「綺麗だなッ・・・」
ぶわぁっと吹く風に身体を煽られながら、カガリは大きな声を出してそう言う。
宿にはたった今荷物を置いてきた。
宿から100メートルもしないところには綺麗な海浜浴場が広がっている。
「パラソルとか借りて・・早く遊ぼうよ!」
「はいっ」
既に水着にパーカーだけを羽織っている四人は急いでビーチへと入り込んだ。
「ねぇ、アレックス。」
「。・・・・何だよ。」
パラソルを借りてきたアレックスにヤマトは一緒にそれを組み立てながら小声で囁く。
「カガリの水着、見とれたでしょ?」
「・・っ・・五月蝿いぞ、ヤマト・・。」
自分たちより少しビーチよりでパーカーを脱ぐ二人の姿に、こちらは目が釘付けになっていた。
特に・・・、、、アレックスは気になるようでちらちらと見ている。
「・・へんたーい。」
「ヤマト!!!」
恥ずかしさを隠しけれないアレックスは少し頬を染めて、やっぱりカガリの方を見ていた。
それを見て・・・ヤマトはニッコリと笑い、アレックスの視線を追うように・・カガリの隣にいるラクスを見つめる。
「・・お!アレックスお疲れ!パラソル大きいな!」
「本当ですわね・・シートを引けば寝転がれますわっ!」
海というせいがあってか二人はテンションがハイで・・・アレックスとキラもそんな二人に自然と笑顔になりシートを買ってしまう。
「じゃあ・・私、海入ってくる!!!」
そういって・・まったりモードの3人を置いて行こうとしたカガリにアレックスも立ち上がる。
あんな可愛い格好のカガリを・・一人で何て行かせられるものか、と目が語っていた。
「行ってらっしゃい。」
「・・ああ・・。」
アレックスの心情を知ってかしらざるか・・・ヤマトは声援をかけてアレックスを見送る。
「カガリっ」
「アレックス・・!お前も泳ぐのか?」
大きな浮き輪を片手に、、カガリに可愛らしく訪ねられて、アレックスの心臓はばくばくと鳴る。
深緑紐で結わえられたビキニ。
縁が深緑で・・布地は黄緑、それも綺麗なグラデーションで、所々には白い水玉模様が入っている。
「ああ・・」
水面に照らされた素肌が何とも言えず、心境的には倒れそうなのだがアレックスは踏みとどまり・・カガリとの会話を続けた。
二人で海へと入り、カガリは浮き輪を付け・・アレックスに足の着かないところに連れて行くように言う。
「こうやってると・・浮いてるみたいで楽しいんだっ!!」
キラキラと笑う笑顔に魅入り・・・。波が来れば、アレックスも口元まで海水で満たされるのを忘れ、カガリの浮き輪を引っ張ったり、時にはアレックスも腕だけでそれに乗り二人で浮かぶ。
「なぁ、今の波、大きかったな!!!」
「そうだな・・。」
カガリと違い・・アレックスは反応が薄いのだが、顔が楽しいと言っているのがカガリにも分かる。
一緒に浮き輪に乗り・・向かい合っている時なんて、じぃっとこっちの目を見ていた。
-------自然と・・嫌な気はしない。
「カガリ。」
「ん?」
二人で波に揺られていると・・・不意にアレックスの顔が近くなり、カガリはビックリして硬直する。
振り払おうと思った。
が。
アレックスの方が一歩早かった。
「・・・ッ・・ふ・・ぅん。」
三十秒ほど・・・足掻いたが、離れて貰えず・・・やっとの事でアレックスの顔が離れる。
カガリはすぐさま唇を押さえ・・真っ赤になった後に、真っ青になっていた。
ぎゅっと自分の唇を噛む。
「・・・っ・・・なん・・て、事・・・。」
うるうると視界が弛み・・カガリは大粒の涙を零していた。
---カガリは、今回で・・アレックスと遊びに出るのは最後と決めていて・・。
だから、最後ぐらい相手にとって良い思い出で終わらせようと、、ラクスと話していた。
嫌いじゃない・・・・・けれど、と。
揺らいでしまうのがイヤならば、遠ざけるしかないじゃないか。
カガリのその曖昧な態度に、アレックスは戸惑いと焦り・・何より苛立ちを感じる。
イヤならば、嫌と言えばいい。
言えないのは、気があるからだろうと・・単純にそう思う。
「・・カガリ。」
俺は好きだと言ったはずだ。
そう・・悪びれず、浮き輪ごとカガリを抱き寄せ・・カガリは足でアレックスをけ飛ばす。
その態度に少し苛立ったが、カガリを泣かせた非があるのは分かっていたので、あえて黙っていた。
このまま此処にいては拉致があかない・・、、、そう、判断してアレックスはカガリを引き浜へと上がらせる。
カガリは黙ったまま・・アレックスに従い、付いてきていた。
「お帰り〜・・・カガリ、ぶすっとして・・どうしたの。あ!!アレックス、何かしたの?!」
「別に。」
何もなかったかのように言うと・・カガリの顔がこちらを睨み、ラクスはかき氷を食べながら「あらら・・・?」と首を傾げて見せる。
カガリは無言のままラクスの隣へと座り、焼けて赤くなった腕をラクスの白い腕へと絡ませ、伏し目になってしまった。
「ちょっと・・アレックス。ホント。なにしたのさ。」
「・・想像に任せるよ。」
これ以上この話題でいるのは立場を悪くするだけだと判断し、アレックスは大人しく焼きそばや焼きトウモロコシを買いに出る。
その際・・ラクスが立ち上がり、手伝いますわ。とアレックスに声を掛けた。
「カガリと・・ヤマトはここでお待ち下さいな。」
「うん・・行ってらっしゃい。」
立ち上がっていってしまうラクスに何処か切なそうヤマトは目をそらす。
カガリも・・此処から動ける気分ではなく、ひたすら伏せていた。
「・・カガリが・・好き。らしいですわね。」
「・・・だから?」
長蛇の列に並びしばらくして・・ラクスは日傘を差していて表情は伺えないが、決して良い感情を持っていないことはハッキリと分かる。
だから・・その分、アレックスは機嫌が悪そうにその質問を返した。
「好き、だから。そんな理由で・・相手の心を無視するのは、、、最低ですわよ。」
きっぱりと言われ、アレックスは眉間にしわを寄せる。
自分だって・・それが正しいとは思っていない。
けれど・・。
「言わないと・・行動しないと、伝わらないことだって・・沢山ある。」
「・・・伝わっていますわ。十分に・・・。それでも、カガリさんは他の方が好きなのです。」
ラクスの言葉に、アレックスは脳がガンガンと痛くなる。まるでかき氷を食べ過ぎたときのように。
考えたくもない・・、、カガリが他の人を好きだなんて、、、認めたくない。いや、認めるはずがない。
じりじりと太陽に照らされ、、アレックスは急激に痛む頭を少し抑える。
「・・・これ以上、カガリさんに迷惑を掛けるようなら・・・。。。私も、カガリさんの意見に賛成する身として手段をとらせていただきます。」
-------カガリの迷惑。
アレックスの頭に・・その言葉が木霊する。
迷惑・・・・・・、、そう、自分はカガリの迷惑だったのかもしれない。
好きだと言ってくれたあの時・・あれは本心だったのだろうか?
可哀想な・・病院から出られない自分に、希望を与えただけ・・だったのだろうか?
本当は・・。
「・・・・?アレックス・・さん?」
蒼白になったアレックスに、ラクスは声を掛け・・・アレックスはハッと意識を元に戻す。
可哀想な自分・・好きだと言ってくれた・・・・・?
よく分からない、感覚に支配され・・・アレックスは首を傾げる。
全く・・思い当たらない記憶ばかり。
「・・・取りあえず・・そういうことですわ。カガリさんをこれ以上困惑させないであげて下さいね。」
「・・・。」
アレックスは黙って・・焼きそば代とトウモロコシ代を払い、ラクスを背に歩き出す。
伝えなくてはならない時だって有る。
-----伝えない後悔より・・ずっとずっと・・・伝えた方が良い。
そう、熱い日差しを受けた頭で・・・・アレックスは考え込んでいた。