動物園に水族館、ショッピング・・・
あーっ!もういい加減にしてくれーーーっ!
そう叫びたいアスランの両手には大量のラクスの荷物が乗せられていた。
7慣れない温度
「アスラン、眉間の皺が酷いぞ?」
カガリは女の子にしてはそこまで買い物好きじゃないらしく、アスランと共にキラとラクスを見守っていた。
キラは女性モノの服をラクスに宛って「これ似合う!」などと楽しんでいる。
用件だけを済ませて帰ろうとするアスランにはなかなか理解できない行動だった。
「無視するなよ、凹むから。」
そう言われ、アスランはカガリを見る。
・・敵視するつもりはないが、やはり警戒はしてしまう。
「お前本当にあからさまに顔に出るよな、いいけどさ。」
ぷぅっとカガリは膨れて、アスランを睨む。
あれ?とアスランの中に疑問が浮かぶ。
「カガリ・・?」
「え?」
誰かに、似てる。凄くよく似ている。
そう呆然とカガリを見ていると、カガリにぐにっと頬をつねられた。
「お前みたいな整いすぎた顔にじっと見つめられると、何か腹立つ。」
「はぁ?」
「だって私より、お前の方が美人じゃないか!」
「び、美人って・・!」
「何か、うまくいったみたい?」
じゃれあう二人を見て、キラはラクスに言う。
「そうですわね。」
ラクスは微笑ましそうに二人を見て、目線をキラへと移す。
「キラ」
「ん?」
「・・・やっぱり、何でもありませんわ。」
そう言って笑ったラクスが何を思っているのか・・キラには見当も付かなかったが、それでいいんだろうと思った。
「アスラン、ほっぺ赤いよ?」
「さっきカガリに散々抓られたからな・・」
そう言って頬をさするアスランは、怒っているのではなく何だか楽しげでキラは安心する。
アスランのこんな顔、見られたのが久々で・・。
戦場を翔て、傷ついた心がこうやって少しずつ癒えていけばいいとキラは思う。
「キラ!アスラン!ちんたら歩くなよー!」
「はーい、ゴメンカガリ!」
そう言ってアスランとキラはカガリとラクスの元へ走る。
ホテルに戻り、4人は夕食を食べる。
豪快ながらも丁寧に食事をとるカガリに、アスランはまた疑問を持つ。
カガリは軍人ではなく、やはり令嬢なのかもしれない。
やはりというのは、この間、キラとカガリが狙われていた件があるからだ。
キラは普通の高校生・・と言うことは、カガリは何か特別な存在。
そして命を狙われると言うことは、軍人ではなくて何処かの重役の娘なのか?と思っていたからだ。
その可能性が高い・・、となるとカガリと仲が良ければ後々外交で交渉がしやすいかもしれない・・。
そう考えたのは、アスラン自身が自分に言い訳する為だと、心の何処かで思っていた。
アスラン自身、軍という殺伐とした環境で心を許せる者もなく、過ごした数年間。
それに対して、こちらには幼なじみのキラがいる・・それどころか、自分と友達になってくれようとする人がいる。
それがアスランにとって、暖かいぬるま湯に浸かっているような、そんな気持ちにさせる。
その度に自分は軍人なのだと、自ら冷水を被ってきていた。
けれど・・・
「アスラン!その赤みの魚、食べないのか?!」
「あ、ああ・・赤みの刺身はどうも・・」
「じゃあくれよ!」
そう言って目をキラキラさせるカガリに、アスランは逡巡したが、「ああ・・」と短く答える。
「ありがとう!」
そう言って嬉しそうに頬張るカガリを見ていて、嫌な気がしないのだ。
何か、毒気を抜かれるような・・、慣れ親しんだような感覚に、困惑する。
「よーし、枕投げするぞーっ!」
「参加いたしますわ」
「僕もやるーっ!」
ラクスの立場上、アスランは護衛しやすいようにして欲しいと学校に頼んだ。
・・結果、キラ・カガリも同席で唯一の男女混合部屋になってしまった。
カガリは夜もテンションが健在らしく、枕投げを始めようとしている。
オーブ軍がまた動いてくれたのだろうか?警備は恐ろしいほど万全であるようだった。
大きく溜息を付いて、アスランは五分も掛からずシャワーを浴びる。
「お前シャワーなんて・・勿体ない!ここ部屋に露天風呂付いてるんだぞ?」
「露天風呂?私入ったことありませんわ、楽しみですねカガリさん。」
「枕投げして汗かいた事だし、風呂はいるか?」
「入りましょう」
そう言って楽しそうに笑ったラクスを・・アスランは初めて見た気がした。
何故だろう、ラクスとは二三年とはいえ、かなり同じ時間を共有したのに。
「そう言えば、アスランとラクスっていつから婚約してるの?」
ラクスとカガリが露天風呂に入るとキラは興味ありげにラクスのことを聞いてくる。
「・・プラントに引っ越して直ぐ・・だな。俺が軍にはいるより前。」
「じゃあラクスが売れ始めた頃じゃない?!」
「そうだったな・・、俺も最初は相当緊張してたよ。」
懐かしいと振り返る過去。
「・・まぁ親の都合の婚約だから、ラクスがどう思ってるかは未だによく分からないんだ。」
「でも嫌がってはないみたいじゃない!がっつーんといっちゃったりしないの??」
「・・・。」
確かに、ラクスとは互いに嫌がるわけでもなく、婚約者として会見もしたし、実際一緒にいるが・・。
「しないな」
「あ、やっぱり。アスランって真面目だもんね・・、結婚するまでは・・とか言うつもりでしょ?」
・・このまま行けば、ラクスと結婚してラクスとの子を成すのだろうと漠然とアスランも思っている。
だが、だからといって・・。
「・・まぁ・・そう、だな。」
ラクスは可愛いし、性格も穏和だし・・歌も上手いし、器量だっていい。自分には勿体ないほどの相手だと思う。
けれど、いまいち・・彼女との未来が明瞭にアスランには浮かばなかった。
恐らくラクスも同じだろうとアスランは思う。
「・・まぁ・・俺とラクスが婚約してるのは、政治の都合だから。」
「ああ・・何だっけ、三世代目を生むための・・でしょ?・・って事はラクスとアスランは遺伝子的にピッタリなんだね!」
「そうなんだろうな・・それにお互いプラントの評議員の娘と息子・・ってのもあるんだろ。」
そう言って、部屋から遠くを眺めたアスランを、キラは心配そうに見ていた。
アスランにとって、プラントでの出来事はあまりよいモノでは無かったんだろう。
当たり前だ、お母さんが亡くなって・・軍に入って、彼自身多くの人を殺めたかもしれない。
・・でも、その中で、きっと唯一輝いているものがあるなら、キラはそれはラクスとの思い出ではないかと思っていた。
ラクスもアスランもとても優しい、だから、二人の間に流れた時間は、お互いにとって暖かくて優しいものだったらいいと思った。
けど・・
「アスランは・・軍人でそれは変えられないけど・・」
「・・?どうしたんだ、突然。」
僕等ぐらいの年代なら、きっと沢山友達と遊んで、恋とかもしたりして、笑って馬鹿みたいにはしゃいで・・。
そうやって、過ごすのが普通で・・、だから・・。
「学校にいる間・・アスランにとって、普通の在り来たりな・・でも、楽しくて幸せな学校生活になったらいいなって・・」
何でだろう、何でかな。
「キラ・・」
何で僕が、泣きたくなるんだろう・・。
出てきた涙を拭って、キラは笑う。
丁度露天風呂から出てきたラクスとカガリは顔を見合わせたが、カガリは優しく微笑んでキラの頭を撫でた。
また、無性に泣きたくなって、キラはカガリの肩に顔を埋める。
カガリは優しく背中を撫でてくれた。