海から上がり・・四人は今日泊まる予定の宿舎へと戻っていく。
不機嫌なカガリ・・、そして、切なそうなヤマト。
カガリとラクスはがっしりと手を繋ぎ、アレックスは仕切にヤマトの顔を見る。
凄く・・思い詰めてるようだと、漠然と思った。
「・・大丈夫か、ヤマト。」
宿舎へ着き・・ヤマトとアレックスは同じ部屋で、少し曇り空になった空を見上げる。
ヤマトは終始ぼーっとしていて、風邪でも引いたのか・・・?と、本気で心配になっていた。
「・・・--・・僕・・、、やっぱり言う・・。」
ポツリとヤマトはそう声を出す。
アレックスは・・「そうか」と小さく返した。
今日・・ラクスと話して、彼女が何処か自分に壁を作っていたのを思い出す。
分かっている・・自分はラクスの恋人"キラ"と言う人物にそっくりなのだから。
恋人がいるのに・・自分の気持ちに答えるわけにはいかない・・。それも、分かってる。
でも・・
「・・・2番目でも・・良い・・・・。」
ポタリとアメジストの瞳から雫が零れた。
恋人がいるのなら、自分は二番でも良いから。
側に置かせて欲しい。
独り言のように呟くヤマトに・・アレックスは今は一人にしてやった方が良いだろうと、部屋を出る。
すると・・丁度、ラクスも隣の部屋から出てきて二人でロビーのソファーに向かい合わせに腰掛け、コーヒーと紅茶を飲む。
「カガリさん、泣いておられまわすわよ。」
怒ったような声に・・アレックスも、ヤマトのことを口に出した。
「ヤマトも・・泣いてる。」
「・・・。」
そのアレックスの声が聞こえたのか聞こえないのか・・ラクスは少し伏せ、もう一度顔を上げた。
「貴方は平然としていらしてるのですね。」
相手は貴方にキスされたことに泣いているのに・・と韻を含んだ言い方をされ、アレックスは目をそらす。
ショックじゃない人間がいたら、そいつは相手のことを好きでも何でもないだろう。
「・・傷ついても・・始まらない。傷ついて・・泣いたら何かが変わるのか?・・何も変わらない。」
悩んだって、考えたって・・。
「何もしないのは・・・駄目なんだ。--------・・後悔が増す。」
「まるで、後悔が前にあったような言い方ですのね。」
ラクスは・・そのアレックスの言葉がアスランの言葉に聞こえていた。
アスランの母に・・聞いたところによれば、アスランがずっと思い続けていた人はカガリに他ならない。
幼なじみだったにもかかわらず・・アスランは、カガリは自分のことをどう思っているのか分からず、いつもグルグルと考えていた。
そして、カガリの転校。
何も出来なくて・・駄目になった。
彼自身の身体までおかしくなり・・・・今では・・。
「さぁな・・。」
分からない。
実際・・過去にあったのかもしれない、けど・・それはアレックスにはわかり得ない話だ。
「-----・・後で・・ヤマトが君に話があるそうだ・・、、聞いてやってくれ。」
そう言うと・・相手は少し神妙そうな顔をして・・「・・・・--・・分かりましたわ。」と答える。
ラクスにも・・好きな人がいるのは分かり切っていることで、、、、
そう考えて、アレックスは--まずいんじゃないか?と疑問を持つ。
ヤマトのあの様子だと・・・ラクスに完全に否定されて、、生きる気が失せるとも限らない。
それに・・誰かに必要とされないと・・自分たちは・・・・、、、、--一体どうなるのだろう。
--------まるで存在しなかったように・・消えるのだろうか・・・?
そこまで来て、アレックスは絶対に嫌だと思う。
カガリの記憶にも・・残らない、残ったとしても時を経て消える。
そしてカガリは・・他の人間と人生を歩む。
「・・・眉間に・・・皺が増えましたわよ。」
そうラクスに言われアレックスは思考から離れ、考えを整理する。
自分は一体・・どうすれば、消えずに済むのだろうか。
カガリに-----愛して貰えれば・・・・
そこまで考えてアレックスは立ち上がり、ラクスもその後へと続いた。
その後直ぐに夕食となり・・割に暗い雰囲気で始まるが、何とかラクスはヤマトとカガリを立ち直らせる。
やはりここら辺の気遣いは女の子だなと・・アレックスは深く感心して、やっと機嫌の直ったカガリに話しかけることも出来た。
「ヤマト・・さん、後で少しお散歩しましょうか?」
「え・・?」
"さん"を付けられてしまったが、ヤマトは少し明るい顔になってアレックスを見る。
アレックスは「少し言っただけだ」と目配せで伝え、ヤマトは決心したようにラクスを見て「うん」と答えた。
カガリは何処か不安げにそのやり取りを見て、、その後ラクスが安心させるように微笑み、何とか食事が終わる。
「では・・私達、行ってきますわね。」
「・・気を付けろよ。暗いから。」
「女の子一人守れるぐらいは・・強いよ?」
安心して、と・・カガリに伝えるようにヤマトは言い、アレックスは本当にそれで良いのかとヤマトの顔を覗いた。
アレックスは、それでは駄目だと思う。
二番で良い何て事はない。
チラリとカガリを見れば・・まだ根に持っているようで、こちらを見ようとはしなかった。
そう・・アレックスがカガリを覗いていると、ラクスの目が光り、「もしもカガリさんの身に何かあったら・・承知しませんわよ」と釘を打ち二人は宿舎の外へ出ていく。
お嬢様口調撫で優しい物言いなのに、何処か恐怖さえ感じる言い方が出来る人を敵に回すなんて・・自分も馬鹿なものだと少し思う。
カガリの身に・・これ以上のことをするのは、アレックスの良心にも反するので、するつもりはないのだが・・。
チラリとカガリを見ればカガリは「じゃあ・・」と言い残して、部屋へと戻ってしまった。
ラクスとヤマトは二人で夜の海岸沿いの道路をゆっくりと歩く。
何処かぎこちない雰囲気・・。
ラクスはヤマトに顔を合わせようとはしない。
「・・ごめんね。・・・---でも、、自分の口で、言いたかったんだ。」
「・・はい。」
電灯の下で止まり・・ヤマトは、やっとの思いで口を開く。
ラクスも神妙な面もちでヤマトを見上げる。
「・・僕、ラクスのこと好きだよ。」
「・・・・ありがとう・・ございますわ・・、でも・・」
ラクスの動悸が速くなる。
電灯に照らされた相手は何処までも儚げで、切なそうだ。
自分を映す、綺麗な紫色の瞳からは涙が零れそうになっている。
ずきんと・・ラクスの胸が痛んだ。
なんで・・・・この人は、何処までも最愛のキラに似ているのだろうか?
「・・うん、、ごめん・・。でも、僕・・言って・・おきたかったんだ・・。」
流れた涙を必死で腕で拭い、止めどないようで・・胸を掴み顔を伏せる。
苦しく、切なそうに泣く姿に・・・ラクスはどうして良いのか分からず・・そっと相手の頭を撫でた。
抱きしめてあげたかった。
でも、
-----貴方は・・
「・・・一番じゃ・・なくても、いい・・んだ・・。」
嗚咽を吐きながら、言葉を紡ぎ・・ヤマトは自分の気持ちをラクスに伝える。
一番じゃなくても、いいんだ。
僕は・・
「ラクスの・・傍にいたい・・。二番でも良い・・から・・、、、」
そう、、例えば・・。
「・・・・キラさんが・・戻ってくるまでで・・いい、、だから・・・」
"僕をラクスの一番にして。"
痛い・・。
そう、ラクスの胸が軋む。
「・・・駄目・・ですわよ・・---・・、、私が・・愛してるのはキラ・・、、、、貴方は・・」
そう、、キラじゃない。
キラではない・・・なのに、どうして。
「・・ラクス。」
やっと涙が止まり・・次は、ラクスが泣きそうになっていた。
ぽたっと涙が流れて・・ラクスは俯く。
「・・・どう・・して・・・私・・・、、、」
いつも相手を傷つけることしかできないのだろう。
なんで・・二番で良いなんて、相手は言ってくるのだろう。
キラ・・。
キラも・・・・・・・
-------そう思っていらしたの・・・・・?
ヤマトの姿はラクスの中で極限にキラに近くなる。
もしも、同じ事を考えていたのなら。
・・ずっと前から、本当はアスランとの婚約も・・知っていたのだとしたら。
彼は何を思っていたのだろう。
アスランとの婚約の噂が立ったのは・・高一の夏休みにはいる前。
キラと・・付き合いだしたのはその年の秋頃。
ホントは・・ずっと、ずっと知っていたのかもしれない。
今・・目の前にいる・・彼のように・・自分は一番ではないと・・・・・。
「・・・キラ・・っ・・。」
ずっと、ずっと・・・淋しい思いを、苦しい思いを・・させていたのかもしれない・・・。
"二番で良い"
そんな・・・、、、私は・・。
「キラが・・一番好き・・です・・。」
涙ながらにそう言うと・・身体が暖かいものに包まれる。
ラクスはビクッとして・・身体から離そうとするが相手は離れない。
「ラクス・・」
優しく耳元で名前を呼ばれ・・ラクスは、ハッと相手を見る。
マリンブルーの瞳が一瞬光り・・・・相手の目を覗き込んだ。
「・・・よかった・・僕も、ラクスが一番好き。」
えへへ・・っと・・照れたように笑う姿に、ラクスは様々な疑問が吹き飛んでいた。
「・・き・・ら・・---・・?」
「うん?・・・よかった・・ずっと、アスランが好きなんだって・・-------------・ラクス?」
ポロポロとラクスの瞳から涙が落ち、キラは優しくそれを拭う。
そして・・キラは唇をラクスの綺麗な頬に寄せ、ラクスもそれを受け入れる。
「・・・キラ・・っ・・良かったです・・、、」
「?」
キラはよく分からないように首を傾げ・・二人は手を繋いで宿舎へと入っていった。