暗い場所に出た。
そして、生きるか死ぬかを問われた。
「-------・・何で聞くんだ。」
暗闇の中、翡翠の瞳はキラリと光る。
だが、それは生の色ではなかった。
質問した相手は、声にならない声でその瞳の持ち主に告げる。
若いからだ・・と。
そう言えば・・自分はまだ16だったと本人も思い出す。
けれど・・・16にして、どうでも良くなっていた。
「・・別に・・・・何だって、いい。」
生きていても死んでいても似たようなモノ。
そう・・言うと、相手は望む未来が有っただろう?と聞いてくる。
望む未来。
彼にはよく分からなかった。
「・・・カガリが・・・・・・・・」
いてくれれば、俺は何だって良かったんだ。
心で思って声に出すことを止める。
自分では生きるか死ぬかも決められないのか?
そう・・・聞かれて、、、その人はハッと覚醒する。
"自分が必要かどうか、見て貰いなさい。"
それだけ・・・・・・・・脳に残った。
ふと気が付けば、真っ白いベットの上。
見たことのない場所だと・・思うが、自分が何処を見たのか彼には思い出せない。
殺風景なマンションの個室。
見れば、2LDKで幾分か広さがある。リビングのテーブルには自分のモノと思われる貯金通帳が置いてあった。
"アレックス・ディノ"
それに・・学校の制服と、生徒手帳も用意されていて・・それにも同じ名前が書かれている。
そうか・・・・と、彼は一つ納得がいった。
自分はアレックス・ディノ。
自分は生と死の狭間にいて・・・"自分が必要かどうか、見て貰う"のだった。
その証拠に・・前、と言っても思い出せないのだが、妙に生きてる心地がしない。
そう、、彼は理解した。
「カガリ〜・・あんた、次はD組のショーケンまで振って・・」
「好みじゃないんだ。仕方ないだろ?」
紅髪の女の子は・・・金髪の女の子・・カガリにそう話しかける。
そのカガリはその手の話はパスだと、眉間にしわを寄せていって言う。
「なんであんた普通に可愛いのに・・誰とも付き合わないのよ?」
「・・・・・。」
「まさか・・・・--あの、小さい頃の約束ってヤツにまだ縋ってるわけ?!」
ないない・・と笑われて・・・カガリも蔑むように笑みを零す。
「馬鹿・・もう、とっくの遠に諦めた。」
そう言って・・・・・まだ疼く傷を無視して、その友と帰り道を歩く。
だが・・・・・カガリはハッと何かを思いだしたように、紅髪の子に告げた。
「悪いフレイ・・・お見舞い行くんだ。・・・・・従兄弟の。」
「え?あぁ・・・この間事故にあった・・キラ、、、だっけ名前?」
「ああ・・・行かないと。」
キラとカガリは昔から仲が良く・・高校になってから、カガリが高一秋に転校するまで同じ学校だった従兄弟。
今はあれから半年も過ぎた高二春だった。
そんな中・・・・従兄弟は交通事故にあった。
意識不明・・・----手術は成功したが、植物人間になってしまった。
いや、脳死・・とかではないらしい。(今調べたところでは)
ただ、いつ目が覚めるか分からないだけ。
「・・・・心配だ。」
そう言って、カガリは都市の大病院へと足を急かした。
広い病室に眠る・・・・キラは、この間有ったときと何処も変わらず・・ただその目が閉じている。
真っ白な部屋・・・-----こんな、殺風景なところに、キラは一人きりなのだと思うと涙が出てきた。
「・・・キラ・・。」
鼻から、管を入れられ・・まだ自発的に呼吸は出来るらしいが・・・それがいつまで続くかは分からないらしい。
力の入らない手を握り、カガリは何度も何度も名前を呟いた。
フッと・・思い出されるのは、小さい頃・・・幼なじみの手を握っていたこと。
ただ、幼なじみは苦しそうに酸素マスクを付け・・胸を大きく上下させ・・荒い咳を吐き続けていた。
咳が一時的に止まれば・・・泣きそうな自分に無理に優しい笑みを作って、手を握り直して・・・・
そこまで思い出して、カガリは頭を横に振る。
哀しいことがあると・・連動して別のことまで出てきてしまう。
そうしていると、カラ・・とドアの開く音がして、その方向を見ると・・・前の学校の"知り合い"の姿かがあった。
「・・・カガリ・・さん・・・・?」
「----・・ラクス・・・、か・・。」
優しい彼女のことだ。同じ学校のキラに・・・同情で来てくれたのだろう。
彼女を見ていると・・反射的に、その隣りにいつも立っていた、幼なじみの存在を思い出す。
カガリはその幼なじみとずっと一緒に育ってきたわけではなく・・小学校の低学年の時期にカガリが引っ越し、高校になって再会をした。
---相手は、、私をあまり覚えている風ではなかったが。
「・・・キラ・・・・このまま目覚めないかもって・・・医者が言ってた。」
じわりと涙が溜まる。
ポタリ・ポタリと流れ出て・・・カガリはラクスを見ていられずに逸らした。
だから、気が付かなかった。
ラクスも、、涙を流していたこと。
ピンポーン・・と呼び鈴を鳴らす。
分からないが・・自分は引っ越してきたのだと、記憶が言うから、、いわば引っ越しの挨拶をするために。
「・・・あ!はい・・ッ・・」
ガバッと開けられて・・・ゴツンと額にドアが当たる。どうやら、反射神経が鈍くなったようだとアレックスは思った。
「あ・・ごめん。」
「・・・いや・・・、、、、隣りに越してきた・・アレックス・ディノだ、宜しく。」
目の前にいる男性・・いやまだ青年と少年の間のような風貌、自分と同じくらいの歳に見える。
ダークブラウンの髪。目は大きく、アメジストのような色。
「えっと・・僕は・・・」
そこで彼は言葉を詰まらせ、自分の表札を見る。
「・・ヒビキ・・・?あ、ちょっと待って。」
「?」
ダダダ・・と走る音が聞こえたと思うと、黒い小さな手帳を持って彼は帰ってきた。
「ヤマト・ヒビキ!・・僕も今日こっちに引っ越してきたばっかみたいで・・・」
まるで客観的なことを言うような彼に・・アスランは自分と同じ身の人間なんだと気付かされる。
「・・・君も・・"必要かどうか・・"と言うヤツか・・・?」
「え!!!?・・・あ、うん。」
そして発覚するのは、このマンションの住人は全てそうだと言うことだった。
「アレックス、僕と同じ学校行くことになってるよ!?」
「ああ・・・、そうなのか?」
「うん!やったね!!」
そして何故だ分からないが、ヤマトは勝手にアレックスの家に上がり制服やら何やらを物色しだす。
人なつっこい性格だとアレックスは溜息をつきながらもコーヒーを入れた。
「げ・・ブラック僕飲めないよ!!」
「・・・ミルク入れておく。」
「やった!!」
そしてまた・・当たり前のようにコーヒーを啜り、ヤマトは溜息をついた。
「って言うかさー・・・、何なんだろうね。僕たち。」
「俺も聞きたい。」
死んだはずだった。
何も覚えていないが、今自分たちが生きているとも思えない。
そんな感覚。
「・・僕・・・正直、あのまま死にたかった。」
「え?」
「・・良く分かんないけど・・そう、思う自分がいる。」
曖昧に微笑む姿は儚げで・・アレックスも、小さく溜息をつく。
自分も死んでも良いはずだった。そんな心で・・今、ココに来て一体何をせよというのだろうか?
二人は・・同じように顔を見合わせ、小さく笑っていた。
「・・・あの・・カガリさん。」
「ん?」
面会時間が終わりとなり・・ラクスとカガリは共に病院を出る。
すると・・ラクスはカガリに小さな紙を渡した。
「・・・キラ・・に、何かあったら・・・連絡して欲しいのです・・。」
何処か、申し訳ないような彼女は・・・儚い笑みを造りカガリにメールアドレスを渡す。
カガリはそれを受け取り、ポケットへと滑り込ませた。
「・・ラクスは・・・優しいな。」
だから・・・あいつも、この子の隣で楽しそうにしていたのだろうと想像が付く。
いや・・・・もう、良いんだ。
あいつは・・・・・--------------・・想い出の人・・に、しなければならない。
「・・いいえ・・・・・私は・・・・」
泣きそうな声で言われることに・・カガリは気が付かず、キョトンとラクスを見る。
そして・・てきとうに別れの挨拶を告げ、二人は別の方向へ歩き出した。