「この間・・、アスランにあったよ。元気そうだった・・・カガリも、学校戻ればいいのに・・」
キラの言葉に・・カガリはハッと顔を上げ、驚いた目をした。
それに気が付いたのか、キラは少し頭を傾げてカガリを見る。
「君のこと好きだって・・まぁ、きっとそうだと思ってたけど・・」
「・・・そう、か。・・お前等知り合いだっけ・・?」
「え?・・あんま話したこと無かったけど・・、なんか・・、、、そんな気がしたよ?」
キラも分からないようで、少し考えてみせる。
カガリはその考え込んだキラを見て・・・お見舞いように持ってきた林檎を食べていた。
キラが目覚めてから二週間経ち、依然病院には居るものの身体は全く問題ないらしい。
だから・・この間の日曜に外出許可を取ったらしいのだが・・、どうやらアスランにあったようだ。
十中八九アレックスだろう。
そんなことを思いながら・・カガリはその"好きだ"の言葉に、心が捕らわれていた。
駄目だと思う。
アスランが・・
一人なのに。
--------アスランが、本当に私を好きかどうかも・・分からない。
待ち続けて・・・目覚めた彼は私を何というのだろうか。
アレックスのように・・・・言ってくれる保証は何処にもない。
だからといって・・離れるわけには・・・・・・・・。
そう、自分の中で様々な声が響き渡る。
正解なんて見当たらない。
カガリは瞼を閉じるように思考を終わらせた。
何の変哲もないように、夏休みは明ける。
アレックスは・・特に何をするわけではなく、ただぼんやりと過ごしていた。
誰かに必要とされているか・・・・?
その答えは否だ。
パタンと本を閉じ、アレックスは戻ってきたしがない学校生活に戻るべく家を出る。
学校に行くのは少し憂鬱で、でも嫌じゃなかった。
カガリとは・・連絡も取っていない、いや・・あの日、海で遊んだ以来、めっきり話さなくなって・・。
俺が逃げたんだ。
話そうと思えばいくらでも話せた。
けれど、、臆病で、駄目だった。
心の中で、それで良いのかと警報が鳴る。
夏休み明け、残暑の学校。
それは何故かとても嫌な存在に思えた。
学校について・・しばらくすると、ガラッと戸が開きカガリが入ってくる。
アレックスは・・カガリの存在を確かめて、目を本へと戻す。
カガリが傍にいる。
それだけで良いじゃないか。
そう感じるようになっていた。
これ以上は望まない。
そうすれば、自分とカガリの距離が永遠に保たれる気がした。
馬鹿だな。
そんなはずないのに。
カガリには・・アスランが居る。
HR・・隣の席のカガリを見れなくて、見たくて、傍にいるのに遠い。
同じ顔なら、
何で俺じゃないんだろう?
そいつの方が、性格がよかったのだろうか・・。
色々なことが頭を過ぎる。
アレックスは・・しばし考えて、ある仮説に辿り着いた。
もしかしたら・・。
自分は"アスラン"だったのかもしれない。
「・・まさかな。」
そんな都合のいい話し、あって堪るか。
大体・・同じ顔、同じ性格ならば、カガリが気が付いて言っているだろう。
そんなことを考えていると・・HRはいつの間にか終わり、アレックスはボーっと考え事を続ける。
「ちょ・・カガリッ・・あんたホントなの?!」
たった今・・担任の話を聞いたフレイは少し焦ったようにカガリに訪ねた。
カガリは無表情のまま頷いて、ごめんとフレイに頭を下げる。
「あ、謝らなくても良いわよ!!何で・・」
「・・色々・・あってさ。」
色々って・・と焦るフレイに、カガリは押し黙り、たった今クラスから出ていった人物が座っていた席を見る。
--------どうでも・・良くなってしまったのだろうか。
馬鹿みたいにそんなことが過ぎった。
本当に馬鹿だ。
だから・・転校するのかもしれない。
そう言えば、とカガリは思う。
アスランと・・最後に言葉を交わしたのもこの時期だった。
あの時、あの時を・・間違わなければ・・・。
もっと、違う未来が来ていたはずだったのに。
グッと拳を握り・・カガリは気を静めて授業へと入った。
帰りのHRで・・カガリは担任に呼ばれ教壇に登る。
アレックスはずっと考え事をしていた頭をやっと前に向けた。
「・・今までありがとう。楽しかった・・--・・学校直ぐ近くだから、町中でちょくちょく逢えるだろうけどな!!」
カガリが笑うとクラスが笑う。それはいつの時でも鉄則だ。
アレックスは・・その、何処か愁いを帯びた空気と、カガリの言葉で何が起きているのか始めて知る。
まさかだ。
「・・転校しても、絶対元気だから・・--また話そうな!」
そして周りから拍手が送られる。
一体何がそんなにめでたいのか、アレックスには分からない。
カガリが、転校する。
息の詰まる思いだった。
嘘だと、自分に言い聞かせないと・・心臓が止まるほどに。
俺は、こんな思いをするために・・・・・・・・・・君を好きになったんじゃない。
心が叫ぶのが聞こえる。
俺は、君が誰かの元に行くのも・・俺の傍から離れるのも・・。
どれも、
嫌なんだ。
HRが終わった直後、カガリは騒いで集る人から逃れるように歩き出し・・アレックスはそれを追う。
少し走り出したカガリに負けないようアレックスも速く歩いていた。
そして・・辿り着いたのは、大きな病院。
エレベータでカガリが五階を押したのを確認し・・アレックスは階段で五階へと上がる。
急いで上がると・・カガリの後ろ姿が見えそれを追う。
まるでストーカーだと・・ちょっと自分を嫌に思ったが、この際どうでもいい。
一直線に向かった部屋の名簿を見れば、"アスラン・ザラ"の文字がある。
自分は彼なのではないか?
そう、アレックスは本格的に疑問を持っていた。
「アスラン・・私、ちゃんとするぞ。」
ぽつんとカガリが呟く声がする。
アレックスはその声に耳を傾けていた。
カガリはいつになく心がすさんでいて・・声に出さなければ揺らぎそうになってしまう。
そんな自分が嫌だった。
今日、アレックスに気に掛けて貰えなかったのが・・凄く哀しくて、嫌で・・。
存在がいつの間にか大きくなっていたのを認めたくなくて。
ぐちゃぐちゃだ。
苦しさに涙が出る。
アスランを待つと決めたのに、あいつの言葉、態度に酷く動揺してしまう。
好きだって・・言ってくれたんだ。
彼奴。
アスランと同じ声で・・同じ顔で・・。
こんな気持ち、アレックスにも迷惑なだけだと分かっていた。
自分は・・アレックスにアスランを見ている。
好きだって・・・・・・・・・感じるのも。
---------そのせいだ。
「・・こんなんじゃ・・・誰からも嫌われちゃうよな・・っ・・。」
カガリはアスランの手を握りながらそう言い・・カタカタと肩を振るわせ出す。
アレックスがそれを放っておけるはずがなくて・・・・気が付いたら、カガリを後ろから抱きしめていた。
「・・ッ・・!アレ・・っ・・クス・・?!」
驚いたカガリを無視し・・椅子に座って低くなった頭から肩に掛けて腕で包む。
カガリは言葉を失ったようで・・黙り込んでしまった。
「・・嫌いになんか・・ならない。」
そう言って、カガリの綺麗な髪に唇を落とすと、小さく講義の声がする。
「はなしてくれ」・・そう、小さく言っているようだ。
「・・アスランも、俺も・・カガリのこと・・好きだから。」
自分がもしも、アスランだとしても・・そうじゃないとしても。
「・・お願いだから・・一人で泣かないでくれ・・・っ・・。」
カガリの泣く顔は見たくない。
もし泣くのなら・・俺の前で泣けばいい。