑発だったが・・おそらくイザークは気がついていないだろうと思う。
「・・敵だが・・知り合いだ。女だが・・・・別に思い入れがあったわけでもないし・・・ただ、な。」
反乱軍が・・言いたい事も分からなくも無い。
そう言いたげな顔を見て、シホはさすがカガリ様と思ってしまう。
常識を覆す、・・それが出来るお方なのだと。
「・・・・・---------・・私は・・貴方に何も言えません。ですが・・」
そう声を出したシホを、イザークは黙って見つめてシホも意見を言う。
「---反乱軍だろうが・・ザフトだろうが・・女だろうが---みな、人です。」
それだけは忘れないで欲しいと、いうシホのパープルの瞳を見てイザークは笑みを零した。
その、珍しい顔に・・シホは思わず、息を呑む。
「・・・分かっている・・----------・・」
そう言って立ち上がり、部屋を出て行ったイザークをシホは不思議な気分で見送っていた。
「・・・イザークか」
地下牢の前に行くと、ディアッカは暗い顔で尋問に来たイザークを見あげて溜息を付く。
「・・貴様・・一般兵の仕事だろう・・それは。」
俺たちAのやる仕事じゃないというと、ディアッカは顔を顰めて声にする。
「・・・-----------。」
「気に・・なる、のか?ミリアリアが。」
そう言うと、ディアッカは黙ってうなずいて、イザークもどことなく暗い気分になった。
本当は・・イザークは女を嫌ったことなど一度もない。
ただ、国がそうするなら、国民として従うだけ・・・だが。
国の・・その女性に対する政策のせいで・・イザークの母、エザリアは失脚した。
だが・・・・できてしまった法律に文句をつけるよりも、イザークは国の中で偉くなる事を選んだのだ。
母を・・不自由な所に送り込む事のないように。
ましてや・・母が売女など有り得ない話だったから・・・・。
「-----・・国の、方針だ。反乱軍からは・・吐かせなければならない。」
「知ってるさ、そんなこと。」
納得いかないと、いう顔をするディアッカにイザークは溜息を付きながらも・・その苛立ちを共有する。
「・・ミリアリアは---・・命は、助かるかも、しれない。」
だからと、そうイザークは言って・・地下牢の前の扉に座るディアッカを退けた。
ギィッと鈍い音を立てて少しひんやりとした・・その中にイザークは入ることとする。
燃える様な・・赤い目の少年に、イザークは出来ると一瞬で判断して・・すぐにミリィに顔を向けた。
「--------・・ユラは・・円満な夫婦に--預けたと言っていたが・・」
「・・・---。」
何も答えず、パッと眼を逸らしたミリアリアにイザークは問いかけた。
「・・・・憎い・・、か。当然かもしれないが・・反乱軍を取り締まるのも・・、それも仕方の無い、当然の事だ。」
「・・・・しってる。」
恨むわけでもなく、はっきりとした声にイザークはそれならと頷いて、ミリアリアを見た。
「・・・反乱軍とは・・何処まで内通していた?---次第によっては・・死刑や終身刑は免れる。」
そう、イザークは救いの手を差し伸べたつもりでいった・・だが・・。
思いのほか、キッとした目でミリアリアからにらまれ不快に感じる。
「・・・生きて・・どうしろっていうの?売女にでも・・なれっていうの?」
この国にはその道しかないじゃないと、半ば諦めたような目で言うミリアリアにイザークは顔を顰めた。
そう・・かもしれない・・、だが。
「生きて・・生き続ければ---・・変わるときも来るかもしれない。」
その声を聞いて隣の監獄から笑い声が聞こえた。
「・・・・馬鹿だな、ザフトは---その為の・・俺らだ。」
そう憎しみを込めて言われた言葉。話しにならんと溜息を付いた。
「お前・・その中では力は使えんぞ。」
「---知ってるさ・・、何度も試した。」
この鉄格子は特別なもので出来ていて・・中から外には力は通らない。
逆に外から中には・・いとも容易く通じるのだが。
「なら・・言葉を慎むんだな。」
そう、言ってイザークは牢獄から出て行く。
今日は・・もういいと、勝手に見切りをつけて。
国の・・判断・・か。
そう人知れず・・ディアッカは考えにふけっていた。
ミリアリアは・・何か悪い事をしただろうか?
していないはずだ。
村が焼かれて・・・・売られた・・ただの女の子にすぎないではないか。
なんでその子を・・死刑にするなど、そういう考えが浮かぶのだろう。
俺たち軍人のように・・人をあやめたわけでもないのに。
-----なんで。
「いつまで・・ほうっておくつもりですか・・ギル。」
そう、氷のような冷たい言葉に・・ギルは半ば笑みを零した。
「・・・いつまでもなにも・・、今はまだ捉えるには早い。ナイトもいるしね。」
そうチェスのナイトを指して、ギルは不適に微笑みレイを見る。
そして、レイもその笑顔に安心したように・・ギルの傍に寄った。
「だが・・・・すぐに、一つ、ナイトは離れる。もう一人も・・---時間の問題だろう。」
そして、机の上にあるチェス盤にはクイーンがただ一人、立っていた。
そして今弾かれたコマ、黒のナイトと白のナイトを・・ギルは微笑みながら箱にしまう。