「・・・はじめまして、・・アレックス・ディノ、です。」
もしも・・この世に神がいるならば。
カガリはその人を殴りたい気持ちでいっぱいになる。
何故・どうして。
彼奴と同じ顔の別人が存在するのだろうか?
アレックスは・・自分の生い立ちを必死で頭の中で復習する。
自分は今まではプラント校に行っていたことになっていて・・。
親は今海外に転勤中。
兄弟はいない。
大まかなことから・・細かいことまで、・・・部屋のアルバムに挟んであった紙を頼りにたたき込んだ。
これが、アレックス・ディノの記憶。
「・・・よろしく。」
「・・よろしく」
アレックスは生憎教材を持っていない・・そして私が見せなければならない。
コレは一体誰の悪戯だろう。
小さく・・小さく悪態を付いた。
だが・・・カガリの悪夢はコレだけでは終わらない。
昼休みだった。
カガリは息の詰まる思いだった授業・・いや、あの転校生アレックス・ディノから解放され・・大きく深呼吸をする。
その当のアレックスは女子に質問攻めだ。
彼奴と一緒だな。
そう思っていると・・ガラガラッ・・ととが開き、カガリの位置からは見えないが・・誰かが急いで入ってきたようだった。
「アレックス!!!うわッ・・人気者!!!」
「ヤマト・・ッ!!」
助けてくれ・・と言わんばかりのアレックスの声より・・カガリは、その、"ヤマト"の声に耳を傾ける。
「-------------・・や・・ま、と?」
キラ?
思わず・・そう、呼びたくなって・・・カガリは駆け出していた。
キラ・ヤマト。
その・・顔を見て、カガリは唖然とする。
一体何故、病室で寝ていた彼が此処にいるのだろうか?
「・・・・・・---・・?はじめまして・・・。アレックス、この子は誰?」
「・・っ!!!!!」
カガリの顔を見て・・不思議そうにする、相手に・・カガリは眩暈が起きた。
相手は・・分からないようで、こちらに手を差し伸べる。
「・・僕はヤマト・ヒビキ。・・君は?」
カガリは手を出せず・・そのまま、数歩下がっていた。
「カガリ?」
アレックスに集っていたフレイは・・・真っ青になったカガリに、声を掛ける。
その場にいた・・人は、見る見る青ざめるカガリを不思議そうに見ていた。
カガリは・・何度も、自分の中でのキラと・・・想い出の人アスランと、そこにいる二人を見比べる。
「・・・・ご・・め、、、急に--------ぐあ・・い------・・・」
カガリはそう・・呟いて、その場に蹲っていた。
これは何の夢?
カタカタと震えたカガリに・・フレイは驚いて近寄り、声を掛けるが・・カガリの耳には届こうとしない。
カガリはフラフラとした足で、教室を出て・・保健室に行こうとしていた。
「待て」
「待って!」
大丈夫・・?と、アメジストに覗き込まれ・・・・・・・・カガリは完全に気を失ってしまった。
「・・・大丈夫?あんた・・・」
「フレイ・・・」
目が覚めると・・保健室のベットで、さっきのあれは夢かと思い直すが・・それは直ぐに玉砕される。
フレイの隣りに二人が立ち・・こちらを覗いていたのだ。
「・・・・みんな・・ゴメン、もう・・大丈夫だから。」
「なら・・いいけど。さっきのあんた、、変だったわよ?」
「・・うん---急に嫌なことが頭に過ぎっただけ。」
そう言って・・二人にも笑みを作る。
無理な笑みだったが・・・二人はよかったと笑って出ていってくれた。
フレイと二人になると・・フレイは未だ何処か青白いカガリを見て心配そうな顔をする。
「大丈夫・・・、、ただ、急にキラの顔が過ぎったんだ・・・--彼奴、大丈夫かな・・・」
別人・・だもんな。そっくりだけど・・。
そう思い、カガリは目を伏せた。
アスラン・キラじゃない。
アレックスとヤマトだ。
モヤモヤとした気持ちのまま・・カガリは早退し、キラの元へと足を動かす。
キラがもし・・記憶を失って学校へ来ていたら・・なんて馬鹿みたいな事を考えたからだった。
本当に似ている。
そう思い・・扉を開けると、キラは当然のようにそのベットに横たわっていた。
「----------・・・キラ。」
キラの名前はキラ・ヤマト。
彼奴は・・・ヤマト・ヒビキ。
--------------別人。
カガリは・・あの二人とは関わりたくない。そう思ってしまう。
似すぎている。
----------顔・・・だけ、、かな・・・?
そう思っていると・・・また、あの子が入ってきた。
「・・・・あれ?早いな・・ラクス。」
「今日は開校記念日なので・・・・。カガリさんこそ・・早いですわね。」
「今日は早退だ。」
「あら・・体の具合でも?」
「---・・いや。」
渋い顔をすると、ラクスは少し笑いカガリの隣のイスに腰を掛ける。
ふと・・カガリは、今日合った出来事をラクスに言いたくなった。
お前の婚約者の瓜二つがいる・・・と。
「・・今日・・さ。」
ポツリ・ポツリと言葉を紡いだ。
信じられないほど似ていた。声も・・仕草も話し方もそっくりで、眩暈がして・・----------------・・。
「・・・アスランと・・・キラ、、ですの・・・・・?」
「---・・いや・・アレックスと・・・ヤマト・ヒビキ・・・・・別人だ・・当然だけど。」
そう言えば、と・・・カガリはアスランのことをラクスに訪ねる。
「・・彼奴・・元気か?」
ラクスは、、、その質問に小さく首を横に振って答えた。
「・・彼奴のことだから・・発作でも起きたか・・、、ま、直ぐ良く・・・・・」
「・・それが、、なりませんの・・・・・--------・・。誰かが、一度呼吸装置を抜いたらしく・・」
「え?!」
カガリはガッと席を立ち上がっていた。
「医療ミス・・と、言うか・・・・・アスラン自身が抜いた、と・・・・」
「まさか!!!!何で・・・」
「・・・良く・・私は分かりませんの・・でも、、、そうなる数日前・・・・・・・・アスランは凄く、哀しいお顔をされていましたわ。」
カガリには・・何故かその顔が容易に想像できる。
いや、、いつも・・・小さい頃、カガリが病室を去るときに・・していた顔。
アスランは小さいとき喘息で・・まともに小学校に行けなかった。
だから・・カガリはいつも、宿題や・・今日あったことをアスランに説明して・・いつの間にか好きになっていて・・・。
アスランにそれを告げると"僕も"と、、小さいながらに頬を染めてくれたのを今でも覚えている。
「・・・今、自分で呼吸が出来なくて・・意識も・・・」
「・・・嘘・・だろ・・」
心配で・・・カガリは居ても立ってもいられず・・・・・頬に涙が伝う。
「・・ラクス・・--アスランに・・・付いて・・・やってくれよ・・・」
彼奴が独りになってしまう。
例え意識がなくたって・・・独りは淋しいはずだから・・。
「---・・・・・私・・は・・。」
ラクスは、小さく俯いて・・・キラの頬を触る。
その手に、カガリは無意識の怒りを覚えた。
ラクスは・・・・・
「お前には・・・アスランだろ・・・・・?」
「・・・・---・・いいえ。」
マリンブルーの瞳は・・カガリの目を見て、小さく瞬く。
カガリは・・ラクスの・・その発言に、、耳を疑ってしまう。
「アスランは・・・ずっと、違う女性が好きでした。ですから・・・私はお飾りでしたの。」
「え・・・」
「・・私が好きなのは・・・キラ、ですわ。」
なのに・・・と・・彼女は言葉を紡ぎ、キラの手を握る。
「わた・・くし、気が付きませんでしたの。・・・キラが・・・怒っていること、悲しんで・・いた、事・・・・・」
誰かに攻めて欲しかった。
そう・・ラクスはそれを、キラの従兄弟である・・キラを大切に想っている彼女にして欲しかった。
そう思って・・・自分がしてしまったことをカガリに吐き出す。
アスランと婚約者であることを隠して・・・キラと付き合っていたこと。
夏頃から・・・何かに悩みだしたアスランを放っておけず・・ずっと傍について、キラを置き去りにしたこと・・。
そして・キラは、、自分とラクスは遊びだったと・・誤解してしまった・・と。
「でも・・キラから・・そう、お電話有ったとき・・・アスランが・・発作で倒れて・・・わたくし・・・キラの電話を切って・・---」
次の日、彼は事故にあっていたそうだ。
カガリも・・・・秋転校して以来、キラとの連絡が途絶えて・・・そんなことがあったなんて知らなかった。
「・・・ですから・・私・・ずっとキラのお側にいると決めましたの。いつ目覚めても謝れるように・・・」
「でも・・・それじゃ・・・・アスランは・・・」
独りぼっち?
また・・・
真っ白で、何もない・・・・病室で・・・・?
独りで泣いていないだろうか・・・・。
----------昔のように。
「・・アスランは・・・525室にいますわ・・」
そのラクスの声に、カガリは動き出していた。
もしかしたら、自分は・・・彼を傷つけたのではないだろうか?
カガリは今の今まで・・アスランは、ラクスが好きなんだと・・・昔の自分との約束も忘れて・・・・
ガラッと個室のドアを開ける。
そこには・・酸素マスクをして鼻に管を入れる・・アスランの姿があった。
「アス・・・」
昔より・・酷い姿。
昔と変わらない・・・誰もいない病室。
「アスラン!!!!!」
カガリは大声で叫ぶ。
そして・・昔のように、アスランの手を握っていた。