「司令官・・ですか?新しい・・」
父に呼び出されたと思えば、なんとも言いがたい事を言われる。
「・・・----そうだ、軍の司令官クラスをただの民間人がトップで合格した。・・戦略だけだがな。」
普通、軍の司令官クラスなど平凡な軍人の中の・・それも一部しか受からない役職だ。
アスラン自身、まだ・・司令官クラスの一歩手前で止まっている。
「その者を・・お前の所にやりたいのだ。・・・戦略は出来るのだが、力がいまいちでな。」
「その者を鍛えろと?」
「そうだ、アイツはきっと使える者になるからな。・・・お前が王になったときの参謀にでもするといい。」
「・・ありがとうございます。分かりました。」
そう口で言いながら、そんな知らない奴を参謀にする気なんて全く無い。
アスランは兼ねてから参謀はキラにすると決めていたし・・。
今更、そんなどこぞ馬の骨が来ても嫌だし・・大体、人付き合いが苦手なのに急に来た奴なんて・・絶対無理だ。
そう思いながら王室を出てキラの部屋に向かう。
今日の仕事は午後からだ、まだ二時間あるし・・暇だ。
あいつの事だから・・まだ寝ているだろうが・・。
そう考えても、どうせ行く場所は自分の部屋かキラの部屋しかない。
自分の部屋には今頃女が来て掃除でもしているのだろう。
長い廊下を歩き、そしてキラの部屋の前で止まる。
軍人は基本的に二人ひとつの部屋なのだが、キラは一人で使っていた。
というか、一人が良いと言ったキラに合わせてアスランが王に頼んだからだ。
それに・・キラの部屋に言って、誰かと一緒にいたら話しにくい。
アスランは皇子という立場から、友達がいなかった。
だが五年程前・・王宮の前で見つけたこの少年を保護したところ、なんだか馬が合って。
唯一の友達になった。
それが・・キラ。
ヤマトと言う姓は、つけていたリングに彫られていた文字だった。
コンコンとノックすると、案の定返事はなく寝ているのかと思い笑いが零れた。
きっと、アスランが来なければ・・今日の会議に遅刻するほど寝こ蹴るのだろうと思ったから。
だが、ドア越しに・・はっきりと声が聞こえてアスランは驚く。
「・・で、これはこうで・・」
「はぁ?分けわかんないぞ・・キラッ」
「だから・・敬礼はこう、で・・あッ角度違うって」
「だーもう!どう違うんだよっ!!」
誰かと言い争っているように聞こえるが、キラの笑い声も聞こえる。
「疲れた〜、ホント・・飲み込み悪いんだもん」
「煩いッ!教えてくれないと困るんだよ!今日の午後に顔合わせだろ?馬鹿にされたら堪らないから・・」
「はいはい、でもちょっと休憩。折角久々に会えたのに・・これだもんね、全く変わらないよ。」
「なんだとキラッ!!!」
「良い意味だって、ね?怒らないの」
「ふんっ」
・・・相当、仲がいいらしい。
誰だか分からない奴にキラを取られたような気分になり腹が立つ。
キラの隣にいるのは俺だと、そう思っていたから。
「・・--。」
もういいと、部屋を開けず背を向けて自室に戻った。
中には、みすぼらしい服を来た女が掃除をしていて睨むと慌てて出て行く。
・・・まぁそうだろうな、皇子の不況など買ったら、あの女なんて直ぐに売女にされてしまうんだから。
この国プラントでは、女にはなんの権限も無い。・・いや、だが確実に守られている存在でもある。
絶対に殺されない。
それが、この国でも女の唯一にして絶対の権限。
戦争の時も・・絶対殺されない。その代わり、何の権限も持ち合わされない。
当然と言う声が強いのは、やはりこの国が男性社会だからだろうか。
守ってやっているんだから、----子孫を残す役割だけ果たせば良い。
そう考える人が多く、だから・・父もそうやっているのだろうと思う。
五年ぶりにあったキョウダイは何処も変わらず、幼い顔ででも強い金褐色の瞳は何かを睨むようだった。
「・・どうだ?キラ・・様になってるだろ?この国の軍服も」
「そうだね、-----でも・・なんで急に?此処に・・」
そうキラが聞いたのも当然でカガリは悔やむような顔をしてからにっと笑う。
「・・---外から崩れない強さなら、中から崩すだけだ。」
そして輝く硬質の金髪を高い位置で一本に束ねた。
「よし・・ッ!----これでいいよな?」
中性的顔立ち・・だが、やはり・・もうソレが通じるのも長くないだろうとキラは感じる。
明らかに、見ない間に・・ずっとずっと女らしくなっている。
狭い肩、細い首。力の無い腕。
雰囲気も・・どこか・・、、女性だ。
「・・・・アスランの隊に配属されるんでしょ?・・なら僕も一緒だと思うから。・・サポートするから頑張って。」
絶対・・ばれないように。
女性が・・軍に、しかも・・カガリが軍にいるなんて・・知れたら----それこそ処刑だ。
たとえ・・"カガリ"だとばれなくても、女性だとばれれば・・おそらく永遠に禁固、もしくは売女しか道は無い。
「ああ、あと・・ここではユラ・ヤマトだ・・歳も二歳下だし・・お前とは兄弟ってことで。」
「うん、分かってるよ。」
そして時間が来るまで久々にあった片割れと会話をする。
ラクスのところにでも行こうか・・。
そうボンヤリと思った、彼女は回復の力がある・・癒しの力。
・・唄を聞けば少しはこの暗い気分が楽になるだろうか?
アスランとラクスは婚約者だった。
-----・・だが、愛があるわけでもない。
いや・・良い人なのかもしれないが・・。
女を、"女"以外・・何者にも見えない。
それは失礼な事なのかもしれない、だがそういう環境で育ったのだ。
女は道具だと、使うものだと教えられている。
-------ラクスは・・聖母だから特別だと言われても。
所詮女だと、心の底で思ってしまう。
「失礼します、ラクス。」
「どうぞ」
甘い優しい声、ディアッカに言われたがラクスは女性の中でも綺麗らしい。
部屋に入ると噴水と植物に囲まれた大聖堂でラクスは歌を歌っていた。
そこには十台ほどベットがあり負傷したものや病気の男達が寝ている。
「・・---」
黙って沢山並ぶベンチに腰を駆けてその唄に耳を済ませた。
水の音とラクスの歌声が混じって高らかな音色が聖堂に響く。
歌い上げるとラクスは黙ってアスランの傍に歩いてきた。
「どうされたのですか?」
「・・・・・・・-----・・。」
話さない方が良い、そう前・・父に言われた。
それはラクスにではなく・・女にだったが・・。
ラクスも・・女だ、婚約者と言ったって・・父はただこの力がほしいのだ。
ラクスのアビリティ・ストーンに力をいえれられる特別な力。
子はらんで---そして・・その子が生まれラクスと同じ能力をもっていたら・・ラクスの役割も終わる。
ラクスの父は・・オーブと言うもう五年前に滅んだ国と外務官と言う立場で仲がよく・・戦争の時大いに反対をした。
そして・・父はそのラクスの父を殺しラクスの能力だけを・・使うようにしていた。
・・・きっと、その子供を産めば・・ラクスはひっそりとどこかで殺されるだろう。
-------きっと、いつかその特別な力を持って・・父や・・この国に逆襲する日がくるだろうから。
・・前にそう口にしていた父を思い出す。
「・・・・・女とは話したくないですか?」
----・・絶対女は殺さない・・だが政治犯にになりかねない・・ラクスは別だ。
きっと・・役目が終われば・・・・
そう思うと申し訳ない、なんだかんだこの国がこんなにも強いのはこのラクスの力が在るからこそなんだ。
オーブでは・・この力は使われていなかった。
だから・・ラクスがいたから、この国はこうやって安定している。
・・・それは、紛れも無い真実だ。
「いえ・・ただ、少し考え事をしていました。」
ラクスは・・俗に言う良い人だと・・は思う。
父親を殺されて・・腹の奥ではどう思っているか分からないが、だが・・一度だってその笑みを崩した事は無い。
「そう・・ですか、----・・歌いましょうか?」
気遣うように声をかけられ「お願いします」と答えると、嬉しそうに笑いその声を披露する。
・・・この歌声は・・・好きだった。
・・・---そんな彼女を・・殺す日が来るのだろうか?国の為に・・頑張ってくれた彼女を。
・・・---だから、未だ何もしていない。
死んでしまっては・・余りにも可哀相だから。
昼を過ぎて会議室に向かうと、参謀のクルーゼがもう中にいて、アスランの隊ともうひとつの隊・・イザークの隊も呼ばれているようだった。
「そろったかな?」
「いえ、まだキラが・・キラ・ヤマトが遅れています。」
まだ・・あの知らない奴と話しているのかとアスランは腹立たしくてしょうがない。だがクルーゼは仮面の下でにこりと笑った。
「いや、キラ君には・・新しく入ってくる者の世話をさせている・・もう来るだろう。」
そうして待っていると、イザークが「自分の隊員の事ぐらい把握できんのか」と野次を投げられてキッと睨む。
性格は喧嘩っ早いが、だが・・確かに奴も国思って働いている者で、実力もアスランと同等にあった。
だからこそ・・ライバルとしてお互い見ていた。
ギィッ
そう音がして、会議室の入り口からキラと・・もう一人入ってくる。
「・・では、自己紹介と行こう、・・ユラ君。」
綺麗な金髪、そして・・意志の強い金褐色瞳。
「・・・・この二つの隊の・・司令官をする・・。ユラ・ヤマトだ。」
そういった瞬間、噴出したのはディアッカだった。
・・・確かに・・どう見ても司令官には見えない。
「・・・・・・・・---ディアッカ、失礼の無いようにな。」
そうクルーゼも笑うように言うとユラははっきりと声に出す。
「ったく・・礼儀の無い隊だ。----・・キラ・・お前ホントこんな所良くいれたな。」
「・・まー、根が悪い人たちじゃないからね。ただちょっとふざけが過ぎるだけ。」
そう会話するのを見て、イザークもアスランも・・他の隊員も眼を張った。
キラは・・この国一番の凄腕だ、それが・・あのひ弱そうな司令官を認めて・・会話している。
さっき・・キラの部屋にいたのはこいつかとアスランは敵意をむき出しにした。
キラの親友は俺だと、・・・友達が一人しかいないアスランにとってキラは本当に大切な相手なのだ。
「馬鹿にするのは勝手だが・・、首が飛んでも知らんからな。」
そして少し苦笑するクルーゼをキッと睨みつけてユラは話を続ける。
「俺は15だ、・・この中で恐らく一番しただろうが・・」
イザークとアスランを特に見下ろして、カガリは
「だが、クルーゼ参謀の次に権力がある、・・・・・忘れるなよ。」
15とは思えない威厳に、イザークとアスランは一瞬たじろいだがグッと睨み返す。
そしてそんなユラをキラはポンと頭を叩いた。
「ユラね僕の弟なんだ、・・戦術は凄いけど・・ぶっちゃけ子供だから。・・そこら辺怒らないでやってね」
そうキラが言うと緊張していた空気が和みイザークもハッと笑い、ディアッカも「はいはい」と適当に頷く。
「・・キラァっ・・これでも司令・・」
「それ以上に僕の弟でしょ?ユラは。」
そうしてじゃれあう兄弟にアスランは物凄く不安を募らせた。
キラに弟がいるなんて始めて知った・・それに、こんなに仲が良い弟・・。
アスランのポジション・・キラの隣を・・。
あっさりと、奪っていかれた。