ナースが一人入ってきて、アスランの意志を確認すると直ぐに医者を呼びに出てしまう。
アスランが何人かのナースと医者に囲まれ、カガリは外へ出る用へと指示された。
「・・・あれ・・くす・・・は?」
少し落ち着き・・冷静に物事を判断しようと試みたが、どうやってもアレックスが消えたように見えた。
アレは一体何だったんだろうか。
そんなことをぼんやりと思う。
しばらくして・・ナースの人に招かれ、カガリはアスランの方へと歩いていった。
「・・やっと安定したの。・・にしても、急なことで驚いたわ・・」
「そうですか・・」
酸素マスクを付けてはいるものの・・アスランの目は細く開いていて、自分の存在を確認すると安心したように手を伸ばしてきてくれる。
カガリは・・その手を泣きそうになりながら掴みさすっていた。
「黙ってって言ってるのに・・"カガリ"って五月蝿いから・・---まったく。」
そう困ったように笑った年輩のナースさんは笑ってその場を後にする。
医者も・・徐々に数が減っていた。
「・・アスラン?」
誰もいなくなって・・カガリは小さく呟く。ぱちっと目が開いて、いつまでも変わらない綺麗な翡翠に自分の瞳が移る。
カガリはその瞳に安心感を覚えて・・・優しく藍色の髪を撫でた。
「・・ごめん・・な、・・酷いこと・・・・・沢山・・っ・・」
そこまで言って息が詰まる。
アスランに嫌われるのが恐いんじゃない、自分を蔑んだわけでもなかった。
アスランが・・・信じられないほど優しく笑って・・"いいよ"と・・言っているように見えたから。
「・・許して・・くれるのか・・っ・・?」
その問いに、コクンと頷き・・ギュッと腕を引かれた。
カガリもそれに従って、身体を近づける。
前屈みになると・・アスランはゆっくりと口を開いて何かを呟いた。
「・・・?聞こえない・・アスラン・・。」
アスランの口元に耳を近づけて、もう一度それを聞き取ろうとする。
すると・・アスランの腕がカガリの頭を包んで、そのままアスランに覆い被さってしまう。
少しその状態が続くと・・アスランの声が耳に届いた。
「・・好きだ・・----------どこにも行くなよ・・・。」
その言葉の後・・再び咳が激しくなり、カガリは体を起こし・・アスランの背をさすり耳元で呟く。
「・・大好きだ・・だから、早く退院して・・いっぱい一緒にいよう・・?」
ぽたぽたと流れるのはうれし涙で・・カガリはそれを必死に拭いながら言う。
アスランも・・少し泣きそうに笑って、そのカガリを包み込んだ。
それから季節が過ぎて、秋も極まってくる。
そんな時アスランとカガリは共に同じ学校の制服を着て、都心を歩く。
「今日は・・アスランの誕生日だなっ」
可憐な花が咲き誇ったように笑うカガリに・・アスランもニコリと笑いその手を取る。
その手の取り方に・・カガリは小さく呟いた。
「・・あれっくす・・・・、」
今はいた白い息のように、それは消えていく。
でも・・居た・・・----------確かに、アスランと・・同じ性格、同じ仕草・・同じ声で・・。
"好き"
そう言ってくれた人。
今思えば・・アスランのそのままの人だった。
カガリは・・小学校以来のアスランを知らない。
だから、アレックスを見ても・・性格まで全くアスランと一緒だとは思わなかった。
「・・・・?カガリ?」
「ん?」
その・・ぼんやりとした様子のカガリに、アスランは声を掛ける。
「・・・俺の誕生日なんだから、俺のこと考えて?」
「---・・アスランの・・事だ、ぞ?」
何となく、そうだと思った。
アレックスはアスランの化身だと・・・・・だって、フレイ達はアレックスを忘れてしまったから。
そう言うと・・アスランは「なら沢山考えてくれ」と笑い・・カガリも、その腕に飛びつく。
「・・誕生日プレゼント・・・欲しいな。」
「ちゃんと買ったぞっ・・!」
ごそごそと鞄を探るカガリの手を止め・・・、、アスランはその瞳に愛しい人の姿を満面に映した。
カガリは綺麗すぎる顔に覗き込まれ、瞬時に真っ赤となる。
「・・カガリが、欲しい。」
「へ?!」
更に真っ赤になるカガリを見て・・アスランは「イヤらしいこと考えただろ?」と少し苦笑いをする。
カガリは・・てっきりそうだと思っていたので瞳を瞬かせた。
「カガリの未来が欲しい。約束しただろ?」
さも当然のように・・言ってのける口が、本当は不安で堪らないのをカガリは知っていて・・・
カガリは・・頬を真っ赤にしたまま・・アスランの身体に抱きついた。
何も恐くなど無い。
アスランは・・カガリからの珍しい・・しかも人前での抱擁に目を瞬かせてから・・ユルリとそれを閉じ抱きしめ返す。
「・・-----・・ありがとう、アスラン・・。」
「・・・--------・・良かった・・。」
アスランも、カガリも・・声にしたら泣きそうで、声を出せずにそのままで居た。
夜九時頃・・・アスランは自分のベットから起きあがり、愛しい存在を柔らかな瞳で見つめる。
隣の彼女は相当疲れたらしく可愛らしい寝息を立てていた。
「カガリ・・」
アスランは・・言い知れない自分の感情を、カガリに感じる。
アスランの中にも・・ぼんやりとだが、その時の記憶は残っていた。
「・・・愛してるよ・・。」
カガリが、"俺"を必要としてくれたように・・・------------------・・。
そう耳元で囁いても、相手は寝息を上げるだけ・・それはそれで良いと思い、細く綺麗で・・・抱き心地の良い肢体をアスランは自分の腕の中へと収め・・静かに眠りへと付く。
こんな幸せな日が来るなんて・・かけらにも思っていなかった、一年前の自分は絶対に愚かだと思う。
何かしなきゃ・・手に入る物だって入らないのに。
すべすべとしたお腹を撫で、アスランは艶やかに笑い金髪にキスをした。
もう絶対に離さない。
そんなこんなをしていると・・いつの間にか時計が十一時を指し、カガリは急いで帰りの仕度を始めた。
アスランはあわあわとするカガリを見つめてニッコリと笑い、カガリの家まで送る。
その帰り道・・アスランは、フラリと記憶にある道をたどって・・あのマンションへと足を急かした。
「・・・空き地・・か。」
もしかしたら、今もあるのだろうとアスランは思う。
だが・・その敷地には入らず、アスランは自分の家の方向へ身体を変えた。
「・・・・戻らない・・-------あの頃には。」
大体戻れないな・・とアスランはひっそりと笑う。
あそこは生きる価値が分からない人が行く場所。
自分にはそれが何であるかが明確に分かる。
家族であり、学校であり・・友達であり・・・・・・・--何より、カガリが居るではないか。
外はもう暗く、寒かったが今のアスランにはそう関係がない事だった。
「・・明日も楽しいだろうな・・」
そんなことをぼやいて、アスランは家へと帰っていく。
心が温かい気がするのは、きっと・・それが自分の未来への希望だからだとアスランは思った。