「・・昨日、アレックスとヤマトと遊びに行ったんだ。アレックスは・・やっぱりお前にそっくりだ。」
そう言いながら、カガリはアスランの髪を優しく梳いた。
そう言えば・・・アスランのお母さんとも、この頃逢っていない気がする。
昔から忙しい人だったけど・・今は、どうしているのだろうか?
母に聞けば分かるかも・・とカガリは合点し、アスランに「またくるな!」と声を掛け病室を出ていく。
「・・アスラン君のお母さん?連絡取れるけど・・・」
そう、カガリとよく似た声の母は言い、直ぐに電話を掛けてくれた。
アスランの母とカガリの母・・そしてキラの母は高校・大学と青春を共にした仲間だ。
「・・レノア?ええ、、カガリが・・・え?どうしたの、そんなに急いで。」
はい、と渡され・・カガリは久々に小母さんの声を聞く。
「あ・・アスランのお母さん?・・久しぶり・・」
「-----------・・・お久しぶりね、カガリちゃん。」
何処か冷たい声に・・カガリは不安になって、声を出す。
「アスランの・・お見舞い、この頃良く行くんだ、、、つい最近ラクスから聞いて・・・・」
「そうなの・・・、、、、ありがとう、カガリちゃんは昔から優しいものね。」
突きはなすように言われたことにカガリは気が付いていた。
アスランの母は・・厳しくそれでいて素敵な女性だとカガリの中にはインプットされている。
その・・相手が、怒る理由。
「・・・・アスラン・・何か・・・言ってたか?私のこととか・・・・・---・・えっと・・・」
言葉が見つからない。
自分ただ一人の事で、アスランがあんな状態になった・・なんて、自分はそんなに影響力が有るはずがないとカガリは思っていた。
けれど。もしも・・少しでも荷担していたならば・・と、言葉を探す。
「何も言っていなかった・・・・-------けど・・・あの子、急に家中のアルバムひっくり返して・・・」
二人が写っている写真・・全てを持っていってしまったらしい。
そう言っても・・そんなのは、本当に小さかった頃のだ。
「精神科に行くように進めたけど・・駄目でね。・・・病院の防犯カメラには・・あの子が自分で酸素マスク取る映像は映っているし・・」
ごめんなさいね。
そう言われ・・カガリはキョトンとする。
「高校・・行った日・・あの子妙に嬉しそうで・・何も言ってくれなかったけど・・・、、でも突然暗くなって・・・・クラス写真みたら、カガリちゃんが居たから・・振られて凹んでるんじゃないか・・とか、色々考えちゃって・・。」
「え・・あ、いや・・」
「カガリちゃんが転校してから・・余計暗くなって・・・私達も随分と心配で・・・・、、、今も、あんな状態だから・・あのこの事になると過剰に感情的になってしまうの・・」
困ったような言い方。
小母さんも・・アスランのことが、大切で堪らないんだろうと・・カガリは思う。
「・・あの、、私・・出来るだけ毎日アスランのお見舞い行く・・!・・昔みたいに・・」
だから・・あの・・と言いかけて、レノアは少し笑い「カガリちゃんがいればアスランも元気になるわね」と言ってくれた。
「アスラン・・今日は何の話にするか?」
答えない相手に話しかけるのは切ないが・・来て、何も会話をしないのはカガリが納得がいかない。
いつものように近寄って・・二周りほど大きな手を握る。
「叔母さん、お前のこと心配だって。・・・私も心配だぞ!この間酷く当たっちゃったし・・早く謝りたい。」
だから、早く起きて。
そう・・そしてカガリはいつものように・・アスランをひたすら眺め話しかける。
アスランが起きたら、、また昔のようになれるだろうか。
謝って・・・-----・・、、昔の約束を覚えているだろうか。
色々なことを考えると急に顔が赤くなる。
お互い・・忘れていると思っていた、、けど、実際は忘れたことなど無かったのかもしれない。
中学時代、カガリは何度も男子から告白されたが、一向に振り向く気にはなれなかった。
馬鹿みたいな話だ。いつか、迎えに来てくれるんじゃないかと漠然と期待して。
ラクスの話と・・小母さんの話を聞く限りでは・・・。
アスランも、覚えていてくれたのだ。
カガリが、ずっと・・待っていたように。アスランも・・・
そう思うと涙が溢れてくる、何故私はあの時逃げてしまったんだろうか。
ニッコリと笑って、「アスラン!!」と・・声を掛けていれば、何かが変わったのかもしれないのに・・・。
自分を責めても、アスランが起きるはずが無く・・・涙が止まった頃には病院の面会終了時間となっていた。
「ラクス・・!」
「カガリさんっ」
エレベーターの中で鉢合わせ・・ラクスとカガリは共に歩き出す。
話の流れで・・二人は一緒に夕飯を食べることにした。
「・・・似ていますわね・・本当に。」
「へ?」
ラクスお勧めの・・庶民派フランス料理店の前に付くと、ラクスは切なそうに声をあげる。
「・・キラと?」
「ええ・・・・」
正直・・カガリはアレックスと話すとき以外ヤマトとは喋らないので、、何とも言えない事だった。
だが、ラクスの切なそうな表情を見れば、似ているんだな・・と妙に納得する。
店内に入り、注文をすると・・ラクスは「アレックスさんもですわ。」と声をあげた。
「アスランに・・か?」
「はい。」
カガリは・・幼いときのアスランしか知らない。だから・・何とも言いようがない。
そう思っていると、ラクスは更に困ったように声を出す。
「私・・何度もヤマトをキラって・・・言いそうになってしまいましたの・・。何処からどう見ても・・キラ・・ですわ・・」
「でも・・別人だろ・・、、、顔は恐いぐらいそっくりだけど・・」
「・・・っ分かって・・・いるの・・ですが・・。」
ラクスは弱気そうに声を出し・・・、、可愛らしい瞳に大粒の涙を溜める。
「・・ラクス・・・っ・・」
カガリも、少し焦ってラクスを慰めに入った。
「・・いっそ、ヤマトに"好きな人が居る"って間接的に言ったら良いんじゃないか・・・?」
カガリも、アレックスに・・もしも何か言われたらそうするつもりだと伝える。
アスランが起きてこない今、私は他の人と進めない。
ラクスも・・そのハズだと思ったから。
「・・・・そう、ですわね。すいません-------------取り乱してしまって・・」
ラクスは涙を拭い・・「例え似ていても、彼はキラではありませんものね・・」と落ち着きを取り戻す。
カガリも・・大丈夫になったラクスに笑みを落とし、食事へと手を付けた。
「ラクス大丈夫かなぁ・・」
「お前・・それ何度目だよ。」
部屋でごろごろとしていると・・・ヤマトはそう声をあげて、絨毯の上をごろごろと何度も転がる。
子供臭いなぁと心の片隅で思いながら、アレックスもソファーから体を起こし、ヤマトの方へと向けた。
「だって、カガリが元気なかったら・・アレックス心配でしょ?」
「惚れたのか。あのラクスって子に。」
「そうだよ。」
すんなりと素直に言える・・コイツが羨ましいとアレックスは思う。
"好き"だと認め・・それが挫折するのが恐いのかもしれない。
「・・悩んでるなら・・相談して欲しい・・。」
う"〜〜〜っと項垂れるヤマトは、とても情けないヤツに見えるが・・
逢って一日でしっかりとメールアドレスをゲットしているのがアレックスには考えられなかった。
だって、、自分は未だにカガリの携帯番号もアドレスも知らない。
「・・今度ね、四人で遊ぼうって・・言ったら、微妙な顔されちゃったの。」
ショック・・とぼやくヤマトにアレックスも、カガリが乗る気でなかったことを思い出す。
一応頷かせたし・・大丈夫だろうと、アレックスはざわつく内心を沈めさせた。
「おはよう、カガリ。」
「ん・・あ、おはよ!」
昨日・・色々とヤマトと話し合った結果、自分たちはいつまで此処にいられるか・・全く分かっていないと言うことが判明した。
世の中に必要かどうか・・、、、もしも、カガリが必要としてくれたのなら・・・と、アレックスは思ったのだ。
それはヤマトも同じようで・・二人は頑張ろうと心に決める。
「アレックス・・眉間にしわ寄ってるぞ?」
「え?」
「難しいことでも考えてたのか?」
あはは・・と、いつものように笑って貰えて・・アレックスは胸をなで下ろしてカガリの隣へと立つ。
「・・あの・・・」
言ってしまった方が、早いのではないだろうか。
そう・・アレックスの脳に言葉が響いた。
いつまでも言えず・・だらだらと引きずり、ただ見ているだけ・・なんて。
無理だ。
きっと・・駄目になる日が来る。
それは経験から、、だろうか?
「カガリのこと、好きなんだ。」
恐いぐらいにサラリと言っていた。
実際は心拍数が凄いのだが・・・・・このまま黙っているのは間違いだと思ったから。
カガリも、一瞬驚いてこちらを見て・・・少し考えたように声を出す。
「・・ごめん・・・・私、好きな人居るんだ・・。」
困ったような声。
アレックスは内心、酷く傷ついたが・・逆に・・・と、カガリの肩に手を回す。
ひゅっと・・カガリが息を呑む声が聞こえて、アレックスはカガリを見ながら言葉を告げる。
「諦めないから。・・・・覚悟しておいてくれ。」
その・・表情に、あんぐりとしたカガリを見て・・アレックスは笑みを零し、カガリの綺麗な髪を撫で軽くキスをして歩き出す。
カガリは・・・意識とは反対に嫌に鳴った心臓を押さえつけていた。