この報道は一日中テレビで嫌と言うほど報道される。
せっかく来てくれたカガリ様に対して失礼だとか、オーブの一部のものは怒っているとか・・・。
しかし、どれもカガリに対しては友好的でよかったの一言だった。
今カガリはベットで寝ている。
演説を終え舞台袖に入ると同時にカガリは肩を震わせアスランのほうへガクンと体重を乗せる。
「大丈夫か?カガリ・・・。」
心配そうに見ると彼女は少し目を白黒させて言った。
「また・・反乱とかが起きて・・・沢山の人が死ぬ事になったら・・・。」
きっとさっき自分の命が危なくなった事や今世界が代表までも軽く暗殺しようと動くのを見て気が動転してしまったようだった。
落ち着けと言わんばかりに抱きしめると、カタカタと震わせていたのをやめフッと力が抜けた。
驚いて身体を支えると彼女は気絶していた。
急いで医者に見せる、しかし寝ているだけだと言われホッと息をみなでついた。
カガリには悪いが明々後日ラクスの演説がありおちおちもしてられず、寝ているカガリをアークエンジェルに乗せる。
一応医務室に寝かせ、自室に戻りプラントでの仕事を再開する。
「まさかとは思ったけど・・・本当にあの場で撃ってくるとはね・・・。」
「まーた変な方向にいかなきゃいいけどね」
アークエンジェルのコックピットでそう話している二人をまじまじと眺めていた。
ルナマリアはマリューと話して以来、すっかりアークエンジェルのメンバーとも馴染んでいた。
「カガリ様・・・えっとカガリさんは大丈夫なんですか?」
ここのクルーは皆カガリさんと呼ぶので自分もそれに習う。
「今、医務室にアスラン君が運んだし・・・お医者さんからは大丈夫って言われてるけど・・・。」
マリューが心配そうに顔を上げる。
ウィーンとドアが開きディアッカが入ってくる。そして一直線に一人の女性目指して飛んでくる。
「全く、次は何のよう?」
そう答えるのはミリアリアというしっかりした女の人だった。
「そう棘棘すんなって、何?理由が無きゃ逢いに来ちゃ駄目なの?」
そう言われ、彼女は微かに嬉しいようなしかし同時に呆れたような顔をする。
「まったく、別れたって現実をさっさと受け止めて欲しいわね」
そう言いながらもディアッカが持ってきたドリンクを快く受け取り呑んでいた。
ミネルバのクルーも良い人たちとは思うが、此処のクルーは皆友達感覚のところが強く羨ましかった。
ザフトのように統制されていない、信頼で結ばれる絆というものがこの短期間でもひしひしと伝わってくる。
それは一歩間違えれば悪い方向へ転ぶが、このクルー達にはその心配は欠片もないらしい。
「あれ?そう言えば、もう二人・・・銀髪と黒髪の坊主・・まだあんまはなしてないな」
この人たちはやはりコーディネーターに友好的だった。
世界中がこんな温和な人たちで満ちていれば良いのにと心から思う。
丁度、宇宙を長めていると茶色い髪の奴が後ろから声をかけてきた。
「・・貴様は・・たしか、カガリ代表のボディーガードだな」
ついさっき、2mの高さから余裕で飛び降り、狙撃者を糸も簡単に捕まえたと頭の中に入っていた奴だった。
「キラ・ヤマト。アスランの親友だよ。君は?」
その言葉に少しギクッと来る。つまり、フリーダムのパイロット・・・。
コイツには命を救われた事もあるし、また大切な戦友を殺した憎い敵でもあった。
「・・・イザーク・ジュールだ」
しかし、今更それを掘り起こす気は更々なかった。
「うん、アスランから聞いてる。頼りになる奴だって」
知っているなら尋ねるなと言いたくなり軽く睨む。すると意思の強い瞳で覗き込まれ逆に目を逸らしてしまう。
誰かに似ている瞳だと思い考えるが答えは出てこなかった。
「君のお陰で何度もたすかったよ・・・ありがとう・・それと、ゴメンね」
そう言われ何の事だと聞き返すとそいつは笑ってこっちを見てくる。やりにくい奴だと思いフンッと背を向けた。
出来るだけ足音を立てないように医務室に向かう・・・別にアスハが心配な訳じゃない。
だが、自分が護衛した相手に倒れてもらうとバツが悪い。
そう思い医務室の前に来ると急に背中を叩かれビックリして後ろを見る。
「シン・・・ですわね、シンもおみまいですの?」
プラントの歌姫と二人で話すのは初めてでしばしば緊張しながら、曖昧に返事を返す。
「あら、それでは私と同じですわね。」
そうフワフワとした感じで言われ、いつもテレビで見る時のギャップに驚く。
ウィーンと扉を開けると、カーテン越しに唸っている声が聞こえる。
「あらあら・・カガリ・・嫌な夢でも見ているのでしょうか・・・。」
それは割りと本当のようで顔を見ると汗だくになっている。
「あとで一緒にお風呂にでもさそいましょうね」
ラクス様はそう言いアスハのおでこをタオルで拭いている。
「この船には温泉がついていますのよ、よければ入ってくださいな」
そう微笑まれると嫌とも言えずえ・・あ・・はいと答えておいた。
余りにも真っ青な顔をしているアスハに驚き、見つめていると
「心配ですか?」
そう聞かれ必死に否定する。
「いえ・・・ただ、自分が護衛した相手が倒れてるのが嫌だっただけで・・・」
するとガバッと唐突なまでに起き上がられ内心びくっとする。
「お目覚めになられましたのね?カガリ」
その言葉の主を探すかのようにアスハは周りを見渡す。
「・・・ラクス・・か・・・。良かった・・。」
シンの存在に気が付いていない様子で放心しているように見えた。
「どんな夢をみていらしたのですか?」
「・・・世界が戦争になって・・皆生きてるかも自分には分からなくて・・・。それでも必死に指揮を取ってるのに
逃げ遅れた人が死んで・・・・。」
アスハの顔は少しずつ平常に戻ってきていた。おそらく夢と知り安心したんだろう。
「・・・自分も・・死ぬ事になるんだけど・・身体が死んでも魂が残ってその戦争を最後まで見届ける夢・・・。」
それを話し終えアスハはハァとため息をつく。
「よかった、夢で・・・そうだよな、世界がもう一度戦争になるなんてことないよな。」
落ち着きを取り戻したアスハを見て、ラクス様は俺の事を説明しだす。
「シンもお見舞いに来てくださったのですよ」
そう言われアスハは驚いたようにこちらを見上げる。
「・・・・どうも。」
「・・いや、すまない。」
何が?と思いながらアスハを見ていた。決して好感をもてる訳ではないが、昔ほど嫌っていないのも真実だった。
「だいたい、弾が当たってもないのに倒れないで下さいよね、いい迷惑です」
その言葉にラクス様は見据えるようにこちらを見ていた。
「そうだな、その通りだ情けない。」
アスハはすまないと謝りベットから立ち上がる。
しかしその足取りはヨロヨロしており、とても見ていられない。
カツンと足先が床に引っかかり転びそうになるのを何とか壁に捕まり体勢を保守する。
「つきそいますわ、カガリ・・。」
するとアスハは苦笑いをしもう一度謝り医務室を出ていった。
お腹がすいた事に気がつき食堂に向かおうとすると、カガリの部屋から出てきたラクスに会う。
「ラクス・・・、カガリは?」
その声に反応しラクスは桃色の髪を揺らしながら振り返り、ニッコリ笑う。
「少し、気分が悪そうでしたがお部屋に戻りたがっていたので・・・」
それを聞き、食堂でカガリと自分の分を持ちカガリの部屋に向かう。
「カガリ・・俺だ入るぞ?」
応答がないので無断で入ると、カガリは虚ろになってベットに横になっていた。
しかし、アスランの存在には気が付いているのか、横目でチラッと見て体制を起こそうとするがその姿はダルそうだった。
「食事・・・一緒に取ろうと思って持ってきた」
そう言うとありがとうと言ってくれるが実際は起き上がるのも苦痛のように見え、見てて痛々しかった。
無理に食事に手を伸ばそうとするカガリを見て、腕を掴み止める。
「無理するな、食事ならあとで取ればいい。」
カガリは俺の好意を無駄にしまいとしてくれるのは嬉しいが、やはり自身の身体も気遣って欲しい。
カガリはすまないと言いまたゴロンと横になり虚ろな表情をした。
お腹がすいていては話しにならないと口に入れれるだけ入れ、飲み込みカガリの横で添い寝をする。
「・・・別にいいんだぞ、気つかわなくて」
カガリは俺に背を向けたまま答える。しかし、そんな訳にもいかないだろう。
「俺が好きでやってる事だ・・嫌なら出て行く。」
そう言うとカガリは嫌なはずがないだろう?と返す。しかしこちらを向こうとはしなかった。
「少し・・疲れたみたいだな、私は」
滅多に弱音を吐かないカガリからこのような言葉が出て驚くが黙った聞く。
「・・・シンの家族の事・・まだちゃんと謝ってないしな・・・。」
先の大戦の前シンからカガリに浴びせられた言葉はカガリにとってとても痛いものだった。
しかし、カガリはそれを謝りたいという。シンからしてみればカガリの責任かもしれないがそれはただの責任転換に過ぎないと
アスランは感じていた。
「それは・・カガリが全て悪いって訳じゃないだろう?」
そう問うとカガリは首を横に振る。
「いや・・・アイツがそう判断した時点でシンにとっての悪は私になる。」
確かにそうかもしれないが・・・・微妙な気分に陥った。シンもカガリも一度も悪い事をしようとした訳ではない。
「演説中、撃ってきた奴ら・・あいつらはパトリック派だったとラクスから聞いた。」
それを聞きギクッとする。また父の言葉・・いや父を信じた者の仕業かと。
「私はそいつらを・・あまり恨もうとは思えないんだ」
何を言いたいんだ?と思い顔を傾げる。
「・・お前が軍に入った理由・・・知ってるよな?」
当然だ。アスラン自身の事なのだから。
「母親がユニウスセブンで亡くなった・・・悲しかったからだろう?それはお前の父親にも言えることだ」
カガリは淡々とした口調で語っていた。
「きっと・・お前の父さんはお前の母さんの事大好きだったんだろうな・・だからそれを奪ったものを許せなかった。」
たしかに・・そうなのかもしれない。しかし、自分が覚えている父はとても冷たい上官でしかなかった。
「きっとパトリック派はそんな悲しい思いをした奴の集まりなんだ・・死んでこそいないが戦争の犠牲者でしかない。」
カガリは基本的に誰でもまず愛する事から始める人だと思う。そんなカガリだからこそ民衆も彼女を好く。
「だから・・恨もうと思わない・・・。出来れば銃なしで話がしたいが・・・。・・たが、所詮夢見事で終わりそうだな。」
それを聞きクスリと笑う。それを聞きカガリは笑うところか?と冷静に言う。
「カガリが夢見事や理想論、綺麗事を言わなくて誰が言うんだ?」
その言葉に驚きカガリはクルリとこちらを見て不信そうな顔をした。
「理想を現実にする。これが俺やカガリの役目だろ?」
そう言うとカガリは大人しくニッコリ笑いありがとうと言い服の裾を掴み目を閉じた。
すぐに寝息が聞こえ、寝てしまったかとカガリの髪を撫でる。
寝顔はまだまだ少し毛の生えた少女にしか見えないのにな・・・とおでこにキスをして自分もその場で寝息を落とした。
「どうしたの?ルナそわそわして・・・」
そう声をかけてくれたのはミリアリアさん、メイリンから話は聞いていたが実際話すとやはり良い人だと思う。
「カガリさんの部屋に行きたくて」
そう言うとミリアリアさんは快く案内してくれる。
「ここよ、前からずっとカガリはこの部屋って決まってるの」
この人や、キラさんとかはカガリさんを呼び捨てにする。おそらく国の代表より友達が強いのだろう。
二人で入ると、規則正しい寝息が聞こえるが何処かおかしい。
ベットを覗くと、驚く事にアスランさんもいるではないか。
「添い寝・・・ですよね?」
そういうとミリアリアさんは苦笑する。
「まさかこんな所でいかがわしい事したりしないと思いたいわね、アスランが」
そして二人で顔を見合わせてクスクスと笑った。この分ならカガリさんも大丈夫だろう。
シャワールームと案内の紙に書いてあるところに行くと"大天使湯(男)"と書いてある所に行き着いた。
「・・一体なんなんだよ、この船は・・」
そう呟き中に入ると、どうやら風呂・・・いや温泉らしい事に気が付く。
中に入ると先に人がいて少し気まずい気分になりながらも引き返すわけにはいかないと浴槽に浸かる。
「・・・あなた・・ですか」
横をチラリと見ると亜麻色の髪のキラ・ヤマトがいた。
「そういえば、君僕の事名前で呼ばないよね?」
ついこの前少し嫌な事を言われたのはまだ覚えていた。
「キラでいいよ、僕もシンって呼んでるしね」
そう言われじゃあといい、何か必死に話題を探していた。
「キラ・・さんは、何でアスハの護衛なんてしてるんですか?」
その問いにキラさんは少し困った顔をするが、すぐにスッキリ向き返し答える。
「君、兄弟とかいる?」
そう言われギクッとする、いる・・・いた・・・けどアスハに殺された。
そんなアスハを護衛するこの人・・良い人だと分かる・・けど・・・。そう考えながらも一応頷く。
「・・・戦争で・・死にました。」
寂しそうにそう言うと、キラさんは切なそうな表情を浮かべる。
「・・・アスハが・・・オーブが戦場になって・・・その時に・・・」
キラさんは何かに納得したように、意味ありげに下を向き、またその何かを悟ったような目で自分を見てきた。
「僕とカガリは兄妹なんだ。」
その言葉にギョッとする。何を言い出すんだこの人は・・・と。
しかも兄妹?有り得ない。だってアスハ・・・カガリ・ユラ・アスハはウズミ・ナラ・アスハの子供だろう?
それにこの人はキラ・ヤマトではないのか?
「それも双子。お互い別の人に拾われてね、三年前ウズミさんがオーブと一緒に亡くなったとき教えてもらった。」
この人の言っている事はおかしいと思った。双子?じゃあなぜ二人はナチュラルとコーディネータなのか?
グルグル考えているとキラさんは少し微笑み、前を向く。
「出生については色々あるけど・・・でも僕とカガリは血が繋がっている。これは本当。」
そう言われ驚きと同時に苛立ちが走る。信じていた人に裏切られる感覚に良く似ていた。
そんな態度に気が付いてもキラさんは言葉を止めようとしなかった。
「シン、君はカガリを嫌っている事は知ってる。けど、相手の事も知らずそういう態度をとるのは僕は良いこととは思えない・・」
その言葉に拒絶反応を出すように風呂を出ようとする。しかし、彼はそれすら許そうとせず言葉を続けた。
「憎む事で・・・救われる命は一つもない。」
その言葉が温泉でエコーがかかりやけに響く。
壁をダンッと叩きキッと睨む、しかし相手は動じない。恐いぐらいにに見据えられ逆に目を逸らしてしまった自分がいた。
キラさんはいつだって正論を言う・・しかし、それが納得できるほど大人ではなし、心も広くない。
正直にそう思い情けなくなってその場を立ち去った。