カガリは早くなった動悸を押さえつけるのに必死で・・。
急に出てきたアレックスに驚いたのと、アスランの目の前で違う男の人に抱かれているのが信じられない。
けれど、背中にある優しさに縋りたくなったのも事実だった。
「・・あれ・・っくす・・っ・・」
駄目だ駄目だと心で警報が鳴る。
アスランが見ている、いや・・私にはアスランが居る。
「・・アスラン、だ。カガリ。」
「っ・・・?!」
訳が分からずアレックスの方へ振り返ると、次は思いっきり前から抱きしめられる。
ふんわりと安心する匂いが舞い、カガリはアレックスのことを引き剥がせずその状態のまま居た。
「・・俺はアスラン・・これなら、良いんだろ?」
「ば・・そんなわけ・・ない、だろ・・っ?!」
カガリが抵抗するのは声だけで・・身体は既に自分の中へと収まっている。
それが言い難く嬉しくて、愛しくて・・カガリの背中を優しく撫でた。
少しビクンとなるが、、反抗の声は修まりつつある。
カガリはどうしようもなく、アレックスに申し訳なくて・・それでもアスランだと思いたかった。
アスランが、抱きしめてくれている。そう、思った瞬間に本当にそうだ・・と勝手に思えてしまう。
でも・・違う、違う人には変わらない。
「あれ・・」
「アスラン、だ。」
アレックスと呼ぼうとした声を静止させ、そう言うと・・カガリはしばらくしてから小さな声を出す。
「・・っ・・あす・・らん・・・」
「・・何だ・・、カガリ。」
その優しい声に、カガリは涙が溢れていた。
「アスランッ・・!!」
ギュッと・・自ら腕を回し、相手に抱きつくと・・相手は優しく髪を梳いてくれる。
「ゴメンっ・・な・・ッ・・、、アスラン・・、、傷つけて・・・ッ・・許して・・っ・・。」
嗚咽と共に様々な言葉が出てくる。
謝罪と、涙・・それに・・
「今でも・・アスランが大好きなんだッ・・・、だから・・っ」
ガッと見上げた相手は・・優しげで、カガリはその瞳に向かって切願する。
「もどって来てくれっ・・・」
そこまで言って・・カガリはハッと、相手はアレックスだったことを思い出し、言葉を失った。
何を馬鹿なことを言っているんだろう。
そう思っていると・・相手から、ポツリと言葉が出てきた。
「・・カガリには俺が・・必要?」
その俺が、アレックスなのか、アスランなのか分からず・・カガリは困惑する。
きっとアスランのことだろうと思ったが・・・・・それでは、アレックスの気持ちはどうなってしまうのだろうか。
「あす・・らんが、必要、、だ。」
それでも限定してしまう自分は残酷で、
でも・・アレックスならばそれを受け入れてくれるだろうと言う甘えがあって・・・
おそるおそる見ると・・アレックスは少し儚い笑みを浮かべていた。
その目に、カガリの心臓が鳴る。
「・・ごめ・・っ・・、、、お前、優しいから・・・・・・その、・・甘えて・・っ!!」
アレックスにこんな顔をさせたくなかった。
必死の思いで謝ると・・アレックスは小さな声で「アスランはどんな人なんだ?」と訪ねてきた。
カガリは・・小さい頃のアスランの記憶をたどる。
「・・優しくて・・寂しがり屋で・・・--------・・大人っぽくて・・」
次から次へとアスランとの記憶が浮かぶ。
アレックスは、それを聞いて「そうか・・」と小さな声で言って、カガリの琥珀色の目を見つめた。
切なそうで・・何処か懐かしむ顔が堪らなく綺麗だ。
これが・・カガリの、"アスラン"の記憶。
アレックスには元々ちゃんとした記憶がない・・だが、カガリが言ってくれることによって何かを思い出す。
父と母が忙しかったこと。
幼稚園にも殆どいけず・・ただ家が近かったカガリは毎日お見舞いに来てくれたこと。
笑ってくれたこと。
手を・・・・握ってくれたこと。
暖かい記憶。
だが、それは何処か朧気だ。
「・・・やっぱり・・"俺"じゃだめなんだな・・・・」
アレックス、では駄目なのだ。
どんなに性格が、顔が・・仕草が似て言うようと・・・-----------・・。
アレックスには、カガリと共に過ごした記憶もなければ、カガリを好きになった過程も存在しない。
そう、俺が、アレックスが・・カガリを好きになった、本当の理由。
君が・・
アスランにとって、大事なヒトだったからだ。
その記憶の縁があるから・・・・・・身体じゃない、脳じゃない。心が覚えていた縁が、カガリを好きなんだと漠然と思う。
「・・?アレックス・・」
ぼんやりとした表情になったアレックスは急に身体の力が抜けたようになり、カガリは焦ってそれを抱きとめた。
「どうしたのか・・・?・・具合・・・・悪い、のか・・・・?」
うんともすんとも言わないアレックスに・・カガリは、数回瞬きをし・・その刹那腕が軽くなったのを感じる。
「え・・・・?」
何もない、両腕が晒され・・・-------カガリは一瞬頭が真っ白になった。
その瞬間・・ゴホゴホッと後ろから大きな咳が聞こえ、ナースコールを押し、アスランの手を握る。
「・・アスラン・・ッ・・今看護士さん呼んだから・・っ・・」
大丈夫だ・・と、手を握ると、弱々しい力で握り返され・・・・カガリはハッとその人物の顔を見た。
翡翠の中に、涙目の自分が見える。
「・・・か・・、が・・ぅ・・ゴホッッ・・ッ・・ぅ・・」
「喋っちゃ駄目だ・・っ」
そう言って両手で握ると・・アスランは涙目で笑って・・ゆっくりと手を挙げ、カガリの頬に触れる。
酸素マスクの中から、恐いほどハッキリと・・アスランは声を紡いだ。
「・・・ありが・・とう・・--------ずっと・・傍にいてくれたんだな・・・」
そしてそこで意識が消える。
カガリは・・再び沈んだ意識へ声を投げていた。