第八話:涙

シンとアスランとキラさんが部屋の前に来る直前、ドンドンと激しくぶつかる音がして、カガリさんが生きていると
確信する・・しかし、その直後ドアから弾が貫通したのを見て息を呑んだ。
カガリさんが危ない・・そしてアスランがドアを開けドアからなだれるようにカガリさんが倒れてくる・・・。
この位置から見ても一目瞭然・・・。カガリさんは左足を真っ赤に濡らしている。
そしてその身体をアスランが抱きかかえ、意識を確認しているようだった。
一方シンとキラさんは犯人と撃ち合っている。
そして、アスランからとんでもない一言が発せられた。


「奴は爆弾を持っているらしい!!いったん引くぞ!!」

その直後だった、物凄い光と音の後、その階が爆炎に包まれるのを見た。
物凄い爆発音がして、炎の明かりで何が起こったか分からない。
そしてその階がズドンという音と共に潰れその上の6階ほどもバランスを崩すかのように潰れる。
その破片がこちらのマンションまで多く飛んでくる。
幸い横に崩れず、縦に沈没したような形となった。


その轟音が鳴り終わり、暫く唖然としていた。一体今何が起こったのか、頭の中で整理がつくまでさほど時間は掛からなかった
「・・・シン!!」
そう思い今の振動で使えなくなったエレベーターを叩き、使えないと理解して階段を下る。
このマンションはまだオープンしておらず、人がいなくて・・・それが更に恐さを増幅させていた。
シンが・・アスランが・・・カガリさん・・キラさん・・・・・。
ピタリと足が止まった。そんなの確認したくない・・・・・。
いつの間にか目に大粒の涙が溢れていた。まるで子供に戻ったように大声をあげた。
そして歩く気力もなくし、鳴きながら手すりに掴まりトボトボと階段を下りていた。
でも13階から8階まで降りたところで歩くのを止め自分の腕を掴み震える身体を治めようとする。
しかし、一向に治まる気はなくどんどんと嫌な方向に頭が巡った。
そしてそのまま塞ぎこむように下を見て吐き気がしてきた。
何となく音がしたり、外から叫び声が聞こえたり・・・。でも今の自分にはどれも関係ないように思える。
「・・・!!」
「・・・・っ!!」
「おい!!!」
そうハッキリ聞こえ驚き顔を上げると、ディアッカ先輩、ムゥさんの姿があった。
ムゥさんが必死に自分の肩を揺らしてくれていた。
「嬢ちゃん気をちゃんと持て!!」
その言葉に涙がまた溢れる。こんな状態でどうすればいいの?
「キラとシンはこのマンションに飛び移った!!」
そう目の前で叫ばれ、え?と目を見開く。
「軽傷・・・って訳にもいかないが、恐らく生きているから、安心しろ!!」
そう言われ、頭が混乱しているとディアッカ先輩がポンッと頭に手を乗せる。
「あいつら、10階に飛び降りたってさ。」
それを聞くとムゥさんは"そういうこと"と言ってくれる。
そして直ぐに今来た階段を逆に駆け上がった。



「っ!早く吐かんか、貴様は!!!!」
そうさっき捕まえた犯人を車の中で怒鳴っていた。
そんな俺を見てディアッカは
「こいつ怒り出すと何するか分かんないから、早く言っちゃった方がいいよ〜」
と軽く流していた・・そんな最中。
物凄い音と共に炎が空から上がる。
急いで車を出て、見上げると二人の人影が隣のマンションへ移るのを見た。しかしそのシルエットから キラとシンである事に直ぐに気が付く。
そして、少し遅れて、誰かを抱いた奴がマンションに飛び移ろうとした・・・しかし、二人分の重さを 一人の飛躍力であの空間を飛ぶのは無理があった。


無意識に、その落ちる人影を辿る。

「イザーク、姫さんとアスランは頼んだぞ!!」
そうディアッカに言われ
「俺に命令するな!!」
と大声で叫びながらも駆け足でそいつ等の行く末を見ていた
。 始めの二人はガラス窓を割り、隣のマンションに入ったのを確認する・・。しかし、こっちはどうもそういう訳にはいかなさそうだ。
「っち!馬鹿者め!!!!」
頑張って走っているのに、その人影が到着すると思われる場所にすら、爆風で進む事が出来ない。
それに上から破片がゴロゴロと落ちてきていた。


ズドンッ!!

そう、鈍い音がしてそれが落ちたのを認識する。
「アスラン!!!!」
そして、多くの破片に混じり、オーブの代表とアスランが共に人工芝の上に倒れているのを発見した・・・。


「・・・っ!」
「・・・ン!!」
「シンッッ!!!!!!」
そう目の前で叫ぶ声が聞こえる。
何とか目を開けると、ルナマリアが泣きながら自分を覗き込んでいる事に気が付いた。
ガバッと抱きつかれ、今自分の身に起きた事を確認する。
「・・・・他の人は!!?」
すると、ディアッカさんは少し複雑そうな顔をしたが、親指で横を指す。
粉々になったガラスの上にキラさんは何気ない顔で立ち、フラガさんと話している。
そしてキラさんの目が大きく開かれ、こう言った。
「・・・じゃあ・・!カガリとアスランは?!」
その言葉にギクッとする・・。あの二人は?!そう思うい辺りを見回すが、家具すら見当たらない。
すると、キラさんは急いで走り出す。俺も・・・!と起き上がろうとするが、ガラスの破片が腕に喰い込み血が流れていた。
「あの二人は?!」
その質問にフラガさんとディアッカさんは顔をしかめた。
「・・あいつらは多分地面に落ちた。」
その言葉を聞き背中がゾクッとする。
「イザークが助けに行ったからな・・・俺達も早く降りて二人の無事を確認しよう」
ディアッカさんは立てるか?聞きかれハイと頷いた。


急いで降りると、遠くにマスコミが見え、近くには消防士やら、救急車やら・・・色々なものが見えていた。
そして、カガリとアスランが落ちたと思われるところに走っていく。
暫く瓦礫を避け走っていると砂煙の中から人影が見えた。
「・・っ・・貴様・・眺めている暇があるなら手を貸せ!!!!!」
そしてその両側にはカガリと、アスランがいる事を確認する。
カガリの方を受け取り抱きかかえる。
「そっちの方が重症に見える・・・早く運んでやれ!!」
そう言われ抱きかかえたまま出来る限りの力で走った。

救急車にカガリを乗せ付き添う。
カガリは直ぐに人工呼吸器をつけられ、足の傷の大急所地が行われる。
「カガリ・・しっかりして!僕がついてるから!!」
どんなにカガリの手を握り締めても話しかけても反応はなかった。



腕の傷の大急処置をして病院に入る、今回四人の中で一番軽傷なのは俺らしい。
軽傷と言っても、左腕の筋肉が切断されていてそこまで軽傷とも言えないのだが・・・。
アスハを運んだキラさんは、どうやら肋骨が二本折れていたらしいとナースが言っていた。
しかし、どの医者からもナースからもアスハとアスランの経過は報告されなかった。


一週間後、自分の手術も終わり頭がハッキリしてくる。
「・・・やぁ、シン、大丈夫?」
隣のベットからそう言ってくるのはキラさんだった。
この人肋骨を折ったはずなのに普通に階段を下っていた事を思い出す。
「キラさんこそ大丈夫なんですか?」
キラさんはニッコリ笑って頷く。
「面会時間終わっちゃったけど、ずっとルナが付き添ってくれてたよ」
あの時のルナの泣き顔を思い出し、少し申し訳ない気分になった。
「・・っ!アスランと・・アスハは?!」
フッと思い出したようにその事を尋ねる、キラさんは何とも言えない顔をして目の前のベットに目をやった。
「アスランはそこ・・・肩の脱臼と全身打撲・・でも下が芝生だったせいか、骨は折れなかったって。」
それに驚く、芝生だからってあの高さから落ちたのに?不思議そうに言うとキラさんは思い出したように付け加える。
「でも、全身・・・頭部と脊髄以外の骨殆どがヒビ入ったらしいよ。」
それはそれで凄く重症だと思う・・。だが、頭部と脊髄が無傷なのは不幸中の幸いだろう。
「でもまだ目はさましてないかな?・・お医者さんによると、目が覚めるのは時間の問題だってさ。」
それを聞いて安心する。しかし、動けない身体で目が覚めたらきっとアスランは悲しむだろうと思った。
「それで・・アスハは?」
あの人を助けに行って・・まさかとは思うが・・・という目を向ける。
「カガリ・・。カガリは別室。でも・・・・・。」
キラさんの穏やかな表情が一変する。
「ま、まさか・・・!!」
声を荒げると、キラさんは落ち着かなければと表情をいつもの様に戻した。
「・・手術は成功したけど・・・まだ危険な状態なんだって・・・、それに・・・・・。」
水が打った様に静かになる。いや、これが病院のあるべき姿なのだろうか?
「・・・今の・・危険な状態が長く続くようなら・・・その後、状態を脱しても、意識が戻るか分からないんだって・・・。」
キラさんの表情が悔しそうで・・シンにとっての妹・・マユのような存在が苦しんでいるのに何も出来ない・・。
その悔しさが分かるような気がした。でも、自分が何をしてもどうにもならないと、キラさんだって知っている。
しかし、キラさんは毅然とし泣かず真っ直ぐ前を向いていた。本当は泣きたくて堪らないのだろうと思った。


あれから、メディアは一時騒然とする事になった。
カガリ様誘拐、そして爆発。このニュースはオーブにもプラントにも流れる事となった。
そして、カガリ様が無事というニュースを流され、オーブ国民が安心したのもつかの間、まだ危ない状況だとも流された。
ラクス様は船に乗るのは危険だとされ、オーブにとどまる事になる。
しかし、それはラクス様自身が望んだ事でもあった。
そして、カガリ様を助けたのはプラントのアスラン・ザラである事も大々的に放送されていた。
「ラクス・・・大丈夫?」
ミリアリアさんは心配そうにラクス様の顔を覗き込む、ラクス様はいつもより暗い表情だが笑って返していた。
そして今日も、ルナマリア、ジュール先輩、ディアッカ先輩がボーディーガードと称しお見舞いに付き添う。
「シン・・!意識が戻ったの?!」
そう言って抱きつくと、シンは人前だからと頬を赤くしてくれた。
「本当に心配したんだからね!!!!」
そう言って五分ほど説教をすると、ゴメンゴメンと軽く謝ってくる。
「・・・あとは・・カガリとアスランですわね・・。」
ラクス様がポツリとそう呟くのを誰も聞き落とさなかった。
その言葉にキラさんが表情を歪める。それを見てラクス様はキラさんの横に座り頭を肩につけた。
ジュール先輩とディアッカ先輩はアスランの前に立ち見つめている。
「心配か?イザーク」
ディアッカ先輩はこの場の空気を和ませようとしたのかもしれない。が、ジュール先輩は逆にカンに触ったようだった。
「当たり前だ!馬鹿者!!」
そう言った後に、自分らしくない発言だと思ったのか、
「コイツが死んだらチェスをする相手がいなくなるだろうが!!」
そう取って付けたように言っていた。
すると、一人の医者が入ってきて、カルテを捲り皆に聞こえるようにカガリさんの状況を説明しだす。
「・・危険な状態は脱しました・・・しかし・・・。」
医者は少し言いにくいのか黙ってしまった。
「・・・いつ目が覚めてもおかしくはありませんし・・同時にずっと目覚めないかもしれません。」
その言葉にキラさんは思わず立ち上がる。
「・・起きるのが遅ければ遅いほど・・・後遺症は残るでしょう・・。」
そして医者はこう付け加える。
「しかし、あの状態で人を庇って・・・生きていたのが奇跡と言えます。」
・・・庇った?おそらくカガリさんはアスランの事を庇ったのだろうと思った。どこまでも良い人・・。
「脳以外の腕、足・・・それらの難しい手術も全て成功しました・・・・。」
きっと医者からしてみればこれも奇跡なんだろうと思った。
しかし、キラさんの震えは一向に止まろうとしなかった。そして、それをなだめるようにラクス様は後ろから抱きしめる。
「私たちがカガリを信じないで・・誰が信じて差し上げるのですか?」
キラさんはカガリ様の方に向き直り、抱きしめ返す。
「・・・カガリはいつだって勝利の女神ですわ。」
おそらくだがキラさんは泣いているだろうと思った。





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あとがき
なんか何とも言えない。