目が覚めた。嫌というくらいスッキリと。しかし、起き上がろうにも身体のあっちこっちが軋んでいるようで叶わなかった。
「あれ・・・?」
そうキラの声がして顔を覗き込まれる。
「アスラン、目覚めたんだ。良かった。」
その言葉に反応したように足音が近づいてくる。
「アスラン!」
キラもシンも無事のようだった。ホッと安心すると同時に嫌な予感がする。
「・・・カガリは?」
二人は顔を見合わせ黙ってしまう。一体彼女に何があったというのか?
ショックのせいか、爆発後自分がどうやって脱出したか覚えていなかった。
「君、マンションの12階から飛び降りたんだよ。」
そう言われ、そう言えばそうかと思い出す。カガリが足から血を流していて・・・。
そして今、それを思い出し質問を流された事に気が付く。
「・・・カガリは?」
同じセリフを繰り返すと、シンが気まずそうに目を逸らしてしまう。
そしてキラを見つめると、分かったよと言わんばかりの顔をされ、説明された。
「カガリはまだ意識を取り戻してない・・・。でも危険な状況は脱したらしいよ。」
それを聞いてホッとすると、シンはこれも伝えないとと急いで言った。
「・・・でもいつ目が覚めるか分からないんです。明日かもしれないし、ずっと後かもしれない・・・。」
ガッと起き上がろうとするが、身体が言う事を聞かず、ズルズルとうめき声を上げる結果となってしまう。
「目覚めるのが遅いほど、後遺症が残るんだって。」
キラは目を背けて言った。・・・・後遺症?
「どれくらいが・・・遅いっていうのかな?」
キラは心配そうにカレンダーを見ているようだった。
「・・何日経ったんだ・・?」
「・・・もう二週間たちましたよ。」
シンは直ぐに真実を述べた。二週間・・・。
そんなに長く寝ていたつもりはない、だが動けないんじゃ寝てるのと同じだ。
早くカガリの傍に行きたい・・・そう思った。
それから二週間。
何とか松葉杖で立ち上がれるようになり、カガリの病室へ向かう。
キラとシンも一緒に来てくれた。
ウィーンと開くと、カガリは広い何もない部屋に寝ていた。点滴が腕に刺さり、鼻には管が刺さっている。
あからさまにほっそりとした身体が見ていて痛かった。
あれから、日を重ねるごとに少しずつだが爆発後のことが思い出せるようになっていた。
落ちている時、カガリが必死に自分の頭を抱きかかえてくれていた事、お陰で頭部は無事だった。
カガリは医者曰く眠っている状態だそうだ。だが、この状態で無理に起こせば逆に危ない。そう聞かされていた。
久しぶりに触れるカガリの手は痩せ細り、握ったら崩れてしまいそうな気がした。
「・・・アスラン」
その自分の姿に同情したのか、キラは悲しそうに声をかけてくる。
シンは複雑そうな顔をした後、黙って部屋を後にし、キラも黙って部屋を後にした。
一人っきりになり無性に悲しくなってくる。手に触れても、頬に触れてもカガリは何も動かない、答えない。
一瞬・・・。カガリを殺そうとした奴等全員を自分の手で殺してしまいたい気分になった。
しかし、カガリが言った一言が胸に突き刺さるのを感じる。
「悲しい思いをした奴の集まりなんだ・・死んでこそいないが戦争の犠牲者でしかない。」
だが、その犠牲者にカガリが殺されるいわれもないと思う。
カガリの顔を見つめると、規則正しく寝息をたてていた。
その顔はいつも自分の横で寝ているカガリと何ら変わりはなかった。
もしカガリが、アスランがこんな風に復讐心を燃やしていると知ったら間違えなく怒られるだろうと思い少し笑う。
そうだカガリならこんな自分を正してくれる。だから、そんな考えに走っちゃいけない。
すると、寝言・・・だろうか?何かムニャムニャと呟いていた。
「・・・さ・・」
「おとう・・・さま・・」
どうやらウズミ様を思い出しているらしいと気づき少し悔しく思った。
目が覚めた。鼻に何か刺さっているのがくすぐったくて思いっきり抜く。
「いったーーー!!!」
鼻が痛いのではない腕がいたいのだ。
「くそっ!!何なんだだこれは!!!」
そう声を荒げていると、知らない奴がいきなり部屋に入ってきてビックリする。
というか、その前にここは何処なんだとキョロキョロしていた。
「カガリ!!お前・・・!!」
そいつの第一印象は綺麗な色の目だなーだった。
綺麗な緑?エメラルド?そんな色の目。でも、なんでコイツは私の名前を知っている?
「誰だよ、お前。」
一言、そう言った。ただ、そう思ったから言葉にした。それだけの事。
しかし、その言葉にそいつはショックを受けたように見えた。
「な、何言ってるんだ?カガリ・・・。」
お前なんか知らん!そう言おうと思うのだが、そいつの悲しそうな顔を見ると、何となく何も言えなくなった。
ウィーンそうしてドアが開くと、キラと黒髪の奴が入ってくる。
「キラ!!!おい!!ここは何処なんだ?アークエンジェルは?」
その問いにキラはえ?と聞き返す。黒髪の奴は疑問そうな顔が帰ってくる。
「だ・か・ら!ここはどこだって聞いてるんだ!!」
キラは落ち着けといわんばかりになだめる。
「お前、何か落ち着きが増したな?」
そう言うとキラは逆に
「カガリが落ち着きがなくなったんだろ?」
と言われムッと来た。
「私はいつだってこんな調子だ!!」
それを不思議そうに眺める黒髪の奴がいた。
「というか、この二人は誰だ?新しいクルーか?」
その言葉に二人はギョッとしてみせる。そんな驚く事でもないだろう?と顔をしかめた。
「本気で言ってるのか?」
そう、緑色の目の奴に真剣に言われる。その必死そうな目が痛く感じた。
「本気も何も・・・知らないんだから、しょうがないだろ?」
キラは深く息を吸い、緑の目の奴は深くため息をついた。
「・・・カガリ・・君落ちたんだよ。」
そう言われ、記憶を辿る・・。落ちた・・?何から・・・。
「あぁ!スカイグラスパーか!!」
そう答えると三人は信じられないといわんばかりそれぞれ難しそうな顔をした。
「そういえば、イージス達は?あいつ等また責めてこないのか?」
キラはもう駄目・・と呟きその場にへたれこんだ。
「・・・どうやら・・・ヤキンドゥーエ前まで記憶がないみたいだな・・・。」
その一言に驚く。ヤキンドゥーエ・・記憶?一体何の事だ?
「カガリ・・・今、君何歳?」
「何歳って・・・16歳だが・・・。」
それを聞き、キラは説明しだす。
「今、カガリは19歳直前。そんで、プラントと地球軍は終戦したし、オーブとの平和条約も提携されたよ。」
それを知り、19歳直前を除きパーッと明るい気分になる。
「それじゃあ、もう戦争しなくて良いのか?!」
「そうだよ。」
それを聞き嬉しくなり思わずキラに抱きついた。すぐに離し、もっと色々教えてくれとせがむ。
「さすがはお父様・・!やっぱりお父様なら出来ると思ってた!」
その一言に、黒髪の子は怒ったように口にした。
「・・・もうウズミ・ナラ・アスハは死にましたよ。」
「え・・?」
コイツは何を言ってるんだと、思った。そんなはずないよな?とキラに同意を求めるような目ですがる。
「・・・三年近く前に亡くなったでしょ?覚えてないの?」
え・・・・?
そんなハズ・・。
「な、なにバカな事言ってるんだよ?そんなハズ・・・そんな事!!」
大声で怒鳴ると医者らしき人物が入ってきた。
「カガリ様・・お目覚めになられたのですか!?」
そしてキラが医者の元に行き話し始める。
「三年ぐらい前からの記憶がないみたいなんです。」
「ですが、お目覚めになられた事が奇跡ですよ!」
しかし、キラ達の顔は全く晴れなかった。
それからまた一週間が過ぎた。
「カガリ・・・具合いかがですの?」
そう言い入ってくるのはラクスと言うピンクの髪の綺麗な女の子だった。
「・・・私自身全く元気だが、脳みその方は全然だな。」
一週間の間、暇だったのもあり、自分の記憶が無くなったと言われる辺りからずっと新聞を読み返し、
その時のニュースを見ていた。
それで分かった事は父が死にオーブを焼き、一時終戦を迎え、代表になり、ユウナという男と結婚しかけ、
またオーブを戦火へと導いてしまい、またアークエンジェルと共に戦った。そして今があるという事だった。
そして今、つい一ヶ月ほど前自分がしたという演説を聴いていた。
自分が将来こんなに落ち着き人々の前に堂々と立てるのかと思うと少し無理があるように思える。
それに、自分はアスラン・ザラという人物と付き合ってるらしいという事もつい最近読んだ新聞と、今見ている演説で理解した。
「ところでさ・・・アスラン・ザラ・・・は?」
画像で見る限り、アスラン・ザラというのはここで目が覚めてはじめに見た人物で間違えないだろう。
「さぁ・・?病院内にいると思いますが・・。」
アイツは自分の恋人が自分と会う前まで記憶を失ってしまってどんな気持ちでいるのだろうと思った。
「アイツ・・・怒ってたか?」
今映像で見ていて分かるが、こいつと私は結婚するほど仲がよかったらしい。
それに、肩を抱かれる自分もとても嬉しそうに見える。
「・・怒って・・いませんでしたわ・・ただ・・。」
ラクスは紅茶を入れながら、言葉を続けた。
「とても・・悲しんでいらっしゃいましたわ・・。」
当然かもしれない。好きな人に忘れられるなんてよっぽど辛いことなのかもしれない。
そしてキラが言っていた僕達は兄弟だよ・・と。しかも出産直後の写真も見せられた。
どれもこれも困惑するには十分だった。
寝ているうちに身体はどんどん回復していたらしく、歩くと少し左足の太ももがいたいが、それ以外なんの問題もなかった。
なので、ラクスと共にそのアスラン・ザラを探しに行く。
病室に入ると、キラと・・・シン・アスカが座っていた。
「おはよ!キラ!シン!!」
「おはよう、カガリ」
「おはようございます・・。」
シンは相変わらず微妙そうな顔をする。
「お前、敬語使うなよ・・気持ち悪い。」
しかし、そんな言葉も無視されてしまう。
「無視するな!!!」
そう言うと、シンは嫌味っぽくボソッと吐き出す。
「アスラン・・探してあげなくて良いんですか?あの人そうとうへこんでましたよ。」
そう言われ、そうだったと探しに戻る。すると、キラが
「アスランなら屋上に行ったけど?」
と優しく教えてくれた。
「ありがと!」
ラクスと一緒に行こうと思っていたのだが、ラクスはお一人でいってらっしゃいな、と言いそこに残ってしまった。
階段を上がりながら考えていた。一体、なにをすればいいんだ?
話し掛けても、相手の虚しさが増えるだけではないのか?
しかし、もう来てしまったのに足を止める訳には行かない。
えぇい!こうなったら、今の自分で当たろう!!そう思い、屋上のドアを開けた。
ガン!!と物凄い音がして、扉を振り返ると、そこにはカガリが立っていた。
「カガリ・・。」
思わず名前を呼ぶが、彼女は俺の事など知らないのだと思い出し悲しくなった。
「えっと・・その・・・、わ、悪いな何にも覚えてなくって!!」
そして続けようと言葉を捜しているように見えた。
「・・あの・・・お前と・・私は恋人同士・・だったんだよな?」
過去形にされたと思いショックを受けた。目を細めて泣きたい気分になる。
しかしこうやってカガリが目の前に立ってくれている事が幸せだと自分に言い聞かせた。
「・・・無理するな・・・・。覚えていないのに無理強いするつもりはない。」
そんなことない。本当はカガリを抱きしめたかった。
その言葉を聞きカガリはアスランの傍に立ち空を見上げる。
「本当に・・すまないとは思っているんだ。」
そんな事目を見れば分かると言いたかった。カガリはまだ知らぬアスランに戸惑っているようだった。
「俺から言わせて貰えば、やっぱりカガリはカガリだ。」
それを聞きカガリはえ?と返してくる。
「・・・初めて会ったときのカガリそのままだしな・・・。」
スカイグラスパーから落ちたと言ったカガリ。それは紛れもなく自分に会う直前の事だと確信していた。
カガリはそうか?と顔を傾げる。その顔を見て少し切ない気分になった。
すると、カガリはグッと服の裾を掴み、見上げてきた。
「・・・すまない・・悲しい思いをさせようと・・思ったわけじゃないんだ。」
真っ直ぐな瞳・・・。それは今も昔も変わらないカガリだと証明しているかのようだった。