夢を見ていた。
時々ある・・"夢だ"と分かる夢。
「・・ら・・・?」
ぼんやりと開けた目からは・・・・自分の片思いの相手が映っていた。
「・・・らく・・す・・・・・?」
ぼんやりとした頭でそう言うと・・相手は何故かポロポロと涙を流し・・・ヤマトは居たたまれない気分になる。
泣かないで・・と、手を伸ばして・・・雫が流れるマリンブルーの瞳に指を寄せ、その雫を拭き取っていた。
「・・よか・・った・・---です・・キラ・・・・。」
キラ?
ラクスの声に・・ヤマトは耳を疑い、そうか夢だったと意識をはがした。
自分はキラになりたいと・・・ベットになる直前・・酷く思っていたのだ。
キラになれば・・・・ラクスの、愛が受けられるのだから。
柔らかい唇が、そっと自分のものと触れ・・・意識がそこから離れるのが分かる。
もっと・・触れていたかったのにと、切望しながら・・・ヤマトは自室の白いベットの上で目が覚めた。
ヤマトが・・そんな夢を見ていた同時刻、アレックスは悪夢に魘される。
真っ白い・・・ベットの上、だが自室ではない場所で・・・アレックスは誰かが来るのを、息を潜めて待っていた。
痛いぐらいに心臓がきしんでいる。
ガラッと・・音がして入ってきた人は、自分の望む人ではなく・・心臓の痛みは増すばかりだった。
自分は・・"誰か"が来るのを待っていたのではない・・。
そう合点がいって・・・アレックスは、その"自分が望む誰か"が来てくれることを切望する。
動こうとしても・・・邪魔な医療器具が自分の身体の自由を阻害し・・起きあがることさえ叶わない。
早く、一刻も早く逢いたいのに。
待っているだけじゃ、もうダメなんだ。
自分から・・・
会いに行って・・・・・・・・・。
「カガリ・・ッ・・」
邪魔なら、取ってしまえば良いではないか。
俺は・・。
---・・カガリに、会いに行く。
信じられないほどの・・肺の苦しさで、アレックスは目が覚める。
「ッ・・ぁは・・、、ッ、か・・がり・・・・?」
恐いぐらいの切なさに、胸がきしんだ。
振られたことが・・・そんなに精神的にショックだったのだろうか・・・・?
自分の心にそう尋ね、アレックスはもう一度・・その白いベットに身を入れた。
「アレックスと・・ラクス、と?」
「うん・・・海行きたいなぁって・・」
何処か切なそうに言うヤマトに、カガリは首を傾げる。
本来ならば、アレックスが何かまた言い出すかもしれないから・・嫌だ、と答えたいところだった。
けれど・・・ヤマトにこんな顔をされては、カガリは何も言えなくなってしまう。
「じゃあ・・・ラクスには、伝えておく。」
「・・ん・・ありがとう。」
何処か不安げなカガリに・・ヤマトは少し笑い「ラクスと・・キラさんを壊すつもりはないよ」と付け加える。
そうは言うものの・・・やっぱり泣きそうな顔に見えて、カガリは言葉を詰まらせた。
「ラクス・・あの。」
久々に・・キラの顔を見に行くと・・やはりというか、案の定ラクスはキラの元に付いていた。
ラクスはカガリの声に一瞬肩を動かしゆっくりとこちらに振り返る。
「カガリ・・さん!!!!!聞いて下さいな、昨日・・・、キラが・・っ」
泣きそうな声で抱きつかれ、カガリは「え?」と声をあげる。
「キラが、キラが起きましたの!!本当に一瞬でした・・でも、"ラクス"って・・呼んでくださって・・っ・・・」
ポロポロと涙を流すラクスを、カガリは優しく抱きしめ、、「よかった・・」と二人で抱きしめあう。
ラクス曰く、医者が言うに「着実に良い方向に向かっている」そうだ。
「きっと・・また、目を覚ましてくれるのではないかと・・・、、、、ただ、本当に・・それだけですわ・・。」
カガリから離れ・・ラクスは労るような目をキラに向け、綺麗に微笑んでキラの頬を触る。
果報者だなぁ・・とカガリは溜息をついて・・・自分の話を思い出した。
「・・ヤマトが、私とアレックスとラクスで出かけたいって・・・」
「あ・・、、、」
ラクスの顔が、一瞬困ったように伏せる。
「・・ヤマトは、キラさんとの事は分かったって・・・---・・言ってたけど・・。」
「・・・行き・・ますわ。・・・・行かせていただきます。」
何かを決心したように・・ラクスは声に出してそれを言う。
カガリは、そんなラクスを見て、安心したような笑みを浮かべた。
その後・・カガリはアスランの元へと足を進める。
キラが起きたなら・・アスランも、なんて・・・有るはずがないけれど。
個室のドアを開ければ、やはり居るのは意識のないアスランで・・カガリは早く謝りたいと一心に願う。
アレックスは・・・・・・良い奴だ。けど・・。
そう、私も・・ラクスのようにしっかりと心を持たないと・・。
そう自分に言いつけて、カガリはアスランを見ていた。
「海?・・・カガリと。」
「うん!僕とラクスも忘れないでよね!!」
明るくそう言うヤマトに・・アレックスは少し不思議そうに顔を傾げる。
しかも、手には旅行用のパンフレットがしっかりと握られ、都心ではなく少し離れた、海の綺麗なところへ行くようだった。
「・・おまえ・・その距離だと泊まりがけになるぞ?」
アレックスが半ば呆れたように言うと、ヤマトは「イヤらしい事なんて絶対しないもん!!」と真っ赤な顔で告げる。
アレックスも、、元気になったヤマトに安堵し、そのパンフレットを共に見ていた。
「・・ね?この写真の海、綺麗でしょ?」
真っ青に染まる海と、その色を付ける空は何処までも澄んでいる。
遠いとはいえ・・都心からそこまで離れていない場所でこんなに綺麗な場所もあるんだと思った。
「夕焼けも綺麗なんだって。・・宿も安いの多いし・・」
「泊まる気満々だろ・・・。」
それじゃあカガリが頷いてくれるか分からないじゃないかとアレックスは思う。
カガリは自分に対して少し警戒を強めたように見えたし・・・・。
「大丈夫だよ。万が一アレックスが盛っても僕止めるから。」
「なんだよそれ。」
馬鹿言うんじゃないとアレックスは苦笑し、ヤマトも「平気なら、カガリも来てくれるよ」と明るく返す。
カガリと・・海か。
ジメジメとした気候だが、それももうじき終わりを告げる。
そうしたら・・・・--------・・そう、考えると、急に明日が、その次の日が楽しみになっていく。
少し嬉しそうに頬を緩めたアレックスに、ヤマトも隣で小さく笑った。