休日になり・・アレックスは暇をもてあます。
そして、幾度となく働こうとする思考を遮り、マンションから出た。
あれからアレックスはカガリに必要以上に近寄れなくなっていた。
自分が消えたら嫌だから。
それもあるだろう。
けど・・。
夏休みに入る直前の空気は暑く・・アレックスは悶々とした気分に拍車を掛ける。
「・・・消えたくない・・・・・・・。」
カガリの記憶から・・。
嫌と言うほど人がいる街中。
自分の知っている人物はいない。
そう、世の中なんてそんなものなんだ。
沢山の人がいる、こう・・例えば、たった今渡る横断歩道を共にする人。
同じ学校に通う人。----・・お昼を・・一緒に食べている人。
それらはいつだって一瞬だ。何年一緒に言うようと、終われば一瞬に過ぎない。
そして・・それは過去になる。
記憶の角に----・・追いやられて、消える。
まるで・・
「---------・・・・。」
そこまで・・考えてアレックスは頭を上げる。
気を紛らわすために外に来たのに・・・-------・・これでは部屋の中にいるときと同じだ。
グッと拳を握りしめ、アレックスはちかちかと点滅する横断歩道を渡りきる。
コレと行っていく場所はない。
ただ・・ぼんやりと人通りの多い道を歩いていた。
不意に・・聞き覚えのある誰かに、名前を呼ばれたような錯覚に陥る。
「・・っ・・」
この声は・・。
振り向いた先に・・・・・・・・居た人物に、アレックスは翡翠の瞳を大きく開いた。
「あ!やっぱり・・っ!・・久しぶり。」
少し落ち着いた口調で話す相手。
アレックスは一瞬金槌か何かで頭を殴られた気分がする。
「や・・ま、と。--------・・お前・・ッ・・」
何で・・いや・・。
「・・っ・・・よかった・・」
正直に感想が出る。
泣きそうになった声を抑えて、アレックスは何処までも虚勢を張り、、視界がにじまないように笑顔で言う。
相手は・・その自分の様子に笑顔になり、「君こそ・・元気そうで何よりだ」と笑ってくれた。
二人で黙ってぶらぶらと歩く。
本当は・・・聞きたいことが山ほどあるのだが・・何処か愁いを帯びた瞳のヤマトに、アレックスは何も言えない。
大きなデパートに入り・・カフェで注文をして席に座る。
「君には・・色々、・・何て言うか・・。」
「・・・?」
そんな躊躇わず・・早くいえばいいのにと思いながらアレックスは無糖のコーヒーを飲む。
すると、やっと相手は決心が付いたように顔を上げた。
「ごめん・・・・・・・。聞いた・・?ラクス・・から・・。」
あの日以来・・ラクスには逢っていないとアレックスは首を傾げ「いや」と答える。
ヤマトは・・顔を上げて、溜息をついてから・・説明し出す。
「僕が入院してたのは・・知ってる?」
「え?」
「あれ?・・カガリからも聞いてない?」
話の流れが掴めず・・困惑していると、「ああ、そっか」と相手は手を叩いた。
「君の方が・・入院したの、先だったね。・・いつ退院?」
「・・・・・・・、?」
退院・・??
よく分からないな・・と正直に思い、アレックスは話題を変えようとする。
「・・・ヤマトは・・もう、大丈夫なのか?」
「・・うん、僕は平気っ!ラクスもいたし・・」
「そうか・・・良かった。」
彼女のことだ、ヤマトが放っておけなくなったのだろう。
そう思っていると・・相手は「でも・・本当に、婚約の話は良いの?」と聞いてきた。
「・・婚約?」
「・・うん、君と・・ラクスの。」
「・・は?」
何故俺とラクスが・・・・。
そう少し呆れて・・アレックスは言葉を返した。
「ラクスが好きなのはお前、ヤマトが好きなのも・・ラクスだろ?」
「・・・・、、うん・・・・。」
嬉しそうに・・笑みを零す姿が幼く、アレックスもつられて笑顔になる。
その表情を見た・・ヤマトが、優しく笑い・・・自分のことに話題を振ってきた。
「・・カガリの好きな人・・知ってる?」
「・・いる・・っていうのは知ってるが・・」
その話題はしたくない・・と顔を背けると、ヤマトはにこやかに笑い小さく口にした。
「・・アスラン・・だよ。カガリが好きなの・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
アスラン。
それは・・・・、、、
「ラクスから聞いたけど・・君たち両想いじゃない!」
「・・両・・想い・・・?」
「そうだよ・・カガリが転校したのだって、君が他の子と仲良くしてたのが原因なんだって。」
「・・え?、、ヤマト・・??」
「あれ?僕・・ヤマトって呼ばれてた?」
僕は
「キラ、だよ?アスラン。キラ・ヤマト。ファーストネームで呼んでよね!」
アレックスは・・その声に最後の一口のコーヒーを喉に詰まらせる。
ゴホゴホッ・・と咳をして・・アレックスはヤマトを見る。
「・・・き・・ら?」
「うん?」
相手はキョトンとして・・笑顔を見せて、二人は店を出た。
アレックスの脳は・・完璧に困惑し、相手に何を話せばいいのか分からない。
その表情を見て・・キラという相手は不思議そうにこちらを見ていた。
「あ、、そう、カガリとは幼なじみだったんだってね。ちょっと前に聞いてびっくりしちゃった。」
「・・・・。」
「小さい頃から約束してたんでしょ?」
約束?
パッと・・相手を見れば、何処か表情はヤマトより大人びているし・・落ち着きがある話し方。
違う人物なんだと思う。
--------何処までも・・似ている。
おかしな話だ、自分相手をヤマトだと思っていて・・相手は自分を"アスラン"だと思っていた。
「・・カガリ、昔から結構もてたんだって。・・・でも、誰とも付き合おうとしなかったんだ。」
「・・・それは・・今も、だけどな・・。」
アレックスはぼそりと呟く。
「カガリは一途だもん。・・君が好きなのに、他の人の所に行く分けないじゃない?」
「・・・そう・・か。」
「うん。」
嬉しくないの?と覗き込まれて、アレックスは曖昧に笑みを零して返す。
自分は・・"アスラン"に似ているらしい。
その様子に・・相手、キラは憤慨したように顔をしかめる。
「・・君・・カガリのこと、好きじゃなくなっちゃったの・・・・?」
不安げに・・覗き込まれ、アレックスは首を振る。
「・・俺は・・カガリが好きだ。」
「・・ホント?」
勘ぐるように言われ、アレックスは・・・努めて明るく返す。
「・・・、、好きだ。嘘じゃない・・。」
真っ直ぐなアレックスの瞳に、キラは納得したように笑みを零した。
そして・・最初であった場所で別れる。
「じゃあね、アスラン。」
「・・・じゃあ・・な、キラ。」
もう・・・・逢う確率は少ないだろう。
そう思って、アレックスは今来た広い横断歩道を渡った。
"好きだ"
そう・・口にして、恐くなる。
きっとこれは直ぐにカガリに伝わるのだろう。
その・・"アスラン"と言う人物として・・。そのアスランは一言もそうだと言っていないのに。
いや・・・・・・・・でも、両想いなんだ。
カガリと・・その男は。
思考が閉ざされる。
ベットの上で転がり、アレックスは明日がありますようにと願う。
消えませんように。
カガリから・・忘れられませんように。
こんな神頼みしかできない自分が嫌だった。
自分では・・何も出来ないと、自分に言っているようで・・。
「・・キラ、今日のお出かけはいかがでした?」
そう・・ピンク色の髪を持つ恋人は、、興味があるように訪ね・・キラはニッコリと笑う。
此処は病院。
「楽しかったよ、久々に歩けたし・・」
「それは良かったですわっ・・今日予定さえ入らなければ・・私もご一緒できましたのに・・。」
残念そうな声に・・キラは自然と頬が弛み、ラクスの手を引く。
「・・僕、生きててよかった・・・。」
自分より一回り小さい手を優しく撫でて、慈しむようにラクスを見る。
ラクスは・・一瞬キョトンとしてから・・・キラの頬に手を当てた。
「・・ラクスが居てくれるなら・・三途の川に送られたって戻ってくるよ。」
「・・そう・・ですわね。」
実際・・
「キラは、戻ってきてくださいましたわ。」
優しい霧に・・囲まれたように、ラクスにはそれが夢か現実かは分からない。
ヤマトが居た、ヤマトは・・キラだった。
本当かどうか・・はもはや自分にはどうでも良いことだったのかもしれない。
キラが居る・・それだけで・・。
「愛していますわ。キラ・・」
「僕もだよ・・ラクス。」
昔とは違い・・安心して、唇を重ねられる。
自分が・・・本当に、相手に愛されているという安心感。
キラは心の何処かで泣きそうになっていた。
人間・・嬉しくても涙は出るんだ。
そう感じて・・キラはラクスを抱き寄せた。