第二話:発覚

翌日の朝早くアスランとラクスはプラントに戻ってしまった。
時々、自分とアスランは永遠に公の場では結ばれないのではないかと思えてくる。
彼はラクスの恋人、プラントの英雄、パトリックの息子、じき評議員、コーディネーター。
私はオーブの代表、ナチュラル。
その二人を隔てる壁は余りにも大きく感じた。


プラントにつくとメイリンが迎えに来ていた。
「アスランさん!ラクス様!!おかえりなさい!!」
あれ以来、メイリンは何かと俺の傍で補佐として働いてくれていた。
「今日の予定ですけど、アスランさんはザフトに顔出すように言われました、ラクス様は・・・」
彼女は順々に今日の予定を言っていった。
「じゃあ俺はザフトに行ってくる」
「わ、私も・・・!」
「いや、メイリンはラクスについてやってくれ。」
そういい残しザフトに向かった。


「何のようだ?イザーク・・。」
部屋に入るとムッツリと怒ったイザークの顔が目に入った。
だいたい、奴は怒っていない事の方が少ない気がするが、それでも戦友と呼べる良き友だった。
「今度のラクス様とオーブの代表がお互いの国に行き平和主張を国民全体に話すのは知っているな?」
「知らないわけないだろう、一応護衛でもあるんだ。」
そういい向かいの席に着くと、ドアが開き人が入ってきた。
「よぅアスラン!久しぶりだな」
「ディアッカか」
ディアッカは列の先頭に立ち軽く敬礼をする。
「アスラン?!」
そう言い横からヒョコッと出てきたのはシンとルナマリアだった。
「久しぶりです!アスラン!!」
その態度に怒ったのか、イザークはしかめっ面を強める。
「敬礼してから言え!!!」
その言葉に驚き、二人は慌てて敬礼をした。
「本題だが、その平和主張の時の護衛をお前達にやらせたい。」
その言葉にシンは少し驚く。
「まさかと思いますが、こんな少人数で?」
イザークは少し間を取り説明し始める。
「ラクス様とオーブ代表の意見ではあまり銃などを持ち込ませたくはないらしい。
私服の奴は何人か入れておくが、それはテロを未然に防ぐ為のみに使われる。」
「私服の奴らは銃を持たない。あくまでも一般市民としてそこに参加するって事。」
ルナマリアは訳が分からないと首を傾げる。
「ようするに、発砲とかが起きた場合、止められるのは俺達だけ・・・そういう事か?」
「そうだ、私服の奴はあくまでも伝達のみ、危険な行動をしている奴を見つけて連絡するのが仕事だ」
そういい、イザークはため息をつく。
「別にいいじゃないですか、護衛だって言えばいくらでも・・・」
その言葉にイザークはウンザリしたように答えた。
「今世界は武器を取らない道を選ぼうとしているのだ、それを壊すつもりか」
その言葉を聞きシンは軽く舌打ちをして「それが甘いって言うんだ」と悪態をつく。
「それと、オーブでも軍から少人数護衛を出すらしい。お前らそいつ等と巧くやれよ。」
イザークはぶっきら棒にそう答えるが、実際イザークも心から平和を望んでいる一人でもあると感じる。
「最初はオーブの代表がこちらに来る、そして演説をする。その次の日はラクス様がオーブに行く。」
話を聞いていると、これは良い事を企画したものだと感心する。さすがカガリとラクスだ。
「ラクス様もオーブの代表もどちらとも護衛するからな。」
イザークはそれだけ言うと、下がれと言ってきた。


「ったく、なんかこの頃拍子抜けばっかり。」
その言葉にルナマリアは聞き返す。
「そうも思うけど、良いじゃない。世界が平和になっていくなら」
確かにルナマリアの言葉も分かる。でも銃も握らず平和が守れる時が来るとはとても思えない。
「だいたい、ラクス様はともかくなんでアスハの護衛なんか・・・。」
家族を殺した・・・確かにそうだが、戦後の代表の言葉を聞く限りじゃ未だに理想論を述べているが
決して間違った事ではないと思う・・しかし・・・・。
「なんて言うか、シン食わず嫌いみたい。」
ルナマリアにさり気なくそう言われ胸が痛む。
「実際カガリ様がオーブに帰ってから随分と良くなったじゃない、それじゃ駄目なの?」
ルナマリアが言う事は正論かもしれない。でもやはり心のどこかで打ち解けないものがあった。
「シンの気持ちも・・なんとなく分かるけど」
そしてザフトの食堂へと入る、大きなモニターにニュースが映し出されていた。
すると、今日の特種でなんとも驚きのニュースが入ってきた。
『先日、ラクス様とアスラン・ザラ氏が休暇を取られそれに密着取材を試みようと・・・。』
これは人権侵害にならないのかと思うが、どうやら二人の私生活に密着したいようだった。
しかし、その後目に飛び込んできた映像には食堂の誰もが息を呑んだ。
『カガリ!何処にいる?!』
暗いがハッキリと声と姿で分かる、アスランだ。
どこかの森の中のようだが、走って人を探している。
そして、誰かと会い少し喋りその人を抱きしめた。
カメラがアップになったのか、相手の女性の顔がハッキリと見えた。
食堂にざわめきが走る。
「・・・あれ、オーブの代表じゃ・・・。」
「カガリ・・・様?だよな?」
その姿に呆然として立ちすくんでいると、ルナマリアは「まだ続いてるんだ・・」とボソッと吐き出した。
『ザラ氏とラクス様がオーブに降りられその後家に入りザラ氏のみが出てきて・・・』
とこの映像を撮ったカメラマンは説明しだした。
「でも・・・あの人ラクス様の婚約者じゃ・・・。」
誰もが思った。それはプラント中で・・・。


その放送を見て、メイリンはポカンと口をあけ、ラクスを見つめる。
メイリンはラクスとアスランが恋仲でない事には薄々感づいていた。
「あの・・・コレ・・」
紅茶を一杯のみ、少し間をおく。
「ついにばれてしまいましたのね・・・。」
いつかはバレると思っていたが予想より遥かに早く、しかも初めから国中にコレが放送されるとは・・・。
ラクスはため息をつく。これから平和主張の演説を目の前にこのスキャンダルはラクスにもカガリにも痛い事かもしれない。
そんな中、アスランが護衛に戻ってくる。
そしてそのニュースについての解説がアナウンサーの中で始まる。
『ザラ氏は二股をかけていた、と言う事になるのでしょうか?』
『いや、アスラン氏の父はラクス様の父を殺している・・その時すでに婚約は解消されたのかも・・・』
『しかし、お二方ともそんな話は一度も』
そのニュースを見てアスランは大きく目を開く。そして急いでカガリに通信を入れる。
「カガリ?大変だ、プラントで俺とカガリのことが大々的に放送されて・・・」
留守番に入れていたのだが、カガリは直ぐにスイッチを入れてくれた。
「あぁ、知っている。今こっちにまでマスコミが来て直接取材がしたいとかなんとか・・・」
あの時の視線はコレだったのかと少し舌を鳴らす。
「痛いのはその情報をオーブのマスコミにも売られた事だな。今さっきこちらでもそのニュースが流れた。」
カガリは淡々と冷静な目で状況を話している。自分はこんなに焦っているのに彼女はどうしてこう落ち着いていられるのだろう?
「おそらくお前の所にもマスコミが来るぞ?大丈夫か?」
その言葉にカガリはどんな時でも人を心配できる余裕があるのだと見せ付けられたような気がした。
通信に割って入るようにラクスはニョッと顔を出す。
「安心してください、カガリ。私からも少し言っておきますから。」
ラクスも余裕の笑みを浮かべて言う。なぜ彼女達は此処まで冷静でいられるのかと疑問を持つ。
アスランだって作戦立てや復興の計画などは冷静かつ客観的に出来る方だと思っている、しかし私情が入ると一変してしまう
「アスラン、慌てるなよ。」
カガリはそう言い少し笑みを浮かべ通信を切った。


落ち着け、落ち着くんだと自分に言い聞かせ記者達の前に出る。
そこにはプラントの記者もオーブも記者もその他大西洋連合関係者もいる。
ナチュラルとコーディネーターの恋・・・いやナチュラルの国家代表とコーディネーターの英雄が問題なのかもしれない。
『今回のスキャンダル!本当なんですか?代表!!』
『もし本当ならいい意味でも悪い意味でも世の中が動きますよ?!!』
『ラクス様とは三角関係に・・・』
ため息をつきそうになるが我慢してカメラのフラッシュに耐える。
すると護衛のためか、キラが横に出てきてくれた。それで少し安心し質問に答えていく。
「今回の話、事実であると認める」
そう言った瞬間また多くの声が聞こえる。その声は賛否両論だった。
「言葉は誤解を生む・・私はこの場で深くこの事柄を話すつもりはない。」
すると記者から軽くブーイングが起こるが右手を挙げ静止させる。
「しかし、そう遠くない未来なんらかの形で国民や世界に伝えよう。それにこの件に対する国民の意見も聞きたい。」
そう言うと記者はだったら今でも・・・と言いたそうにこちらを見る。
「結果を早まらないでほしいというのが今の私の意見だ。それと、ラクス氏とは大変仲がいい。それは本当だ。」
そうオーブはコーディネイターにとても友好だ。しかし、それは太平洋連合やナチュラルの一部から見れば忌まわしき事態だった
しかし、代表はあくまでもナチュラル。それだから今までオーブでは大きなテロは起きなかった。


同じ頃、ラクスとアスランも記者の会見を受けていた。
『今回のスキャンダル!本当なんですか?』
『ザラ氏は二股をかけていたのですか?』
『ラクス様今のお気持ちは?』
その言葉やカメラのフラッシュに眉をひそめるが、答えないわけにもいかないと心を決める。
「確かに、今放送された事は事実であると認めます。」
その瞬間、歓声や非難の声が瞬時に上がる。それに見かねてラクスが声を上げる。
「皆様に一つ、聞きたいことがあります。」
その何かを探るようなラクスの声に記者は静まり返った。
「私達をどう見ていたのですか?」
この質問の意図を辿ろうと、記者たちは顔を見合っていた。
「答えは沢山あるかもしれませんね、例えば婚約者同士とか、英雄とか・・・」
これらの言葉に記者たちは頷く。
「ですが、残念ながらどれも私の答えからはハズレですの」
これに一人の記者が
『では、ラクス様とザラ氏は婚約は既に解消されたと・・・?』
その質問にラクスはニッコリ笑って頷く。
「詳しい事はお話出来ませんが、皆さんに今回の事を深く考えてほしいと言うのが私の想いですわ」
アスランが喋らずともラクスが記者たちの質問を丸め込んでくれた本当に良かったと思う。
自分で言うのもなんだが、アスランは結構な口下手であった。


夜、またそのニュースが食堂で流れていた。それを見たルナマリアは少しため息をつく。
「身分が身分だから仕方ないけど、この人たちも可哀相よね。好きに恋愛できないんだから」
確かにと頷く。
「でもアスラン自身何も言わないよな」
アスランは口で言うのが苦手なのは知っている。でも、この場でいわず何処で言うのだと思った。
「これが今度の平和主張に響くのは避けられないかもね」
「あやふやな態度ばっかりとってるのが悪い。」
そう言うとルナマリアも首を縦に振った。


平和主張の日が近づくと、日に日にプラントでも準備が忙しくなり警備も最終チェックに入ろうとしていた。
一人でランチをとっていると、イザークとディアッカが近寄ってくる。
「お前、一人でランチなんて寂しいじゃん?」
ディアッカはニッコリ笑いそう言う。
「フン!どーせろくに友達もいないんだろ!」
そう言いながら向かいに座ってランチを食べ始める。
少しして、シンとルナマリアも近寄ってきた。
「先輩達、私たちも同席していいですか?」
その言葉に
「全然OK、ルナマリアちゃん」
「勝手にしろ。」
と二言が帰ってきて俺の隣にシン、シンの隣にルナマリアが腰を下ろす。
そして心なしか皆がこちらを見ているような気分になり、顔を上げる。
「・・言いたい事があるなら口でいえ。」
そう言うとイザークは真っ先に口を開いた。
「お前・・・どういう事だ?オーブの代表と・・・護衛の時か?」
その質問に答えたのはディアッカだった。
「違う違う、ヤキンドゥーエの前から・・・もう三年経つな・・・。」
その言葉にシンとルナマリアは少し驚く。
「別に良いだろ?俺のプライベートの話しなんだから・・・。」
ディアッカはアスランが不機嫌になったのを見てお手上げのポーズをとる。
「でも、相手はオーブの代表、アスランは英雄。プライベートですむもんだいじゃない。」
シンは強い瞳で睨んでいる。その中には多少私情を挟んでいるように見えた。
「たしかに、そうかもしれない。」
知っている。彼女が国の代表で自分は英雄で・・・。そしてナチュラルとコーディネイターで・・・。
その弱気な態度にシンは今にも怒り出しそうな目をしていた。
「一体どういうつもりなんですか?これでまたテロが起きて戦争になったら貴方達のこと恨むと思いますよ、俺」
その態度に手を焼いたようにルナマリアはシンを見つめている。
「まーどうにかなるだろ?ただバレたのが今だったって話だ。」
ディアッカは前々から俺達の関係を知っていたし、時々休暇を作るために手も貸したくれた。
シンは立ち上がりスタスタと歩いていってしまった。そしてそれを追いかけるようにルナマリアも立ち上がる。
「私は、良いと思います。いい方向に進んでくれるなら・・・。」
そういい残し二人は去っていった。





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あとがき
私的にカガリとシンが仲直りして欲しい・・!!
それにルナは案外大人なんじゃないかなーっと。
そしてイザークとディアッカはコンビで好きです。