第14話*咲く未来地図



ナースが一人入ってきて、アスランの意志を確認すると直ぐに医者を呼びに出てしまう。
アスランが何人かのナースと医者に囲まれ、カガリは外へ出る用へと指示された。

「・・・あれ・・くす・・・は?」

少し落ち着き・・冷静に物事を判断しようと試みたが、どうやってもアレックスが消えたように見えた。
アレは一体何だったんだろうか。
そんなことをぼんやりと思う。


しばらくして・・ナースの人に招かれ、カガリはアスランの方へと歩いていった。

「・・やっと安定したの。・・にしても、急なことで驚いたわ・・」

「そうですか・・」

酸素マスクを付けてはいるものの・・アスランの目は細く開いていて、自分の存在を確認すると安心したように手を伸ばしてきてくれる。

カガリは・・その手を泣きそうになりながら掴みさすっていた。

「黙ってって言ってるのに・・"カガリ"って五月蝿いから・・---まったく。」

そう困ったように笑った年輩のナースさんは笑ってその場を後にする。
医者も・・徐々に数が減っていた。


「・・アスラン?」


誰もいなくなって・・カガリは小さく呟く。ぱちっと目が開いて、いつまでも変わらない綺麗な翡翠に自分の瞳が移る。

カガリはその瞳に安心感を覚えて・・・優しく藍色の髪を撫でた。

「・・ごめん・・な、・・酷いこと・・・・・沢山・・っ・・」

そこまで言って息が詰まる。
アスランに嫌われるのが恐いんじゃない、自分を蔑んだわけでもなかった。


アスランが・・・信じられないほど優しく笑って・・"いいよ"と・・言っているように見えたから。

「・・許して・・くれるのか・・っ・・?」

その問いに、コクンと頷き・・ギュッと腕を引かれた。
カガリもそれに従って、身体を近づける。

前屈みになると・・アスランはゆっくりと口を開いて何かを呟いた。


「・・・?聞こえない・・アスラン・・。」


アスランの口元に耳を近づけて、もう一度それを聞き取ろうとする。

すると・・アスランの腕がカガリの頭を包んで、そのままアスランに覆い被さってしまう。

少しその状態が続くと・・アスランの声が耳に届いた。



「・・好きだ・・----------どこにも行くなよ・・・。」


その言葉の後・・再び咳が激しくなり、カガリは体を起こし・・アスランの背をさすり耳元で呟く。

「・・大好きだ・・だから、早く退院して・・いっぱい一緒にいよう・・?」

ぽたぽたと流れるのはうれし涙で・・カガリはそれを必死に拭いながら言う。
アスランも・・少し泣きそうに笑って、そのカガリを包み込んだ。









それから季節が過ぎて、秋も極まってくる。

そんな時アスランとカガリは共に同じ学校の制服を着て、都心を歩く。


「今日は・・アスランの誕生日だなっ」


可憐な花が咲き誇ったように笑うカガリに・・アスランもニコリと笑いその手を取る。
その手の取り方に・・カガリは小さく呟いた。

「・・あれっくす・・・・、」

今はいた白い息のように、それは消えていく。

でも・・居た・・・----------確かに、アスランと・・同じ性格、同じ仕草・・同じ声で・・。


"好き"


そう言ってくれた人。

今思えば・・アスランのそのままの人だった。

カガリは・・小学校以来のアスランを知らない。
だから、アレックスを見ても・・性格まで全くアスランと一緒だとは思わなかった。


「・・・・?カガリ?」
「ん?」

その・・ぼんやりとした様子のカガリに、アスランは声を掛ける。

「・・・俺の誕生日なんだから、俺のこと考えて?」

「---・・アスランの・・事だ、ぞ?」

何となく、そうだと思った。
アレックスはアスランの化身だと・・・・・だって、フレイ達はアレックスを忘れてしまったから。

そう言うと・・アスランは「なら沢山考えてくれ」と笑い・・カガリも、その腕に飛びつく。

「・・誕生日プレゼント・・・欲しいな。」
「ちゃんと買ったぞっ・・!」

ごそごそと鞄を探るカガリの手を止め・・・、、アスランはその瞳に愛しい人の姿を満面に映した。
カガリは綺麗すぎる顔に覗き込まれ、瞬時に真っ赤となる。


「・・カガリが、欲しい。」

「へ?!」


更に真っ赤になるカガリを見て・・アスランは「イヤらしいこと考えただろ?」と少し苦笑いをする。
カガリは・・てっきりそうだと思っていたので瞳を瞬かせた。

「カガリの未来が欲しい。約束しただろ?」

さも当然のように・・言ってのける口が、本当は不安で堪らないのをカガリは知っていて・・・
カガリは・・頬を真っ赤にしたまま・・アスランの身体に抱きついた。

何も恐くなど無い。

アスランは・・カガリからの珍しい・・しかも人前での抱擁に目を瞬かせてから・・ユルリとそれを閉じ抱きしめ返す。
「・・-----・・ありがとう、アスラン・・。」
「・・・--------・・良かった・・。」

アスランも、カガリも・・声にしたら泣きそうで、声を出せずにそのままで居た。










夜九時頃・・・アスランは自分のベットから起きあがり、愛しい存在を柔らかな瞳で見つめる。
隣の彼女は相当疲れたらしく可愛らしい寝息を立てていた。

「カガリ・・」

アスランは・・言い知れない自分の感情を、カガリに感じる。
アスランの中にも・・ぼんやりとだが、その時の記憶は残っていた。


「・・・愛してるよ・・。」


カガリが、"俺"を必要としてくれたように・・・------------------・・。

そう耳元で囁いても、相手は寝息を上げるだけ・・それはそれで良いと思い、細く綺麗で・・・抱き心地の良い肢体をアスランは自分の腕の中へと収め・・静かに眠りへと付く。

こんな幸せな日が来るなんて・・かけらにも思っていなかった、一年前の自分は絶対に愚かだと思う。


何かしなきゃ・・手に入る物だって入らないのに。

すべすべとしたお腹を撫で、アスランは艶やかに笑い金髪にキスをした。


もう絶対に離さない。


そんなこんなをしていると・・いつの間にか時計が十一時を指し、カガリは急いで帰りの仕度を始めた。
アスランはあわあわとするカガリを見つめてニッコリと笑い、カガリの家まで送る。

その帰り道・・アスランは、フラリと記憶にある道をたどって・・あのマンションへと足を急かした。



「・・・空き地・・か。」



もしかしたら、今もあるのだろうとアスランは思う。

だが・・その敷地には入らず、アスランは自分の家の方向へ身体を変えた。


「・・・・戻らない・・-------あの頃には。」

大体戻れないな・・とアスランはひっそりと笑う。
あそこは生きる価値が分からない人が行く場所。

自分にはそれが何であるかが明確に分かる。

家族であり、学校であり・・友達であり・・・・・・・--何より、カガリが居るではないか。


外はもう暗く、寒かったが今のアスランにはそう関係がない事だった。




「・・明日も楽しいだろうな・・」



そんなことをぼやいて、アスランは家へと帰っていく。

心が温かい気がするのは、きっと・・それが自分の未来への希望だからだとアスランは思った。































































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あとがき
取りあえず、終わりです。すいません、ラブラブさせてあげられなくて・・(コレばっかりが後悔。)
色々申し訳ないのですが、言い訳を・・(見苦しい。)

今回の話はアスランが必要とされている話なんです。そのまんまだけど。
けど、性格や仕草だけじゃなくて、やっぱり記憶や今までの人生を含めてその人だと。
つまりはどんなに頑張っても、自分は自分でしか有り得ないって事が言いたかったのです。
だからこそ、アレックスじゃなくてアスランが必要なんじゃないかなぁ?と・・(言い訳終了)

何はともあれ、10万HITありがとうございますッ!これからも精進していきますっ!
2006/11/07